No.01「むさしの書房」

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「ねえ、この本見て。『みんなうん○』だって!」
「ちょっと、みずきったら、そんな大きな声で言わないでよ。誰かに聞かれたら恥ずかしいじゃん」
「平気よ、だれもいないもん」
 僕は本棚の裏側で、少女たちの無邪気な声を聞きながら、ほくそ笑んでいた。
 ここは僕が大学を卒業すると同時に両親から任された書店である。
 事務室と隣り合わせの本棚に、こんなタイトルの絵本を置いたのは、時々訪れる少女たちの反応を楽しみたいからだ。
 「みずき」と呼ばれた少女は最近よく訪れるようになった。
 毎月買っていく学習雑誌の対象年齢からすると、彼女はおそらく六年生だと思われる。
 しかし小柄で童顔な彼女はもう少し幼く見えた。
 髪型はたいてい長めのポニーテールで、ぱっちりした目と小麦色の引き締まった肢体とあいまって、いかにも少女らしい魅力を振りまいていた。
 そんな彼女が、友だちと一緒に下品な話をしている。それだけで僕はたまらなかった。
 実際、これくらいの年齢の少女は、子ども時代の延長で排泄に強い関心を持っているが、大人や異性の前では羞恥心が先に立って、絶対に「う○ち」などという言葉は口にしない。
 しかし、同性の親友どうしなら、心理的な壁を取り払うのも難しいことではない。
 僕は数年前に大便ネタを連発するローティーンのアイドルを見て以来、そのことを確信していた。
 それにしても、今日は予想外の収穫だった。
「そういえば、みずき、便秘だって言ってなかった?」
「うん、去年くらいからひどいの。今日だってもう4日目だもん。お家でトイレ入ってると馬鹿兄貴がからかってくるでしょ。学校だと恥ずかしいから、お昼休みか放課後に他の階のトイレ行くんだけど」
「そうか、それで最近は、一緒に縄跳びしないんだね」
「うん、でも、休み時間にトイレでしゃべってる子たちって、いるでしょ」
「自分がう○ちしたい時にああいうことされると、むかつくよね」
「そうそう、それで仕方ないから他のトイレ行くじゃん。やっと誰もいないトイレ見つけて頑張ってたら、授業始まっちゃうの。もし遅れて先生に理由聞かれたら嫌だから、結局うん○できないんだよね」
「1組の子が、正直に『トイレに行ってました』って言ったら、次の日から男子が『う○こ女』って呼んでくるらしいよ」
「男子ってほんと、うざいよね」
 ふたりはなおも僕の劣情を刺激するような会話をしながら、絵本を眺めていた。
 と、その時僕にとって奇跡といえる出来事が始まった。みずきがだしぬけに言い出したのだ。
「なんかあたしトイレに行きたくなっちゃった」
「もしかして、おっきいほう?」
「うん、時間かかりそうだから、先に文房具屋さん行っててくれない?」
「いいよ。頑張ってね」
「ありがとう」

 僕は二人の会話を聞きながら、すでに行動を起こしていた。
 僅かな可能性に賭けて、日頃から色々と準備はしてあったのだ。
 みずきはおそらく、レジにいるアルバイトの女性に許可を求めてから、店のトイレに行くだろう。
 そうすると、先回りする余裕はじゅうぶんにあるはずだ。
 店のトイレはレジからも離れて奥まったところにあり、女性も気軽に利用しやすいように、外扉にも鍵がかかるようになっていた。
 みずきも小用で何度かここのトイレを利用しており、そのことは知っているはずだ。
 僕がトイレの外扉をあけ、掃除用具入れに滑り込むと同時に、誰かがトイレにやってきた。
 実のところ、この「掃除用具入れ」には、ろくな掃除用具など入っていない。
 店舗の清掃は店長の仕事ということにして、このボックスの鍵は僕だけが持っているのだ。
 ここに用意してあるのは、カメラ・録音機のスイッチと長時間の滞在に備えた椅子、それに水道のバルブだ。
 トイレにやってきた人物は、外扉に鍵を掛け、個室に足早に駆け込んだ。
 扉の隙間からちらりとみえたスニーカーで、みずきであることが確認できた。
 みずきが個室の扉を閉める音に合わせて、録音・録画のスイッチを押す。
 腕時計を見ると、午後3時25分だった。僕のこれまでの人生で最良の時間が始まろうとしていた。

