No.14「扉の向こう」

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 私が個人経営の食事処でアルバイトをしていた時の話です。
 あれはとある暑い夏の日でした。
 私は一人で昼のシフトに入り、それなりに賑やかな店の中を立ち回っていました。
 その日は私の知っているお子さんとその親子が店を訪れていました。
 お子さんは双子の小学一年生の女の子で、二人とも屈託なく私に抱きついてくるような可愛らしい子供でした。
 ある程度して客もまばらになり、その家族連れともう一組の客が残るのみとなりました。
 私が注文の商品を捌いていると、厨房とフロアを隔てている暖簾(のれん)の隙間を通り過ぎる人影がありました。それは双子の一人で、早くも遅くもない歩みでレジの方へと向かっていきました。
 一種の希望を見出した私は暖簾をくぐって少女の行く末を見届けました。
 ……やがて少女――ふみちゃんはレジの近くに備えられているトイレへと入っていったのです。
 ふみちゃんがおトイレをしたくなって、お店のトイレに行った!
 何年も前から女性の排泄に興味を持っていた私は胸が躍る思いでした。
 何せこの店のトイレは男女共用の和式便器が一つ、あるのみなのです。
 扉越しの彼女の姿を覗うことはできませんが、せめて排泄をしている気配や用を足している音を聞き届けることはできるかも知れません。
 幸いにもバイトは私一人で、厨房の人も動き回っていてトイレに来ることはなさそうです。
 偶然を装った鉢合わせか、トイレ待ちをするフリをして様子を伺うくらいはできるでしょう。私はタイミングを見計ってトイレに行こうとしましたが、そこで別の客の注文が出来上がったところでした。
 私は手早くお盆に食べ物を乗せ、二人組の客の席へとそれを持っていきました。
 その間もふみちゃんのことが気がかりでなりません。
 食べ物を運ぶ間にレジを通り過ぎるのでトイレをちらっと見ることができましたが、トイレに人が入っているかどうかは分かりませんでした。洗面所の扉は透明なガラスがはめ込まれていて誰かがいるかは見て取れますが、その奥のトイレの扉にはめられているのが濁った磨りガラスなので、中の一挙動も覗けない仕様です。店として当然ながらの造りでした。
 さっきの配膳で注文は全て捌ききったので、私は誰にも断りを入れずトイレへ向かいました。
 ふみちゃんがトイレに行ってから一分は経ったかと思います。
 ふみちゃんの行動に動悸を弾ませたり、配膳をしたり、辺りの様子を見ていたりとしていて予想以上に時間をくっていました。
 洗面所の扉に鍵はないので障碍なく中へ入れます。
 そこは人が一人ゆとりを持って入れる程度のスペースです。
 洗面所に立ってすぐ隣がトイレ。
 今すぐそこでふみちゃんがおトイレをしているかと思うと何かがいきり起つ熱情を覚えざるを得ません。
 心音を加速させながら私はトイレの扉を見ました。今この磨りガラスの向こうにふみちゃんがいる――好事家として万通りもの妄想を繰り広げるに十二分ないシチュエーションに間違いありません。
 この据え膳を目の前に待てをさせられている――理性と物理的な壁……施錠が夢への遭遇を阻んでいるのが残念でなりません。
 この鍵のかかったドアノブに手をかけ、ガチャガチャと音を立てて開けようとすればふみちゃんは驚くのだろうか――小さな悪意が芽生えたその時、私は目を見張りそして衝撃を覚えました。
 ――ドアノブ右上の窓の表示が、青色になっていたのです。
 ま、まさか……中にふみちゃんはいない!?
 私が配膳をしている間に用を済ませたのでしょうか……?
 いや、違う。
 もしかしたら。
 もしかして……。
 万通りの妄想の一つが、万が一の現実を実現させようとしているのでは!?
 私は唾を飲み、逡巡することもなくドアノブに手をかけ、扉を押し開けました。
 扉がすんなりと開き、トイレへの道を開いた。

