No.17「A HAPPY NEW...EVE?」

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 寒空の下、鳴らしたインターホンに続いて扉が開かれた。
 迎えられるまでたった数十秒。来客として待つ間、バス停の待合室で孤独に耐えるような一つまみの寂しさを覚えていた。
「あ、早いねー。一番乗りじゃない?」
 どうやら一番早く着いちゃったのは私みたいです。途中で早足になっちゃったからかな、どうしても急ぎたかったから……。
「寒かったでしょー、あがってあがって」
「うん……」
「って、ホントに寒そうだね?」
 顔色から察せられたのかな? でも寒気の色じゃないのも、混ざってると思う。
 玄関に上がり、勧められたスリッパを履く。お気に入りのコートを脱いだところで、私の心はもう寒気ではない色に染まりきってしました。
「緑ちゃん、あの……」
「なに? ……あ」
 いつもの調子から気付かれちゃったのか、目敏く緑ちゃんが短く声を上げる。きっとこのまま黙ってたら察してくれるんだろうけど、ちゃんと自分で言わないと。
「来てすぐに、あの、悪いんだけど……」
 ちゃんと、恥ずかしがらないで、言うのっ。
「お手洗い、貸して、……くださいっ」
「えっと、もしかして……」
 そうです、もしかしてなんです。
 ずっと、ガマンしていたんです。
 緑ちゃんだから包み隠さず話しちゃうけど、今日もやっぱり催しちゃったの。
 はい、私は――来る途中から、ずっとお手洗いに行きたかったんです。
 一番乗りなのも緑ちゃんのお家でお手洗いを借りたかったからなんです。
 それも、したくなったのは小じゃなくて、……はい。
「もしかして、大?」
「…………ぅん、大の方。うぅっ、わざと溜めを作ってまで聞かないでっ、わかってるんでしょ」
 私が出したいのは、大便の方なんです、緑ちゃん。
 ずっと、ガマンしていたんです……大便がしたいのを。
「ちょっと、冷やしちゃった。……お手洗い借りていい?」
 来る途中から、ずっとお手洗いに行きたかったんです。大用を催して、お腹痛くってもう出そうなんです、だからお願い。
 大をするってだけで恥ずかしいのに、私がしたいのはかちかちの方じゃないんです。……びちびちなのをしたくなったんです。よりによってお友達のお家でぴーぴーな大便をしちゃうんです。
 だって私、お腹弱いから他の子みたいにお便秘もしなくて、お腹がいつもゆるゆるなの。
 だから、大便をさせてください……。
「あの……来る途中から、お腹痛くって、それでずっとお手洗いに行きたくて、その」
 緑ちゃんはやっぱり、という声音で言いました。
「そっか、大変だったね。別にダメとか言ったりしないって、うん、トイレはそこね。あたしは気にしないから」
 指差す先に『お手洗い』と札のかかった扉がありました。ずっと待ち焦がれていた、便器がそこにあるはず。
「ごめんね、気を遣わせちゃって」
 ああ、早く大がしたいかも。でもここでばたばた駆け込むのもお下品だし……あっ、今からお下品なことをするのに、なに言ってるんだろ。
「ううん。コート、持ってっとくね」
 好意に甘えてコートを脱いで渡すと、ひんやりとした空気が一層冷たく私にあたりました。心なしか便意がぎゅるるって強まった感じがします。内股で足を摺り寄せ、お尻をもぞもぞさせてしまいました。もう、限界、かも。
 少しでも早くこれでよかったです。ちょっと、危うい感じ、でしたから……。
 何がって言うと、あの、我慢ができそうになくてその……粗相をしちゃいそうだったんです。
 あと3分でもお手洗いに辿り着くのが遅かったら、下着に漏らしちゃってたかも……。って、まだお手洗いに入ってないから、早くしないと出ちゃう!
「ありがと。じゃあ、お手洗い借りるね」
「あ、待って」
 えっと、何? 早くお手洗い行きたい……。
「集まるお部屋、わかる?」
 私は緑ちゃんのお家にはじめて来たので首を横に振ります。
「だよね。終わるまで待ってようか?」
「うん、でも、いてもらったら、その」
「そっか、ごめんごめん。玄関から廊下を真っ直ぐ歩いたらあたしのスリッパあると思うから、そこに来てよ」
「うん、わかったよ」
「止めてごめんね。ゆっくりどうぞ〜」
 私は緑ちゃんに見送られて玄関脇のお手洗いへ入っていきました。
 よかった、間に合うみたい。
 お腹が痛くなってから10分はガマンしてたから、ずっとお腹がぴーぴーで痛くて。この辺は住宅街で、お手洗いを借りられる場所がなかったし。あまり来たことない場所だからお手洗いのあるお店とかもわかんなくて、場所のわかる緑ちゃんのお家に着いたらお手洗いを借りようって決めてました。
 突然知らない人のお家を訪ねて「びちびちの大便が漏れそうなのでお手洗いを貸してください」なんて、そんなの恥ずかしいですっ。それなら粗相しちゃった方がまし、かも……?
