No.10「ある初夏の日の出来事」

時沢沙耶(ときさわさや):身長:142cm、体重:?kg。
純粋な高校二年生の女の子。吹奏楽部員、サックスパート。
小、中学の時、色々あり地方の高校に通うことでそのことを忘れようとしている。
今でもそれを思い出すたびに正常に動けなくなったりする。
前回、柿村に話したことにより少しづつ耐性をつけようとしている。
現在はは学校近くのマンションに一人暮らししている。
ささいなことでお腹を壊しやすく(冷房の効きすぎ、アイスの食べすぎ、気温の変化、緊張等)
よくトイレへと駆け込む。そのため、そういうことに関する知識が人より多くなっている。

霧宮楓(きりみやかえで):身長:164cm、体重:?kg。
沙耶と同じ高校二年。沙耶と同じクラス、吹奏楽部員、クラリネットパート。
沙耶の(自称)友達。沙耶は認めてないっぽい。

柿村幸平(かきむらこうへい):身長:185cm、体重:73kg。
沙耶と同じ高校二年。吹奏楽部員、サックスパート(パートリーダー)。
男女問わず人に優しくしようとしている。その過程にもいろいろあるようだ。

松山詩織(まつやましおり):身長:165cm、体重:?kg。
沙耶たちが所属する吹奏楽部の部長。高校2年。
口調がきつく誰も逆らおうとはしない、その反面中身は後輩などに優しかったりする。
見た目や口調からは想像はつかないが甘いものやほかもろもろ女の子っぽいところもある。
知ってる人はそのギャップがまたいい! など言っている。
部を立ち上げた時から隠している秘密がある。

坂上真希(さかがみまき):身長:158cm、体重:?kg。
沙耶たちが所属する吹奏楽部の部員。高校2年。
彼女も過去になにかしらのことがあったようで、基本はあまり喋らないが一部の人には喋ったりする。
しかし、緊急事態になると大声を張り上げたりなどできる。
川本に恋愛中、部長と川本以外は気づいている。
他のメンバーも暗黙の了解でそのことには触れないようにしている。
前回カップルになり内心とてもテンションが上がっている。

川本順平(かわもとじゅんぺい):身長:?kg、体重:?kg。
上に同じく吹奏楽部員。高校2年。
柿村とはよく喋り、緊急時には目で会話できるような変な関係である。
真希に絶賛片思い中。
前回告白して成功した。
カップル真っ最中。


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 7月5日
 時沢沙耶はこの日も柿村幸平の家の前で待っていた。
 しかし、先週とは一味違う。そろそろ本気で暑くなってきたので夏服である。
(本当にあついなぁ、先週とは比べ物にならないよ……)
 上の服をパタパタさせながら柿村を待っていた。
「おはよ〜あついね〜」
 向こうも夏服を着て出てきた。
「ん? 夏服なんだ。確かに暑いもんね」
「そうだね……暑いね」
「暑いし早く行こうか」
「今日は、部活休みだよね。どこかいく?」
「いや、今日は調理部のほうに用があるから」
「どうして調理部?」
「昔のメンバー、じゃわからないか。まあ友達のところに遊びに行くんだよ。
 一緒に来る?」
「えっ! いいの?」
「別にいいよ。昨日のメンバーも来るから誘ったんだよ」
「そうなの?」
 放課後の話をしながら学校へ向かう。

 放課後、
「柿村〜、行こうぜ!」
 真希を連れて川本がやってくる。
「ああ、行こうか。他の人は?」
「大丈夫……楓が全員連れてくる……」
「それなら大丈夫だな」
 3人は調理部へ向かった。

 一方、
「沙耶、調理部へ行ってみない?」
「調理部? なんで?」
「みんな来るからどうかと思ったんだけど、どうかな?」
「いいよ」
「じゃあ行こう〜!」
 朝のやり取りを隠して会話する。

