No.08「真夜中での事情」

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 しん、と静まり返ったユニットバス兼トイレに一人の少女が訪れた。
 閉まっていたトイレの蓋を持ち上げ、浴衣の帯を解いて下着を下ろす。露わになったお尻を便座に向け、腰を下ろした。
 便座が上からかわいいお尻の圧迫を感じ、熱を帯び始める。少女の力みに合わせて肛門が隆起し……
  ぶびぴぴぴぴぃ――っ!
 そして、そのお尻からは想像もつかない汚物が、噴出した。
「う、うぅ〜ん」
  ぶりっ! ぼちゃぼちゃぼちゃ!!
  ぼじょぼじょぼじょ!
 立て続けに放たれる水様状のウンチ。水面を叩いては男性の小便のような音を奏でていく。
  びしゃびしゃぼちゃぼちゃぼちゃっ ぷぷっ
「ふぅー、ふぅ〜」
 姉妹で排泄劇を繰り広げたユニットバス、その便器にて。
 妹の港が大便排泄に臨んでいた。
 下腹の訴えに目を覚まし、すぐさまトイレに立った港。時間はわからないが、深夜だということだけはわかっていた。
「おなかいたぁい」
  とぽとぽとぽ……ぶちちっ!
 序盤から渋り気味で、なかなかお腹が収まらない。
 下剤服用以来、腸の働きが弱くなった港は、ちょっとした便意でもトイレに行くようになっていた。ちょっとした、とはいえでも吐き出したい内容物はどろどろの下痢便だ。痛みを伴うので硬質便のように我慢ができないに過ぎないのだった。
 お腹をさすりながらきばりつつ、液状便を搾り出す。完全に、とはいかないまでもしゃーしゃーの具合だった。
  きゅるるるる〜〜
  びちびちびちびちびちっ! びちゃびちゃぶぴぶぷぷぴっ! ぷぴぷぴっ!
(ううう、うんちとまんなぁい……)
 お腹をさすりながら不調に嘆きつつ、港はドア越しに足音を聞いた。ばたばたと慌てたような音が遠ざかり、鉄扉の閉まる音を最後に聞こえなくなる。
(あれ、おねぇちゃんかな……? どうしたんだろ)
  ぶびぃ〜〜ぶりぶぴぽちゃちゃっ
(もしかして、トイレしたかったのかな?)
 岬の腹の具合そして、ドアの前から聞こえた足音。港は自分がトイレに入った直後に催し、待っていたものの耐え切れず廊下のトイレを目指したんだろうと推察する。
(ごめんね、おねぇちゃん……私も、うんち、したかったの……)
 いなくなった以上、譲りようがないので排便に専念することとした。
「ふぅ〜ぅんんっー、う〜ん」
  きゅる くるるるっ
  ぶりっ ぶりり、びぢぢぢぢっ どぽどぽどぽぽぽぽ!
  びちちちっ じょぼじょぼじょぼ……
 勢いよく噴いた下痢便はおしっこのような轟音を立て、水を汚していった。
「あ、おなら、でそ……う」
  ぶびびぢぶじゅじゅじゅぅ〜〜 ぶびびぶっ ぶっ!
 水気交じりの放屁で便器の白かった箇所に水玉模様が飛散する。
  ぶぼおぉぉおぉっ! ぷぅ〜〜〜〜っ!!
  最後に気味のいいおならをして、港はペーパーホルダーに手を伸ばした。同時に緊張も解けおしっこがしたくなる。
(お、オシッコぉ……)
  しぃ〜〜ちゃぽちゃぽいちゃぽぽ〜っ じょろじょろじょろじょろ
  がらがらがらがらがらっ がたたたっ びりっ
(オシッコ、でたぁ)
 放尿音と紙の巻き取られる音が重なり合う。腰を僅かに前へ倒して紙を巻いているのでおしっこの軌道は下寄りだ。
 陰毛の育っていない恥丘、そのてっぺんのわれめから濃色の液体が注がれる。あそこの筋は、くぱっと細長い楕円のように広がり、尿の行き先を阻まない。
 上げて紙を畳み終える方が先に終わり、おしっこ待ちに。
(あとでおねぇちゃんに謝らなきゃ。私は我慢できたんだし……)
 タイミングが悪かったとはいえ、トイレを占領していた自分に非があると港は思った。
 おしっこも終わり、手を股の間に入れてわれめを拭う。ごし、ごし……と力を入れて擦り、紙を湿らせる。一旦股下から手を抜いてペーパーが程よく濡れているのを確認し、右側のお尻と腰を便座から浮かせた。そうして生まれた隙間に紙を差し込んで、お尻を拭く。
 港はあえておしっこで濡れた面でうんちの穴を拭い始めた。乾いた紙だと、下痢便で痛んだ穴には少々辛い。そういうことを一年ぶりの下痢便排泄で港は学んでいた。おしっこを拭いた紙でうんちを拭く……多少衛生的にどうかと思いつつも、妙なひらめきを試したところ、案外に気持ちよかったので、度々港はこの方法を使っていた。
 紙越しに伝わる冷たい感覚。軟便と違い易しく拭き取れる。その紙を便器に落とす。
 さすがに二度目からはおしっこも出きっていたので、乾いたペーパーで拭いた。
 ちゃんと跳ねた水滴もきれいにとってから、洗浄レバーを倒す。
  ゴボォ――――ジャババババッ!!