 私がたまたま調子悪くてびちびちな大をしたくなったのだったら、ちょっとした不幸の訪れみたいに不意にごろごろ〜ってお腹を壊したのだったら――お手洗いを借りるのをためらっていたかもしれません。小をするから、とごまかしてたかもしれません。
 私は、もともとお腹の調子が悪い子です。
 毎朝お手洗いでう〜んってきばると出てくるのは、ふにゃふにゃの大便ばかりです。ちょっとヘンなものを食べたり、食べ過ぎたりするとすぐにきゅるるるる、ってお腹を壊しちゃいます。
 いつもお腹がゆるゆるなので、健康じゃない感じだけど快便です。なので朝に済ませてもお昼や夜にしたくなっちゃうときも多いです。たいてい朝はふわっとした穏やかな便意でゆっくりと大便できるのに、排便が2回目になると下し気味でぴーぴーです。
 そんなお腹だから、風邪を引いちゃうとすぐにお腹にぎゅるぎゅるってなって、ぴーぴーになります。
 でも毎日ずっとげ……びちびちってわけじゃ、ないですから。今のところひどいストレスってことにはなってないです。
 バス通学なので朝はお家で済ませないとバスの中で大がしたくなって、大変です。だから大便が出そうになくってもうーん、う〜んってきばって少しでも排便しないと不安になります。
 私はお寝坊さんだからバスの時間までに大便できなくて、急いでバスに乗り込むってこともあります。1本バスに乗り遅れると遅刻しちゃうから、ふんばってる最中に用を中断して家を飛び出ることもあります。
 でも朝はぴーぴーになることはあんまりないし、私が降りるところのバスターミナルにあるお手洗いを借りるか、さいあく学校までゆるゆるなのをガマンして授業前に大便しちゃいます。
 バスターミナルのお手洗いは洋式がないけど、車いすの人とかのためのお手洗いは洋式です。でも私は健常者だから……よほどガマンできないときじゃないと、学校までがんばります。和式の便器は苦手なので、ぴーぴーでもらしそうなときじゃない限りは使いたくないです。
 だから週に1回は朝の学校で、大便です。学校は洋式のところがいっぱいあるから、楽に大ができます。学校であまり大便したくないけど、ちゃんと授業までに済ませないと、もっとつらいから。
 朝に済ませても月に2回くらい授業中にびちゃびちゃな大便を催すことも多くて、授業中なのにお手洗いに立つことがあります。もう6年生になったので、びっ、と手を挙げて調子が悪いことを言えます。ガマンは体に悪いですから、辛くなったらちゃんとお手洗いに行くようにしています。
 最近はガマンができるようになったので、よっぽどひどくない限りは休み時間まで待ってお手洗いにだっしゅします。授業のジャマをしてはいけませんから、ちゃんと休み時間に排便を済ませられるようになりたいです。ほんとに恥ずかしいけど、お腹がぴーぴーになって痛くなったらちゃんと休み時間にお手洗いに駆け込んでます。
 最初はう〜ん、ってうなりながら大便をしてるとこそこそと悪口を言われたり、イヤな顔をされたりしたけれど、みんな優しいし今は藍香ちゃんが助けてくれるので大丈夫です。
 くさい大便をしていてもいやなことを言う女の子は少なくなりました。時々私の体のことを知らない子に悪く言われるけれど、クラスの子は「おなか大丈夫?」とか「私たちは気にしないから、ゆっくりね」と声をかけてくれます。
 特に藍香ちゃんは私が辛そうにしていると「トイレ行って来たら?」と言ってくれるし、「トイレの前で見張っててあげる!」と、私が大を済ませるまでずっとドアの前に立っていてくれたこともあります。嬉しいけど、いっぱい出たら「すごい出るね〜」とか「快便だね!」って声をかけられたりして、恥ずかしかったけど。あとお手洗いから帰ってくるたびに「すっきりした〜?」と聞いてくるのは、ちょっとイヤです。でも私のことを思ってくれているのがわかるから、藍香ちゃんのことが好きです。
 移動教室で授業をしているときに便意を催したときは一番近いお手洗いを使うんですけど、たいていいつもの教室から遠いから、お手洗いに来るのは知らない女の子ばかりです。そういうときはクラスの子とかいないから、いやなこと言われたりして、ちょっとつらいです。1回すごくお腹がいたくてぴーぴーになって、理科の授業が終わってからすぐに排便していたらすごいからかわれて……つらかった。
 でも藍香ちゃんが来てくれて「みんなだってうんこするでしょ? 別に恥ずかしいことじゃないよ!」って怒ってくれて、ほんとうにうれしかった。私、学校で大便しててもいいんだってすごい自信になったもん。いつも誰かの迷惑になったり、いやな気分にさせてて、いついじめられるかって怖かった。だけどお手洗いに来てる子は小用を済ませにきてて、きっと学校でできないからお家で大便してるんだって思うと、私は強い子になれたって思えるの。