 〜調理部〜
 調理部の部室こと調理室へ入る。
 そこには調理部なのに白衣をきた人が立っていた。
 後ろのほうにもう1人部員がいるようだ。
「やあ、やあいらっしゃい。みんなおそろいかね?」
「おお、ひさしぶり瞳。いつぶり?」
「ここを作ったぶり以来だと思うのだが間違っているか?」
「いや、それくらいじゃないのかな」
「それより、久しぶり。ではない人もいるようだが、そのこは誰だい?」
「えっと、時沢沙耶です……よろしくおねがいします」
「よろしく。それじゃあお茶を入れるから適当に座っててくれたまえ」
 言われて、席につく。
 ここの調理部は一味変だった。
 作るところは本物のケーキ店さながらの物が置いているのに食べるところは畳であった。
 そして、その畳の上に丸テーブルが置いてあった。
 だから席につく、というより畳に座る。という表現が正解なのだろう。
 おのおのがねっころがったりきちんと座ったり。と自由に畳を満喫していた。
「ああ〜畳なんて久しぶりだな〜」
「柿村、はしたないと思わないのかね」
「ん〜これだけは譲れないね〜」
「はぁ、しかたない。詩織なんとかしてやってくれ」
「詩織って呼ばれるの久しぶりだな。なんか感動する」
「そういえば部長、最近クラスのほうでも部長だもんね」
「楓も寝るでない。てか女子ではないのかあんた」
「今日は体育があって〜下に履いてるから大丈夫〜」
「楓……さすがにやめたほうがいいよ……」
「そう? 畳だよ。沙耶もやるべきだよ。沙耶の家にもないわけだし」
「いや、止めておくよ……」
「そう。って痛い! 瞳殴らないで! それフライパン!」
「大丈夫、加減はしておる」
「フルパワーだったら頭割れるから!」
「加減くらいできるわ」
「いや、瞳なら加熱したフライパンでやりかねない……」
「それは……否定できんな」
「「おい!」」
 多数からつっこみが入る。
「冗談にきまってあろう。フライパンを加熱していたら別のもので殴るわ」
「「例えば?」」
「……思いつかんな」
「瞳、それ危ない」
「まあ、そのときは素手か詩織に頼むよ。
 さて、現在試作品の調理中なのだが、食べていくか?」
「おい! まて!」
「なんだ、柿村なにか問題でもあるのか?」
「おおありだ! お前今まで何人トイレへ急行させた!」
「えっと……楓に、詩織に、真希に、川本に、お前に、あとは……私と後輩一号君くらいかな。これくらいだけどなんかあるのかね?」
「もっといるだろ……。とにかくお前の料理はだめだ!」
「大丈夫! 後輩一号君は大丈夫だった!」
「それ、単純に耐性がついただけじゃないのか?」
「そうかもしれん。てかなぜお前は腹を壊さん?」
「壊すこと前提で話すな!」
「それはすまんな」
「それでいつもなんでああなるんだ? ちゃんと火は通してるよな」
「そのへんは大丈夫なんだけどなぁ」
「まあ、俺らはここでゆっくりしとくよ」
 瞳はキッチンのほうへ行ってしまった。
「川本〜よかったな〜」
「何が?」
「坂上のこと」
「なっ! なんで!」
「ばればれ、それより役に立ったろあのメール」
「ああ、ありがとう」
 真希はよほど恥ずかしいのか顔を赤くして下を向いて黙っている。
「ま〜き〜ちゃん!」
「うわっ! 楓驚かさないでよ!」
「ねえ、あのメール役に立った?」
「えっ……まあ、たった」
 相変わらず顔を下に向けたままで答える。
「よかった〜あれがあだにならないか心配だったんだよ〜」
 さすがに熱したフライパンを恐れているのかきちんと正座をしている。
「いや……逆にありがたかったよ……あれがないとできなかった……」
 下を向いていたが確かに真希は笑っていた。
「ほれ、できたぞ。今日はクッキーじゃ」
「「……」」
 知っている人間の目は点になる。
 そして知っている人間は部屋の端に行き即座に会議を始める。
「……これ、見た目は前より上がってる? よな……」
「ああ、前は食い物の形をしていなかったが……」
「どうする? やはり食べるか……?」
「……これは危険すぎるよ。見た目だけOKなあれのパターン……」
「そうだよね……じゃあ代表で誰が行く?」
「すまんが私は先週のあれで腹を壊すことに恐怖を覚えた……」
「それ、私のほうが酷かったんだけど」
「じゃあ、男共に任せるか」
「男共でひとくくりにしないでくれ。あと俺はだめだ」
「てめえ、食えよ。この流れだと俺が食うパターンになるじゃねえか!」
「いや、もうお前でいいじゃん。腹壊さないんだし」
「おちつけ、おまえら。とりあえず1つづつ食ってあまったら柿村で」
「まて。あれいくつあるんだ? 大半俺が食べる羽目になるじゃん」
「瞳を信じて! 今日は大丈夫!」
「ガッツポーズするなら自分が食えよ」
「……みんな、とりあえずいこ」
 
