No.11「はじめてのおとこゆ(前編)」

 木村優香(きむらゆうか):
 主人公、五年生、セミショート、肌がきめ細やかで白い、深窓の令嬢風な容姿。
 大人しそうな見た目と裏腹に快活。口も回るが手も出やすい。でも黙っていれば美少女。
 性知識に乏しく男女の違いにかなり疎い。でも最近何かに目覚めかけて危うい。
 この間の一件が後を引いており、恥ずかしさから満を避ける日々。
 木村美空(きむらみく):
 妹、二年生、セミロングのツインテール、年相応の幼い顔立ち。
 トイレ戦争で良く負ける(漏らす)敗残兵のため、何事にも忍耐力のない甘え上手。失敗で学ぶという事をしない。
 つねに下しぎみであり、牛乳でお腹を壊すのに牛乳好き。
 そして給食には毎日牛乳が出て危うい。結果ピンクの洗面器が大活躍である。
 大野由布(おおのゆう):
 同級生、五年生、後ろをおだんご状にしたミディアムヘア。垂れ目で眠そうな印象。おちょぼ口だが開くと大きい。
 言動も服装も体形も幼く、たまに低学年と間違われる事もある。当然、脱いでも凄くない。
 名前が似てるからという理由で優香と友達になり、今では五年来の親友である。
 おしっこが近いのでたまに授業中に危うい。

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『えぴろーぐおぶぷろろーぐ』

 優香は追い詰められていた。一糸纏わぬ姿で羽交い絞めにされ、全身を攻め立てられているのだ。
 お互い裸で鼓動が分かるほどに密着し合い、その指は執拗に優香の肌の上を踊り狂って、その一つ一つに反応を引き出されてしまう。
 優香の身体はぐしょ濡れで熱く火照り、呼吸は全力疾走した後の犬のように荒く、口から出る言葉は弱々しい。
「きゃははは、くすぐったい、そこらめっ、はなっ、話したのにー」
「ほら、正直に白状しちゃいなさい。そうすれば楽になれるわよ〜」
 夜中のお風呂場で母と娘の健全なスキンシップが繰り広げられていた。
 母が身体をくすぐる度に、抱きしめられて逃れられない優香は身悶えざるを得ない。
 優香が“まよなかのぼうけん”を終わらせてから、まだ数十分も経っていない頃の出来事である。
「はいはい、裸で可哀想な女の子がいたから服を貸してあげたのよねー。で、本当は漏らしたんでしょ?」
「ちがっ、ああでもこのままじゃ、もれちゃう」
「お漏らしでパジャマ着れなくて捨ててきちゃったと」
「んふ、やめてそこまさぐらないで、さすらないで、だめー」
 優香の母の特技の一つは娘の便意を自在に引き出す事である。
 つまり一見ただのクスグリ責めのようにだが、きっちりボディケアを行なっており、その結果優香の便意が引き出されているようだった。
 お風呂場なのでやらかしても洗い流して済ませそうな腹具合ではあったが、二人がいるのは非情にも湯を張った湯船の中。ここでの粗相は自身に手酷いしっぺ返しを食らうだろう。
 ふとそこで優香は、その条件は母にとっても同じだと気付く。
「ここで出しちゃったらお母さんも汚れるんだよ! いいの?!」
「娘の汚物を嫌がる母親などおりません」
 いつになくはっきりした口調で断言し、優香のお腹を脅すように軽く押す。
「ごめんなさい」
 優香は母を見くびっていた事を思い知った。
 母にとってパンツにお漏らし程度の事は失態の内に入らないに違いない。
「も、もらしま、した」
 息も絶え絶えにそう答えてようやく母の手が体から離れる。
「よろしい。ならばおトイレを許しましょう」
 そう言って差し出したのはピンクの洗面器。楕円形というちょっと珍しい形以外は飾り気の無いソレは通称美空専用オマルと呼ばれている。
 オマルと呼ぶと美空は「これはといれだもん」と怒るが、優香にはどう見てもオマルにしか思えない。本当はオマルでさえなく洗面器なのだが。
「やだ! これミクのじゃん。ていうかおトイレでさせてよ!」
「昔は貴方も使い慣れた物だったじゃない。それにもう間に合わないわ〜〜〜よっと」
 母は優香の下痢っ娘だった過去をさらっと口にしつつ、優香の両足を持って抱え上げると、そのまま洗面器に跨がせる姿勢を取らせ、お腹を撫でさすり排泄を優しく促した。
 ブジュ、ブビジュと軽めの水っぽい排泄音がお風呂場に反響する。
 優香は下半身から聞こえる音に観念して力を抜く。
 出している意識もなく、出そうとしたつもりもないのに出ている。それもいつの間にか。母の特技はイヤというほど体で知っている。
 相手の体に気付かせずに無駄な力をかけさせないよう排泄を行なわせるという、それはまさに技術の無駄遣いだった。
 懐かしきオマル排泄に優香は恥じらいを覚えつつ、満に出会った事を隠し通せてホッとしていた。
 しかし母親は優香がまだ嘘を吐いている事に気付いていた。
 そしてその嘘のチョイスから真実を導き出そうと思考を巡らせる。
(嘘とはいえ女の子に会ったと言っている。お漏らししたなら他人に見つかるのを嫌うはずだから、普通そんな嘘は出てこないわ。つまり誰かと出会ったかのは本当……問題は誰と接触したのかよね)
 考えすぎだとは、しかしこの場合言えなかった。
 母親の指は、優香の身体が性に目覚めかけている事実も敏感に読み取っていたからだ。
(純潔は失ってないようだけど……この子の純白の肌がもし男性のモノに触れて、ソレを知ってしまったなら……)
 ブルッと体を震わせ、その恐ろしい想像を追い払う。
 数日後、その想像が現実味を帯びて襲い掛かる事になるとは知らず。