 女性用の方をノックし、無人を確認してから入室・施錠。緑ちゃんのお家は洋式みたいで、安心した。和式の便器だとしっぱいして床をびちゃびちゃにしちゃうことも、あるから。
 お手洗い用のスリッパに履き替えて、もとのスリッパはドアの前に並べておきます。
 うぅ〜大便、大便。もう出ちゃいそう。ぴーぴーだから気を付けないと。
 私はかちかちな大便をしたことが、あまりありません。いるのが女の子だけのときにお便秘の話題がでるけれど、私には縁がありません。何人かの子がかちかちで4日も出ないって、なげいているけれど、いまいち共感できません。
 それで、この話を聞いたのは、ほけんの授業で先生が消化の話をした日の放課後でした。藍香ちゃんとたまたま一緒に帰っているときでした。
『最近うんこ出なくってさ〜。もう5日目だよ?』
 あっけらかんと藍香ちゃんが言うので、私はびっくりしました。
『今日もきばったけど、出なくってさ〜。あーお腹痛い』
 と、藍香ちゃんはお腹をさすります。その日は大がしたくなった私と一緒にお手洗いにきてて、私の後ろの個室できばってたっけ。私が入ってからすっきりして出てくるまで、同じ時間。
『こんな話、他の誰にもしないからね?』
 他ならぬ私だけ、ということでしょうか。お腹がゆるゆるだから、排便に悩んでいるって共通意識があるのかな。みんなよりも優しくしてくれるからでしょうか。
『わたしと体が替わったら、いつもピーピーにならなくて済むかもよ?』
 だけどお便秘もイヤです、って返したっけ。
 とにかくお腹をぎゅるぎゅるにしやすいので、お手洗いを借りることを踏みとどまってはいられないんです。
 恥ずかしがって大便をガマンするほど、私はこどもじゃないです。
 そんなことをしてショーツにぶりぶり……っておもらしするより、ましですから。
 だから――緑ちゃんが快くお手洗いを貸してくれて、よかった。
「んん」
  カチャカチャ ズルッ バサバサッ
 もどかしくもベルトを緩め、厚手のズボンを下ろす。お腹が冷えるから、スカートは穿けない。
 ショーツをずらし、お尻を便座にあてる。ひゃっ、冷たい。
 あああ、でそう……。
 肛門が盛り上がり、高まっていた便意が更にぶくぶくしてきました。
 人の家で大便ははじめてじゃないけど、やっぱりいつも緊張します。慣れているお家や学校じゃないと、何だか出にくい気がします。早めに済ませられるよう、がんばろう。
「よいしょっ、ん」
  にち……
 体勢を整えると、ふぅん、って息まずとも大がにちにちと降りてきます。腹圧をやんわりとかけて、体に負担のないように、排便をスムーズにできるように……ふぅぅん、と息む。
 お腹をべこんとへこませ、目をぎゅっと閉じる。
  みちちち……
「ふふうぅんんん……」
 お大便、出るっ。
  みちみちにちにちみちゅっ どぽん!
 ふあぁ……大が出る瞬間だけは、ヘンな声が、出ちゃう。
「ん、ん」
  ぷちゅっ ぴっ むちにちにちにちゅちゅ どぽぽぽっ!
 ふにゃふにゃの大便が、緑ちゃん家の便器に吐き出されてます。
「あはぁ、ふぅぅ」
 うう、くさいよぉ。こんなにくさいのを、お友達のお家でしちゃってる。すごいぷんぷんにおうの、ちゃんと換気されるかな?
 外で催してけっこう経ってたけど、催し具合はしゃーしゃーってほどでもなかったので、今は排便が楽。水っぽいのだと大便するのに精一杯だし、なによりもお腹が痛くてつらいから。早く出そう、早く済ませようって力いっぱいう〜ん、ってすると疲れるしお尻も痛くなっちゃう。
「はぁ」
 私を急かしていただけの便は、出切ったみたい。お腹が軽くなって余裕ができました。でもまだ出そうだし、がんばらないと。肛門のすぐそこまで来てて便意の原因になってた分がなくなって、腹痛も引きました。
 緑ちゃんはゆっくりしてていいよ、とか言ってたし……。誰か来るまでに済ませられれば、いいよね。
「ふっ、うん」
 やさしく腹圧をかけて、まだお腹にかくれてる大便を肛門まで送り出す。便意が高まって大がそこまで来てる感覚がぐぐぐっと湧いてきました。びちびちのときはちょっときばっただけでどぱどぱ出てくるけど、今みたいなときは大を出し切るのに時間がかかってしまいます。
「んん〜」
 あ、きた。大が、
「ん……?」
 大便、もう少し、
「っすう」
  ぷすぅー
「ぅん、う〜ん……うんっ」
  ぶりぶりむりりりり! みりみりみりゅっ!
