No.03「天国と痔獄」

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「わぁ〜っ、きれ〜ぃ!」
 映像でしか見たことの無かった、澄んだ海、白い砂、輝く太陽、遮る緑。今自分が日頃暮らしている街とは、別世界に来ていることを、美奈は実感していた。
 美奈は家族と共に東南アジアに来ていたのであった。パック旅行ではあったが、アジア屈指のリゾート地に近く、透き通るような海の美しさは、日本の都市近郊の海水浴場などとは比べるべくもなかった。
 食事についても、確かに熱帯特有のスパイシーな味付けではあったが、この気候風土の中ではことさら美味に感じられ、事前に「日本食が恋しくなる」と聞いていたのが嘘のようであった。特筆すべきは果物で、ドラゴンフルーツやスターフルーツといった、日頃目にしないものから、パパイヤやマンゴーのように口にしたことのあるもの、ひいてはパイナップルやバナナといった馴染みの深い果物まで、同じ果物とは思えないほどみずみずしく、味わいに深みがあるのである。元々果物好きであった美奈は、それこそ「帰りたくない」とまで思うほどであった。まさに「天国」とはこういった所を指すのであろうか。
 しかしそこはパック旅行の常、時間に追われるように各地を回り、あっという間に帰路につく日となった。現地最後の食事は、エビやカニをメインにした、シーフード系の食事であった。辛みの強い料理ではあったが、美奈をはじめ家族の
者の口には合い、辛い辛いといいながら食が進み、現地への名残を惜しむように、わいわいと楽しく食事を終えたのであった。
 そして食事の後、パック旅行の一行は空港へと向かい、飛行機を待つ間に免税店を回る者あり、大きなガラス窓から見える飛行機の発着に見入る者あり、疲れが出たのか椅子に座って眠りこける者あり、と様々であった。美奈はそこで親にねだり、彩り鮮やかな貝殻を用いたアクセサリーを買ってもらったのであった。
 しばらくして搭乗時刻となり、一行は次々と飛行機に乗り込んでいった。大型ジャンボの機内にはたくさんの席があったが、日本に帰る観光客をはじめとして、大勢の乗客で埋まっていた。
 美奈たちが搭乗して20分ほどすると、アナウンスが何カ国語かで次々と流れ、次いで飛行機はターミナルを離れて滑走路へと向かった。そして動き出して10分ほどの後、飛行機は主滑走路に入り、スタート直前のスプリンターのように、一瞬動きを止めた。まもなく4発のエンジンが雄叫びを上げて推力を増し、轟音と振動と共に滑走を開始した。そして15秒ほどの滑走の後、フワリと体の浮くような感覚と共に、大勢の旅客とそれぞれの思い出とを乗せて、飛行機は飛び立ったのである。
「……さよなら。」
 美奈は少し切ない気持ちになりながら、だんだんと遠く小さくなっていく、青い海に浮かぶ「天国」に別れを告げた。

 しばらくして飛行機は巡航高度にまで上昇し、水平飛行に移った。機内にアナウンスが流れ、乗客は次々とベルトを外し、めいめい動き始めた。機内ではキャビンアテンダントにより、サービスの飲み物が配られ、離陸の緊張から解き放たれて、機内にはリラックスした雰囲気が出てきた。美奈は最初の内こそ外を眺めていたが、巡航高度まで上昇してしまうと、ほとんど青い空と雲ばかりの光景になってしまい、疲れも出てきたこともあって、いつの間にか眠ってしまっていた。
(……ん?……あ……ふぁ……ちょっと寝ちゃってたのか……)
 小一時間ほどして目を覚ますと、今度は機内食が配られている最中であった。機内食は飛行機会社の配慮からか、そばなどの日本食を含むものではあったが、機内食という限界もあり、ここ数日のエスニック料理に舌を慣らされていた美奈にとっては、何とも味気ないものに感じられた。

 一通り食事も終わり、まだ日本まで数時間かかるということもあって、乗客はめいめいにくつろいでいた。美奈が体の異変を感じたのは、そのような時であった。
  ゴロゴロ……
(……あれ?……ウンチ?……)
 美奈は何となく便意を感じた。旅行中、味が気に入ったこともあって、普段よりたくさん食べていたのだが、環境が変わったこともあって、排便回数は減っていたのである。食事をした後に便意を感じることは良くあることであるし、また日本に帰るということで、緊張が緩んだためということもあろう。まだまだ日本に着くまでには時間もあるので、美奈は今のうちにトイレに行くことにした。
「ちょっとトイレ行ってくるね。」
 美奈は親にトイレに行くことを告げると、席を立ってトイレに向かった。
(……飛行機のトイレって、結構狭いんだなぁ……)
 飛行機のトイレは、狭いところに色々な設備が組み込まれていた。美奈のような子供であれば問題がないかもしれないが、大柄な外国人の大人であったら、狭く感じるのではないか、そんなことを考えながら、スカートをたくし上げ、ショーツを下ろすと、便器に腰をかけた。
(……んっ、……)
 美奈が息むと、便意の主は容易に直腸へと降りてきた。そして、それにつれて軽い腹痛を伴って、便意が急激に高まってくる。
(……来た、来た、……んっ!……)
そこで軽く息むと、便はスムーズに排泄された。
  ……プリッ、プリプリプリッ、……ブリブリブリブリッ!……
(……んんっ、ん〜っ……んぅ〜っ……はぁ、……)
 出るものが出ると、ひとまず腹痛は治まり、美奈はトイレットペーパーを巻き取って折りたたみ、お尻を拭いた。立ち上がって便器の中を覗くと、結構な量の便が鎮座している。
(……昨日出てなかったからなぁ……)
 そんなことを思いながら、美奈は洗浄レバーをひねった。

「ただいまぁ。」
 美奈はそう言って席に戻ってきた。とりあえず出るべきものが出て、お腹もお尻も気分までもが軽くなった感じがし、ドスンと席に飛び込むと窓の外を覗き込んだ。しかし太平洋上1万1千メートルの上空では、見えるものと言えばやはり白い雲と青い空ばかりである。
(……あ〜ぁ、おんなじような景色ばっかじゃ、つまんないな……)
 美奈はすぐに飽きてしまい、時折遙か下に見える海を眺めながら、退屈な一時を過ごしていたが、さらなる異変が生じたのは、それから間もなくであった。
  ……ゴロ、……グル、……
 先ほどしたばかりなのに、また便意を催したのである。
(……あれ?……また?……)
 おならかとも思ったのであるが、どうやら実体も伴っているような様子である。先ほどしたのが刺激になって、溜まっていた便がここぞとばかりに出てこようとしているのであろうか。
「う〜ん、ちょっとまたトイレ行ってくるね。」
 美奈は仕方なくもう一度席を立ち、トイレに行くことにした。

(……さっきしたばかりなのに……勢い付いちゃったのかなぁ、……)
 いぶかしげに思いながら、美奈は再び便器に腰を下ろした。便秘が解消する時に、溜まっていた便が断続的に出続けるという経験はあった。美奈はとりあえず便意に逆らうことなく、少し息んでみた。
「……んっ、……んんっ?……くうっ、……」
 息むのにあわせて、腹の奥の方から急速に便が降りてくるのが感じられ、それに伴って強い圧迫感と腹痛が感じられた。しかも今度は、先ほどよりもやや腹痛が強い。グル音と便意が次第に下がってくるのに合わせ、美奈は肛門を緩めた。
  ……ブリブリブリッ……ブリッ、ブッ、……
「……くうっ、……ふっ、……ふう、……」
 明らかに先ほどの通常便とは違い、軟便と液状便の混ざったような便が噴出した。しかも先ほどと違って、腹が渋り、便の切れが悪い。
  ……ブリブリッ、……ブバッ、ビッ、……
「……くっ、……う、……うっ、……はぁ、はぁ、……」
 便が次第に緩くなってきているのが感じられ、治まりそうで治まらない。しかも、先ほどの通常便の時にはあまり感じなかったが、肛門にピリピリとした感じが感じられるようになった。もっともここ数日、エスニック料理を食べ続けていたのであるから、当然ではあったのであるが、美奈にはそれが理解できてはいなかった。
  ……ブッ、……ブピッ、……プウッ、……プウ〜ウ、……
「……うっ、……くふっ、……ふぅ、……うう〜っ、……」
 最後に大きなオナラが出て、とりあえず便意は治まった。
(……うう〜っ、……クっさぁ、……)
 独特の香辛料の香りと、溜まっていた便の腐敗臭のようなものが混ざり合い、狭いトイレには強烈な臭いが漂っていた。ひどい臭いに顔をしかめながらトイレットペーパーでお尻を拭くと、ヌルッとした下痢便特有の感じがあり、拭き終わっても肛門に痛痒いような不快感が残った。
(……むぅ〜、お腹下っちゃったのかな……)
 そんなことを思いつつ、美奈はスカートの上から今ひとつスッキリしないお腹をさすりながら、再びトイレを後にした。