 そこには一段高い和式便器にかがむ、ふみちゃんの姿があった。

 ふみちゃんが穢れのないお尻を便器に突き出し、前を見据えてきばっていた!
 私は斜め後ろからふみちゃんの排泄シーンを拝み、最高速の昂奮を全身に浴びせられた。
 お、おおおおおおお!!
 ふみちゃんは無警戒にも鍵を閉めていなかった!!
 扉が開いたのに気付き、ふみちゃんが振り向いた。首をきつく曲げ、私を視界に収めた。
 何故か私は事故防衛のように勝手に、
「あ、ごめんね……」
 と呟いてしまった。
 ふみちゃんは何も言わなかった。
 その無言に蹴落とされたのか、一期一会のチャンスを目の前に錯乱していた私は、
 ゆっくりと扉を閉めてしまった。
 私の理性が、そしてふみちゃんへの罪悪感が据え膳を残す形として手を引いてしまったのだ。
 しかし私は落胆などしなかった。
 据え膳を残したとしても、限りなく食べきっていたようなものなのだ。
 なにせ私は便器にふみちゃんのうんちが転がっていたのを見てしまったのだ!
 女の子の大便! 小学生女子のうんこ! ふみちゃんのうんち!!
 ふみちゃんはお店のトイレでうんちをしていた!
 私は洗面所で独り、屹立した何かに血を注ぐように昂奮するのに精一杯だった。
 ふみちゃんがうんちをしている。
 色んな人の使うトイレできばっていた。
 便器の上で素肌を晒していた。
 水色のワンピースをめくって、ショーツを下ろして、靴でタイルを踏み締めて。
 しゃがんで、足を広げて、お股を拡げて、お尻を出して。
 スリットを震わせ、穴を隆起させ――排泄していたんだ。
 しかもうんちだなんて!
 便器にあったあの――ふみちゃんの拳一個分くらいのうんちが想起される。
 私は今しがた目撃したうんちを思い出しながら、妄想する――ふみちゃんのウンチについて、悶々と。
 便器の後ろ辺りにぽつんとあった二つのウンチ。
 健康的な茶色だった。
 ふみちゃんはウンチを二つ産み出したのだ。
 私は出したてであろうその産物が鮮明に頭に残って離れなかった。
 こんなときに催すだなんてどうしたんだろう?
 朝はウンチをしなかったのか?
 朝起きてトイレで夜に溜まったおしっこして、いっしょにウンチは出なかったのか? それともごはんを食べてからもういっかい、おトイレに入ったのか?
 きっと便意を催しておトイレに行ったけど、出し切れなかったんだ。
 おうちの洋式便器に座り込んで頑張って気張ったけどいつもよりも出にくかったのかもしれない。
 いや、双子のもう一人が駆け込んで来てやむなくトイレを替わったのか。何せ双子だからウンチをしたくなるタイミングが同じだっておかしくない。
 もしかしたら我慢していた緩い便意も忘れ、昼飯を食べた今頃にお腹が反応し……ウンチがしたくなった。おトイレに行きたくなってしまった。
 鍵をしていない辺り、お家以外のトイレでウンチをすることに抵抗も恥ずかしさもないのだろうか?
 よくよく思い出せばトイレをしている姿を見られて声も上げなかったくらいだ。この無防備さが何年かすれば失われてしまうのかと思うと今から悔恨が込み上げてくる。
 あぁ……もう一度入りたい。でも謝ってしまった以上、次は嫌がられるかも……。
 果てのない妄想と後悔を繰り返していると思考を遮るように洗浄音がした。
 あのかわいらしいウンチは流されてしまったのだろう。
 ふみちゃんがまたウンチをしたのかどうかも分からないまま、排泄を終えられてしまった。
  カチャ……。
 流す音も止まない内にふみちゃんがトイレから出てきた。
 狭い洗面所で待っていた私は洗面台の前を譲る。
「ごめんね、トイレ開けちゃって」
「ううん、いいの」
 定型的な謝辞にふみちゃんは何の感慨もなさそうに返答する。
 正直私はこのときどんな会話をしたのかを覚えていない。
 昂奮冷めやらぬ中、幼女の排泄のことで脳内のメモリは過熱していたのだから。
 今手を洗っている女児がさっきまでお尻を出してウンチをしていたのか――。
 このワンピースと隠れたショーツの向こう側に、茶色い卵を産んだ穴があるのか。
 手を洗ったふみちゃんは洗面所からも出て行った。
 私は迷わずトイレに飛び込み、施錠。
 ついさっきまでふみちゃんがトイレをしていた場所だ!
 お、おお。おおおおおおお!
 私はすかさず鼻を機敏に働かせた。
 ――かすかに便臭がする!
 これは……ふみちゃんのうんちのにおいだ!!
 便器に産み落とされ、空気に晒されていた二つのうんちから発せられた臭いがトイレに漂っていた。
 最上級のエッセンスが私の鼻腔を、イチモツを滾らせる。
 私はジーパンを下ろし、一心にあれを握り、しごいた。
 さっきまで同じ空間で幼女がトイレをしていた。うんちを出してた。排便していた!
 ぷぅんと臭う残り香。脳裏に焼き付いたしゃがみ姿。
 ふみちゃんのトイレシーンの全てを繰り返し映し出しては、昂奮を高めていく。
 私が見届けることもできなかった排泄の瞬間も、容易に浮かび上がってくる。