「ぁん」
 ああぁぁぁ〜……でたぁ〜〜。
  ガラガラガラガラッ
 さすがにもうスッキリしたので、見切りをつけて紙に手を伸ばします。けっこうべっちょりした大便だったので、かなり時間かかりそう。
 丁寧に折り畳んだそれを片手に腰を上げ、がに股気味にお尻をずいっと突き出します。紙を摘んだ手を前から差し込んで、ぐしぐしとお尻を拭う。ちゃんとお尻を突き出しておかないとねちょねちょの便が尻たぶに引っ付いちゃうので、注意が必要です。
 今の私は片腕を膝について、情けない姿でお尻を清める女の子でした。
 5回ほど大便を拭おうとして汚れもつかなかったので、ショーツをずるずるとずり上げる。ショーツの紐の伸びる限界までがに股で立っていた状態から、脱げかけていたズボンを引っ張り上げる。
 白かったペーパーの遮る便器の中身は、どろどろって感じです。
 私のした軟便とか、それを拭いた紙とかが混ざり合って、きたない。それに、すっごいぷんぷんにおうし……。
 水洗タンクのレバーに手を伸ばし、ぐいっと捻りました。じゃばーっと水が流れてきて私の大便を押し流していきます。
「ふぅ、すっきり」
 お手洗いで大便ができてすっきりしました。
 早く緑ちゃんのところに戻らないと。
  ガチャ
 鍵を外したドアを押し開けると、俯きがちにこっちを見つめる女の子が。
 確か、紫ちゃんだっけ? 緑ちゃんにけーたいの写真で見た子だ。間違いないよね。
「あの、おトイレ……」
 もじもじと前を押さえながら、呟きました。
「あ、ごめんね」
 紫ちゃんは私が出てくるのを待ってたみたいです。待ってたんなら、早く済ませれば……あ!
「えっと、大してたから待たせちゃって……」
「こちらこそごめんなさいっ。ちょっとおしっこしたいだけなのに、もうお腹だいじょうぶですか?」
 紫ちゃんは律儀に謝って、申し訳なさそうにぺこぺこしてるけど、足はお便所に行きたそうにしてる。我慢させちゃったみたい。
「まだお腹いたいんでしたら、紫はまだだいじょうぶですから、ゆっくりしていってくださいっ」
 と、足踏みしつつ早口で捲し立てる。
「ちょっとお茶飲み過ぎちゃっただけなので、おしっこしたいだけですから、その」
「ううん、私もお腹冷やして下しちゃっただけで、その、もうすっきりしたから……」
 あっ何言ってるんだろ、私! 紫ちゃんにつられてついつい……。
「じゃっじゃあ、失礼しますっ」
 紫ちゃんはぺこっと一礼して、あせあせと個室に引っ込んでしまいました。あ、まだくさいのに……早く流せばよかった。
 もう、はずかしいよ……。
「ほんとにごめんね?」
「いえっ……ん」
  ちぃ〜〜ちょろろろじょぼぼぼぼ
 かわいいお小便の音。年齢の割にはしっかりした子だなぁ。ジャマしちゃ悪いよね、早く行こっと。
 私はさっさと手を洗うと、ざいあくかんを感じながらお手洗いを後にしました。
 廊下の乾いた冷たさが、身に染みます。

     * * *

 食べ過ぎちゃったのかな、ずっとお腹が痛かったのが、いつの間にかウンチがしたい感じに変わっていました。今日は朝にウンチしなかったし、いっぱい出そう。
「おトイレ……」
 見ていたテレビ番組の気になるところが終わるまでこたつの中でもぞもぞ、我慢。きりよくCMになったのでおトイレに行くと、鍵がかかってて、トイレをしている音がします。先に誰かが使っていました。
 お姉ちゃんのお友達が入ってるのかな?
  コンコン
 試しにノックしてみると「は、入ってます!」と慌てた声。知らない声だから、きっとお姉ちゃんのお友達だ。
 すぐ出てくるかな、出てくるまでここにいたら前みたいに迷惑かけちゃうかな。
 別にすぐにウンチしたいって感じでもないし、居間で待ってようかな。
 私は今すぐにおトイレすることを諦め、居間に戻りました。

 ……。
「も、もういない……よね?」
 紫に先んじてトイレを使用していたのは桃瀬だった。いささか落ち着きなく便器に腰掛け、眉を歪めて上半身をくの字に折っていた。突然の来訪者に思わず排便を中断され、いや排便を中断していたのだ。便器の中は少量ながらも軟便気味のウンコがぷかぷかと浮かんでおり、彼女が並ならぬ腹具合でトイレに駆け込んできたことを窺わせる。
 今も腹痛がひどいにも関わらず、大用中と気づかれないように我慢していたのだ。
「……っん、んふぅ〜!」
  ビュリブリブリミチチチチッ!
 精神力の限り締めていた括約筋を緩めると、腹圧で爆発寸前の大便が勢いよく便器に飛び散った。
「っあー、お腹、いたぁ……」
 友達とテレビを見ているさなか、無視できない便意を覚えた桃瀬は飛び出すようにトイレに駆け込み、羞恥心に悶えながら排便に勤しんでいた。
 かわいいよりもかっこいい、おしゃれよりもスポーツに遊び。クラス一活発で男子とも交友の広いスポーツ少女として輪の中心になる桃瀬。男子も気後れするほどの気丈で物怖じしない性格からクラスでも人気が高い。
 そんな彼女も外聞は気になるらしく、
「ウンコしてるの、バレてないよね……?」
 とドアの向こうを警戒しつつ息んでいる。
(しょ、しょうがないよな……しょうがないよね? モモだって人間なんだし、したくなってもしょーがないじゃん!)
 焦る脳内で自己弁護を重ねる桃瀬。お腹をさする手は止まらない。
(だ、だって急にしたくなっちゃってさ、それに……っぽかったし、我慢できそうになかったもん! えっと、アレだよ、その……。――下痢、っぽくて。どうしても我慢できなかったんだもん、恥ずかしいけどトイレ行かなきゃダメだもんな! ダメだよね?)