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「美奈、大丈夫かい?」
 席に戻ると、流石に父親が少々心配していた。
「うん、なんだか、ちょっとお腹の具合が悪いみたいなの。」
 美奈は正直にお腹が緩みがちであることを告げた。
「じゃあ、キャビンアテンダントさんにお願いして、お湯もらおうか?」
 子供は下痢気味の時に、脱水症状を起こしやすい。水分補給の重要性を知る母親は、美奈にそう提案した。
「うん、そうする。」
 美奈は、少し喉が渇き始めていたこともあって母親の提案に賛同し、キャビンアテンダントからお湯をもらうことにした。母親が通りがかったキャビンアテンダントに頼むと、キャビンアテンダントは、すぐにお湯を紙コップへ入れて運んできてくれた。美奈はもらったお湯を、ふうふうと息で冷ましながら少しずつ飲んでいたが、その時今度は、明らかに異常と判る腹痛が美奈を襲ったのである。
  ……ゴロゴロゴロッ……グギュルルルルッ、……
(……うぐっ!……くうううっ!!……)
 隣にいた両親にも聞こえたほどのグル音がしたかと思うと、美奈はお腹を抱えて身を強ばらせた。手に持っていた紙コップを危うく落としそうになったのは何とか持ちこたえたが、身を折るようにして屈み込み、腹痛のあまり身動きが取れなくなってしまった。
「み、美奈っ!」
「ち、ちょっと、だ、大丈夫!?」
 両親が身を乗り出すようにして、美奈に声を掛けた。
「う、……うう〜っ……」
 美奈は本能的にトイレに行かなければと思ってはいたが、この痛みでは身を起こすことすらままならない。
(……な、何これ……お、お腹痛いぃ……)
 美奈は身を震わせて痛みを堪えていたが、そのうち第一波は山を越えたようで、ようやく身を起こせる程度に痛みが引いた。このチャンスを逃しては、ここで漏らしてしまいかねない。美奈は絞り出すような声で、両親に訴えかけた。
「……ト、トイレ、……」
 美奈はそれを言うのがやっとであったが、両親はすぐに反応し、父親は席を立って道を空け、母親は美奈を支えて起こす体制を取った。
「どう?美奈、立てる?」
 母親は美奈の肩を抱くように支えると、そう声を掛けた。美奈が首を縦に振って答えると、母親はゆっくりと美奈を席から立たせ、美奈の様子を見つつゆっくりとトイレへと向かった。
(……う、ううっ……は、早くしないと……も、漏れちゃう……)
 美奈の気持ちは急くばかりであったが、その歩は気ほどには早くなく、傍目にはヨロヨロとしながら移動しているように見えた。
 途中幾人かの乗客から怪訝そうな視線を浴びせられながら、美奈は何とか漏らすことなくトイレにたどり着くことが出来た。そして母親に手伝ってもらいながらショーツを下ろして便座に腰掛けると、ほぼ同時に破裂音を伴って、先ほどに増した便の噴出が始まった。
  ……ブッ、ブバッ、ブリブリッ、……ビチビチビチビチッ、……
「……ふぐうっ、……ううううっ!……」
 肛門を熱水が駆け抜けていくような感覚とその後に残る灼熱感。最初のうちは痛痒いような感じであったのが、次第に刺すような痛みに変化していったが、無情にも便意は一向に治まる気配がない。
  ……ゴロゴロッ、……グルッ、……グギュルルッ、……
(……ううっ、……ま、……また、……)
 美奈の顔は紅潮し、額には汗が滲み始めていた。グル音がして腸が動くたびに、鳥肌が立った。繰り返し襲ってくる腹痛と格闘することは、体力の消耗をも招いていった。
  ……ブビッ、ビチビチビチッ、……ビチャビチャビチャッ!……
「……いっ、い……ん〜〜〜〜っ!……あぁ、……」
 水道の蛇口を開け放したかのように、水様便が肛門から迸り続けた。こうなると、とにかく中身を出してしまわないことには治まらない。しかし出しても出しても、次から次へと中身が生産されていくような感じさえした。美奈は疲労を覚え、通常の意識や感覚が鈍ってきてはいたが、その中で渋り続ける腹の感覚と、ジンジンと焼け付くように痛み始めた肛門の感覚とが、いやにはっきりと感じられたのであった。
「……ふう、……ふう、……喉……カラカラ……」
 ひとまず収まりを見せたところで、一息つくと、汗をかき、下痢をしたことで水分が失われたのであろうか、強いのどの渇きを覚えた。
「美奈、お湯もらったわ。はい、これ。」
 母親がキャビンアテンダントから再びぬるま湯をもらって差し出してくれたため、美奈はそのぬるま湯を受け取り、すぐさま一気に飲み干した。
「……んくっ、んくっ、んくっ……ぷはぁっ!」
 喉の渇きもいくらか癒され、ようやく一息つけるかと思いきや、激しい下痢は美奈を長くは休ませてはくれなかった。
  ……グギュツ、……ギュルルルルッ……
「……くうっ、……ふうううっ!……」
 美奈は、便意が治まったのなら一旦トイレを出ようかと思ったのであるが、再びお腹が動き始め、トイレから立つことは叶わなかった。しかしこの状態で下手に席に戻っていたならば、再びトイレまで我慢できる保証はない。その意味においては、トイレを立てなかったのは幸いであったかもしれない。
  ……ブジュッ!……ブジャジャシャッ!!……
「……いっ!……いったぁ〜い!!……」
 搭乗前に食べたものであろうか、未消化の食材がほとんど水と化した便と共に排出された。さらに悪いことに、現地で最後に食べた食事は、いわゆる「激辛」に類するものであった。平常時においてさえもかなりの痛みを伴うであろうに、今の美奈にとっては地獄の責め苦に等しかった。排出と同時に、美奈は悲鳴を上げた。
  ……ゴロッ、……グルルッ、……グルッ、……ゴロロッ!……グッ、……
(……も、……もう、……で、……でな、……いいっ!……で……)
 一端治まったかと思うと、また奥から新たな波が押し寄せ、美奈の下腹部に強烈な圧迫感を与える。そしてその圧迫感の高まりは、次いで訪れるであろう排出と、それに伴う激しい痛みへの恐怖とを、いやが上にも高めていく。
  ……ブッ!……ブバババッ!!……
「……いっ、……嫌ぁ〜っ!!……」
 直腸内で限界まで加圧された水様便が、破裂音を伴って一気に噴射される。と同時に猛烈な痛みが、美奈の肛門に襲いかかった。
「痛ぁい!痛あぁい!」
 美奈はとうとう大粒の涙をこぼし、声を上げて泣き出してしまった。寒気を感じるほどに、腹は凍てつく痛みを生み出し続け、灼熱感を感じるほどに、肛門は焼け付く痛みを生み出し続けた。
  ……ブビビビッ!……ブビッ!、ビッ!……
「痛ぁい!痛いよォ!」
 大量の下利便を放つにつれて、少しずつ腹の方は治まりつつあったが、それと引き替えるように、肛門の痛みは激烈なものとなっていった。排出のたびに襲いかかる、ヤスリか何かで肛門を扱き降ろされているような感覚に、美奈は泣き叫び続けた。
「大丈夫ですか?……お客様、よろしければ、機内にお医者様がいらっしゃらないかお聞きしましょうか?」
 美奈のあまりに凄惨な状況を見かねたキャビンアテンダントは、母親にそのように申し出た。
「すみません、お願いいたします。」
 母親が協力を求めると、キャビンアテンダントは頷いて、すぐに機内放送を入れた。
「おくつろぎのところ申し訳ございません。ご搭乗のお客様にお尋ねいたします。お客様の中にお医者様はいらっしゃいますでしょうか?乗客のお子様が体調を崩されております。いらっしゃいましたら、お近くのキャビンアテンダントの方までお申し出ください。」
 キャビンアテンダントが放送を流してくれてからしばらく待ったが、残念ながら医師は乗り合わせてはいなかったようで、特に動きは見られなかった。しかし一時はどうなるかと思われた美奈の下痢は、出るべきものが出切ったためか、間もなく一応の治まりを見せた。ようやく排泄が治まったものの、美奈は既に体力を消耗しきり、表情はうつろで、その愛らしい顔は涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになっていた。
(……ふう、ふう……もう、……駄目……お尻……痛い……)
 疲労のあまり、頭がぼおっとして意識も朦朧としていたが、その中で肛門の激しい痛みだけははっきりとしていた。その時の美奈の肛門は、峻烈なまでの下痢ときつい香辛料とに苛まれ、真っ赤に爛れて腫れ上がり、疲れ切った粘膜からは血まで滲んでいたのである。
「美奈、どう?終わった?」
 母親が息も絶え絶えの美奈に声を掛けると、美奈は首を少し頷いて終わったようであることを告げた。
「じゃあ、お尻拭いてあげるから、少し体前にずらせる?」
 母親がそう言うと、美奈はもそもそと体を前にずらした。母親はそれを確認すると、トイレットペーパーを巻き取り、ひどく汚れた美奈の肛門に紙をあてた。
「い、痛ったあい!」
 美奈は、紙を当てられるやいなや、悲鳴を上げた。紙はそれほど低質なものではなかったのであるが、肛門の状態の悪さが勝っていたのである。
「ごめんね、でも拭かないと……ね?」
 母親はそう言って、出来るだけ美奈に痛みを感じさせないよう、紙を美奈の肛門に慎重に当てた。
「……ひいいっ!……痛!……痛いよぉ……」
 なだめながら少しずつ拭こうとはするのだが、美奈は少し紙を動かしただけでヒイヒイと悲鳴を上げるので、母親は困り果ててしまった。
「……お客様。よろしければこちらをお使いください。」
 キャビンアテンダントは、客室で配っている使い捨てのおしぼりを取ってきて、何枚か母親に渡した。
「すみません、ありがとうございます。」
 母親はお礼を言うと、早速袋を開けておしぼりを取り出し、そっと美奈の肛門に当ててみた。
  ……くちゅっ、……
「……うっ、……うぅん、……」
 美奈は少し呻いたが、先ほどのように悲鳴を上げなかった。
「どう?美奈、痛くない?」
「……さ、……さっきより、……痛く……ない……」
 母親が聞くと、美奈が途切れ途切れに答えた。
「じゃ、今綺麗にしてあげるから、ちょっとだけ我慢してね。」
 これなら何とかなりそうだと感じた母親は、細心の注意を払いつつ、美奈の肛門を拭っていったのだった。