「ふぁ〜〜」
 激しい水流が汚水を呑み込んでいった。その副産物として冷風が巻き起こり、座っていた港のお尻を優しく撫でていく。
(早くお腹、治らないかなぁ。お便秘もつらいけど、ゲリピーもやだな)
 港は下着を上げながら便器に注がれていく水を見つめながら、静かに願った。

 元来、人間は光なき空間を露骨に拒んだ。例えば、夜。
 夜という日没現象が生み出す怖さというのは、暗闇という光無き支配だけではない。
 暗に――不安を煽る一面もある。
 森嶋岬もまた、黒色の世界にて一種の怖さというものをひしひしと感じていた。
 部屋の時計の一秒を刻む音が気になる。無気味にビートを叩くその音色が、安定した不気味さを奏でているようで、彼女は耳を塞ごうとして、やめた。できなかった。耳栓代わりになる両手は別のものを塞いでいた。
 岬は『12』の表示を目指している短針に、長針が追いついた頃にはっきりと目を覚ました。日付は変わっている。布団に潜ってから浅い眠りに揺らされていた彼女だが、眠りの浅瀬から引き上げられてしまうことが起きたのだ。
(おなかいたいっ……うんち、したい)
 くすぶっていた不気味な塊――便意が目を覚ました。
 まるで食中りという怪物にでも行き遭ったような腹痛にうなされ、眠りに就けなかった岬だが、トイレに行きたい腹痛ではなく、解消の仕様がなかった。かといってお腹の痛いぐらいで妹や両親を頼るわけにいかず、空調のせいで乾いた喉を潤すのに――それが今の便意を引き起こすとも思わずに、コップ三杯程度に冷蔵庫のジュースを飲んだり、お腹をマッサージしたりしながら静かに過ごしていた。
 便意は我慢しがちな岬ではあるが、こと夜に関してはその我慢時間が短い。トイレに篭っても誰かと遭遇する確率が低いからだ。とりわけ今は港以外にトイレを訪ねる人はいないし、ゆっくりと大便をするにはかっこうのタイミングではあるのだが――。
(音聞かれたら、どうしよう)
 寝る前に港がトイレに立った時に気付かされたことがある。
 水洗音がやけにうるさく聞こえる。
 同室も同然の場所にユニットバスがあるゆえに、音漏れは避け難い。ちょっとした排泄音でも、静寂な夜だったら聞こえてしまうかもしれない。実際、一秒前後の紙を巻き取るホルダーの鳴る音は認知できてしまった。
(港がおしっこだったみたいだし、小で流したよね。じゃあもっと音のする大で流したら……いや下痢なら小でも済むかもしれない。でも、でも、小で流したとしても、その流した音で港が起きたら……)
 岬の脳内では起こしたい行動的には劣勢な葛藤が繰り広げられている。頭の方では消極的な議論を、お腹の方では必至の我慢と大忙しだ。
(起こしてしまったら港に申し訳ないし、きっとうんちだってばれちゃう。うんちしてたって思われるの……いまさらだけどやだっ)
 布団の中で丸くなり、痛いお腹を庇うようにもぞもぞと動く。
  ぎゅ〜ごろごろごろっ
 うんちしたい。おトイレに座って楽になりたい。でも、音が聞こえるかもしれない。音消ししたら余計にうるさいかもしれない。においがもれるかもしれない。
 キリキリとした腹痛は我慢を続けることを諦めさせようとしてくれる。
 逡巡を繰り返して10分という頃、
「うぅ〜」
 隣のベッドからうなるような声が聞こえる。今まで静かに眠っていた港だ。
 トイレに行こうかずるずると悩んでいた岬は、余計にトイレに行きづらくなったなぁ……と判断の遅さを悔やみながらも妹の同行に耳と目を傾ける。港は重い動作でベッドから起き上がり、布団から這い出てきた。