 勝気な女の子の面影は微塵も見られなかった。男子に舐められないように意識して強気に振る舞うことはなかった。威勢を張る異性はいないから。性別分け隔てなくクラスの『つよいほう』にいた彼女も決して抗えない便意を対峙した今、トイレの中では絶対弱者なのだ。
「さっきの、誰だろ……。ウンコ、バレてないよね?」
 一度積み上げられた『信頼度』をウンコのために崩したくない……乙女らしい思いは友達の輪が太く、大きくなるにつれて増大していった。
(ウンコしてるのバレてないよな? もし緑だったらからかってくるかも……! でっでもウンコしたくなるのは当たり前なんだし、別に悪いことじゃないよな? きっと、うん。だっ、だって急にお腹痛くなっちゃってさ、お腹痛くて、その、出そうで……。だからトイレ借りてさ、……してるんです。その、ウンコを……)
「早く、済ませないとっ」
 体勢を起こし、便座に深く腰掛ける。
(モモはウンコがしたくなってトイレにいます! それは認めるからからかったり聞いたりしないでくださいっ! ただのウンコじゃなくて柔らかい下痢っぽいのを我慢できませんでした! だから、……)
「ふんっ、う〜〜ん」
(お腹、いたいぃ〜)
「んっ、んくっ」
(まだ出そうなのに、出ないよぉー)
「うーん、うーん」
(で、でそう)
「ふぅ〜〜〜〜ん……ん…………?」
  ぷすぷすぷすぷす
「ぅ、ん…………!」
  ブリッ ブリッ ブリッブリッブリブリブリ!
 乙女心を苛んでいた原因はほとんど吐き出し切れたのか、深く息を吐きながら肩の力を抜いた。
(まだ痛いなぁ……)
 お腹に手をあてて片目を瞑りながら腹圧を強める。お腹にわだかまる違和感が拭いきれない。時間をかけて出そうと思えばきっと下痢が出る、桃瀬は確信した。
「も、もういいよね?」
(出そうになるの待ってたらウンコしてたのバレちゃう!)
 手早くトイレットペーパーを分厚く巻き取り、中腰になって汚れを拭く。尻を突き出して乱雑にへばりついた糞を拭う姿は、実に痛々しい。つい先刻まで苦しみ、無理やりにその苦痛と対面しなければならないのだ。2度、3度と落ち切らない残滓を擦って取るたびに腹の具合を再認識する。
「よしっ」
 便器の水面をふやけた白色が埋め尽くしていた。ウンコのときはやや余分に紙を取るくせがあるらしく、水分を吸った紙の体積は桃瀬の大便の量と肩を並べている。
(お腹痛いのに、あんま出なかったな……)
 桃瀬は3日に1回程度の排泄リズムなので、そこそこの量をまとめて排便する。いつものパターンと比べると全然出ていない感触だったのだろう。急な腹痛は量など関係なしにしたくなる。
 先に水を流し、ショーツもろとも短パンを穿き上げて……
  グゥゥッ……
「……うそぉ」
(今更、出るのっ!?)
 充分に後始末を終え、身なりも整えた直後だった。
(これくらいならすぐに引っ込む、かも)
 ドアノブに手をかけ、鍵を外し、ドアを開けて……硬直。
 数秒の逡巡の末、桃瀬は便座に座り直した。
 時間を天秤にかけてでも、絶対弱者であることに変わりはなかったのだ。

     * * *

 コタツでぬくぬくしていると、ウンチしたかったのが引いていきました。
 あれ、大丈夫なのかな。
 ウンチが出る寸前みたいな感覚はあるけど、だいじょぶそう。
 そうやっておトイレに行かないでいると、またウンチがしたくなりました。
 さっきよりも、ずっと強い便意です……。
 今度こそ、おトイレしなきゃ。
 やっぱり、食べ過ぎちゃったのかなぁ。お腹、張ってるし。
 そういえば今日の朝はお寝坊してウンチ、してない。だから今になって催しちゃったのかも。紫は早起きしないとウンチできないから……。10時くらいに起きておトイレに行ってもおしっこしかしたくなかったし。朝にウンチしないのへんな感じだからすごいうんちしたかったのに、便意がなくて。おトイレが寒いのがまんしてきばったけど、小っちゃいのがぽとんって、ちょっとした出なかったの。
「さむいなぁ」
 ウンチ、ウンチ……。
 おトイレに行くと、また誰かが使用中みたいでした。
「え、そんなぁ」
 私もすぐにおトイレ、したいのに。
 ドアのまえで足踏みしていると、ぼちゃぼちゃ……と柔らかい落下音が。
 あ、うんちしてる……のかな。
 もしかして、紫がおしっこしにきた時に入ってた人かな? なんか調子悪そうだったし。
 待ってようかと思ったけど、早くしたいよぅ。
 私はこんこん、とノックして、
「あの、まだですか?」
 と聞いてみました。すると、
「え、紫……?」
 なんとお姉ちゃんの声が返ってきました。
 どうやら、うんちしてるのは、お姉ちゃんみたい。
「うん。……おトイレ、まだ?」
「ごめん、まだかかりそう。……はぁっ、う〜ん。紫、我慢できる?」
「ええっと、紫もウンチ、したいの。早くしてよぉ」
「ええっ、あたしもうんこだから、まだかかるよ。それに今トイレ入ったばかりだし……んっ」
 そ、そんなぁ。紫も早くうんちしたいのに。
「う、ううぅんっ」
  びびっ ぶちゅぶびびびびびちゅっ! ぶりぶりぷりぷり!