 途中何度か悲鳴を上げたものの、4枚ほどのおしぼりを費やして、美奈のお尻はようやく綺麗になった。
(……!!……血が付いてる……美奈……)
 母親は美奈のお尻を拭ったおしぼりに、少しではあるが血が付いていたことに気がついた。そしてそれは、美奈の肛門がかなり悪い状態にあることを如実に示していた。母親はトイレを流した後、抱きかかえるように美奈を起こし、とりあえずショーツを履かせようとしたが、いつまた催すか判らない。また、ここまで消耗してしまっていては、その時トイレまで保つかどうかも判らない。
(……こんな状態で、どうしたら良いのかしら……)
 母親が美奈を抱きかかえたまま、どうしようか思案していると、キャビンアテンダントが申し訳なさそうな顔をしながら声を掛けてきた。
「お客様、もう少しで本機は着陸態勢に入ります。お取り込み中、まことに申し訳ございませんが、お早めにお席にお戻りください。」
 騒ぎに紛れて時間のことを忘れていたが、母親が時計を見ると、思った以上に時間が経っていた。また着陸するとなれば、安全のため、席に戻ってシートベルトをしなくてはならない。
(……急いで戻らなくては……そうだ!……あれが使えるかも。)
 そこで母親は、バッグに入れていた生理用ナプキンと小型のお手拭きタオルを美奈のお尻に当て、いざという時のオムツ代わりとすることにした。
「美奈、ちょっとごめんね。」
 母親は美奈のお尻に生理用ナプキンを当て、その上にお手拭きタオルを折り畳んで当てると、それらを覆うようにしてショーツを履かせた。
「え?……ママ、何?」
 美奈はお尻に不思議な肌触りを感じ、その疑問を口にした。生理用ナプキンは、まだ生理になったことのない美奈には、未知の物体であった。
「美奈、いい?……これからこの飛行機は着陸するんだけど、その間安全のために、席に戻らなきゃいけないの。飛行場について飛行機を降りるまで、トイレに行けなくなるから、可愛そうだけれどオムツの代わりになるものを当てたの。」
(……え?……オムツ!?……そ、そんな……)
 美奈はオムツを着けられねばならないほどの自分の状況に愕然とした。しかし飛行場に着くまでトイレに行けないのであるならば、必要になる可能性は大いにある。美奈はあまりの情けなさに、気が沈むのを感じた。
「……済みません、お騒がせしました。すぐ、戻りますので。」
「いえ、こちらこそ申し訳ございません。ご協力、感謝いたします。」
 母親は美奈の服装を整えると、キャビンアテンダントと言葉を交わし、美奈を抱きかかえるようにしてトイレを後にした。美奈の席に戻るまでの足取りは、消耗していたためにおぼつかないものがあったのだが、モコモコしたお尻の違和感が、歩きにくさをさらに助長していた。
(……ふぇ〜ん……変な感じがして、歩きにくいよぉ……)
 ふらふらとひょこひょこを混ぜ合わせたような奇妙な歩き方をしながら、何とか席に戻ると、美奈は母親に支えてもらいつつ、ゆっくりと腰を掛けた。
「……うっ!……うぅ〜っ、……」
 ナプキンの肌触りそのものは悪くなかったのだが、体重が掛かったことで肛門の痛みが増し、美奈は思わず呻き声を上げた。近くの席の人が怪訝そうに美奈の方を見たが、それに気づいた美奈は茹で上がらんばかりに頬を赤らめた。
(……!……見られた?……う〜っ……は、恥ずかしいよぉ……)
 肛門が痛くて座るのに苦労すると言うみっともなさに、美奈は消えてしまいたくなるような恥ずかしさを覚えたのであった。
 その後両親が美奈の左右に座り、父親にシートベルトをしてもらうと、間もなく飛行機は高度を落とし、着陸態勢に入った。シートベルトのために体の自由が制限されていたが、肛門の疼くような痛みに炙られ、美奈は落ち着いて座っているのが辛かった。
「……お尻、ズキズキするぅ……」
「可愛そうだけど、もう少しだからな。」
 美奈が小さな声でつぶやくと、父親が美奈の頭を撫でてやりながら慰めた。母親は美奈の手をしっかりと握り、心配そうな顔で美奈の顔を見つめた。飛行機が高度を下げるにつれ、下りの高速エレベーターに乗ったときのように、はらわたが持ち上げられるような、何とも心地の悪い気分がこみ上げる。またその感じを受けるうちに、不気味な重さを下腹のあたりに感じ始めてもいた。
(ううぅ、気持ち悪い。……なんかお腹、また変になりそう……つっ!……お尻も痛ぁい……)
 美奈は痛みと気持ちの悪さに苛まれながら、そして両親に励まされながら、飛行場に着くその時を待ち続けた。
(……ま、まだ続くの?……早く……早く着いてぇ……)
 そうして高度を下げていくうちに、いよいよ飛行機は機首を上げ、補助翼を展開し、完全に着陸する態勢になった。エンジンの音がだんだんと大きくなって、地上がどんどんと近くなっていく。
「美奈、もう飛行場に着くわよ。もう少しだからね。」
 エンジンがひときわ大きな音を立てたことから、着陸はもう間近であることが判る。母親はそう言って励ますと、美奈は俯いたまま、小さく頷いて答えた。
  ……ドシン!!……
(……!!……)
 大きな音と振動が伝わり、滑走路に飛行機のタイヤが接地した。美奈は、そのショックで下腹の重さが、はっきりとした便意に変わったことに驚愕した。
「……あ!……ぐうぅっ!……」
 飛行機は着地と同時に強烈なブレーキングを行い、急激な減速と振動のため、乗客は体が前に持って行かれるような感じになった。この時体が浮き上がってしまわないようにするためのシートベルトであるが、今の美奈にとってはそれが一種の凶器と化した。シートベルトが、美奈の下腹部を圧迫する形になったのである。
  ……ゴオオオオオッ!!……
  ……ブリブリッ!!……
「……ひぎいっ!!……」
 エンジンの逆噴射の轟音と、お漏らしの排泄音と、美奈の小さな悲鳴とが同時に響いた。しかし排泄音と悲鳴は、轟音で掻き消され、隣に座っていた両親にすらほとんど聞こえなかったのである。
(うあっ、うあああぁっ、あああああぁっ……)
 美奈はさらに襲いかかった災難に、人知れず悶え苦しんだのであった。