 なにも事情をしらない沙耶は普通にクッキーを食べだした。
「これ、おいしいですね」
「敬語じゃなくていいよ。同学年なんじゃし」
「そういわれても……癖なんですいません……」
「謝らなくていいよ。あとそれおいしいでしょ?」
「はい! おいしいですよ」
 それを聞いた端にいるメンバーは一同に沙耶の方向をみる。
 なにやらまたもや話している。
「おいこら。そろそろ食わんか!」
 机をバンバンし始めたので仕方なく席に着きクッキーを取っていく。
 長い凝視時間の後ゆっくりと口に運ぶ。
「あれ? 味は普通だね」
「だからいったじゃろ。今日はうまくいったって」

「そのために一日僕はとんでもない数を食べさせられましたよ」
 今来たのかひとつしたの学年の男の子がドアのところにたっていた。
「後輩一号君! それは言わない約束じゃろ!」
「すいません。どうしてもいいたくなったもので。
 あ、みなさんお久しぶりです」
「おお、久しぶり。後輩一号君」
「その呼び名先輩だけで十分です……」
「それで、これの殺傷力は?」
「一発目は間違いなく死にますね。二発目からはどんどん薄くなっていきます」
  コトン
 それを聞いた途端ほとんどの人間がクッキーを落とした。
「すまんが、個室を確保してくる……」
 部長こと詩織は部屋を出て行ってしまった。
「沙耶、あんたも来なさい……」
「え? うん」
 楓にひきづられて沙耶と楓も行ってしまった。
「私も確保しないと……」
 あとを追うように真希も出て行った。
 例の後輩一号君は察したように道をあけ自分の荷物を部屋の端に置きエプロンをつけだした。
「おぬしはいかんのか?」
「俺は毎度大丈夫だけど、それにすでに手は打ってある」
 そういうと柿村は口を開けた。
 そこにはクッキーを縦にして歯の前にはさんであった。
「器用なことするのお」
「まあ、隣も同じっぽいけど」
 そういって隣こと川本は口から出したクッキーを流しに流していた。
「さて、あいつらは大丈夫じゃろうか?」
「さあ、責任はとれよ」
 その時会話をさえぎる音が鳴り響いた。

  ガッシャーーーーン
 
「あれ、人少ないね。私来るの遅いとおもったんだけどなあ」
 扉がとんでもない勢いで開け放たれ今にも壊れそうになってしまった。
「さて、私が今からすることは〜」
「「扉を直せ」」
 襲撃者を除く部屋にいた人が声をそろえていった。


 〜女子トイレ〜
(よし、まだ誰もいない。個室を確保しておくか)
 そう考えながら部長こと詩織は洋式トイレに入っていく。

 その後遅れてきたほかのメンバーもおのおの個室を確保できたようだ。

 そして、悲劇が始まった。

(なんで、食べてしまったんだろう? 瞳のは危険なのに!)
「はうっ!」
  ブビビビッ!! ブビーービピピビビポチュブピピッ! ブポッ!

(痛い! こんなに痛いのは久しぶり!)
「っ!」
  ブリブリビビビビビーーーーッッ!! ブオッ!!