 すごい、下してる……! お風邪引いたときみたいな、びちびちなのしてる……。
「ちょっと食べ過ぎちゃったかな、はは……。ふぅ、ん」
「ごめんね。我慢できないなら、」
「うん、いいの。お姉ちゃんおトイレしててっ。紫、まだがまんできるから……」
 きっとお姉ちゃんはお腹痛いのがまんしておトイレ交代してくれるって言いたかったんだと思う。でもお姉ちゃんが先におトイレしてたんだから、邪魔しちゃだめ。
 紫、まだがまんできるから……だから早く済ませてね。
 まだお家だからいいけど、学校だったらがまんできないよ……。
 紫はいつも朝にウンチ出るから学校でしたくならないけど、お風邪とか引いたときはおなかの具合が悪くなって、学校でウンチしたことがあります。
 学校でウンチするとお友達が「ゆかりちゃんウンチ?」って変なことしたみたいに聞いてくるから、あまりしたくなかったけど……。あまり人のいないおトイレ行きたかったけど、ずっと教室でおなかいたいのがまんしてて、遠いおトイレまで行けそうになかったんです。
 ウンチがしたくなったのは昼休みで、おしりをしめながらおトイレに行くとお友達とかがいました。ウンチしたのおかしく言われるの、ヤだったけどおもらししたらいじめられるかも知れないし……紫ははずかしいのがまんしてウンチしよう、って決めたんです。
 だけど、その、おトイレ――空いてなくて。一番奥にある洋式トイレ、今みたいに誰かが使ってたんです。
 和式のトイレは空いてたけど、しゃがんでウンチするの、苦手なんです。
 紫、ウンチは洋式みたいに座ってじゃないと、できないんだもん。
 しゃがんできばるのは辛いし、足が痛くなって後ろにウンチこぼしちゃうし。
 洋式空くまで後ろで待ってたんですけど、もうウンチも出そうだったんです。だからおしりのあなをぎゅうぎゅうにしめて、ウンチしたそうなのがバレないように立っていました。
 紫、ウンチがしたいんです! 座ってじゃないとウンチできないんです! だからはやくかわってくださいって、心の中でお願いしました。
 中に入ってる子がトイレットペーパーを取り始めたからもうちょっとだと思ったら、ウンチがもうちょっとで出そうになって。和式トイレに駆け込もうとしました。
 だけど、1回和式でびちびちの下痢を外しちゃったのを思い出して、がまんしてしまいました。結局あのびちびちウンチはお母さんにきれいにしてもらったけど、学校で失敗したらきっとクラスの噂になっちゃうよぉ……。
 でも紫は最後までウンチをがまんできて、洋式でウンチができました。
 出てきたのは紫のお友達で、すぐに入れ替わってウンチをしたら、「ゆかりちゃん、ウンチなの?」って聞かれちゃいました……。
「う、うん」
「おなか、こわしたの?」
「えっと、風邪っぽくて、それでお腹いたくて。えっと、ウンチ、したくなったから……。それに紫、しゃがんでウンチできないの。だから、その」
「あ〜ごめんね」
 からかってくるかと思ったら、あやまられちゃった。
「もっと早く代わってあげればよかったね、ごめんごめん。具合、大丈夫?」
「うん、だいぶスッキリしたから……。悪口言ったりしないの?」
「だって下痢ピーなら仕方ないもんね。みんなには黙っておくから、ゆっくり済ましなよ」
 あの子とお友達で、ほんとによかったです。
 我慢の甲斐あって、ちゃんとウンチできたんだもん。
 今日も、大丈夫だよね?
「う、くぅ」
  ブリリ、ブボボッ! プリッ ボチョボチョチョッ!
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
「う、う〜ん。ふぅ、だめかも……。……っん!」
  バビュ――ゥッ!!
「ご、ごめん……」
 すごいおなら……。お姉ちゃん、すごい苦しそう。
「うふぅ、う〜〜ん!」
  びっ くちゅくちゅ ぶりぴりりりりり
 お姉ちゃん、がんばって。じゃないと、紫も……
  ゴロゴロゴロゴロ〜〜〜!!
「はぁ、はぁ……ん」
 紫もウンチしたいよぉ。もう、出ちゃいそう……っ。
「待ってね、もう済むから。――ふぅーん、ふぅ〜ん、う〜〜ん、んっ!!」
  ブボババビリビリビリリリリ! ブリブリビチビチブボチャッ!!
 お姉ちゃんが思いっきりきばると、すごいウンチの音が。
「はぁ、はぁー」
 も、もう出たのかな?