「と、トイレ」
 寝言のように呟き、のそのそと歩き出す。片手で股を押さえているように岬には見えた。
(おトイレ? なぁんだ、おしっこしに行くんだ。驚かせないでよ)
 寝返りを打っているだけでいちいち気にしていたので、ちょっと安心。
(早く出てきてね……)
 次にトイレを使いたいからという思いから浮かんだ願いではない。早く寝静まってくれれば、もし急にしたくなった時でも少しは安心して駆け込めるから。
  パチ バタン
 トイレの照明が点き、ユニットバスの扉が閉まったようだ。施錠の音がしなかったのは、寝ぼけているからか、家のような感覚で入ったからか。港はよくトイレの鍵を閉めない。稀に入っているのを知らないままドアを開けて恥ずかしがるのは岬の方だ。
 寝返りを打ってユニットバスのある方へと向くと、うっすらと灯った室内灯よりも強く、白い明かりが扉の隙間から漏れているのが見える。
 今頃港は浴衣の中に手を入れてショーツを下ろし、便座に座ったのだろう。お尻に便座の暖房熱を感じているはず。膝に手をついて姿勢を直している。明かりの眩しさに目を薄めながら、おしっこをしようと緊張を解いて、ぶるぶるっと震えてから――
  ぶびぴぴぴぴぃ――っ!
「え!?」
 岬の耳に届いたのはシナリオ通りにはいかないアドリブだった。水気交じりのおならの音が、扉という障害に阻まれながらも、しっかりと届いていた。
(もしかして港……)
「う、うぅ〜ん」
  ぶりっ! ぼちゃぼちゃぼちゃ!!
(おしっこじゃなくて)
  ぼじょぼじょぼじょ!
(うんちなの!?)
 水面を叩くような落下音は、紛れもなく水っぽい便が跳ねるサウンドに他ならなかった。
 港は便意で眠りから覚め、岬みたいに悩むこともなくトイレに立ったのだった。それも、岬のように我慢をすることなく、岬を例に挙げるまでもなく恥ずかしがらず、うんちを、強いては下痢をするために。岬にはおしっこの穴を押さえているように見えた光景も、実はお腹に手を当てていたのだった。
(港も、げりぴーなの……?)
  ギュルルルルル!
「ひぅっ!」
 突如鳴き出したお腹にびっくりして跳ね起きる。布団を押し上げ逃げ出すように絨毯張りの床に足をつけた。
(うんち、すごくうんちしたい! おトイレ、いかなくちゃ!)
 お腹を抱え、中腰で無意識にトイレに向かって駆け出す。理性は我慢しろ、と命じているがそれを上回る本能がトイレに行くように信号を乱れ打つ。岬は思わずユニットバスのドアノブに手をかけ、ハッと捻りそうになった手首の動きを止めた。
(まだ、港がおトイレにいる……うんちしてるんだった!)
 中から聞こえるくぐもったうめき声、波打つ排泄音。断続的に続くそれらはまだまだ止みそうにない。
(すごい、びちびちそう。けっこう、時間かかりそう。うぅっ、うんち……したい)
 お腹から聞こえる甲高い鳴動音、押し寄せる便意。不定期なそれらだがもう止まりそうにない。
「おなかいたぁい」
(わたしもおなか、いたいっ!)
  とぽとぽとぽ……ぶちちっ!
  キュ〜ゴロゴロゴロッ!
(うんち、うんちしたいよぉ〜)
 幼い子供のように純粋な欲求を思い巡らせる。
(お尻のあながあついよ。うんち、もれちゃうよ。おもらしは、やだっ!)
 でも扉は開いてもトイレは空いていない。港が使用中。
(港がおトイレしてる。うんちしてる。すごくつらそう。でもわたしもおトイレしたいの!)
