No.03「個室での個別指導」

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 大学生のころ、個別指導専門の学習塾でアルバイトをしたことがある。
 深夜まで教材準備に追われたり、長期休暇もないほど忙しかったのに、僕が3年余りもこの仕事を続けたのは、生徒と講師が使うトイレが和式の共用便所だったからだと思う。
 このトイレを嫌って、飲食店などが入っている別のフロアまで用を足しに行く女子生徒も多かった。
 だが、女子小学生などが出てきたあと、便臭や便器の汚れが残っていると、僕は密かな悦びを味わうのだった。
 大学3年の夏休みが終わるころ、父から本格的に家業の書店経営を手伝うようにと求められ、アルバイトをやめることにした。
 8月の末、担当していた生徒たちの引継ぎも終わり、いつになく暇な日を過ごしていると、突然教室長から電話がかかってきた。
 経理を任されていた女性が夏風邪をこじらせて入院してしまい、このままでは月末の給与計算が間に合わないという。
 文学部卒業の教室長にとっては、僕の学ぶ経済学も、学習塾の経理も同じようなものに見えたのだろう。
 半日ぶんの日当を出すから、今すぐ来てくれという。僕も家でごろごろしているよりは良いかと思い、ふたつ返事で引き受けた。
 この日の臨時出勤が半日ぶんの日当どころではない素晴らしい報酬をもたらすとは、知る由もなかったが。


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 その日は通常の授業日ではなく、一部の講師が補習を組んでいるだけだったので、教室は閑散としていた。
 ふと、奥の授業用ブースを見ると、英語の鈴木先生が西園晴香に補習を行っていた。
 鈴木先生は年のころ60歳くらいの大ベテランで、もとは高校でフルタイムの教員をしていたが、遅い結婚を期に退職し、子育てを終えた後、もと教え子だった教室長に請われて塾講師になった女性である。
 厳しい指導の中にも、慈母のような優しさと気品があり、特に女子生徒からの人気が高かった。
 さて、生徒のほうだが、僕は西園晴香の顔を見たときから、めんどうな仕事を引き受けて良かったと思い始めていた。
 晴香は近所でも有名な資産家の娘で、幼稚園から大学まであるミッション系の女子校に通う小学6年生だった。
 この学校では、当時すでに小学部から英語の指導が行われていた。
 晴香は成績優秀な生徒だったが、おそらくは内気な性格のせいもあって英語がいまひとつだったので、鈴木先生の指導をうけていた。
 色白で、細身、日本人にしては明るい髪は、僕好みのツインテールにまとめられていた。
 しかし、そんな外面的なことよりも、僕は晴香が振りまくローティーンの少女特有の魅力に参っていた。


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 異変は突然に起きた。問題を解いていたらしい晴香に鈴木先生が声をかけた。
「西園さん、今日は集中できないみたいね? もしかして、お腹の具合でも悪いの?」
「え はい。でも、平気です」
「我慢は体に毒ですよ。早く行ってらっしゃい。今日は男の生徒さんはひとりも見えていないはずだから……」
 僕は鈴木先生が優しく諭す言葉を最後まで聞いてはいなかった。大急ぎでトイレに向かって駆け出していた。
 トイレの構造は和式の個室と洗面台、それに掃除用具入れが1つずつで、女性が使用する時は外扉に「女 使用中」という札を下げて、男性が洗面台も使わないように配慮していた。
 僕はとっさに頭を働かせながら、その個室に飛び込んだ。
 今日は飲食店のフロアが休業していて、階段も閉鎖されているから、晴香はこのトイレを使わざるをえないはずだ。
 予想通り、階段の扉を開けようとして誰かが虚しく奮闘する音が聞こえてきた。やがてあきらめたのか、トイレに入ってくる。
 と、個室の使用中表示を見て、晴香がたじろいでいるのがわかる。
「ふっ」
  ぎゅお〜
 苦痛のため息とともに腹なりが聞こえた。少女の大腸をどろどろの汚物が逆流する様が目に浮かぶようだ。
 そのとたん、彼女は思いがけない行動にでた。なんと明らかに誰かが入っている個室の扉をノックしてきたのだ。
  コッコン
 まるで中にいる人物(外扉の表示がないことからして男性講師である可能性が極めて高い)に、自分の切迫した排泄欲求を訴えているようなものだ。
 小さなお嬢様のなりふりかまわぬ行動に、僕の黒い血が騒いだ。
  コン コン
 僕はひと呼吸おいてから悠然とノックを返した。
  ぐぎゅ〜 ごぽっ
 晴香は何も言わなかったが、彼女の腸が、僕に早く出てこいと訴えていた。
 そこで僕は必要もないのに水洗レバーを「大」のほうにひねり、個室から出た。
「またせてごめんないさい。お、西園か。君が授業中にトイレなんてめずらしいな。塾に来る前に済ませておくんだよ」
「あ、はい。すみません」
 僕は彼女の切迫した便意に気付かないふうを装いながら、便意に苦しむ晴香を眺めた。
 彼女ははっきりとわかるほどの脂汗を浮かべ、腕はおへその位置で不自然に組んでいた。もちろん暴れ出す腸をなだめているのだろう。
 いつもなら、ほんのりと紅みを帯びているほほが、今日は真っ白だ。
「今、手を洗うから少しだけ待ってね」
「はい」
 鏡越しにちらりと盗み見ると、晴香はほとんど猫背になって、せわしなく足踏みをしていた。
 このまま決壊させるのも悪くないが、それではあまりにかわいそうだ。そう思ったとき、
  ぐるるる〜 ぎゅおー!!
 突然晴香の腹が獣の咆哮のような音を立てた。さすがに気付かないふりもできないので、僕は、
「なんだ、食事も済ませてないのか? しょうがないなぁ」
 と、とぼけてみせた。
「え、はい」
 晴香は力なく笑ったものの、完全に引きつった笑顔だった。
 僕はそう言ってトイレを出るふりをした。