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『だついじょのかいめつ』

 いつものように学校から帰ってきた優香は、家に入るや否やその異変と原因に気付いた。
 玄関先に置いてある消臭剤が効かないほどの悪臭に、すぐ妹の美空の仕業であると察したのだ。
 そしてその勘は当たっていた。
 臭いの強い方を辿って脱衣所でもある洗面所を覗き込むと、想像以上に大惨事だった。
 端的に表現すると“汚物まみれ”である。
「何をどうすると、こんな……」
「美空ちゃんがね、こけちゃったのよ。おまるを持ったままね」
 茫然自失と独り言を呟いた優香に返答を返したのは母だった。
「……あー、なるほど」
 妹のとある習慣を知っている優香はそれで全てを理解する。
 美空は学校での用足しを嫌っている。恥ずかしさからではなく、家のトイレのが安心して出来るからという理由で。
 美空は牛乳に弱い癖に牛乳好きだ。すぐお腹を壊す癖に、毎日出る給食の牛乳を残さず飲んでいる。
 この二つを組み合わせれば下校中に下痢腹を抱えて帰る美空の出来上がりである。
 それでもいつもなら自宅までは我慢して帰って来れるのだが、玄関の扉をくぐった所で安心してしまうのか、そこでアウト。ビシャビシャー。
 そんな事が何度も繰り返されるも、美空は頑として学校で済ますのを嫌がり、玄関先にはピンクの洗面器、通称美空のおまるが大活躍となり、強力消臭剤もついでに設置されたという顛末である。
 それ以上は知らないし、知りたくもない優香だったが、母の説明によると、美空のいつもの行動パターンとして、玄関でお腹のものを出し終えた後に、お風呂場に移動しシャワーでお尻を洗い、その後洗面器の中のものをトイレに流し、残りがあるなら座る、というのが恒例らしい。
 ところが今日は何を間違えたのか、洗面器を持ってお風呂場にお尻を洗いに行こうとして、洗面所でふと間違いに気付いたらしい。
 しかしそこで間が悪いことに第二波が到来。何からお片づけしていいか分からなくなった美空ちゃんは、混乱のあまり哀れその場ですってんころりん。
 一部始終を温かく見守っていた母曰く(優香「助けろよ」)、盛大に洗面器の中身をぶちまけた挙句に、自身も噴水と化したらしい。
「そんな訳で大掃除をするから、今日はお風呂は入れません。美空とお父さんと銭湯に行ってちょうだい」
 着替えやらタオルやらを渡す母。自身はマスク、エプロン、ゴム手袋に長靴な完全装備で、これは丁度良い機会だとばかりに、時間を掛けて本格的に風呂掃除をするつもりのようだった。
「はぁい、わっかりました〜」
 こうなると熱中してしまう母の性格を知る優香はややため息混じりに返事をし、それらを受け取った。
 家の奥から帰るのを待っていたらしき美空と父が出てくる。
「あ、美空の面倒をよろしくね」
 母から妹と二人分のお金を渡され、三人は銭湯へと向かった。