「機長よりお客様にご案内申し上げます。本機は、ほぼ定刻通りに成田国際空港に到着いたしました。現在の時刻は14時25分、天候は晴、外気温は……」
 飛行機は無事着陸し、機内にはアナウンスが流れ、滑走路から誘導路へとゆるゆると移動しつつあった。乗客は着陸の緊張から解放され、気の早い者はシートベルトの解除が告げられていないにもかかわらず、席から立ち上がって手荷物を降ろそうとしたりしている。
「美奈、無事着いたわよ。美奈?」
 母親が美奈に声を掛けると、美奈は突っ伏したまま、ふるふると震えているままで体を起こそうとしない。不審に思った両親が美奈を抱き起こそうとすると、両親は美奈が小さな声でつぶやきながら泣いているのに気がついた。
「……ぐすっ、……出ちゃった……お尻、痛ぁい……」
 美奈は失禁の恥ずかしさと肛門の痛みとに苛まれ、身を震わせて泣いていたのであった。両親はそこで美奈が漏らしてしまったこと、そのために肛門が痛んでいることを悟ったが、乗客が降り始めようとしつつある今、いつまでもこのままにしておくわけにはいかなかった。
「さあ、美奈降りなきゃ。」
 父親はそう言って美奈を優しく抱き起こすと、美奈はぽろぽろと涙をこぼしながらしゃくり上げた。そしてシートベルトを外してやり、抱きかかえるようにして席から立たせると、美奈は父親にぎゅっと抱きついてすすり泣いた。
「降りる前にちょっとトイレをお借りして、お尻だけ拭かせてもらうわ。」
 母親は父親にそう言うと、席を立ってキャビンアテンダントに相談しに言った。キャビンアテンダントは、快くトイレのブースを貸してくれ、母親は父親からすすり泣いている美奈を引き継ぐと、美奈とトイレのブースに入った。
「今、綺麗にしてあげるからね。」
 母親は、美奈を便座に手を着かせて立たせると、スカートをまくってショーツを引き下ろした。
  ……むわぁっ……
 美奈の小振りなお尻がむき出しにされると、それまで閉じこめられていた何ともいえない悪臭が漂った。幸いにして、便はほとんど水のようなものであったのでナプキンに吸収され、思ったよりも汚れが広がっていなかった。しかし目の当たりにした美奈の肛門は、母親の思っていた以上に状態が悪く、真っ赤に腫れ上がって見るからに痛々しかった。
(……可愛そうに……これじゃあ痛くて堪らないでしょう……)
 母親は美奈の苦しみを察し、先ほどよりもさらに優しく、美奈の肛門をおしぼりで拭いてやったのであったが、お尻を拭かれている間、美奈は痛みと恥ずかしさとで、ずっとすすり泣き続けていた。


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 飛行機から降りると、乗客は入国審査を受け、それぞれの帰るところへと向かっていった。しかし、美奈は激しい下痢をしたためにそのまま帰る訳にはいかず、検疫室に向かわなければならなかった。母親は美奈を支え、父親は三人分の荷物を持って、検疫室へと向かった。
 検疫は、法定伝染病などが国内に持ち込まれないようにするための、重要な機関である。美奈は母親に支えられるようにして検疫室に入ったが、中には老若男女を問わず、何人かの人がいた。人々は奥の診察室らしき部屋に入った後、しばらくすると部屋から出てきて、人によっては、その後奥にある布のパーティーションの中に入っては出てくるという行動を取っていた。父親が検疫官に状況を説明すると、奥の部屋近くにある待合いで待機しているように言われ、家族三人は待合いにある長椅子の方へ向かった。すると間もなく部屋の方から呼び出しがあった。
「沢田さん、こちらへどうぞ。」
 父親が荷物番をし、母親が美奈と部屋に入ることにし、母親は美奈を支えながら部屋に入っていった。部屋に入ると、中には白衣を着た中年の女医が椅子に座っていた。女医が椅子を勧めると、美奈は母親に支えてもらいながら、痛みに顔をしかめつつ椅子にゆっくりと腰掛けた。女医は気の毒そうに美奈の行動を見守っていたが、座り終えるのを見届けると、早速質問を切り出した。
「さて、お嬢さんの下痢が酷かったとのことですが、何か思い当たることはございますか?」
 女医は、やさしく微笑みながら美奈母娘に尋ねた。
「いえ、生水は飲ませておりませんし、食事も基本的にはパック旅行で用意されたものを食べておりました。ただこの子は、果物が好きなので、果物はずいぶんと食べておりましたが……」
 母親は旅行中の食生活を思い起こしながら、女医に話していった。
「お嬢さんが体調を崩されたのは、いつ頃でしたか?」
「今日の飛行機に乗ってからです。それまでは元気にしておりました。」
 女医は状況を確かめるように質問し、母親がそれに答えていく。
(……うぅ……お尻……痛い……)
 本来の主人公である美奈は、所在なさげに下を俯いたままでいたが、お尻が痛むため、もぞもぞと落ち着きなく体を動かしていた。
「今日出発する前と、昨日の夜の食事とはどんなものでしたか?」
「出発前は、辛みの強い魚介類の料理でした。昨日の夜は、鶏肉の揚げたものと野菜を煮込んだものが中心でした。」
 女医は母親の報告を聞き、時折端末の画面を見ながら、状況を確認していく。
「他に発熱とか何か、症状はございますか?」
「熱は出していないようなんですが、……その、お尻の穴が酷く痛むらしいんです。機内でお尻を拭いたときに、少し血も付いておりましたし……。」
 母親がそう言ったとき、美奈は思わず顔を上げてしまったが、女医と目が合ってしまうと、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にし、また下を俯いてしまった。
「酷い下痢をすると、肛門が炎症を起こして痛みますからねぇ。他には何かございますか?」
 女医は美奈が座りにくそうにし、かつ座った後も落ち着きがなかった原因がわかり、さもありなんという感じに頷くと、質問を続けた。母親は思い当たる節がなかったので、何かあるだろうかと美奈の方を見ると、美奈は小さく首を横に振った。
「判りました。おそらく一過性の下痢かと思いますが、念のためお嬢さんには直接採便検査を受けていただきます。」
「直接採便ですか……。」
 女医と母親のやりとりが続くなか、美奈は聞き慣れないチョクセツサイベンケンサなるものに、未知であるが故の不安を感じた。
(……チョクセツサイベンケンサ?……いったい何するんだろう?……)
 ケンサは検査だと想像が付くが、チョクセツサイベンの部分が今ひとつよくわからなかったからである。
「それでは、こちらをお渡しします。検査には部屋を出てすぐのところにある、パーティションで区切られたブースをお使いください。検査の仕方は、壁のところに貼ってありますので、それに従ってください。それで終わられたら、こちらにこの容器を持ってきてください。」
 女医はそう言うと、試験管のようなものを母親に手渡した。母親はそれを受け取ると、美奈を椅子から立たせ、共に診察室を出て行った。
「どうだって?」
 診察室を出ると、父親が近寄ってきて、心配そうに尋ねた。
「念のため、直接採便検査をすることになったわ。」
 母親は溜息混じりに父親に伝えた。
「そうか……。たいしたことがないと良いけどな。」
「そうね……。」
 不安げに両親のやりとりを見守っている美奈を見ると、母親はふうっと息をつき、検査のため、パーティションの方へ向かうことにした。
「じゃあ、また荷物の方、お願いするわ。」
「ああ、判った。」
 父親は頷いて、また留守番を引き受けた。
「じゃあ、美奈、おいで。」
 母親は試験管を手に、美奈と一緒にパーティションの中に入っていった。