(なんで、食べちゃったんだろう? もう私の馬鹿。折角川本君と喋るチャンスだったのに……)
「痛い……」
  グギュルルグウウウゥゥ……
  ブポポポッ! ブジュポブピボポポポポポッ!! 

(急にどうしたんだろう? 変なもの食べたのかな?)
「はぁぁ」
  ゴウウウウゥゥウウゥゥゥグ〜〜〜〜〜ッ!!
  ブピッ!! ドポポポポポポポポポ!!

 ある者は食べてしまったことに後悔し、
 またある者はそんなことすら考える間もなく苦しめられ、
 そして別の者は自分の馬鹿さ加減に嘆き、
 ある者は、理由もわからず苦しめられていた。

 その悲劇の度合いは、
 女子トイレの前を通った人が吐き気を催しその場を走り去っていったらしい。


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 〜調理室〜
「今日も〜げんっきに〜しゅうりのじっかん〜」
 先ほどの襲撃者は歌いながら扉を直していた。
「黙ってできんのか」
「あいつには無理」
「そうじゃったの」
「お〜、きりりん〜。ひっさしぶり〜」
「少しは静かにしてくださいませんの?」
 そういって襲撃者の脇腹に思いっきりけりを突っ込んだ。
 あああぁぁぁ、ぐおぉぉぉ、など獣のような声を出して唸っている。
 それほどまでに痛いのだろうか、想像するのも恐ろしい一同であった。
 そして、その蹴った人物がドアの前に立った。
 そこには着物を着た一人の少女が立っていた。
 部屋の人はその人物を認識すると、
「おお、久しぶり桐山」
「お久しゅうございます。皆様」
「きりりん、久しぶりじゃの」
「それでほかの皆様はどこへ行かれたのですか?」
「死の食物を食ってご臨終」
 理解したように桐山と言われた少女はうなずいた。
「ほかにはだれが来られるのですか?」
「『あの日』やめた人間が来るよ」
 その言葉にその場にいた全員が黙り込んだ。
 彼らは思いだした。『あの日』に関連するすべての悲劇を。
「さて、なんで今日は俺たちを呼んだんだ?」
「それはわしから話そうか」
「ほかの方々を待たなくてよろしいのですか?」
「待つか? 俺はどっちでもいいけど」
 そこへ、後輩一号君?がやってきた。
 その手には大きな皿が乗っている。
「あの、これどうぞ。とりあえずクッキーやきました」
 彼らは瞳の作る死の食物を知っている。だからこそその後輩が焼く食べ物に恐怖を覚え凝視してしまう。
「こんなこと聞くのはどうかと思うけど、これ大丈夫だよね……」
「はい、先輩のとは別物なので大丈夫ですよ」
「後輩一号君、ちょっと来てくれるかな」
 そういわれて引きずられて二人は出ていった。
「おぬし、いつまで寝ておる」
 入口のところで死んでいる人間を起こすのを忘れずに。
「うにゃぁ」
 蹴られた横腹をおさえながら立ち上がる。
 よほど痛かったのだろうか顔がさっきまでとはまるで違う。
「変な声出してないで早くこっちにこい」
「さすが、きりりん。容赦ないね……」
「久しぶりとは言いましても、変わってないとなぐってしまいます」
「ひとみん、ごめんだけど横になっていい?」
「いないぞ」
「じゃあ、横になる」
 そういって脇腹を抑えて横になった。
(こいつは、ほんとになんなんだ? 前から思ってたんだが自由すぎるだろ)
 疑問を持つ柿村に桐山が声をかける。
「柿村、先週また起こってしまったのでしょうか?」
「いいや、ただの食中毒だ。心配することは起こってない」
「そうでしたか。今日はそれを聞くためにも来たのですから来た甲斐はありました」
 安心したのか着物を着た少女はほほえんだ。
 そこへ調理部二名が帰ってきた。
「おいおぬし、寝転んでもいいからもっと端のほうでねころんでくれんか」
「ごめんねぇ」
 そういって端のほうへ転がって行った。
「そういえば被害者帰ってこないな」
「そういえば、かえってこんなあ」
「先輩のあれは破壊力が……って痛い! 痛いです!」
 後輩君は頭をグーで押さえつけられた。
「ごめんなさい。それにしても遅いですよね。仕方ないとはおもいますがってもう! やめてください! 先輩の責任でしょ!」
 再び押さえつけられもだえ苦しむ。
「確かにおそいですわね。わたくしが見てきましょう」
 いつの間にか正座して抹茶を飲んでいた桐山が提案した。
(いつの間に抹茶なんか作ってたんだ?)
 柿村は真面目な疑問を浮かべる。
「そうだな、わしも行こうか?」
「そうですわね。お願いできるかしら」
「この部屋、頼んだぞ」
「ほいほい、了解」
 二人が被害者を迎えに行った。
(白衣と着物ってよくわからない組み合わせだよなぁ)
 その姿を見た人間は純粋にそう思った。