 岬はこうなるなら早くトイレに駆け込んでおけばよかったと後悔すると同時に、自分がトイレに行っていないおかげで港が我慢せずにトイレできてよかったとも思う。
(もう、お風呂場でしちゃおっかな……一回、しちゃったし)
 岬は浴槽に下痢便を垂れ流した数時間前の出来事を思い出す。姉妹二人で催して、うんちまみれのお尻を洗いあった。しばらくお風呂が臭くって、恥ずかしかった。
 『おもらし』という破滅を目前にすると本能的に羞恥を捨てる深層心理を持った彼女だが、もうおもらしに近かった終末を思い浮かべれば、その心理も引っ込んでしまう。いざ布団の中から飛び出させる程の影響力も、同等の羞恥を吊り下げられてはどうも弱い。
(もうお風呂は汚したくない! わたし、トイレでうんちしたいもん!)
 もう浴槽から動けなくて、流されるままに噴出させたあのときとは違う。さすがに港も突然姉が闖入してきて浴槽の縁に腰掛け、勢いよく下痢を迸らせたら、嫌な顔をするに違いない。そんな恥ずかしいことは、さすがに岬はしたくなかったし、そんな緊急行動を取らせるほどに常識の物差しは歪んでいなかった。
  キュルキュルグルグルグル〜
「ん、あ……」
(うんちしたいうんちしたいのうんちうんちうんち! おなかいたいよぉ! ぴーぴーなの、おトイレさせて!)
 なりふり構わず右手をお尻に回し、火照った穴を押さえつけた。こうでもしていないと今にでも漏れてきそうだから。左腕でお腹を抱え、壁にもたれこんだ。
「あー、はぁ、ふぅ」
(うんちもっちゃう! うんちしたい! うんち、うんちなの! もぉ、がまん、やだ!)
 駄々をこねるように悶々としようが、港が奇跡的に排泄を終えるはずもなく。
 赤子のように泣き言を連ねてみても、岬のお腹が劇的に回復するはずもなく。
 ただひたすら、求める扉の向こうは、水っぽい破裂の音がするのみだった。
  ギュルゥ〜〜グプゴロゴロ!
「やっ……」
(うんち、出そう……! うんち、でちゃだめ! うんち、うんこ、うんちぃ……)
 布地越しに押さえつけていたお尻の穴が熱い。内側からあったかいものが溢れ出そうになっている。
(やぁ……今おならしたら、パンツ汚しちゃう!)
 もはや一時凌ぎの放屁すらもままならない。
 恥ずかしいのを承知で浴槽に屈むか、ここで最悪の展開を迎え、垂れ流すか。選択肢は二つ。天秤にかければ一目瞭然な展開で、岬は閃いた。
(そうだ、廊下のおトイレ使えば!)
 入浴前に港がわざわざ外まで出向いてトイレに行っていたことを思い出す。あれは先に岬を風呂に入れさせるためにとった遠回りな行動だった。岬も動物園から帰ってきた際に横目で存在を確認していた。
 岬は中腰を維持しながら玄関へと早歩きで向かう。もう思考はトイレのことだけで埋まっていた。お腹を絶えず擦っていた手でノブを傾け、体重を乗せるようにして押し開ける。すり抜けられるだけの隙間を作って通り抜ける。
 後ろで鉄扉が閉まる音を聞き届けながら早足で、お腹を抱えた苦悶の表情で廊下を走る。その姿は本人が忌避するトイレに行きたそうな格好だったが、限界を前にそんな羞恥心は消え失せていたし、誰も見ていない。
(もう我慢できないぃ、おといれぇ……)
 便器に会いたい一心で歩を進める。うんちをしたい決心で視線を絞る。もらしたくない思いでお尻を引き締める。
 今はトイレだけが岬の全てだった。だから電子式ロックのドアのことなんか、忘れていた。オートロックの仕組みを忘れていた。部屋のドアより、トイレのドアに辿り着くことが優先課題だった。
 エレベーターホールの手前に目指していたトイレはあった。女子トイレの方をくぐり、息を切らしながらもサッと化粧室内を見渡す。洗面台、ドアの閉まっていない個室が二つと、閉められている個室が奥に一つ。そのドアには『洋式』という札がかかっていた。
(座ってうんちしたい! 座ってするおトイレがいいの!)
 度重なる排便の疲弊から奥にある洋式トイレへと足を向けた。一刻を争う状況において、僅か数メートルの攻防が致命的なロスになりかねないのだが、咄嗟の判断を手にしてから迷う猶予なぞそれこそない。
  グギュウ〜グルグルギュルルッ!
