No.05「人気者の秘密」

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「あの本どうだった?」
「確かに面白かったよ」
「でしょ?」
 この前、僕の目の前でうんちをした美紀ちゃんとのそんな会話。

 今週はテスト週間。
 部活もない。みんながテストに向けてすぐに家に帰るから面白くない時期だ。

 チャイムが鳴る。
 急いで席に座った。

「今日は時間変更があって、2時間目の体育と6時間目の数学が入れ替わります」
 担任の笹倉先生からそんなアナウンスがあった。
 今日の笹倉先生は気分が悪そうだった。

 僕は体育委員だ。
 特に大したことはないが、体育の授業の後、片づけをしなければならない。
 テスト期間の6時間目に体育とは少しついていない。
 帰る時間が遅くなる。

 6時間目が終わる。
 今日は器械体操だった。
 マットやらなんやらで、やることが多い。
 ただ、片づけそのものはあまり嫌じゃない。
 もう一人の体育委員、畑山結城がいるからだ。
 バレーボール部の彼女。
 背の高い長髪。中学校1年生らしいかわいらしさと大人びた美しさが両立している人だ。
 学年中から人気のある彼女。
 彼女との二人っきりの時間。友達曰く、役得。
「それ、運んどいて」
「うん」
 結局こき使われるのだが、それは仕方ない。

 マットを折りたたもうとして、腰を下ろした瞬間に気付いた。
 彼女、短パンの上から、水色のパンツがはみ出している。
 入学してからグングン成長している彼女。
 体操服はすでに丈が足りなくなり、腰を下ろせば背中が出る。
 今日はパンツまで。
 ポケットの中の携帯電話をこっそり動画撮影モードに切り替え、撮影開始。
 隙を探す。
 それはすぐに来た。
 倉庫にマットを運び、決められた場所にマットを置いた彼女は、そのまま、マットに身を投げ出した。
 体操服がめくれているがお構いなしだ。
 水色のパンツをしっかり携帯に収めた。

 片づけを始めてしばらくしてから、彼女の様子に変化が訪れた。
 冷や汗をかいている。
 僕に見つからないように、お腹をさすっている。
「それ、早く運んでよ」
 心なしか片づけ作業を急いでいる。
 気づいた。

 彼女はお腹を壊している。

 録画を開始するタイミングが先にあったことが奇跡に思えた。

「急いで」
 そういえば、彼女の口からは、これまで一度も『トイレ』という言葉は聞いたことがない。
 男女両方から人気のある彼女。
 プライドがあるのか。
『トイレ行きたい』とは言えないのだろう。

 僕はあえて片づけ作業の速度を緩めた。
 マットは丁寧にたたみ、ストップウォッチは一つ一つ回収していく。
「早くしてよ」
 彼女がせかす。
 この声も録音されている。
 罵声が心地いいという感覚は初めてだ。
 彼女は僕が見ているのもお構いなくお腹を抑えている。
 早くも隠すのが難しくなってきたのだろうか。

 片づけが終わった。
「お疲れ様」
「お疲れ」
 軽く言葉を交わして、先生に報告。そして更衣室へ向かう。
 彼女は更衣室へ行く前に、手前の女子トイレに向かった。
 小走りだ。
 内心かなり焦っているのだろう。

 僕の心臓が高ぶる。
 勢いよくドアを開ける彼女。
 またも奇跡が起きた。勢いよく開けたせいで、扉が開けっ放しになっている。
 彼女はお構いなしで個室に向かったようだ。
 僕は足音に気を付け、後を追う。
 4つ並んだ個室のうち、手前から3番目が閉まっていた。
 1番奥は洋式。
 潔癖症なのだろうか。
 でも、一番手前の個室には入りづらかったということだろう。

 携帯を向けて、這いつくばる。
 もう彼女はお尻を出していた。
 少し肌の色の濃い彼女は、お尻の色も濃かった。
 運動部だから贅肉が落ちるのだろうか、あまり大きくないおしり。
 しかし、いぼひとつないかわいいおしり。
 うつくしい姿との差を考えて、すこし興奮した。
 まだ彼女も僕と同じ、子供なんだ。

 いきなりだった。

  ぶりりりりり
  ぷぅーーーー
  びちっぶりりりりぶぅっぶりっぶりっぶりりっ

 ものすごい勢いだった。
 けたたましい発射合図、おなら、そして発射。
 あっという間に大量のうんちが叩きつけられた。

 床にまで。

 彼女のげりうんちは便器の中に全ては入らず、いくらかはその後ろの床に飛び散っている。
 あやうくぼくの携帯、さらには顔にかかるところだった。
 いや、飛沫がかかってしまっているかもしれない。
 しかし、僕は目が離せなかった。

「ふぅー」

  じょろじょろじょろじょろじょろ

 彼女の一息ついた声。
 そして漏れ出すおしっこ。
 体育の後だからか、勢いが遅くて、真っ黄色だ。

 いつもの姿から、ほっとする彼女の表情を想像する。
 しかし、その人の注目を集める表情も、今はただただ滑稽なだけだった。

「えっ」

 いきなり彼女の驚いた声。
 一瞬気が付かれたかと思った。
 心臓が爆発しそうなほど僕を打った。
 しかし、

「どうしよ……」

 彼女はそういった。
 げりをはみ出したことに気が付いたのだ。
 彼女は急いでトイレットペーパーを巻き取る。
 おしりをせっせと拭く。
 1回だけ拭いて彼女は水で流して立ち上がった。
 まだおしりは汚れているんじゃないだろうか。