 〜女子トイレ〜
「あれ? きりりんじゃん。もう来たの?」
 すでに被害者から抜け出し手を洗っていた霧宮楓と遭遇した。
「お久さしゅうございます」
 きちんと一礼。
「毎度のことながらきりりん固いね」
「このほうが落ち着くのです」
「楓、ほかの3人はどうなったのじゃ?」
「まだ苦しんでるよ。あれ酷くない? 私はまだ耐性あったほうだからよかったものの……」
「すまない……今回のはいけると思ったんだがな。わしもまだまだじゃな」
「それでどうなのですか? 放っておいても大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ」
「ここで待つのもあれだし、戻ろうか」
「そうしましょう」
 そういって3人は調理室に戻っていった。
 着物、白衣、制服、というのは奇妙すぎた。

(おなか痛い……治らないな……)
 いまだに個室に閉じこもっている沙耶は苦痛に悩んでいた。

 〜調理室〜
「おかえり、霧宮だけか。帰ってきたのは」
「ただいま。しんどい……」
「かえでちゃ〜ん。ひっさしぶり〜」
 急に楓は抱き付かれた。
「うっ、いきなりだねえ。でもあいかわらずだねえ。ゆうちゃん」
「ひっさしぶりなんだから、スキンシップはあたりまえだよ〜」
「きりりん、落ち着くのじゃ」
「申し訳ありません」
 そこには抱き付く人間と、それを殴ろうとして止められている人間がいた。
「おいおい、そのへんにしとけよ」
「申し訳ございません」
 そういって桐山は畳にきれいに正座をした。
「さてさて、おぬしら早くすわらんか」
「ごめんね」
「りょ〜か〜い」
 そういって二人も座る。
「あれ、悠子にきりりんじゃないか。久しぶり」
「お久しゅうございます」
「ひっさしぶり〜!」
 ドアのところに部長こと松山詩織と坂上真紀が立っていた。
 毎度のことながら大量の汗をかいたのか髪はやつれていて、しんどいのが目に見えてわかるほどにけだるそうだった。
「おつかれ」
「真紀ちゃん大丈夫?」
「……大丈夫」
「あとは時沢さんだけか」
「ああ〜、今日来るって言っていたこ〜?」
「そうそう」
「これ、案外おいしいぜ」
「では、わたくしも頂ます」
「あっ! わったしも〜」
 後輩君が焼いたクッキーに次々と手が伸びる。
 それを見かねて次のクッキーを焼きに行く。
「これ、おいしいですね」
「うん! おいしい!」
「ふむ、なかなかいけるな」
「……おいしい」
 などいろいろな感想が漏れる。そのたびに後輩君が嬉しそうに笑う。
「あれ? 沙耶おかえり」
 ドアから少し顔を出して部屋の様子をうかがう時沢沙耶に声をかける。
「初めまして、わたくしは桐山静香と申します」
 素早く立ち上がり自己紹介をする。
 言葉づかいから作法まで何から何まで美しい挨拶であった。
「こちらこそよろしくお願いします」
 こちらもしっかりとお辞儀をして挨拶するのだがやはり桐山のほうが美しい。
「おっ! よろしくね〜。私は井上悠子だよ〜!」
 こっちはクッキーをほおばりながら雑な感じの挨拶になった。
 隣でしっかりと柿村が指導しているがすでに遅い。
「よろしくお願いします」
 さっきと同じように丁寧にあいさつをする。
「かったいね〜。もっと気楽でいいんだよ〜」
「おい、悠子。知らない人間にいきなりそんな態度はできないぞ。一般人はな」
「はっはっは」
「とりあえず、座ってください。僕のクッキーどうですか?」
「ごめんなさい、いただきます」
 そういって座る。
「さて、詩織。そろそろ今日呼んだ理由を話してくれてもいいじゃろ」
「すまんな。そろそろ話そうか」
「後輩一号君、少し買い出しを頼まれてくれんじゃろうか」
「わかりました」
 そういって、関係のない人物を追い出した。
 後輩君はさっさと出かける準備を済ませて出ていった。
「すまんな、瞳」
「別に構わん」
「さて、何から話そうか……」