(トイレっトイレっ、おトイレっ!)
 下腹がうなり、激流が渦巻く。内側で刺し穿つような痛みを堪え、ドアに手をかける。逃げ込むように個室に駆け込み、便器の蓋を開ける。貯水タンクに蓋がぶつかる音とドアが閉まる音はほぼ同時。
(早く早く早く早くうんちうんちうんちでちゃうよ! トイレ、おトイレぇっ!)
 便器を目前に180度回転、背を向ける。そしてかかっていない鍵に腕を伸ばそうとしたその時――
「かっ、はぁっ!!」
 ドアへと行きかけた腕を引っ込め、浴衣の中に差し入れる。両手で一気にパンツを下ろしたのだった。施錠をする暇すらない限界の察知。
(もううんちがまんできないっ!)
 大きく口を開けた便器に今にも大口をかっ広げそうな蕾を向け、崩れるように着座し、
「でるぅっ! ――くはぁ!!」
  ブバッ!!
 肛門から、散弾の如く飛沫が噴出した。
  ブリジュバッブリビジジュジュジュッ! ブバドバビジッ!!
  バボッ! ジュボボボボババババァ〜!! ビヂヂヂブビビッ!
(うんち、まにあったぁ!)
「んはぁ〜〜〜」
 それは悦びの声。究極の我慢の果てに行き着いた最高級の快感が岬を襲う。
 あどけない解放の笑みを浮かべ、膝に肘を乗せ、上半身を前へと倒して「く」の字にしてお腹に全力を込めた。赤々しく腫れた肛門が盛り上がり、汚泥を吐き出す。
 グル〜ゴロゴロギュバ〜〜〜
「んふ、んっ、ふうぅあはぁぁぁ……! んぬぅ、ふぅ〜〜〜! うぅーん、うん、うんっ!」
  ドポポポポポッ、ブリブリビチッ! ブパパパピチュッ!! ブビュウゥゥッゥゥ――ッ!!
 生々しい破裂音が岬の股下から炸裂し続けていた。液状に近い下痢便を、睡眠前に摂取した水分をひたすらに下していた。
  ブポッ!
(よかった……おトイレでうんち、できたぁ)
「んん、おなか、いたい……。ふん、んあぁぁぁっ!」
 おもらしをせずに間に合った感動とは裏腹に、お腹は痛がっていた。精神的な喜びを打ち消さんばかりの排泄は止まらない。
  プリュップリュプリュリュル! ビチビチチチチィ、ブポポポポ! ブバッ、ビィ――――――ッ!!
「かはぁー、はぁっ、はぁー。うふぅ。ひぁ……う〜ん」
(おなか、いたいよ……)
 激しい排便にも関わらず、依然と勢いは凄まじい。
  ピ〜ゴロゴロゴロ〜〜ッ!!
「ひぅぅっ!」
 激痛にたまらず肘を突いていた腕をお腹に回し、更に前傾体勢になる。膝と額がくっつきそうな姿勢でお腹を下すのだ。
(すっごいうんち、でる!)
「やっ、くぅぅぅっ!」
  ブリビチュビチュブチュジュボボボボボボ!
  ブビビビビビビビッ! ブビュル――――――ッ!! ジュボジュボドバドバドバ〜
(わたし、びちびちのうんちしてる……)
  ブピブリュリュリュリュッ! ブバババババババビリビリビビビッ!!
(うんちうんちうんちうんちうんちうんち! びちびちうんちいっぱいでる〜っ!)
 脳みそも腸内もない交ぜにするような、それこそ壮絶な排泄の暴風雨。岬の精神年齢はもう小学校低学年レベルにまで退行している。岬はひたすら心の声で我慢していた汚物の名を連呼した。
 羞恥心のせいで排泄、特に排便時には精神年齢が退行するのが港と岬の共通点だ。せいぜい2、3歳程度のレベルだが、今の岬は6歳以上の退行を見せている。それほどまでに本心を抑制し、羞恥心の粘土に包まれて生活してきた少女の生理的欲求は強大なものだったと言えよう。
「んぐぐぅ〜〜、うふぅ〜」
 岬は直腸に大きな塊が下りてくるのを悟った。大便みたいな詰まりそうなものでなく、風船の中の空気みたいな――ガスを。
  ブジュジュジュジュ〜〜ッ! ブボォ! ブッ!!