 ふみちゃんは自分の食事を終えて、ふとお腹の張りを感じた。
(あ、うんちしたい)
 トイレに行きたくなってしまった。それも、ウンチだ。
「おかあさん、トイレいってくるね」
 一言断って、席を立つふみちゃん。
 軽い足取りで見知ったトイレへ。洗面所を経由して男女共用の和式トイレに入る。
 ふみちゃんは鍵をかけることもなく段差を上がり、ワンピースの裾をまくった。素足と女児ショーツが露わになる。
 器用に腕と脇で裾を挟み、ショーツを下ろす。恥毛の一本も生えていない、性器が露出する。ゆがみのない真一本のスリット。その軌跡を真っ直ぐになぞっていけば、ピンク色の蕾が隠れている。それは若干隆起し、ひくひくと動いていた。
 ふみちゃんは膝までショーツを下ろすと、膝を折り曲げてその場にしゃがんだ。
「んっ」
 ぷるっ、と身体を震わせる。
  ちゅう――じょろじょろじょろじょぼじょぼじょぼぼぼぼ〜〜〜
 スリットからおしっこが飛び出し、トラップの水を泡立たせた。
 その軌道は一直線で、引っかかって尻たぶに伝うようなことは一切ない。
「ふ、ぅ」
  しょお〜〜〜〜〜ちょぼぼぼぼ……ぢょろっ、ちょろろろ……ちゅぽっ
 滴って薄く股間を濡らし、軽い小用は終わった。
 彼女は一歩前に踏み出し、前進する。そして深く腰を落としてより便器と尻の隙間を狭くする。まるで何かに備えるよう。
「ん、んっ」
 きばる。
 小さく喘ぎ、絞る。
 体内の毒素を吐き出そうとしていた。
 幼い肛門は柔軟かつしなやかに伸び、口を開いていく。凝り固まった二十代のそれとは大違いの素直さがある。
  みちち……
 開かれた穴から覗くのは、茶色の弾頭。
 彼女はぷるぷると断続的に身体を震わせ、排便に集中した。
「んん〜」
  みち、にち……
 伸びきった肛門から頭を出し、さらにせり出る。もう産卵寸前だ。
(うんち……)
  みちちちっ
  ぼちゃん!
「んふぅー」
 小さめの便塊が便器に産み落とされた!
「まだ出そう」
 ふみちゃんはまだうんちがしたいらしい。
「すぅ。うん、うーん」
 息を継ぎ、再び息み始める。甘い便臭が漂って息苦しい空間に、ふみちゃんの力強い吐息が息吹く。
 ウンチを出し切るまで休息はできない。誰にも邪魔されないはずの安息の個室で、臭いに息詰まりながらも糞を絞ろうとしていた。
「ふ、く、はぁー」
  ぐぐ……ぐぐぐっ、にち……
 一発目と違いすっと降りてこない二発目。力み過ぎて息が弾む。
「うう〜〜ん、……はぁ、すぅ」
 遂に息切れし、一息入れながら嘆息。
(もうちょっとで、出るかな。早く出さなきゃ)
 次こそはと意気込み、溜息交じりの踏ん張りを続ける。
「うん、ううん、うっぅ〜ん。……はぁ。ふぅっ!」
  みち……にち みちゅみちゅ
「くふぅ!」
  みちっ
  ぼとん!
 先ほどよりも一回り大きいウンチが落下した!
 一発目の隣に落とされ、水を跳ね上げる。
「はぁ〜〜〜」
(うんちでたぁ……)
 やがて出し切ったのか幼い肛門は闇の奥に引っ込んでいきつつも、
  ぷしゅ、ぷすすっ
 少しばかりのおならを放っていく。重厚な臭いが拡散する。
(もうでないかな?)
 便意の消失を感じながらもちょっとだけ気張るふみちゃん。もうちょっとだけ、出そうな感触があった。
「んっ」
  ぷすぷす
「んふっ」
  ぷぷっ
 出そうな感触……たまったガスを解放しているタイミングで私が、訪れてしまったのだ。
「んぐ……」
  ガチャ
 途端、きっとふみちゃんは気張るのを止めて振り向いた。
(あ、おにいさん)
 そこに羞恥はあったのかなかったのか、本人でない私は悟る術を持たない。知る術はあるが、行使する理性はなかった。
「あ、ごめんね……」
 闖入者は罪悪感に唆されてすごすごと退散していった。
(鍵、閉めてなかったんだっけ)
 ふみちゃんはちょっとだけ反省してから、紙を巻き取り始めた。
 ひとまとまりになったペーパーを摘み、腕を身体の前側から差し込んでお尻の穴を拭う。
 数回擦り、拭った紙の表面を見やる。汚れは全然付いていなかった。ふみちゃんは満足して紙を落とし、軽く腰を上下させてお股の水滴を振るう。そうして立ち上がる。
  ジャバ――――ッ!!
 水洗コックを捻るとふみちゃんのウンチは流されていってしまった。
(すっきり〜)
 ショーツをずり上げ、ワンピースの裾を直す。それからトイレを出て私と交代し――