 パーティションの中に入ると、プラスチック製のポ−タブル便器が置いてあり、壁には検査の方法について簡単なイラストで描かれたものが貼ってあった。
「ええと、何々……」
 母親が読んだその張り紙によれば、検査は渡された管の蓋に直結している棒を肛門に差し込み、何度か抜き差ししながら直腸内の便をこすりつけるようにして取るというものであった。管の中の棒は、ちょうど太さといい、長さといい、大人の小指ほどもあり、先端から7〜8mmのところに深い凹みが設けられ、そこに便が入り込む仕掛けになっているようである。
「ママ、……チョクセツサイベン検査って、何するの?……」
 美奈は、これから行われる検査に不安を感じているようであった。母親は美奈の方を向き直り、正直に検査の内容を話すことにした。
「ここに書いてある説明によると、お尻にこの管の中の棒を入れて、便をとって、伝染病にかかっていないか検査するんですって。」
「えっ!?お尻に?」
 母親が管を見せながら説明すると、美奈は驚愕した。とりあえずおしぼりで拭いてもらったものの、肛門にはまだかなりの痛みが残っており、つい先ほども座るのに支障を来したほどである。とても今の美奈には、許容できる内容ではない。
「さ、美奈。」
「嫌、そんなの嫌。」
 母親は一本の試験管を手に、美奈に近寄った。しかしこんな状態で肛門に異物を突っ込まれたりしたら、激痛に苛まれるのは、それこそ火を見るよりも明らかである。美奈はすぐさま拒絶した。
「すぐに終わるから、辛いのは判るけど、ちょっとだけ我慢してちょうだい。」
「嫌、絶対嫌。もう痛いの嫌。」
 母親は美奈の前に跪いて説得を続けた。しかし美奈にしてみれば、機内で排便のたびに辛い思いをし、着陸時にはお漏らしというおまけ付きで、激痛を味わったばかりである。この上さらに耐え難い苦痛を味わねばならないのか……。美奈は首を大きく左右に振って拒絶した。
「でも、これをしなければ、お家にも帰れないし、お友達にも会えないのよ?」
「でも、……でも、……」
 母親は諭すように美奈に言い聞かせる。家にも帰れない、友達にも会えないといわれて、美奈の心は揺れ動いたが、まだ痛みへの恐怖が勝っていた。美奈は懇願するように母親を見つめ、拒絶し続けた。
「もし悪い病気にかかっていたら、みんなにも迷惑がかかっちゃうのよ?……だから、ね?」
「…………」
 母親は美奈の手を取り、畳み掛けるように言い聞かせる。みんなにも迷惑が掛かる……そう言われては辛いところである。確かに人に伝染る悪い病気であったならば、家族のみならず、友達や先生などにも迷惑がかかる。痛みへの恐怖が消えたわけではないが、検査が不可避であることを理解した美奈は、うなだれてしまった。
「じゃ、すぐに終わらせちゃいましょ。」
 母親にそう言われると、美奈は渋々ながら小さく頷き、母親はそれを確認すると美奈に指示を出した。
「じゃあ、美奈、向こうを向いて、そのトイレの蓋に手をついて、さっき飛行機の中で、お尻を拭いた時みたいな姿勢になってくれる?」
 美奈は躊躇いを感じながらも母親の言うとおりに蓋に手をつき、お尻を突き出した。
「ちょっとごめんね。」
 母親はそう言って美奈のスカートをまくり、ショーツを一気に膝のあたりまで降ろしてしまった。
「!」
 お尻が外気に曝されると、これから起こることが改めて意識され、美奈は思わず身震いした。こういう時は下手に時間を駆けてゆっくりやると、かえって不安感や恐怖感が増してしまって上手くいかないものである。母親は手早く試験管から採便棒を引き抜くと、左手の指で美奈の腫れ上がった肛門を押し広げて、右手に持った採便棒の先端を注意深く押し当てた。
「あ、嫌っ!」
 美奈は肛門に採便棒が当てられると、恐怖感を感じて、反射的に身を引いて抵抗してしまった。
「ほら、動くとかえって痛いわよ。じっとして、口で息をするようにして。」
 母親は、そう言って美奈をたしなめると、すぐさまタイミングを見計らい、一気にカタを付けることにした。
(美奈、ゴメンね。)
  ……ずぶうぅっ!!
「はぁ、……は!!!……」
 かえって痛いと聞き、美奈は戸惑いつつも口で息をし始めたが、母親は美奈の力が抜けたその瞬間を見逃さず、美奈の肛門に当てていた採便棒を一気に付き込んだ。美奈は入れる時には声をかけてくれるものとばかり思っていたので、不意を衝かれた形になり、採便棒は過剰挿入防止の鍔の部分まで一気に差し込まれた。一瞬頭の中がフラッシュしたような感じの後、頭の天辺に突き抜けるような痛みが駆け抜けた。
「嫌あぁぁぁ〜っ!!」
 悲痛な、そして一際大きな美奈の悲鳴が、検疫室に響き渡った。しかし検査はこれで済まない。差し込んだガラス棒に便を付着させねばならないため、直腸壁を擦るように、何度か抜き差ししなければならなかったのである。
「美奈、後ほんのちょっとで終わるから動かないで!」
 そう言って母親はガラス棒の角度を定めると、ピストン運動のように数度動かした。
  ……じゅぷっ!……ずぷっ!……ぢゅぷっ!……
「……ひいっ!……いっ!!……いっ!!!……」
 採便棒が直腸壁を擦り、痛む肛門を摩擦した。美奈は採便棒の動きにあわせるように体をビクつかせ、その都度悲鳴を上げた。
  ……ぢゅぽんっ……
「……うう〜っ!……」
 採便棒が引き抜かれ、美奈は呻き声を上げた。そしてさらに悪いことに、採便棒を抜き差しされた刺激で、急に便意がぶり返した。
「あ、……やぁっ、……で、出るっ!」
 痛みと便意とでパニックになった美奈は、お尻を押さえて狼狽えた。
「美奈っ!」
 母親は採便棒を試験管に収めると、すぐさまポ−タブル便器の蓋を開け、狼狽えるばかりの美奈を振り向かせ、そのまま押さえつけるように便座に腰掛けさせた。
  ……ブバッ!ブビビビッ!!……
「……痛ああぁいっ!!……」
 ガス混じりの水様便が派手な破裂音とともに噴射され、ポータブル便器の中に仕掛けられたビニール袋に叩き付けられて、バシャバシャと音を立てた。美奈は今までで一番の激痛に、力の限りに悲鳴を上げ、次いで痛みのあまりに小便が股間の縦筋からあふれ出した。
「ああっ、ああああああぁ……」
 美奈はしばしの放尿の後、あふれる涙も垂れる鼻水もそのままに、放心状態のようになって便座の上でへたり込んだ。
「美奈、辛かったでしょ?でももう終わったからね。よく頑張ったわね。」
 へたり込む美奈を母親は抱きしめ、頭を撫でて慰めた。美奈は暖かい母親の胸に抱きしめられると、思い出したように声を上げて泣き始めた。
「……う、うわぁ〜ん!……痛ぁい!……お尻痛ぁい!……お尻痛いよぉ!」
「だ、大丈夫なのか?」
 美奈の泣き叫ぶ声にいたたまれなくなった父親もパーティションの近くに寄ってきているようで、外から心配そうに声を掛けた。
「ええ、痛い思いさせちゃったけど、終わったわ。落ち着いたらそっちに行くわ。」
 母親はそう父親に告げると、抱くように美奈の体を支えながら、キャビンアテンダントからもらっていたおしぼりでお尻を拭いてあげた。
「……いっ!……痛っ!……痛ぁい!……」
 しかし、おしぼりですら拭くたびごとに体をビクつかせて悲鳴を上げる上、先ほどよりもさらに多くの血が付いているのに母親は心痛めた。
(……かなり酷い……悪い病気じゃなきゃ良いけど……)
 母親は、美奈を抱きしめる手に、知らず知らず力が入ったのだった。