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 その瞬間、晴香は個室に飛び込んだ。
  ばたん、がちゃ がさっ ごそ
  ぶぱ ぶりぶりぶり〜
  じゃー
 個室の扉を閉めて鍵を掛ける音から、スカートをまくってパンツを下ろし、汚物を噴出させる音までは、ほとんど同時に響いてきた。
 しかし、水を流すのは一瞬遅れた。
 このトイレは水洗タンクがやや高い位置にあるため、晴香のように小柄な少女は中腰にならないと水が流せない。
 そのために、今回のような切迫した状況では、音消しのタイミングがずれることになってしまうのだ。
  じょぼー ぶりりりり じょー ぶぱぱぱぱ
「ふ……うん……うん……」
 音消しの水はすぐに勢いが弱まり、晴香の押し殺した息みこえと、彼女が肛門から発射する濁流の音が聞こえてきた。
 僕はトイレの汚い床に手をついて後ろ側から個室を覗いた。
 初めて見る晴香の尻は陶器のように白く、そして小さく、左の尻たぶに茶色いほくろがあるのが愛らしかった。
 しかし、彼女がピンク色の○門を盛り上げながら排出しているのは、とても愛らしいとは呼びかねる物体だった。
 黒っぽく、粘着性の高い軟便が、ガスの暴発による中断をはさみながら、引力と晴香の腹圧によって駆け下っていた。
 本人にとっては最も苦しく恥ずかしい排泄、他人にとっては最も汚らしい排泄を、彼女は今僕の鼻先60センチのところで行っている。
 その状態特有のすっぱいような便臭が僕の鼻腔をくすぐりはじめたが、すこしも不快ではない。
  ざぱー
「う ふん」
  ぶりりっりり
 早く終わらせたい晴香は、再度音消しをすると、力を込めて息んだ。ほどなく先ほどよりもさらに水っぽく、臭い便が吹き出す。

 と、その時、
「……なんだって!」
「え〜、でも○子も、××君のこと好きだっていってたよ!」
「そしたら、三角関係じゃん! どーする?」
 ふたりの少女が、恋の話題に花を咲かせながら、トイレに向かってやってきたのだ。
 どうやら、教室長が担当する中学受験生二人組みらしい。学校は違えども、晴香と同年の少女たちだ。
 僕は抜き足差し足で、掃除用具入れに身を隠した。
 しかし、腹痛に苦しむ晴香は外界に気を配る余裕がなかったらしい。
「うっ ぐう」
  ぶち ぶりぶりぶり〜
「で、さー」
  がたん
 ふたりがトイレに入ってくるのと、晴香がはしたない息み声をあげながら、下痢便を放出するのが、ほとんど同時だった。
「う……」
「くさい……」
 ふたりは思わず声を漏らし、どちらが相手を促すでもなく、トイレから出て行った。
 しかし、ふたりの会話は丸聞こえだった。
「大きいほうするなら、『女』にしとけばいいのにね」
「きっと、お腹痛くて間に合わなかったんだよ」
「あれって、西園さんだよね」
「うん、だって今日はうちらとあの子だけだもん」
「まじで臭かったよね」
「うん、あれはお腹壊してたとしてもありえないよねぇ」
「ちょー可愛い子だし、お嬢様なのに意外だね」
「し、本人に聞こえるかもよ」
 もちろん、本人に聞こているに決まっている。
  ざばー
 晴香は自分の排泄の汚らしさに耐えかねたかのように、無意味な水洗を行った。

