No.04「青い雪、200ページ」

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 図書室近くの空き教室。
 自分は放課後いつもここにいる。
 靴を脱ぎ、持ち込み禁止とされている携帯電話をいじりながら、ずっと人が来るのを待っていた。
 二階の突き当り、図書室のさらに先の袋小路に存在するこの教室には、まず誰も来ない。
 自分がここにいることは誰も知らない。
 足音がした。
 人が近づいてくる。
 小走りでやってくる。
 気づかれないように注意しながら、やってくる人を見た。
 クラスメート、図書委員の川井美紀だった。
 大急ぎで携帯を録画モードに切り替えて、撮影開始ボタンを押した。
 彼女の目的地はこの教室ではない。
 僕の心臓が高鳴る。息が上手くできない。
 手前の女子トイレ。

 開けっ放しのドア。
 彼女はトイレに入るとき、入口のドアを閉めない。
 まっすぐトイレの中に入っていく。
 僕はそのあとを追って女子トイレに入った。

 一番手前のトイレが閉まっていた。
 下の隙間に向け、個室の壁に携帯を押し付ける。
 それから手をついて、這いつくばって、僕は下から個室の中を覗き込んだ。
 足しか見えなかった。
 一瞬、やばいと感じ、強烈に心臓が僕を打つ。
 引き上げるか、どうする、焦った。
 しかし、布ずれの音がした。
 彼女は腰を下ろしてきた。

 目の前に飛び込んでくる真っ白なおしり。
 ドドドドドドと心臓が脈打つ。
 世間知らず。音消しもしない彼女。

  シュィーー

 透明なおしっこが勢いよく斜めにたたきつけられる。
 勢いがいいのに長い。きっと読んでいた本が面白かったのだろう。ずっと我慢していたに違いない。

  じょぼぼぼぼ

 勢いが弱まってくる。お尻にまでおしっこが垂れてきている。

  じゅっじゅっじゅっ

 でもなかなか終わらない。やはり我慢していたようだ。出し切ろうとしている。

 でなくなってから、彼女はお尻を三回振った。幼いしぐさ。

 おしっこを切った彼女。でも、お尻を拭こうとしない。立ち上がらない。
 もしや。
 彼女はしゃがんだまま、一歩前へでた。

「んっ」

 わずかに、だが間違いなく、声が聞こえた。息む声だ。かわいい。
 少しだけ彼女がお尻を突き出してきた。パイプをつかんだのだろうか。
 お尻の穴が見えるようになった。

「んっ、んんー」

 もともと突き当りでほとんど人は来ない。靴下でいる僕の足音は聞こえなかったろう。誰もいないと思ったに違いない。思い切り声を出している。
 がんばれ、がんばれ。

  ぷうー。

 彼女がおならをした。
 お尻の穴が開いて閉じた。
 思わず息が荒くなる自分。
 あわてて息を抑えた。
 気づかれなかったらしい。

 そして。

  にちち、ずりりり

 彼女は出した。うんち。僕の目の前で。

「はあ、はぁ」

 お尻の穴をなおも開けたり閉じたりする彼女。

「んぅー」

 完全に声に出てしまっている。
 まだ何かあるのか。

  びっ

 ほんの一瞬、茶色い液体が飛び出した。
 下痢。
「んー」
 息む声が大きくなる。そして

  びちゃっ、ぶりっびちゃー

 完全に液体のうんちが彼女から飛び出す。
 強烈なにおいが鼻をつく。
 まだ彼女は息んでいる。


 しかし、少し経つとトイレットペーパーを巻き取り始めた。
 彼女はお尻の穴を熱心に拭く。
 わずかに見えたペーパーは茶色に染まっていた。
 お尻を3度拭き、あそこも拭いて、彼女は立ち上がる。
 僕は急いで立ち上がり、一瞬だけ個室の上から携帯電話をかざしてから、女子トイレを後にした。

 水の流れる音。
 手洗い場の水の音。
 彼女は立ち去る。図書館に入って行った。

 録画停止ボタンを押し、イヤホンを付ける。
 最大音量で撮ったばかりの映像を見る。

 丸い真っ白なおしり。
 目立たない彼女だが、スカートでも隠しきれない大きくて形の整ったおしり。

 彼女の排泄を見るのは初めてではなかった。
 図書館の常連の彼女は、いつも僕を喜ばせてくれる。
 本人は知らないだろうけど。
 でも、うんちは今日が初めてだった。
 最初は明るい茶色。健康そうなうんちだ。
 おしりから出る瞬間を何度も繰り返して見る。
 最初は気が付かなかったが、うんちの色が二回変化している。
 最初は明るい茶色、次は薄い黄土色。そして、げりうんちが濃いこげ茶色だ
 最初は昨日の朝ごはん、次に給食、最後は肉類たっぷりの夕飯といったところだろうか。
 最後に一瞬だけ撮影した上からの様子。
 なんと奇跡的にめくれたスカートからおしりが、そして便器に産み落とされたうんちが両方バッチリ映っていた。
 停止してじっくり見る。

 図書委員の川井美紀。

 三つ編みで眼鏡。
 古風にも思えるそのスタイル、しかし、彼女はそれが似合っていた。
 まさに文学少女。

 スクリーンショットに撮り直しておいた。

 一通り見た後、ふと、気になることが浮かんだ。

 勢いがいいのに長いおしっこ。
 我慢をしていた彼女。

 彼女はどんな本を読んでいたのだろうか。
 一体どんな本が、彼女におしっこもうんちも、そして下痢ですら、我慢させたのだろうか。

 携帯をポケットにしまい、図書室に向かった。

 彼女はまだ本を読んでいた。
 216ページ。
「ちーっす」
「あ、〇〇(僕の名前)君」
 ひそかに地味な男子の中で人気のある彼女。
 やはり排泄姿を覗いた後に会話するのは何とも言えない。
「何読んでるの?」
 楽しみの前後に気まぐれで図書館によることがある自分と常連の彼女。会話するぐらいの面識はあった。
「『青い雪』って小説。作者の村野世月って知ってる?」
「いや、知らないな。面白いの?」
「面白いよ。読んでみる?」
「そうしようかな。でも美紀さん今読んでるんでしょ?」
「明日までには読み終わるから」
「分かった」

 どのみち今日受け取っても読まないだろう。
 君の姿を見ることでたぶん一日が終わるから。


 次の日、約束通り本を受け取った。

 少しダークな感じの青春小説だった。
 200ページ前後に差し掛かり、僕は気づいた。
 彼女が排泄を我慢したシーン、
 主人公とヒロインが付き合って初めてキスをするシーンだった。
 ダークな雰囲気にふさわしく、ディープな表現だった。
 彼女はこのシーンから目が離せなかったんだ。
 彼女の隠された性への関心が見えて、僕は無性に興奮した。

 小説は面白かった。
 休日になってから、本屋で本を買った。
 一生の宝物にする。

 トイレの画像、映像をコピーしたフォルダの名前は、『青い雪、200ページ』にした。


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