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 試験管を持って、母親と美奈は診察室の方へ向かった。いざパーティションから出てみると、まだ何人かの旅行者が残っており、美奈は一瞬注目を集めた。美奈は自分に集まる視線を感じると、先ほど大騒ぎしたことが思い起こされ、顔を真っ赤にして俯いてしまったのだった。
「はい、確かに。20〜30分もあれば結果は出ますから、外でお待ちください。」
 診察室に入り、先ほどの女医に試験管を渡すと、結果が出るまで待つように言われ、美奈と両親は長椅子のところで結果を待った。
(……こんなにお尻痛くて……その上悪い病気だったら、友達のみんなにも会えないなんて……私どうなっちゃったんだろう……)
 待っている時間というものは長く感じられるもので、美奈は両親に支えられ、心を不安で満たしながら過ごしたのであった。
「沢田さん、お待たせいたしました。」
 20分ほどすると、美奈と母親は診察室に呼ばれた。女医は出たばかりの分析結果が記された紙に目を通すと、その結果を二人に伝えた。
「分析の結果、法定伝染病にはかかっていなかったようですから、安心してください。やはり一時的な体調不良か、食事や水などの相性による一過性の下痢と見て間違いないでしょう。」
 女医から問題ないことを告げられると、美奈と母親は胸をなで下ろした。
(……良かった……悪い病気じゃなかったんだ……)
 ほっとするのもつかの間、女医は、続いて美奈と母親に、ある申し出をした。
「ところでお嬢さんは、だいぶ痛がっておられたようですし、出血もあるとのことでしたが、よろしければここで少しお尻を診てみましょうか?」
 女医にそう言われて、美奈と母親は顔を見合わせた。
(……え……お尻を診るって……そ、そんな……)
 美奈は突然お尻を診ると言われて、戸惑ってしまった。痛いのは事実であるが、いきなり診せろと言われても、気持ちの整理が付かない。一方の母親は、美奈が動揺しているのに気がついてはいたが、美奈の肛門の状況が、かなり思わしくなく、帰る途中で支障を来しては厄介なことも判っていた。
「……そうですね。そうしていただけると助かります。」
 母親は、女医の申し出を受け入れ、美奈を診てもらうことにした。
「では、こちらの診察台に上がってください。」
 美奈は診察台に上がるように言われ、母親の手を借りながらおずおずと診察台に上がった。女医は、美奈が診察台に上がるとまず膝立ちにさせ、その後胸が診察台に付くほど、上体を大きく前に倒させた。その結果、美奈はお尻を高く突き出したような姿勢となった。
(……う〜っ……このカッコ、何かとっても恥ずかしいよぉ……)
「ちょっと失礼いたします。」
 女医はそう言って美奈のスカートを裏返さんばかりに捲り揚げ、ショーツに手を掛けると、太ももの中程まで一気にずり下げてしまった。
(……ええっ……ちょ、ちょっと……)
 ただでさえ恥ずかしい姿勢に顔を赤らめていた美奈は、小振りなお尻はもちろんのこと、腫れ上がった肛門や、一筋の割れ目が刻まれただけのような幼い性器までも丸出しにされ、まさに顔から火が出るほどの思いがした。しかし女医は薄いゴム手袋をはめた後、両手を美奈のお尻にかけると、左右に大きく割り広げた。
(……そんなに広げちゃ、いやぁ……)
 羞恥心に苛まれる美奈に追い打ちを掛けるかのように、女医は親指を肛門の縁に当て、これまた左右に思い切り広げたのである。美奈の肛門は、左右に引っ張られたことで少し捲れ上がったようになり、内側に隠れていた患部も一部露わになった。
「……あ!……痛!……」
 肛門を左右に思い切り広げられたことで、美奈は痛みを感じて声を上げた。しかし女医は診察の手を緩めることはなく、親指の位置を少しずつずらし、クニクニと肛門を広げたり閉じたりしながら患部を診ていった。
(……いやぁ、お尻の穴、開いたり閉じたりされてるぅ……うっ!……痛ぁ……)
 肛門をいじくり回される恥ずかしさと、広げられたときに感じる痛みに、美奈はぎゅっと目を閉じ、歯を食いしばるようにして耐えた。
「う〜ん、かなり炎症を起こしているようですね〜。これじゃあ酷く痛むのは無理もないでしょう。また炎症を起こしたところが一部擦り切れて、切れ痔に進行しているようですので、拭くときに血が付くのはこれが原因でしょう。……とりあえず炎症を抑える軟膏を塗っておきますね。」
 女医は美奈の肛門を診ながらそう言った。母親は、なまじ美奈の激しい痛がり様を目の当たりにしているだけに、心配になって女医に尋ねた。
「炎症に切れ痔……ですか。やはり治るのに時間がかかるんでしょうか?」
「まあ、切れ痔にまで進行してますんで、4〜5日は排便時に痛むでしょう。でも、お風呂の時と排便後に肛門を洗って、市販ので結構ですから、その都度痔疾用の軟膏を塗ってあげれば、一週間くらいで治りますよ。」
 女医は軟膏を指先に取りながら、淡々とそう答えた。
(……そのくらいで治るなら、よかった。……でも、小学生で痔になるなんて、ちょっと不憫ね……。)
 母親はほっとすると同時に、美奈に少し同情した。
「はい、ちょっとしみるかもしれませんが、我慢してくださいね。」
 女医はそう言って、美奈の肛門を指で広げると、もう片方の指にたっぷりと取った軟膏を塗りつけた。
  ……にちゃ……くちっ……
「……あ、……くうっ!……」
 女医の言うとおり、薬がジンジンとしみる感じがして、美奈は呻き声を上げた。しかし女医は、指先を少し差し込むようにして、肛門に薬を塗り込めていく。
  ……くにっ……ぐにっ……くちゅ……
「……あ、……あっ!……あっ、……」
 女医は指先を軽く抜き差しするようにしながら、患部に薬を擦り込んでいった。その動きに合わせるかのように、我慢できないほどではないもののツキンツキンとした軽い痛みが感じられ、美奈はそのたびに声を漏らした。
(……あ……あぁ……やぁ……お尻……熱い……ジンジンするぅ……)
 女医の指は少しずつ深くなり、第一関節と第二関節の間くらいまで差し込まれるようになった。それにつれて指のストロークも大きくなり、次第に美奈の肛門を責め立てるように、ゆっくりと抜き差しされた。
  ……ずにゅうっ……くっ……ぬぬぬぬっ……ずにゅうっ……くにっ……ぬぬぬぬっ……
「……ううっ!……んぁっ……んはああぁ……ううっ!……ひあっ……やああぁ……」
 美奈は指を深く差し込まれては息を詰まらせ、ゆっくり抜かれては切ない声を上げた。次第に薬のしみる感じが麻痺してきて、むしろ抜き差しされることで感じる、背筋のゾクゾクする感じや排便にも似た切ない感じが支配的になっていた。
  ……ずにゅうううっ……ぬぬぬぬうっ……ずにゅうううっ……ぬぬぬぬうっ……
(……いやぁ……そんなにしたら……ウンチ……したく……なっちゃう……うっ!……ウンチ出ちゃうよぉ……)
 女医の指はとうとう第二関節を越えたあたりまで差し込まれ、深々とした抜き差しが繰り返された。美奈はその得も言われぬ切なさに、身を戦慄かせ、お尻を鳥肌立てた。
  ……ぬぬぅっ……にゅぽん!……
 女医はたっぷりと薬を擦り込み終えると、美奈の肛門から指を抜いた。
「……くぅ……はうっ!……う、うぅ〜っ。」
 美奈は指を抜かれると呻き声を上げ、薬が指に付くことも忘れ、お尻を押さえようとした。抜かれた瞬間に漏らすかと思ったからである。
「あ、ちょっと触らないでいてね……よっと……はい、終わりましたよ。」
 女医はお尻を押さえようとする美奈を押しとどめ、軟膏をつけたガーゼを美奈の肛門に押し当て、紙テープで貼り付けてしまった。
「……あうっ……くうぅ〜……」
 美奈はガーゼを押し当てられて息を詰まらせ、女医の手が離れて終了したことが告げられるやいなや、ガーゼで蓋をされた肛門を押さえて呻いた。
「さて、他に気になることがあれば併せて承りますが、何かございますか?」
 女医がゴム手袋を外しながら尋ねると、お尻を押さえて呻いている美奈を宥めていた母親が、少し考えた後に口を開いた。
「……いえ、特にはございません。」
「それでは、お大事になさってください。」
 母親の答えを聞くと、女医はそう言って診察の終了を告げ、美奈と母親はようやく放免されることになった。

「……どうだって?」
 二人が診察室を出てくるなり、外で気を揉み続けていた父親が聞いた。
「幸いシロですって。」
「そうか、シロだったか……そりゃあ良かった。で、他に何か言われたかい?」
 父親は、美奈が伝染病などに罹っていたわけではなかったことを知り、ひとまず安心した。ただ、他に何か原因があったのかもしれないので、父親は母親にさらに尋ねた。
「えぇ、ひどい下痢をしたものだから、美奈、ちょっと切れ痔になっちゃったみたいなの。普通に売っている薬で構わないから、しばらく塗ってあげなさいって言われたわ。」
 美奈は、赤い顔をして俯いたままでいた。しかし、お尻をもぞもぞとさせ、肛門のあたりをさすり続けている様子からは、状況の思わしくないことがひしひしと伝わってきた。
「だいぶ痛がっていたからなぁ……可愛そうに。でも、痛かったのに、よく頑張ったな。」
 父親は俯いていた美奈を抱きしめると、背中を優しくさすってやった。美奈は恥ずかしいような、嬉しいようなくすぐったい気持ちになって、父親に顔を押し当てて隠してしまったのだった。
 その後検疫室を後にした美奈たちは、預けていた荷物を受け取りに行き、電車に乗って家路についた。
(……むう〜……何かお尻ムズムズするし、挟まってる感じもして、変な感じぃ……)
 帰りの電車の中では、塗ってもらった薬が効いたのか、痛みはいくらか抑えられていた。しかし、ジリジリと炙るようなむず痒い感じがあり、当てられたガーゼのお尻に挟まっている感じも落ち着かなかった。美奈は何とももどかしいような思いをしながら、家路についたのであった。