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『どちらへはいろう』

 銭湯『豆五倍子(まめぶし)の湯』の前で優香はちょっとした選択に悩まされていた。
 妹は当然のように父と一緒に男湯に入るようだが、自分は果たしてどうすればいいのか。
 家族全員で温泉やら銭湯に入る時は、父親と美空が男湯に入り、母親と優香が女湯に入るのが恒例であり、このような機会はなかった。
 優香と父が二人で来るという事もなかったので、優香は未だ男湯バージンなのであった。
 しかしためらったのは一時だけ、美空が父親に手を引かれて男湯に入っていけば、後を追わざるを得ない。母親から美空の分のお金も受け取っているので、一人女湯に入る訳にはいかないと思い込んでしまったからだ。
 美空を連れて二人で女湯に入ってほしいとの意図で渡されたお金が、完全に裏目に出てしまった。
 性知識皆無の優香には、立ちはだかるジェンダーの壁など存在しないも同然である。認識さえないレベルなのだから存在に気付くはずもない。
 ならば何をためらっていたかというと、ちらっと満の事が頭をよぎったからだった。
 数日前の生涯最大の大失態以来、まだ一言も言葉を交わしてない気まずい状態であり、男湯ならばあの時のように裸を見られる可能性も0ではない。
(でもお風呂場で裸なのは当たり前か。……そもそもこんなとこで会うわけないし)
 言い訳めいた考えをしつつ脱衣所へと入っていく優香であったが、世の中にはご都合主義ならぬ不都合主義ともいえる展開も有りえるのだと、後に思い知るのだった。


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『ぐうぜんのであい』

 女湯であろうと男湯であろうと脱衣所に――左右対称である以外は――大した違いなどなく、脱衣は滞りなく終わった。少なくとも優香はそう思えた。
 強いて気になる点は、パンツを下ろした時にふと背後から注目されているような違和感を感じたが、振り向いて確認しても、脱衣所で涼んでいるのか佇んでいるのか良く分からない若い男性客達が、こちらに注目している様子はなかった。
 優香はそれを自分の気のせいだと思い、脂肪が程よく付いた子供としては大きめなお尻を衆目に晒して衣服をロッカーへと押し込む。
 衣服を入れるロッカーは三人で共通の物を使い、鍵は父が預かる事となった。

 洗い場や浴槽にはちらほらと男性客がいたが、なぜか脱衣所より少なかった。
 それよりむしろ幼い子供達のはしゃぐ姿の、そのほとんどがなぜか幼女である点のが目立っていた。
 実はこの界隈にはもう一つスーパー銭湯が存在する。しかしそちらは子供の混浴行為を全面的に禁止しており、女児連れの男性客が全て豆五倍子の男湯に流れているためだが、そんな事情を優香は知らない。ただ意外にも同性が多かったので、なんとなく少しほっとしている。
 その中に幼女と呼ぶには少し年齢が上の、しかし身体つきは未だ未発達といえる少女の姿も混じっていた。少女は優香を見つけると声をかけてきた。
「あ、ユーカちゃんだ。やっほー」
 クラスメイトの由布だった。
「由布じゃない。きぐーって奴だね。こんなところで何してんの?」
 優香は反射的にそんな質問を口にしてから、銭湯なんだからお風呂に入りに来たに決まっていると思ったのだが、由布の口から出た答えは違っていた。
「ここでね、おにーさんと、まちあわせをしてるの」
 由布に兄がいるという話は初耳だった。優香の知る限り一人っ子のはずだった。
「しんせきのお兄さんとか?」
「ちがうよ。おふろでおぼれちゃったユウをね、助けてくれたの」
 どうやらお兄さんとの待ち合わせ以前から、由布は男湯には良く入っていたようだった。
 そっちの理由も気にはなったが、男湯で出会った赤の他人のお兄さんと一緒にお風呂に入る方のがよっぽど引っ掛かった。
 なぜだか優香には由布がとても危険な事をしている気がした。しかし何故そう思うのか、その理由が見つけられない。
 何やらモヤモヤするものを抱えていると由布が唐突に、
「これからね、おしっこいくとこだけど。いっしょにいこ?」
 と言ったので、何となくそのモヤモヤが尿意のような気もして、美空や父と一旦別れて、由布に付いて行く事となった。