 みずきは、用心深く、個室の扉にも鍵を掛けた。その用心が全くの無駄だとも知らずに。
 ジーパンと下着を下ろして、洋式便器に着座する音が聞こえる。
「ふっ」
  じょおー じょぼぼぼ ぼしょぼしょ
 かすかな息み声に続く、少女らしい放水音。しかし、それはすぐに止んでしまった。
 と、わずかな間をおいて、
「うっ うん うん……」
 先ほどよりは音量が上がり、音域は一オクターブほど下がった、みずきの息みが聞こえてきた。
 ふだんのいかにも少女らしい声とはうってかわって、大人の女性を思わせる、妖艶な息み声だった。
「うん、はあぁ うっ うん」
  ぷしゅう〜
 さすがに二重の鍵に安心したのか、みずきは音消しをすることはなかった。
 彼女の恥ずかしい音は、全て高性能の録音機が捉えているはずだ。
「うん ふん、ふっ ふん」
  ぶほぉ!
「はあ、くっ うううん」
  ぷすー
「ふ〜」
 はじめの5分ほどはこんな調子で、液体と気体ばかりの排泄が続いた。
 しかし、彼女が本当に出したいのは、その愛らしい腹部の奥に隠された、どす黒く、悪臭を放つ固体に違いないのだ。
「はぁ、もう、お腹痛いのに全然出ないじゃん……」
 みずきの直截的な独り言は、僕の下半身を刺激するに十分だった。
 続いて、ごそごそと衣擦れの音がする。どうやら下腹部をマッサージしているようだ。
「ふっ う〜ん、うう〜ううん。はぁっ」
  びちょ びちょ
 肛門を傷めるのではないかと心配になるほどの強い息みに続いて、わずかに残っていた尿がしたたる音が聞こえた。
 そしてまた腹をさするような音。今、少女の腸は大便の袋にすぎない。
 あの可愛らしい少女が、生理的欲求に負けて、こんなにはしたない排泄行為をしているのだと思うと、僕は「掃除用具入れ」を飛び出して、すぐそばにある個室の鍵をぶち破ってしまいたい衝動に駆られた。
 しかしそんなことをしては、僕は全てを失うことになる。
 そんなことにならない最高の楽しみ方は、すでに計画済みだった。
 罪の意識よりも冷徹な計算が、僕に凶行を思いとどまらせた。

 その時、個室内に変化が訪れた。
「ううん、うっ」
  めきめきっ
「くはぁ うん う〜ん」
  みちみちっ
「はぁ、もうちょっと……」
 みずきを足掛け4日にもわたって苦しめたその物体が、いよいよ少女の最も恥ずかしい器官からその姿を現したようだ。
「むぅ〜 うん、う うん」
 みずきは、今どす黒く太い便塊を肛門から覗かせいるか、あるいはすでにある程度の長さのものをぶら下げながら、息んでいるのだ。
 彼女の顔が息みで紅潮し、醜く歪む様を想像すると、どうしても僕の手は下半身に行ってしまう。
「ふん!」
  ぼちゃん
「くはっ」
 どのくらい時間が経っただろう。
 みずきはひときわ強く、鼻にかかった息み声とともに、ようやく巨大な塊を着水させることに成功したようだ。
 しかし休む間もなく腹圧をかけているのが伝わってきた。
「うっ」
  みちみみち
「くう」
  にちちち
「うん」
  むりむりむり
 彼女の大腸に蓄えられていた大便が一気に流れ下る。
 いつ果てるとも知れない大量の便は、便器の水溜りには収まりきるはずもなく、やがて濃厚な便臭が漂い始めた。
  むりむりむり ぼちゃん ぶり ぽちょん
「ふう。はぁ、」
 みずきの排泄がようやくひと段落したところだった。
  トン トンッ
 外扉がノックされた。
 個室の中のみずきが羞恥に息をのむ様子が、手に取るようにわかる。
 彼女が返事できないでいると、再びノックの音に続いて、アルバイトの女性の声がした。
「『みずき』ちゃん、いるかしら?」
「はい、います」
 名前を言われては、無視することもできず、みずきがおどおどした声で答える。
「あの、お友だちが心配してるんだけど、大丈夫?」
「はい、平気です」
「そう、良かった」
 僕が時計を確認すると、すでに彼女は20分以上の長トイレをしたことになる。
 彼女の友人が待ちくたびれるどころか、心配して様子を見に来るのももっともだ。
 アルバイトの女性はさらに問いかける。
「すぐ出てこれる?」
「ええっと、すぐは無理です」
「そう、じゃあ お友だちにはそう伝えておきますから、ごゆっくり」
「あ、ありがとうございます」
 みずきは、多少幼い部分があるとはいえ、賢い少女だ。
 女性がずいぶん前から外扉の前に立ち、彼女の恥ずかしい音が止むのを待って声をかけたことにも、おそらく気付いているだろう。
 また、彼女は(おそらく小学生にとっては記録的な)長トイレをして友だちを待たせてしまった。
 いくらシモネタを交わせる間がらとはいえ、友人と顔をあわせるのがきまり悪いにちがいない。
 そんなみずきの心情を思うと、激しい欲望が湧いてきた。