 ドア閉まってるのに、お姉ちゃんの下痢の臭いがする……。でも紫も次にはおんなじようなのするんだし、お互い様だよぉ。
  ガラッガラララララララ、ビッ!
 お姉ちゃん、お尻拭き始めたみたい。紫ももうちょっとでウンチできるよぉ……。
  ゴロゴロゴロ〜
 早く、ウンチ、ウンチ。紫もおトイレしたいの!
「はぁ、スッキリしたぁ」
 水を流す音と同時に、おトイレが空いた!
「はやくぅ!」
「っと、ごめんごめん。あ、紫ちょっと待って」
 すぐにどいてくれたので入れ替わりざまにおトイレに。もうウンチでちゃうのに待ってられないよ!
 うあ……お姉ちゃんの下痢の臭い、すごい。
 そんなこと言ってられないよ、ウンチ、紫のびちびちウンチでちゃう!!
 ドアをしめてパンツとズボンをいっしょにおろしておしりを便器に向けてあっお姉ちゃんフタ閉めてる開けててくれてよかったのに、フタも持ち上げてしゃがまなきゃああウンチ出ちゃう出ちゃう出ちゃうウンチ――
「待ってってば! 紙、切れてるよ!」
 ようやくウンチできる――えっ?
 紫は中腰のまま、立ちすくんでしまいました。
 ほんとだ、ホルダーに、トイレットペーパー、ない……。
「ちょっとさ、あたしが使い切っちゃって……」
「はやく言ってよぉ! それじゃウンチふけないよぉ〜」
「お姉ちゃん取ってくるから! ちょっと待っててよ」
「ならウンチするの止めないでよぉ。もうウンチガマンできないし、するよ!?」
「紙渡すときにトイレ開けてもいいんなら、別にいいけど……」
「はっ早くしてぇ〜」
 お姉ちゃんはトイレから駆け足気味に出ていきました。確かトイレットペーパーって納戸に掃除機とかと一緒にしまってあったっけ……。
 うぅ〜ウンチしたいよぉー。もう座ってしちゃおうかなぁ。
 でっでもウンチしてる最中に紙もらわなきゃだし、そしたらドア開けなくちゃだめだよね? 紫のウンチ見られちゃうよぉ〜! も、もうちょっとだけ我慢できるもん。すっごくウンチしたい感じだったのがちょっとだけ引いたので、まだ大丈夫そう。
 パンツを上げてドアを半開きにして待っているとロールを3つ抱えて戻ってきました。
「待たせてごめんね! はい」
 半分開いたドアの隙間からロールを差し込んで床に積んでくれました。トイレの中にあればウンチを済ませてからでもホルダーに入れられるし、もういいよね!?
「じゃ、私部屋に戻るからね」
「うんっ」
 もっもうだめぇ〜〜! やっとウンチできると思ったら急に出そうになっちゃったよぉ!
 便器に背を向けて急いでパンツとズボンを下ろして後は座るだけ――
「ぅあ……」
 突然便意が急激に押し寄せてきました!
 だ、だめ。ちょっとでも動いたら、出ちゃう。
 紫のお尻から、でちゃう。
 なにって、その、……ウンチが。
 朝から溜まってる紫のウンチが、今出ちゃったらおトイレ汚しちゃう……っ。くはぁ。
 ちゃんと座ってからしないと、和式と同じみたいに汚しちゃうよ。
 出ないで、出ないで……。紫は必死におしりの穴を引き締めます。
 やっ、出る。
 …………。
 ふあぁ。
 んっ。
 う。
 ウンチが、引いた! 今のうちに座って!!
 急いで便座に座ってお尻の力をゆるめると、せきとめられていたウンチが一気に押し寄せてきて――
  ――ミチミチニチュニチュッ!!
「ふうっ……」
 はぁ〜〜〜! 間に合ったぁ〜! ウンチがこんなに気持ちいいなんて……。
  ガチャッ
「――ふぇ?」
 えっ、ドア、開いた? 紫が瞑っていた両目を開けるとドアノブを握ったまま驚いた表情で立ちすくむ――朱美お姉ちゃんがいました。
 あっ鍵かけてない!
「あ、えっ、閉めてくださいっ!」
「えと、あ! ごめんね!」
 朱美お姉ちゃんはすぐに気付いてドアを閉めてくれました。
 ゆ、紫がウンチしてるの、見られちゃったぁ。
「ごめんなさい、朱美お姉ちゃん……」
「うん、私こそノックしないで、ごめんね」
「学校とかではちゃんと鍵かけるんですけど、お家だったからつい……。お姉ちゃんにもしかられるんだけど、つい忘れててっ」
 ウンチのときはちゃんとかけてるのに、慌ててたから忘れちゃったんだ。
「うん、私こそ、ほんとにごめんね」
「トイレですよね!? お腹痛くて、まだかかりそうで、えっと……」
「待ってるから、早くしてね?」
 すごい辛そうな声だ。もしかして朱美お姉ちゃんもウンチしたいのかな?
「はい、すぐに済ませますから」
 まだまだウンチしたい感じだから、急がないと。
「うぅんっ」
  プリプリプリプリ、ボトボトボト!