「ふぅ、やっと戻ってきたわね……。」
 自宅に最寄りの駅に着くと、母親は溜息混じりに呟いた。時計を見ると、もう8時半を回っていた。美奈も見慣れた風景の中に戻ってきて、気持ちがほっとするのを感じた。
「まぁ、いろいろあったけど、こうやって無事行って帰ってこれたんだから、いいじゃないか。」
 父親はそう言って母親の肩に手を置いた。
「……うん、そうね。……さて、遅くなっちゃったから、どこかでご飯食べるか、何か食べるもの買って帰るかしましょうか。……っと、お薬も買わなきゃいけないわね。」
 母親がそう言うと、3人は駅の中にあるドラッグストアへと向かった。
 ドラッグストアは、あちこちにチェーン店があるもので、ジュースやお菓子などの安売りもしていて、美奈の家では時々利用している店だった。また、遅くまで開店しているので、この日もお客の数こそ少なくなってはいたが、まだ営業をしていた。
「あの、ちょっと済みません。」
 母親がカウンターで声をかけると、奥の方で品物の確認をしていた薬剤師が出てきた。
「……お待たせいたしました。どんな薬をお探しでしょうか?」
 薬剤師は比較的若い男性で、生真面目に七三に別けた髪型が印象的であった。
「はい、娘がひどい下痢をしまして、炎症を起こして切れ痔になってしまったようなんです。それでどんなお薬がいいかと思いまして……。」
 母親は美奈の症状を、薬剤師に手短に伝えた。美奈は恥ずかしさのあまり、父親の陰に隠れて、母親と薬剤師のやりとりを盗み見ていた。
「えぇと、それでしたら……こちらなどいかがでしょうか。お子さんで、しかも切れ痔では坐薬は辛いでしょうし、これなら外に塗るのにも、中に絞り入れるのにも使えますから、汎用性が高いと思います。」
 薬剤師が棚から出したのは、注入軟膏タイプの痔疾薬であった。
「なるほど……それではそれをいただけますか?」
 母親は薬剤師の説明に納得し、1箱購入することにした。
「はい、それでは……税込みで1470円になります。……はい、1500円お預かりいたします。……ではこちらが商品と、おつりの30円になります。……あと、こちらはおまけの試供品ですので、よろしければお使い下さい。……それでは、お大事になさって下さい。」
 そうしたやりとりの後、母親が薬と試供品の入った紙袋をぶら下げて戻ってくると、3人はドラッグストアを後にした。
「何かおまけ貰ってたみたいだけど、何貰ったんだい?」
 父親は母親に尋ねた。
「え?あぁ、お店の人が気を利かせてくれたのか、痔の人用ウェットティッシュの試供品を貰ったわ。美奈のお尻拭いてあげるのに、ちょうど良かったかも。」
 母親は紙袋を見ながら、そう答えた。そして3人は家近くのコンビニで食べるものを買って、ようやく家にたどり着いたのは9時を過ぎた頃であった。
 遅い食事の間にお風呂が沸き、美奈は食事が終わると、お風呂に入った。お風呂では、ざっと髪と体を洗った後、おそるおそる肛門をシャワーで洗ってみた。
(……そ〜っと、そ〜っと……ん……痛っ!……つぅ〜っ……)
 シャワーの水流はそれほど強くはなかったのだが、それでも患部に直接当たると斬りつけられるような痛みがあった。
(……そんな……シャワーが当たっただけで、こんなに痛いなんて……)
 美奈は、薬のニチャニチャする感じだけでも何とか洗い流したかったのであるが、そんなささやかなことでさえ、今の美奈には大変なことであった。
(……うっ!……い、痛っ!……痛ぁ……つうっ!……くううっ……)
 繰り返し襲い来る痛みに泣きそうになりながら、美奈は何とか肛門を洗い終えた。そしてようやくリラックスできるとばかりに湯船に入ると、その身をゆっくりとお湯に沈めた。
(……ふぅ〜っ……やっとこれで落ち……つうっ!)
 お湯に浸かって体の緊張が解け、気が緩んだところで突然襲いかかった痛みに、美奈は衝撃を受けた。湯船に静かに浸かっている分には問題がなかったが、何かの拍子に肛門が開き、患部にお湯が当たるとピリッとした痛みが感じられたのである。
(……うぅ〜、そんなぁ……おちおち浸かってもいられないなんてぇ……辛いよぉ……)
 美奈はお風呂が大好きであっただけに、思うようにお風呂に入れず、辛い思いをするのは強いストレスを感じた。結局この日はいつものように長風呂はできず、早々に上がることにしたのであった。
 そうしてお風呂から出て、寝間着に着替えると、肛門部にまだジ〜ンとするような鈍い痛みは感じるものの、美奈はようやく一息ついたという心地になった。
(……はぁ……今日は何かいろんなことがありすぎて、疲れた……)
 朝には天国のような所にいたはずが、昼頃から激しい下痢に見舞われて痔になって、夕方にはお尻の検査をされてとっても痛い思いして、その後も痔の痛みに悩まされ続け、大好きなお風呂に入ることにすら支障を来している……。今日一日の出来事を思い出しただけで、美奈はどっと疲労感が出るのを感じた。
「……あら、美奈、お風呂から上がった?」
 荷物の片付けをしていた母親が居間に戻ってくると、寝間着姿でソファーにもたれかかっている美奈に声をかけた。
「……あ、ママ……」
 美奈は疲れた表情で、力なく答えた。
「さすがに疲れたわよね……。今日の所はもう寝た方がいいと思うけど、その前にお薬だけつけないと、ね。」
母親はそう言って先ほど購入したばかりの痔疾薬の箱を開け、中から一つ取り出した。
「え……またお薬?……もう嫌だよぉ……」
 美奈はまた痛い思いをするのかと思うと、うんざりした気持ちになり、泣きそうな顔になりながら拒絶した。
「でも、お薬つけないと、いつまで経っても治らないし……もっと悪くしちゃったら、それこそ病院行くことになっちゃうわよ?」
 母親は薬の用意をしながら、そう言って美奈を説得しようとしたが、美奈は何かのスイッチが入ったかのように、突然まくし立て始めた。
「だって……ウンチしてもお尻痛い、拭いてもお尻痛い、お薬塗ってもお尻痛い、洗ってもお尻痛い、お風呂入ってもお尻痛い……何やってもお尻痛いんだもん!……もう……もう、嫌だよぉ……ぐすっ……ぐす……うぇぇ〜ん。」
 辛さや、惨めさや、悲しさといった、いろいろな感情が混ざり合って爆発し、美奈は泣き出してしまった。
「あらあら……ほら……よいしょ。……よし、よし。……確かに、今日は一日中大変だったもんね。美奈はよく頑張ったわ……あぁ……あなた……」
 母親はソファに座って泣きじゃくる美奈を抱っこすると、背中を優しく叩いてあげながら、美奈を慰めた。そこへ父親もやってきて、母親の横に座ると、美奈の頭を優しく撫でた。美奈は母親の胸に顔を埋めて、父親の暖かく大きな手に撫でられているのを感じながら、しばらくすすり泣き続けた。
「じゃ、お薬どうする?止めとく?」
 少し落ち着いた頃合いを見計らって、母親は美奈に声をかけた。
「……ううん。……病院、嫌だから……お薬塗って。」
 美奈は母親の胸に顔を埋めたまま、小さい声で答えた。
「え?……ほんとにいいの?……我慢できる?」
「美奈、無理はしなくてもいいんだよ?」
 母親は少し驚いて、念のため美奈に確認し、父親も美奈に声をかけた。
「うん……大丈夫。美奈、頑張ってみる。」
 しかし美奈は顔を上げてはっきりと両親に答えた。その顔こそ泣き腫らしたものであったが、表情は少し微笑みを浮かべ、目には決意の光が宿っていた。
「それじゃ、用意するから、ちょっと降りてくれる?」
 母親はそう言って美奈を降ろそうとしたが、美奈は降りようとしなかった。
「あぁ……もぉ、美奈ったら……降りてくれないと、お薬塗ってあげられないわ……」
 母親は降りようとしない美奈に、ちょっと困った口調で声をかけた。
「……お薬我慢するけど……抱っこしてて欲しいの……」
 すると美奈は、ちょっと恥ずかしそうに、甘えた声でそう告げた。
「それじゃあ、俺が代わろうか?」
「うん!」
 父親がそう告げると、美奈は嬉しそうに答えた。
「それじゃ、あなた、お願いするわ……よっと。」
「ほら、美奈おいで……よぉ〜し、到着〜。」
 母親は美奈をソファの上に一旦立たせて体を抜くと、美奈を父親に預け、父親は美奈を引き受けると、自分の膝の上にまたがらせた。
「えへへぇ……」
 すると美奈は喜んで父親の胸に抱きついて頬ずりをした。
「はい、じゃあお尻出すわよ。」
 母親はそう言って美奈のパジャマのズボンとショーツをずらし、美奈のお尻をむき出しにした。するとお風呂から上がってあまり時間が経っていないためか、もわっとした熱気と共に、ボディソープと美奈の体臭とが混じった、甘いような香りが漂った。
(……あぁ……お薬……痛いの来る……)
 美奈はお尻をむき出しにされると、間もなく薬を塗られると悟り、父親の胸に顔を押しつけて、ぎゅっと抱きついた。するとちょうど父親の膝に浅く跨り、お尻を後ろに突き出したような姿勢となっていた。
「あ、ちょうどいい感じだから、ちょっとそのまま動かないでいてね〜。」
 母親は注入軟膏の個別包装を破り、小型のイチジク浣腸のような形をした容器の蓋を外した。そして容器を少しつぶして軟膏を絞り出すと、指の上に掬い取った。
「はい、じゃあ、ちょっとごめんね。」
 母親はそう言って、指先に掬い取った軟膏を、美奈の肛門に塗りつけた。
  ……くちゅっ……
(……んぁっ……つ、冷たぁ……)
 美奈は肛門に母親の指を当てられて、ビクッと体を震わせ、父親に抱きつく手に力が入った。当てられた直後は、風呂上がりということもあって体温が高く、美奈は軟膏の冷たさを感じた。しかし本当に辛いのはここからである。母親は美奈の様子を見ながら、ゆっくりと薬を擦り込んでいった。
  ……くちゅっ……くにゅっ……くちっ……
(……んぁっ……くうっ……うぁっ……あ……あぁ!)
 初めのうちは母親の指の動きが生み出す、変な感じが支配的であったが、次第に薬が効いてしみはじめ、少しずつ痛みが頭をもたげ始めた。
「……んんっ……しみ、るぅ……うっ……いっ、痛ぁ……」
 美奈は苦しそうな声で痛みを訴え、表情を歪めて父親にしがみついた。
「美奈、大丈夫かい?無理そうなら、ちゃんと言うんだよ?」
 父親はしがみつく力がこもっていくことで、美奈の苦しみの大きさを感じ、美奈に声をかけた。
「……だ、大丈夫……」
(……これじゃ、奥まで指突っ込むのは無理ね……。)
 両親は共に、美奈が口では大丈夫というものの、その様子からしてあまり無理はできないことを悟っていた。しかし薬を塗るには、それなりに指を差し込まねばならない。そこで母親は、容器の注入機能にかけてみることにした。
(この容器なら、指よりはずっと細いし、何とかいけるかも……。)
 母親は容器を少しつぶし、絞り出した軟膏を嘴管の部分にまんべんなく塗りつけると、嘴管を美奈の肛門にあてた。
(……?……何かお尻の穴に当たってる……ママの指じゃない?)
「美奈、もうちょっとだけ我慢してね。」
 美奈は違和感を感じて振り向こうとしたが、母親はそう言って美奈の動きを制すると、注入軟膏の容器の嘴管を、美奈の肛門に挿し込んだ。嘴管はすでに美奈の肛門に塗られていた軟膏と、嘴管に塗られた軟膏とを潤滑剤にして、文字通り美奈の肛門に滑り込んでいった。
「……あっ……いやっ……ああああっ!」
 美奈は突然肛門に滑り込んできた異物の感覚に、悲鳴を上げた。幸い挿入に痛みを感じることはなかったが、異物を挿し込まれたことには変わりがない。美奈はその異物の感覚に、忌まわしい採便棒の記憶を呼び覚まされ、急に暴れ出しそうになった。
「……!!……いやっ、あれ嫌っ!!……動かしちゃいやっ!!」
「み、美奈、急にどうしたんだい、お薬入れるだけなんだよ?それに暴れたら、お尻の穴に怪我しちゃうよ?」
 肛門に異物が入っているのに暴れようものなら、肛門を傷つけてしまいかねない。父親は抱きしめる力を強めて、美奈の動きを封じようとした。
「美奈、落ち着いて。これはお薬入れるためのもので、ウンチ取るための棒じゃないわ。動かしたりしないから、大丈夫よ。」
「……え?……ほんと?」
 母親がそう言って美奈を宥めると、美奈はきょとんとした感じで、急にまた大人しくなった。
「ほんとよ。はい、じゃあ、お薬をチュ〜ってお尻の中に入れるからね。そしたら終わりだから……。」
「うん……わかった。」
 そう言われると、美奈はまた父親の胸にぽふっと顔を押し当てて、お尻を母親に預けた。
(可愛そうに、よっぽど採便棒が辛かったのね……。)
 母親は美奈のトラウマが思いの外深いことに胸を痛めた。
「じゃ、お薬入れるわね……はい、チュ〜……」
 母親はそう言いながら注入軟膏の容器をつぶし、美奈の肛門内に薬を絞り入れていった。
「……あ……冷たぁい……」
 美奈は薬が絞り入れられ始めると、熱い直腸内に冷たいものが、じわじわと広がっていくのを感じた。しかしその感覚は、あまり大きく広がることはなく、狭い範囲に一定の質量をもって、積み重なっているようにも感じられた。
「……はぁい、終わったわよ。」
 母親は残りの薬を全量絞り入れ終わると、美奈の肛門から、ゆっくりと空になった容器を引き抜いた。
「……んっ……うぅ〜ん……んはぁ、はぁ……。」
 美奈は嘴管が抜かれると、背筋がぞくっとするのを感じ、少し呻いたが、肛門から異物感が無くなるのを感じて、ようやくほっとして息をついた。
「んしょっと……よ〜し、よく頑張ったね。偉い、偉い。」
 母親が空の容器を捨て、手を洗いに行っている間に、父親は美奈のショーツとパジャマのズボンをあげ、美奈を優しく抱きしめると、頭を撫でて美奈の頑張りに答えた。
「んふっ……へへぇ……?……あ……ああっ!」
 美奈は父親に頭を撫でられて表情を緩めたが、異変を感じて急に表情を険しくし、大きな声を上げた。
「……?……ど、どうしたんだい美奈?」
 泣いたカラスが……ではないが、今し方笑っていた美奈が急に苦しみだし、父親は心配して声をかけた。
「……あ、熱い……し……しみるぅ……お、お尻が……お尻がぁ……」
 美奈は、注入してもらった薬がしみていることを告げた。父親は美奈のお尻に手を当てると、優しくさすり始めた。
「よし、よし……」
 父親の大きくて温かい手を当てられ、優しくさすってもらうと、美奈は幾分痛みが和らぐのを感じたが、それでも焼け付くような肛門の痛みは、美奈を苦しめるのに十分すぎるほどであった。
「ううううっ……お尻が……お尻がぁ……」
「よし、よし……早く美奈のお尻が良くなりますように……」
 父親は美奈のお尻をさすりながら声をかけ続け、美奈を励ました。
「……あぁ、やっぱり辛そう?」
 戻ってきた母親は、父親にお尻をさすられ、表情を歪めて苦しむ美奈の姿を見て、父親に聞いた。
「うん、かなり薬がしみるみたいなんだ。……あぁ……よし、よし……早く美奈のお尻が良くなりますように……。」
 父親は美奈のお尻をさすり続けながら、母親の方を向いて状況を伝えた。しかし美奈の苦しみはなかなか治まらないようで、父親は美奈を抱えるようにぎゅっと抱きしめ、お尻をさすり、声をかけ続けた。
「……くうぅん……ううぅん……」
「よし、よし……よし、よし……」
 しばらくさすっていてやると、美奈の声の切迫感が少しずつ薄れていくのが感じられた。しかし、その表情は眉根を寄せて、目をぎゅっと閉じた苦悶の表情であり、まだまだ苦しみが続いていることが見て取れた。
「……うぅ……う……ぅ……」
「よし、よし……よし、よし……」
 父親が献身的にさすり続けるうちに、ようやく痛みが落ち着いてきたのか、美奈の力が抜けていくのを感じられた。
(……あぁ……ようやく、少し落ち着いてきたみたいだな……)
 父親は少し安心しながら、美奈のお尻をひたすらさすり続けた。
「…………」
「よし、よし……?……おや?」
 そのうち美奈が妙に静かになったので、父親が美奈の顔を覗き込んで様子を見ると、いつしか美奈は腕の中で寝息を立て始めていた。
「……おや、おや……ふふっ……寝ちゃったみたいだ。」
 そう言って父親は、少し笑って母親の方を見た。母親も少し笑って頷くと、先に美奈の部屋へ行ってドアを開け、ベッドを整えた。父親は美奈を起こさないようにそっと抱き上げると、ソファから立ち上がって美奈の部屋に連れて行き、母親の用意したベッドの上に美奈をそっと寝かせ、布団を掛けてやった。
「んふっ、何か、美奈が赤ん坊の頃を思い出すわね……。」
「ふふっ、そうだな……。」
 両親は、すやすやと寝息を立てる娘の姿を優しく見つめた後、お互いに顔を見合わせて微笑んだ。