「うん、ふん、」
  ごきゅ〜
「はぁ」
 晴香はなおも大量の水を流しながら、息んでいた。
 しかし、腹鳴りはするものの、下痢便の噴出は止んだようである。
 本当はもっとゆっくりと排泄し、お腹を完全にすっきりさせるべきだろう。
 しかし、晴香は早く授業に復帰したいという焦りと、先ほどのような恥辱を再度味わうことへの恐怖に囚われていた。
 彼女は決然と、トイレットペーパーを取り始めた。
  カラン カラン カラン ビリ
  ゴソ ゴソ
  カラン カラン カラン ビリ
  ゴソ ゴソ
 入念な拭き取り作業は少女の潔癖さだけでなく、彼女の便の切れの悪さや、陰部の汚れ具合などを僕に想像させた。
  じゃばー
 晴香は、ようやく汚物を流しさるという、本来の目的で水洗レバーをひねった。
  じょーごごごご
  ざぱー
 水洗がなぜか繰り返されたのち、少女は逃げるように個室を後にした。


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 僕は晴香が立ち去ったばかりの個室に入ってみた。
 少女特有の甘酸っぱい体臭と、下痢の刺激臭が立ちこめ、晴香の発汗による熱気とあいまって、さすがの僕もくらくらとした。
 タイルや便器のふちの飛沫はそれほどひどくなく、またできるかぎりきれいに拭い取られていた。
 しかし、晴香に最大の羞恥心を抱かせたであろうものは、再度の水洗にも耐えて便器の中央に黒々と残る汚れと、便器の水溜りの中に付着したタール状の便に違いない。
 あんなに可愛い少女がついさっきまで、この場所で大量の脂汗さえかきながら、どす黒い下痢便を便器に叩きつけていたとは。
 その光景を目の当たりにし、これだけの物的証拠をつきつけられた今でも、納得しがたいことだった。
 僕は監視の目がないのをいいことに、「女 使用中の」の札を掃除用具入れに隠して、そこに篭り続けた。
 さっきの晴香の不完全な排泄から考えると、当然2回戦があってしかるべきだからだ。

 30分ほど過ぎたころだろうか?
  ばたばたばた
  がたん がちゃ
  がさ ごそ
 再び誰かが個室に駆け込んできた。
  ぶり ぶぱぱぱぱ〜
「はぁ〜ん」
 先ほどよりも、さらに水っぽい、下痢の音と、少女の泣きそうなうめき声。
 晴香は戻って来てくれたのだ。
「うっ ふん」
  ぶちゅちゅちゅちゅーー
「か、くはぁ!」
 激しい排泄が始まって間もなく、
  どすん
 という音が個室から響いてきた。
 僕が、扉のすきまからのぞいてみると、晴香は便器の前のバルブにつかまったまま、和式便器の縁に尻餅をついてしまっていた。
  ぶりりりり〜
 すでに意識が朦朧としていたのか、排泄の勢いをコントロールすることも、音消しをすることもなかった。
 そこへ、また先ほどの少女たちがやってきた。
「うわ、まただ」
「ねぇ、大丈夫かな?」
「うん、声かけてみようか?」
  コン コン
「西園さん、大丈夫?」
  ぶりりりり〜
「ねぇ、先生よぼうか?」
  ぶりぶりぶり〜
「はぁくう」
「やばいよ、先生呼んでくるね」


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 それから先のことは、いかに変態性欲者の僕でも、詳述するのが憚られる。
 あわててトイレに駆けつけた鈴木先生の呼びかけに、晴香は少し意識を取り戻し、個室の扉を開けることを頑なに拒んだ。
 しかし、先生の説得をいれて、扉を開けた彼女は、羞恥と焦燥のために再び失神同然になり、先生の腕に倒れこんだ。
 先生は晴香に冷たい水をかけてやるとともに、他の女生徒に指示して、お湯とポカリスエットを用意させた。
 鈴木先生が僕の臨時出勤を知らなかったのは全くの幸いだった。でなければ、僕は掃除用具入れから発見されて塀の中だったろう。
 結局は救急車を呼ぶはめになり、晴香は急性胃腸炎による脱水症状と診断された。
 僕が代役をすることになった、経理の女性も、後から風邪がお腹に来たと語っていたので、もしかすると彼女が感染源だったのかもしれない。
 ともあれ、晴香は1週間ほどで元気になり、また他の生徒があまりいない日だったためか、この出来事がトラウマになることもなかった。
 結果的に鈴木先生と晴香との師弟の絆は深まり、晴香は翌春、例のミッション・スクールの内部進学試験にパスしたということだ。


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