 今に至るのかもしれない。
 あたかもついさっきこの場所で起こったかのように、リアルなふみちゃんの排泄シーンが私の頭の中で再生されていた。
 あくまで私の妄想でしかないが、もしかしたら想像通りの排泄をしていたのかと思うと、余計に興奮が滾って……。
 数分前まで女の子がここにいた。肌で見えない気配を感じ取る。
 さっきまで女児がこの便器の上にしゃがんでいた。目と想像でかがむ姿を映し出す。
 今も残る幼女の便臭。甘く香る、魅惑的な臭いを鼻で嗅ぎ、堪能する。
 女の子が使ったトイレ! 女児が跨った便器! 幼女の出したうんちの臭い! 私はふみちゃんの残した全てを体感し――――……。


 私が後始末を終えてからトイレを出ると、女の子が洗面所にいた。
 双子のふみちゃんの片割れ、はるちゃんだった。
「ごめんね、待たせて」
「ううん」
「一人でできるかな?」
 私は妙なことを言い放つ。
「トイレくらい一人で出来るよ〜?」
「ほんとかな?」
「うん」
 はるちゃんはいたずらっ子のような口調で返し、トイレに入っていった。
 さすがに業務に戻らねば怪しまれるので、二度目のハプニングを目撃することを断念し、厨房へと急いだ。というか、ハプニングも何もトイレから出てはるちゃんと出会っていては意味もないし、もしもの言い訳も敵わない。
 この真夏日が起こした奇跡を、私は忘れることはないだろう。
 ふみちゃんが今日の出来事を忘れても、トイレからふみちゃんの痕跡が掃除されようとも、私だけはずっと――覚えている。


 ※この駄文は作者の体験を基に作られていますが、適度な改変と過度な妄想が盛り込まれています。
 シチュエーションを楽しむ小説ですが、登場人物の経歴などが結構変えられているかも知れません。ただし低学年双子であることは揺るぎません。


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