 脱衣所でスリッパを履いてトイレに通じる扉を開けるとそこは外だった。
「はい?」
 思わず扉を閉める優香。
 目に入ってきたのが女子にとって余り見慣れない男子小便器だった事もあるが、それよりも肌に感じた風というか空気が完璧に野外のものだったからだ。
「どうしたの?」
 もじもじと足を擦り合わせているの由布に「なんでもない」と答えつつ、改めてゆっくりと扉を開けるとそこは外とも中とも言いがたい奇妙な空間だった。
 目の前にはやや高い位置に設置されている男子用小便器。その足元に子供用だろうか段が付いている。その隣には個室らしき扉が一つだけある。お祭りの時などに一時的に増設されるトイレに良く似ていた。足元には木の板がひいてありトタン板の屋根もある。しかし左右を見渡せば土と空が見えており、外としか言いようがなかった。
 銭湯特有の高い壁と建物それ自体に囲われた狭い閉ざされた空間なので、通りすがりに誰かに見られたりとかはないのだが、しかし肌に感じるのは誤魔化し様もなく外気のため、優香はそこに出るのを躊躇する。
 思い起こされるのは数日前の、通学路を裸で駆け抜けた体験。
「ねえー、まだー?」
 二つしかないスリッパの一つでパタパタと足踏みを響かせながら、由布が急かす。
 ここで優香は個室の扉の赤い印に気付いた。赤は大抵の場合使用中を意味するから――
「あ、なんか誰か使ってるみたいだね」
「じゃあもう一つのでするー」
 言うや否や、もう待ってられないとばかりに優香ともみ合うような形で更衣室から出る由布。
 押し出された形の優香は肌寒さから何となく心許無くなって、両腕をお腹辺りでかき抱いた。
 そんな優香の様子もどこへやら由布はためらい無く小便器用の段を登ると大股開きになり、便器へ腰を突き出す姿勢になって放尿を始めた。『もう一つ』とはどうやら男性用を意味していたらしい。
 後ろの優香からでは良く見えないが、どうやら両手で恥部を広げて放尿をやり易くしているようで、まだ幼くて固さの残る由布のお尻の下の隙間から綺麗な放物線が確認できた。
 やがて全てを出し終えると、ふりふりと腰を縦に振って股に付いた滴を落としていた。その姿は優香の目にはなぜか恥ずかしいものに映った。理由はやっぱり分からないのだが。
「おわったよ」
 優香が次に使うのを促すような仕草を見せる由布。
「いや、私は」
 遠慮するような事を言おうとして体を反射的にブルッっと振るわせる。気付けばなんとなくだった尿意が、今はもうはっきりと感じ取れるほどだった。
(でもこんな所で用足してる姿を、誰かに見られでもしたら――)
 とそこで足元のある事に気付く。脱衣所に用意されたスリッパは二つしかなく、今は優香と由布が使っている。つまり次のトイレを使いたい人はスリッパが無い事に気付いて脱衣所で待つしかない。
(――誰も来ないなら、いっか)
 段に上がり、見様見真似で同じポーズを取り用を足し始める優香。
 その光景の危なさ加減は由布の比ではないのだが、当然ながら自覚はまったくない。
 ショロロロ、と膀胱に溜まった尿を解放していると、
「あー、こっちあいてるじゃん。ユーカちゃんのうそつき。むぅ」
 後ろでバタンと扉が閉まる音。
(えっ?)
 振り向くと由布の姿は既になかった。個室の扉が少しだけ開いている。開けたのは由布だろう。
 どうやら赤が未使用の印だったようで、優香に嘘を吐かれたと怒って行ってしまったのだった。
 由布が出ていったという事はスリッパが一つ余る。つまり誰かが来てしまうかもしれない。いや、そもそもトイレは二つしかないんだからスリッパが二つ残ってた時点で――