 ここで立ち去るのがいつもの僕だ。
 でも僕は我慢が出来ず、隣の洋式の個室に入って鍵を閉めた。
 うまくいけば気が付かれない。
 隣からトイレットペーパーを巻き取る音がする。
 いてもたってもいられず、上から携帯をかざした。
 今となってはあまりに危険な行為だったとぞっとするが、無我夢中だった。

 何かがこすれる音。
 彼女は床を拭いているらしい。
 思わず呼吸が荒くなる。必死にこらえた。
 物音を立てれば終わりだ。


 何度か床をこする音と紙を巻き取る音が繰り返された後、彼女は水を流し、個室を出た。
 手を洗う音、トイレの入り口のドアを閉める音。
 遠くから更衣室のドアの音もした。

 もう出ても大丈夫かもしれない、でも、危ない。

 心臓の鼓動が落ち着くのを待った。
 耳元が熱い。

 僕は便座に腰掛け、イヤホンを付けて携帯の動画を見た。
 早送りして、上からかざしたところを見る。
 手ブレがひどいが、素晴らしいシーンが撮れていた。


 短パンとパンツはパイプにかけられていた。
 何と彼女は、床の掃除を下半身丸出しで行っていた。
 上からの撮影だとおっぱいのふくらみがよくわかる。
 上は体の凹凸が強調される体操服、そして下は裸。
 トイレットペーパーを巻き取るとき、床をふき取るとき、突き出されたおしりもきれいに映っていた。

 一通り床を拭き終わった後、彼女はおしりを拭きなおしていた。

 その時に一度、彼女はうんちを拭いたトイレットペーパーを顔に近づけていた。
 臭いを嗅いでいる。
 自分のうんちのにおいをかぐ。
 下半身裸で。
 何とも幼稚な姿。

 しかし、ところどころで見える前の茂みは、成長した女の子であることを証明していた。
 綺麗な三角を描いているであろう陰毛。
 前から手を差し込み、立って股を拭く彼女。
 白いトイレットペーパーに乗り、強調される陰毛。
 やはり彼女は成長が早い。

 トイレットペーパーを水で流すと、彼女は短パンを履いた。
 短パンだけを履いた。
 パンツは、よく見ると茶色く汚れていた。
 彼女は、少し漏らしていたのだ。
 僕に偉そうに指示を出しながら、上に立っているような態度を取りながら、人として最低な行為をしてしまっていたのだ。
 今分かった。
 日々、綺麗だとか、かっこいいだとか、美しいだとか形容される彼女。
 しかし、彼女は、かわいいと形容すべき存在なのだ。
 大人びて見える姿は、背伸びをしているだけ。
 ほほえましく虚勢を張っているだけなのだ。

 彼女は、汚してしまったパンツを個室の隅のごみ箱に入れて立ち去った。

 まだ、彼女の水色のパンツはすぐそこにある。

 取りに行きたい。

 また心拍数が上がる。

 欲しい。

 どうしようか決めかねていると、トイレの外から足音がした。
 あわてて息をひそめた。
 だが、撮影は開始しておいた。
 誰かがトイレに入ってきた。
 足音で分かった。
 また彼女だ。

 彼女は僕の隣の個室に帰ってきてくれた。

 思い立って、今度は斜め前、下の隙間から撮影する。
 そして覗く。

 自分のいる個室の洋式便器が邪魔になって窮屈だった。

 どうやら彼女はスカートの下に短パンを履くタイプらしい。
 いや、今はノーパンだから今だけの措置かもしれない。

 陰毛が生えたあそこが丸見えだった。

  じょろじょろじょろじょろ

 相変わらず勢いのない真っ黄色のおしっこ。
 おしっこはすぐ終わった。
 しかし、彼女のような人気者が、音消しをしないのは意外だ。
 誰もいないと思っているからだろうか。
 だとしたら今回は一生に一度あるかないかの幸運だ。

 トイレットペーパーであそこをぬぐい、短パンを履いて彼女は出て行った。

 ごみ箱には手を付けていなかった。


 彼女が再びトイレから去ってからしばらく、また僕は動けなくなった。
 心臓が激しく動く。

 洋式便器に座り、改めて撮った映像を見る。

 おしりもあそこも、全部見せてくれた畑山結城。

 いつもはおしりをこっちにむけておしっこするところばかりを撮っているから、あそこはとっても貴重だ。

 落ち着いてから、個室を出た。
 彼女がいた個室に入る。

 大急ぎで個室のカギを締める。
 まだむあっとした臭いが残っている。

 彼女がうんちの合間に出したおならを思い出す。

 便器やその後ろの床に、目に見えて茶色い汚れがついている。

 ごみ箱を開ける。

 あった。
 水色、ちいさな水玉模様、そして、茶色。

 少し湿っているのが手触りでわかる。汗だろうか。

 それほどたくさんは出てなかったらしい。お尻の穴の部分が少し汚れているぐらいだ。
 持っているだけでは臭いは漂ってこない。

 鼻に近づけて、臭いをかぐ。

 おしっこするところ、あそこ、そしてうんち、すべて少しずつ臭いが違った。


 音消しをしなかったことといい、おならを音を立ててしたことといい、彼女はずいぶんとオープンだった。

 放課後、テスト週間で誰もいないと思ったのだろう。
 そのすべてが僕に見られているとも知らずに。

 開放的なうんちはきもちよかっただろうか。

 うっかりはみ出てしまったのに気づいたときは焦っただろう。
 誰かに見られはしないかと。


 秘密はちゃんと守ってあげることにする。
 安心してほしい。

 これからもトイレには警戒心薄目で来てもらえるととてもうれしい。

 出来れば図書館の先のところまで。


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