 ちょっとやわらかめのウンチが、いっぱいでます。
 うっ、すごいくさい……。
「あ、でも、ゆっくりう……うんちしてていいからね?」
「えぇっと、あの、今日はちょっと食べ過ぎちゃって、だからその……ウンチしたくなっちゃって」
 いつもよりご飯が豪華だったから、お腹満腹になるまで食べてしまったんです。
 お姉ちゃんもいつもは1杯だけなのに、2杯もおかわりしたからお腹壊しちゃったんだ。
「ホントは早く済ませたかったんですけど、トイレに来たらお姉ちゃんが先に入ってて、紫もウンチしたかったのに、お姉ちゃんもウンチしてて」
 姉妹そろって食べ過ぎで下痢して、恥ずかしいよ。
「それでお姉ちゃんがトイレ終わるまで待ってて、それでさっき空いたから、その」
  ピ〜ゴロゴロ
「うん、ううん」
  ブリミチミチチチブリュリュッ!!
 まだ柔らかいの、でる……。ウンチ、まだ出そう。
「紫ちゃん、大丈夫?」
「ぴーぴーウンチで、ちょっと……はぁっ。おなかいたい」
 一番さいしょのウンチは朝にいつもするような普通のウンチだから、きっとこれからぴーぴーなの、出る。
「ん、ぅ!」
 まだウンチでそうなのにきばっても中々でないよぉ〜。
「紫ちゃん、まだ、かな?」
「まだウンチが出そうです……ごめんなさい」
 朱美お姉ちゃんもウンチしたいんですよね? もうちょっとだけ、もうちょっとだけ紫にウンチをさせてくださいっ!
「あのっ、今日は紫お寝坊して、朝にウンチしてないからっ……いっぱいしたくて、もうちょっとだけ待って、ください」
 声聞かれるの恥ずかしいけど、しっかりきばっておトイレを空けてあげなくちゃ。
 お膝に手を置いて、お腹に力を入れるの!
「うん、はぁー、う〜ん……」
 くる、くる……。
 ウンチ、出るのっ!
  ブリブリビチビチビチブジュリィッ!!
  ブバババボチョボチョ ブパパパッ!
  プシュゥ〜〜〜!
 ぴーぴーの下痢が、すごいいっぱいでたぁ〜。
「うん、ふぅん、ん〜っ」
  ぶびちっ! ぷっ ぷすぷす ぶぷぷしゅっ
 やっとスッキリしたかも。おなかがぐるぐる〜っていたいのが引きました。
「ウンチ、出終わったみたいです」
 膝まで下ろしてあった衣類を全部脱ぎ、中腰で立ち上がります。ずっと素足だったのでスリッパを履いて、床に積んであるロールを2つ窓際に並べて、もう一個は空のホルダーにはめ込みます。トイレットペーパーの芯を外して新品のロールを入れて、と……。
 朱美お姉ちゃんの足踏みが聞こえる。早く代わってあげなくちゃ。
 紙をぐるぐる巻きとって、おしりを突き出してぐにぐに。すごいべっとりとした感じだったので見てみると、紫のべっとりしたウンチがペーパーの半面にべちゃって……。折りたたんでもう1度拭います。
 ウンチのときはパンツとか全部脱がないとじょうずに拭けないから、おまたがすっごく寒いよ〜。がに股になって足を開いて、お尻を出して奥までしっかりと拭くの。
 ぐり、ぐり。びちびちのしたからすぐにきれいになんないよ……。4回くらい紙を千切ってお尻のあなを拭いて、やっときれいになりました。
 ウンチするだけでこんなに疲れるなんて、もうぐったりだよ。
 パンツとズボンを穿き直して、お水を流しました。
 すごい……びちびちなウンチでいっぱいだよぉ。
 あ! 早く出てあげなくちゃ。
「朱美お姉ちゃん、お待たせしました……」
 スリッパを脱いでトイレから出ると、朱美お姉ちゃんはもう我慢できないって危機迫った表情で身もだえしていました。
「ごめんなさい、ウンチしてたから、くさいですけど――」
「急がせちゃってごめんね!」
 紫とすれ違うようにトイレに駆け込み、数秒としない内に便座に座ったかと思うと……
  ゴ――――ン!!
  ブリブリブリブリミチミチミチッ!!!
 新年の鐘の音と共に、朱美お姉ちゃんのウンチの音が――!!
「あっはあぁぁぁ〜〜〜〜っ」
 やっぱり朱美お姉ちゃんも、ウンチしたかったんだ……。
 すごい、お腹下してる。私なんかよりもぴーぴーなんだ。
 紫は心地の悪さを感じたので、急いで手を洗ってトイレから出ました。
「ハッピーニューイヤー!」
 お姉ちゃんの声だ。それに遊びにきてたお友達も一緒に新年をお祝いしてる。
 そっか、年越しちゃったんだね。
 紫、おトイレで新年迎えちゃったよ。
「すっきりしたし、もう寝ようかな……」
 ウンチしてたらどっと疲れたのか、もう眠くなってきました。
 今日はずっと夜更かししようって、決めてたのに……だけど、もう、眠いの。
 お部屋のお布団に無造作に潜ると、眠気がすぐにきて――。
 明日はいい夢を、見られますように。


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