(個室に誰も居ないって気付くべきだった……)
 しかし今それを考えても後の祭り。このままでは優香は、個室が開いてる癖にわざわざ男子小便器で立ちションに挑戦したチャレンジャー扱いされかねない。慌ててことを済まそうとするが、由布の真似をして腰を振るも上手く滴を切る事ができない。
(これって結構むずかしい……)
 夢中になってまるでフラダンスのように腰を振り続けていた優香は、背後でガチャリと音がしたのに気付くのに一瞬遅れた。
 慌てて腰の動きをピタリと止めるがもう遅い。扉を開けた者の目には、はしたない尻ふり音頭がしっかり焼き付いた事だろう。
 扉の閉まる音。しかし背後に人の気配はなく、優香がそっと後ろを振り向くと、そこには誰も居なかった。
 とりあえずほっとして、便器から離れる。しかし誰かが扉を開けたのには変わりがなく、脱衣所にはその誰かがきっと空くのを待っているはずで、鉢合わせしかねない。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう)
 ふと左右に広がる“外”に目を向ける。
 ここを周りこめば別の所から入れるかも。女湯の方にまで周りこめば或いは。
 向こう側に入れる扉があったかは一年前なので思い出せないが、確かめる価値はあるかと一歩踏み出そうとした瞬間、脱衣所に繋がる扉が勢い良く開き、手をしっかり掴まれる。
「そっちに行っては駄目よ」
 勢い込んでやってきたのは由布だった。でも喋り方が妙だった。いつもはまるでひらがなで喋っているかのような印象を受けるのだが、今はそれが無い。
 強い光を帯びた瞳で優香を見ている。
「えっと、でも、」
「行ったら優香ちゃんは……堕ちるよ」
 それは付き合いのそれなりにある優香でも、いや付き合いのある優香だからこそ変化に動揺を隠せない。
「な、なん……、落ちるって、落とし穴でもあるのかなー?」
「世の中には知らない方が良い事もあるの」
 優香はゴクリと無意識に唾を飲み込んだ。見知らぬ誰かに尻振り音頭のヌシが自分だと知られてしまう恥ずかしさより、今の由布への変貌に対する恐怖心のが勝った。
 そのまま勢いに飲まれ、脱衣所から浴場まで引っ張り戻される。
「それじゃ、おにーさん、またせてるから、もどるね〜」
 そう言ってトテトテと小走りに去る姿は、いつもの由布に戻っていた。
「…………なんなのよ一体」
 さきほどの変貌に納得の行く答えが出せない優香。
 ただ一つ分かっているのは――
(由布の事よりも、むしろ『おにーさん』の心配をしてあげるべきではなかろうか)
 優香の、未だ見ぬ『おにーさん』に対する心配は、ある意味正しかった。
 そして優香には知る由も無いが、由布の言っていた事も正しかった。もはや避けられた運命であるため、ここで語るべき話はないが。
 しかし避けられない運命もあった。その運命は今まさに優香の視線の先に居た。運命の名は大場満。
(満!?)
 幸い向こうはまだ優香を発見していなかったが、このまま洗い場に居れば見つかるのは時間の問題である。優香は慌てて辺りを見回して確認すると、すぐ近くにあった扉に駆け込んだ。
「あつっ!」
 襲ったのは熱気。そこは優香が苦手とするサウナ室だった。
 しかし満をやり過ごすためには、ここからしばらく出られそうもなかった。


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