  カラン カラン カラン ビリ
 みずきはトイレットペーパーを巻き取って、後始末を始めた。
 彼女の未成熟な尻と、便座との間には大きな隙間があるらしい。
 彼女は便器から腰を上げることなく恥部を拭き清めた。
 と、彼女の手がとまる。また腹をさすっているような音に続き、
「くっ ふん」
  ぶりっ ぶりっ ぶぱぱぱ〜
 下品な破裂音とともに、新鮮な便臭がトイレの中に広がった。
「あぁ うん」
  ぶりりりり
 みずきは突如、下痢に近い軟便を放出し始めたのだ。
 僕は便器の水面を被うペーパーの上に、茶色い洪水が襲い掛かる様子を想像した。
 どうやら彼女の腹痛の原因は、硬質便の圧力ではなく、この汚泥だったらしい。
 それにしても臭い。濃厚な便秘臭に加えて、鼻を刺すような下痢臭に、僕はどうにかなってしまいそうだった。
 しかし、最後のそして最大の快楽の前の試練と思って耐え続けた。
  ごろごろごろ〜
「ふん、ううん」
  ぶりりり〜
 臭いに慣れてくるにつれて、少女の腹なり・うめき声・排泄音の連鎖がまるでスパイラルのように、僕の快感を高めていった。
 と、その時、みずきのかばんの中で携帯がなった。
 みずきは息みながら、軟便を絞り出している最中だったが、お腹に力を入れるのをやめ、かばんに手を伸ばした。
 着信を確認してから、しばし躊躇しているようだったが、
「あ、もしもし、はるかちゃん? え、まだトイレだけど」
  ぐぎゅ〜
「ふっ うん、大丈夫だよ」
「え〜言いたくないよ」
  ぐるるる
「あぁ、ほんとはね、今朝牛乳を思いっきり飲んだの」
「どれくらかなんて、覚えてないよ。とにかく、うん○出したくて」
「だって、便秘よりましなんだもん」
  ごろごろ
「え〜待ってなくていいよ」
  ぶりっ
「うくっ わかったよ、じゃあ文房具屋さんの前ね。うん、絶対行くから。じゃあ、もう切るよ」
  ぶりりり ぶぱっ びちちちち
「かはっ くぅ はー はー」
 彼女が通話を終えると同時に、下品な爆発音が響きわたった。
 親友の心遣いも、急速に腹具合を悪化させつつある少女にとってはありがた迷惑にちがいない。