「へぇ〜、すごぉ〜い。み〜ちゃん、外国行ったんだぁ。」
 数日後、美奈の家に遊びに来た友人が、アルバムを見て驚きの声を上げた。美奈の後ろに広がる、澄んだ海、白い砂、輝く太陽、遮る緑。こんな風景は、明らかに日本のものではない。
「……えへぇ……うん。」
 美奈は少し照れながら、しかしはっきりと答えた。
「うっわ〜、いいな、いいなぁ。」
「う〜、あたしも行きた〜い!」
 友人たちは身をよじりながら、口々に羨ましがった。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ、どうだった?」
「ねぇ、ホントに海、こんなに綺麗なの?」
「ねぇ、ねぇ、み〜ちゃんってばぁ……」
 友人たちは目を輝かせながら、矢継ぎ早に質問をしてくる。
「そんなにいっぺんに聞かれても、答えらんないよぉ……」
 美奈はその勢いに気圧されそうになりながら、困ったような口調で答えたが、その顔は優越感から、明らかににやけていた。
「あ〜ん、もぉ!み〜ちゃん、早く教えてよぉ!」
「あ〜!み〜ちゃん、顔、にやけてるしぃ。」
 友人たちが口々にぼやく中、美奈は、こうして仲の良い友達に囲まれていることに、心から幸せを感じていた。
(……こうしてまたみんなと一緒にいられて……変な病気じゃなくて本当に良かった……お尻の穴はまだ痛いけど……)
 幸い薬の効果があったようで、少しずつ痛みは減ってきてはいた。しかし排便時の痛みや、時に肛門が熱く疼くことなどは、まだ完全には治まっていなかったし、注入軟膏の容器を挿し込まれるのも相変わらず苦手であった。
(でもパパとママが、私を優しく支えてくれるから、もうすぐ治るよね……って……う〜……またちょっと疼いて来た……)
「こ〜ら〜、み〜い〜ちゃ〜ん〜!聞いてるのぉ?」
 しばしの感傷と、再び痔が疼き始めたこととで、美奈は反応が希薄になっていた。そんな美奈に、友人たちは飛びかからんばかりの勢いで文句を言った。
「……あ!ごめん、ごめん、えっとね、この写真はね……」
 友人たちは食い入るように床に広げられたアルバムに注目し、美奈の説明に耳を傾けた。美奈は友人たちに楽しい思い出を語りながら、心が安らぐのを感じるのと同時に、疼く肛門のあたりを、気づかれないようにさすったのであった。


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