 水気交じりの汚らしい音程のおならが吹き荒ぶ。直腸に残っていた下痢便ごと噴き出し、まさにビチビチのガス噴射を見せ付ける。股の間から濛々と立ち込める臭気に嗚咽を漏らした。
(まだ、くさいの、でそう……)
「うん、ふぅーん、ふうぅ〜〜ん!」
 岬がきばると熱を帯びた気体群が降下してきた。
  ブウウゥゥゥウウウゥウビィ〜! ブォオオォォオオォオオォッ!! ブボボォッ!
 今度は乾いたおならで、澱んだ水面を波立たせる風となって便器の中で荒れ狂った。この放屁を境に、毒々しい圧迫感はなくなった。お腹の中が軽くなったみたいだ。
  ポチョン……トポ、ポチャ
 汚物がたゆたい、悪臭のひどい風圧に乱れた水面に滴る腸液が波紋を広げる。
「やっと、うんち、おわったぁ……」
 青ざめた相貌に、憔悴し生気の喪亡した双眸。赤くうごめく肛門は怱忙の時を過ごしてじくじくと痛む。まだお腹がごろごろと鳴いているが、はっきりとした便意はない。
 朝にパーキングでもらしかけ、夜に浴槽で噴出し妹見守る中で排便。そして真夜中に部屋から離れた場所で下痢に苦しんだ。三度も大量に便器に注ぎ込んだから、もうさすがに空っぽだよね……と何かに縋るような気持ちで岬は思う。思い起こせば前日の夜にたっぷりと軟便もした、これ以上はもう出まい。
 緩みきった肛門とは対照的に上半身は強張っていた。排泄の衝撃に耐えるように縮こまったような姿勢でどぼどぼと下していたからだろう。
「ふ、あ、んんぅんっ」
 岬は念を込めるつもりで辛い重さを訴えるお腹に力を入れ、きばってみる。出そうになくても頑張ってみると、直腸に残留した液状の便が搾り取れる。そんなごく少量でも溜まれば腹痛の原因になり、トイレに駆け込みたくなってしまう。
 実際、ついでにしたおしっこ程度の量をきばっただけで痛みの引いた事例だってある。たったそれだけのために顔を赤らめ、恥ずかしい思いをするのは苦手だ。
「う〜〜ん、う〜。くあぁー、くはぁ〜」
 生き物の口のような、肛門が伸び縮みしてお腹の異物を吐き出そうとしている。若くてよく伸びるそれは噴火を終えた活火山の火口に見えなくもない。実に官能的な蠢きを演出している。
  トポトポポ……トポッ ピチャピチャ、トポトポトポッ
(もううんち、でない……かな?)
 押し出すようにお腹を「の」の字にさすりながら、岬は最後の仕上げに集中していた。

 一方、姉が部屋を飛び出す要因になった港だが……。
 部屋の鍵はデスクに残されていた。
(これじゃ、帰ってこれないよね?)
 港は鍵を取り、部屋に漏れた便臭に鼻をしかめながら廊下に出た。どうやら姉の様子を見に行くらしい。
(おねぇちゃん、すごいお腹ぴーぴーなのかなぁ)
 自分の知る限りではパーキング、お風呂、そして今と最低三回は下しているのだ。下剤の影響で下痢気味な港には親近感のない状況だが、異常なことはわかる。
 その港も新幹線でもりもりと軟便を盛り、ユニットバスのトイレで下痢、洗っている最中に我慢できず浴槽で排泄してしまっていた。便器を埋めかねない軟便の後に盛大に下したのだから、相当な量である。
 そんな人並み外れた排泄を繰り広げた二人の共通点は、水分の多量摂取に他ならない。
 体内から大量の水分を排し、風呂上がりなこともあって体が水を欲していた。だから階にある自販機で二人はジュースを買っていた。
 港は乾きを潤すようにぐびぐびと、岬はお腹を冷やさないようにちびちびと、寝る前には一本ずつ消費し、加えて岬はもう一本買っておいたジュースを夜中に飲んでいた。
 いくら体内に吸収されたとしても、腸の機能が低下していた状態ではすぐにお尻へと回ってしまうのは仕方ない。
 排泄の名残みたいな腹痛を気にやりながらも、トイレに辿りつく。
 二度目に訪れるそこは、ただならぬ激臭に満ちていた。
(う……おねぇちゃんかな、すごいにおいっ)
 失礼だとわかりながらも、鼻を摘んでしまう。岬と違いまだ健康に近い港の便とは比べようもない臭さだ。何を腐らせればこのようなすえた臭いを発するのか、というまでの気体が発生していたのだ。
 和式はどちらも空いていて、常時ドアの閉まっている洋式トイレがある。空間内は換気扇の音以外には特に聞き取れず、排泄に苦しんでいるような様子がない。洋式トイレの個室に近付くと、鍵の窓は青色――鍵がかかっていない。
(おねぇちゃん、入ってないのかな? もしかしてもう出てった? だとしたらお母さんのところにでも行ったかなぁ……?)