「ふ うん」
  びち
「はあ……うん……うん」
  ぶぴゅ
「くはぁ」
 下痢便の爆発はおさまったものの、みずきはまだ腹が渋るらしく、息みながら小出しに排泄を続けていた。
 時計を見ると、すでに4時だった。30分以上職場を空けたら、さすがにアルバイトの女性に不審がられるだろう。
 僕は、みずきの排泄が終息に向かいつつあるのを確認すると、水道のバルブを閉め、抜き足差し足で、「掃除用具入れ」を出て、外扉のほうに向かった。
 ポケットから本当は必要ないマスターキーを取り出すと、外扉の鍵を中からあけた。
 もちろん、トイレが長時間使用中なので、安全確認にやって来た店長を装うのだ。
「んっ」
  ぷぅ〜 ぶぴっ
「ふー」
  ガラガラ ガラ
「失礼いたします」
 僕は容赦なく、みずきが悪臭と恥ずかしい音を生み出している個室に歩み寄り、ノックする。
  コンコンッ
「お客様、大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
 みずきの声は、のっけから潤んでいるように聞こえた。無理もない。
 先ほどは女性に外扉の向こうから、優しく声をかけられただけだったが、今度は男性の店長がずかずかとトイレの中まで入ってきて、個室の扉ごしに話しかけてくるのだから。
「お客様、当店では最近万引きやトイレ内でのいたずらが相次いでおりまして、お手洗いが30分以上使用中となる場合は、一度中の安全を確認させていただいております。申し訳ありませんが、すみやかに出てきていただけませんか?」
 そんなとんでもない書店ならとっくに潰れているはずなのだが、羞恥と恐怖で半泣きの小学生は、簡単に騙された。
「えっ、あの私万引きなんてしてません」
「ご協力いただけない場合は、警察を呼ぶことになるかと思いますが」
「わかりました。出るから少しだけ一人にしてください」
 高性能のカメラがある限り、彼女はひとりになどなれないのだ。僕はすぐに妥協して外に出た。
 そして、その足でレジに行き、アルバイトの女性に、実はあの小学生がトイレを詰まらせてしまった。
 ついては今日は近所のコンビニでトイレを借りて欲しい。
 社員でもないあなたに迷惑はかけられないから、トイレの清掃と、修理の手配は店長の自分が行うと告げた。

 残る下痢便を搾り出して大急ぎで後始末をしたみずきは、自分の最も恥ずかしい生産物が流れないので、途方に暮れたにちがいない。
 僕の再度の声かけに、渋々トイレから出てきた彼女は、僕と目をあわせようともせず、早口にこう言った。
「すみません、本当はトイレに入ったら、前の人のが流れてなくて、それで困ってたんです」
 余りにも見え透いた嘘だ。彼女は30分以上個室に篭り、僕とアルバイトの女性に汚らしい音を聞かれているのだから。
 しかし少女のけなげな嘘は、僕の劣情をさらに刺激しただけだった。
「お客様。当店のお手洗いの出入りは、防犯カメラで録画しております。お手洗いの清掃確認も頻繁に行っていますから、誰がトイレを汚したのかはすぐにわかるんですよ。本当のことを言っていただけますか?」
「ごめんなさい、ほんとは私がしたんです。ぐすっ ぐすっ え〜ん」
 まずい、追いつめすぎたようだ。このまま親にでも報告されたら、僕の悪事がばれてしまう。僕はなるべく優しい口調に切り替えた。
「そんなに泣かなくてもいいんですよ。本当は何があったんですか? お腹の調子が悪かったんじゃないの?」
「ええ、そうなの。ぐすっ、お腹が痛くておトイレを借りたのに、お水を流そうとしたら、全然流れないの! うぇーん!」
「ああ、それなら、最近続いているいたずらです。大丈夫、犯人はすぐにわかるはずだから、あなたはもう帰ってもいいですよ」
「え、ほんとうですか? ぐすん」
「ええ、嫌な思いをさせてごめんなさい。ほら。『○学6年生』の今月号だよ。お詫びにただで差し上げます」
「でも、ただでもらったら、ひっく、親に叱られます」
 きちんとした家庭のようだ。
「トイレが壊れていて、不愉快な思いをさせたお詫びだと言えば、お家の方も分かってくれるんじゃないかな?」
「うーん、そうか。どうもありがとう」
 僕は彼女の体調を気遣って、お腹の薬と温かい飲み物を与えて、彼女を帰した。
 その後、みずきの母親が店を訪れたことがあった。
 今まで知らなかったのだが、彼女の両親はこの商店街に和菓子の店を出しているらしい。
 みずきとの接点が切れなかったことに、僕はうれしくて仕方なかった。
 親切にしていただいた御礼と、トイレを汚したお詫びだと言って、現金を包んで渡そうとするので、僕は固辞した。
 すると、翌日またやってきて売り物らしい菓子折りを置いていったので、それはありがたく頂戴した。
 娘の排泄を覗かれ、盗撮までされて、礼を言う親などいないだろうと思うと、この時ばかりは変態性欲者の僕も胸が痛んだ。

 12歳のみずきがトイレに残していったものと、記録された映像・音声は末永く僕の宝物になることだろう。


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