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「それで話としては、去年悠子の提案で七夕パーティーをしたじゃないか」
「ああ、したな」
 瞳が相槌をする。ほかに真面目に聞いているのは桐山ぐらいだ。
「あれがやってみたら楽しくてさ、また今年もやりたいなあって思ったんだ」
「よし! じゃあ今年もやろう!」
 それを聞いた悠子が思いっきり立ち上がった。
「確かに楽しかったですね。またやりましょうか」
 桐山も楽しそうに頷いた。
「俺も賛成だな。場所はまた俺んとこのマンションの公園か?」
「あそこが安定じゃないのかやっぱり」
「……じゃあまた悠子が子供を集めてくれるの……?」
「もちろん! 私と柿村で近所の子供たちを集めるよ!」
「また俺巻き込まれるのかよ」
「その割には嬉しそうだね」
「まあ、悪い気分じゃないね」
 まったく状況がつかめない約一名は黙ってクッキーをほおばり続けた。
「ごめんね、沙耶。状況説明するよ」
「いえ、その必要はありません。わたくしが説明しますよ」
「静香、急にどうしたの?」
「この子は不思議な目をしています。少し話がしたいのでこのあとふたりでよろしいですか?」
「えっ! はい、大丈夫ですよ」
「ならこれがおわったあとどこか別のところで二人で話せませんか?」
「大丈夫です……」
 最後に桐山が笑顔で終わらした。
「それで〜しおりん〜それでおわり〜?」
「すまんな、それで終わりだ」
「じゃあかえるね〜。ほら! かっき〜もはやくくる!」
「やめろ! 今日からじゃなくたっていいじゃないか!」
 柿村が悠子に引きずられて連れていかれた。
 比喩でもなんでもなく床をずるずると引きずられていった。
「あいつ、かわいそうに。さて、真紀ちゃん帰る?」
「……うん」
 そういって、川本も真紀も帰って行った。
「さて、わしはここの掃除をしてかえる。おぬしら早く帰れ」
「は〜い」
「それでは、時沢さん校門のところで待っておいていただけますか? 着替えて帰らないといけないので」
「そういえば、登下校は制服着用が義務だったな」
「じゃあ沙耶、門まで一緒に帰ろ」
「うん」
 そういって4人は部屋を後にした。
「さて、始めるか!」
 白衣の袖をまくり上げて自分で号令をかけた。
 もちろん掃除のだ。
(また派手にやらかしおって、掃除が大変のに……)
 畳に広がったクッキーの後を見て考える。
 場所によって量が違うのはそこに座ってた人の几帳面さを意味する。
 例えば、桐山のところにはちりひとつ落ちていないし、そのうえ来た時よりきれいに見える。
 逆に悠子のところは一番多い。