 港は疑問に思いながら確かめがてらにドアを引いた。
 中には、苦悶の表情を浮かべ俯いて便器に座る姉の姿が、あった。
 脂汗を浮かべる額に皺を寄せ、両のまぶたを目一杯に絞り、唇を噛み締めていた。幼げな少女の顔付きは排泄の仕上げに震えていた。俯きがちに、無言できばっている。
 そして岬は港の来訪を悟るのに五秒間を要した。
「え……、…………、……――ええぇっ!!?」
  ブビュッ!
 驚きざまに汚らしい音が響く。声を入れてしまったがために腹圧で飛沫を散らす発砲が炸裂した。岬はたちまちに赤面し「みなとしめてぇっ!」と大声に叫ぶ。
「ごっごめん!」
  ガタッ ガチャガチャン! ガタン
 慌てて引いたドアを押し閉めた。途端、内側から乱暴に施錠されてしまった。便座から身を乗り出して閉めたのだろう、と窺える物音もした。
(どうしておねぇちゃん鍵閉めてないのっ!?)
 きっとお腹が痛くて鍵をかける暇もなかったんだろうな……とすぐに真実を導き出した。恥ずかしがり屋の岬が施錠をしないはずはないのだ。よほどお腹が痛くて、落ち着いてからのフォローもできなかったのだ。
 今でも港は家に限って鍵をかけないことがあるが、岬にはそのきらいが見られない。そこは内向的な性格があるかないかによるのだが、とりわけ港は家で排便をしないので比較的すぐにトイレから去る。
 家という開放的な空間、排尿にかける時間、それと排泄にまつわる幼さの表れと言えるだろう。
 ともかく、港は鍵をかけない姉に驚きを隠せなかったし、岬はまさか妹が目の前にいただなんて現実に顔面に赤色を塗りたくらずにはいられなかった。
(うそっ、港に見られちゃった!? うんちしてたのみられてた!)
 羞恥のメーターは跳ね上がり、排泄物を股の下に溜めていることも耐えられず後ろ手に洗浄レバーを倒す。
  ゴボォ――――ジャババババッ!!
 便器内に水が注がれ水位が上がり、一挙に奥底の排水穴に吸い込まれていく。ものの数秒で臭う汚水と大便の欠片が消え去った。物凄い排水音もタンクに水が注がれる音にとって代わる。
「おねぇちゃん、大丈夫?」
「……う、う、うん。ごめんね、鍵かけてなくてっ!」
「私別に見てないから、こっちこそごめんね」
 とりあえず泣いていない様子から、漏らしてはないのを感じ取った港。拳の置かれた膝、その開かれた足に伸びる下着のクロッチに汚れがないのを港は見ていたので、想像が後付けで確信に変わる。
「私がトイレ使ってたばかりに、ごめんね」
「いいの。港もおなか、痛かったんだよね?」
「ん、ちょっとね。おなかもう痛くない?」
「うん」
「ええとね、うんちの状態どう? ぴーぴー?」
「しゃーしゃーなの……」
 岬は精神的にも堪えそうな質問に消え入りそうな声で返していく。疲弊した彼女は半端に従順だった。
「そう……おねぇちゃん、部屋の鍵持ってきてないでしょ?」
「え、あ、そうだった」
「ないとオートロックで入れないでしょ? 持ってきてるから、一緒に戻ろうね」
「うん、ありがと……あ」
 岬は妹の気遣いに喜色をにじませながらも前傾がちな姿勢を戻していく。もう渋った便も出きったようで、きばってもガスも出てこなかった。隆起した肛門がゆっくりと縮んでいく。強張った体躯が弛緩していき……
(ん、おしっこしたい!)
 辛い便意の対価みたいに優しい尿意が汗ばんだ股間に押し迫った。岬は港もいる手前、我慢しようときゅっと力を入れたが、どうにもしたくてたまらない。
「や……」
(おしっこ、でるっ)
 抗いがたい尿意に思わず岬は背筋を伸ばす。
  ぶるぶるっ
  チュ――チュィ――――チュイィージョボボボボボボボッ
 全身に気持ちのいい電撃が走った時には、まばらな陰毛に隠されたスリットから小水が放たれる。水面のギリギリを打った小便は弾道をやや下方に移し泡立てる。
(おねぇちゃんの、オシッコ……)
「えっと、外で待ってるね」
 港はそそくさと駆け出していなくなった。姉が突然おしっこをしたのに気遣ったのだろう。
(やだ……港におしっこの音、きかれちゃったぁ)
  ジャボジャボジョボジョボジョボッ シュイィ――ッチュゥ――――……
  じょぼ じょぼぼぼ ちょぽちょぽ とぽ……とぽぽ ちょぽっ
 水を薄黄色に染め上げる営みはゆっくりと終わった。くぱぁと淫猥に広がる下の口から雫が滴る。
 股から放たれた黄金色の軌跡の大部分が宙を迸ったが、スリットにかかってお尻を伝って便器に注がれてもいた。尻たぶを沿うように二方向におしっこの線が残っていた。
 岬は不快に思いながらもペーパーホルダーに手を伸ばす。横並びにホルダーが二つ、岬は三角に折られていない、千切られていた方のペーパーを巻き取り始める。
  ガラッガラガラガラガラ ビリ
 巻き取ったそれを長方形に畳み、大きく足を広げて股の間に差し込む。大便の穴も痒くて早く拭きたかったが、まずは小便の溝を清めることにした。
「ん……」
 奥から手前へ溝をなぞるようにスライドさせ、湿ったあそこを拭いていく。二、三回ほど往復させ、濡れた面同士を畳み合わせてスリット周辺をまんべんなく拭き回す。丁寧に尿の線を拭い、便器に落とす。
  ぱちゃっ
 湿った紙に水が染み、ふやける。
 岬は短めに紙を再び巻いて切って、念を押すようにおしっこを拭った。今日のようにおしっこが散った時は、慎重に拭かないとパンツを穿いた時にいやな思いをする。一度時間と羞恥に焦ってさっさと拭いて穿いた時はあそこに残っていた黄金水が足を伝ったこともあった。
 三度目に取ったペーパーは若干厚めに畳まれた。ついにお尻の穴に触れるのだ。またもや股に腕を差し込み、べっとりとこべりついた大便を拭う。掬うように紙で擦り、股を覗き込んで紙の汚れ具合を見る。紙に水っぽく下痢便が染み付いていた。裏返してもう一度拭き回し、確認せず落とす。
 そうやって尻たぶに跳ねた飛沫も拭きとって、もう一回紙を千切った。
 岬はやや顔を赤くしながらもちょっとお腹に力を入れる。若い肛門がぐぐぐっ……と下に伸びる。流動便にいたぶられたそれには見えない汚れがついていたのだ。岬は紙の中心を肛門にぐりぐりと押し付ける。
「んう……んふっ」
 ちょっとイケない気分になりながらもうんち穴の内側の穢れを剥がした。トイレットペーパーの真ん中には円状の薄黄色が染みていた。紙を便器に落下させ、溜息。
「ふぅ……」
(はぁ、すっきりしたぁ!)
 立ち上がり、下着を上げる。便器に向き直って中を覗くと、僅かに色付いたトイレの水とふやけたペーパーの塊が数個あった。岬はわざと便器を跨ぎ、レバーを大の方向へ倒した。
  ゴボォ――――ジャババババッ!! ボゴボゴッ!
「……ふぁ」
 下方から巻き上がる冷たい風をお股に浴びる岬。和式トイレでしゃがんだまま水を流した時の快感によく似ていた。
「ごご、ごめんね港、おまたせっ」
 手を入念に洗い、廊下で港と合流する。恥ずかしすぎて顔が上気し、火照っているのはいつものことだ。
「もうお腹は大丈夫?」
「ん、すっきりしたよ」
「そっか、よかったねおねぇちゃん。早く寝よっか」
 こうして岬の深夜の受難は終わりを告げる。
 腹痛の止んだ二度目の夜は、よく眠れた。


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