 〜校門〜
「あっちゃ〜、なんだほんとにただのリア充じゃないか」
 手で双眼鏡を作り、楓はカップルを見ていた。
「さて、そんなもの見ずにさっさと帰るぞ」
「じゃあね〜沙耶」
「それじゃあ、また明日時沢さん」
 部長に連れていかれる形で楓も帰って行った。
(あの、桐山って人すごくきれいだったなぁ。私なんかに話って何なんだろう)
 沙耶は当たり前の疑問を考えていた。

「遅くなって申し訳ございません」
 急に声をかけられてびっくりする沙耶、だがそんな感情はすぐに消えてしまった。
 なぜならそこに立っていたのは同じ制服には見えない制服をきた美人が立っていた。
「えっと! 桐山さん! 今日はよろしくお願いします!」
 関心をすぐに振りほどきしっかりとお辞儀をして挨拶をする。
「そんなかしこまらなくて結構ですよ。もっと肩の力を抜いてください」
 いくら笑顔で言われても沙耶の肩の力は抜けない。
 それをみてくすくす。と笑って続きの言葉をかける。
「それじゃあ、行きましょうか。話したいことがたくさんあります。家のほうに帰るのが遅れると伝えておいてくれませんか?」
「はいっ!」
 返事したものすぐに気付く。
「いえ、私一人暮らしなので」
「では、あなたの家で話はできませんか? 極力二人きりがよいので」
「だいじょうぶです!」
「その前におなかはすきませんか? 今日はわたくしがご馳走しますよ」
「えっ! いや、大丈夫です」
「いえ、わたくしが誘ったのでここはお任せください」
「えっ……」
「どこか行ってみたいお店などありませんか? そこに入りましょう」
「えっと……じゃあファミリーレストランで十分です」
「ふふふ、謙虚な方ですね。では、ファミリーレストランに行きましょうか」
 そういって桐山静香は歩き出した。
 それに弱弱しくついていく。

 〜10分後〜
「では、ここにしましょう」
「えっ! こんなとこいいんですか?」
 そこは近所でも名の通った高級レストランだった。
「私はファミリーレストランで大丈夫と……」
「ここも、ファミリーで来ることはあります。だからファミリーレストランです」
 無茶苦茶な言い分だった。しかし沙耶に反論できる力はない。
「では入りましょう」
 そういって中に入る。
 平日のせいなのか人が少ない。
「すいません、二人空いていますか?」
「はい、すぐに案内いたします」
 当たり前のように店員に話しかけ会話を進めていく。
 そしてすぐに案内された。
(なにここ?! こんなとこ初めて来たよ! 家族でも来たことないのに!)
 席に座ってすぐありとあらゆる感情が沙耶の中に渦巻く。
「正直、わたくしもここは初めて来たんです。いいところですね」
(うそ! この人も初めて! なんで初めて来るときに私なんかを誘ったの?!)
「それでは、話しても大丈夫でしょうか?」
「はいっ!」
 いざ返事をしたものの同時に別のところも返事をした。
 
  グルグルルル!
(うそ! 急にどうしたの!)
「大丈夫ですか? 急に顔をしかめられて」
「いえ、大丈夫です……」
「ちょっと待っていてもらえますか?」
 そういって桐山は席を立ちあがりどこかへ行ってしまった。
(おなか痛い……昼間のが治ってなかったのかな……)
 無意識のうちに右手がおなかへ行ってしまいこすってします。
 そこに桐山が帰ってきた。
「時沢さん、大丈夫ですか? お手洗いはあちらにあるそうです」
 そういって手でトイレの場所を示す。
「いえ、大丈夫です……」
「無理はしないでください。顔を見ればわかります」
「すいません……」
 そういって立ち上がりトイレのほうに早足で歩いて行った。
(あの子大丈夫でしょうか。間に合うとよいのですが)
 そう念じて席に座る。

 〜トイレ〜
 前の使用者がおらず待つことなく入れた。
 そこはしっかりと掃除もされており、タイルの一枚一枚きれいに磨かれている。
 しかしそれには目もくれず洋式便器に座り込む。
(はぁ、痛い……)
 慣れているものの痛みは変わらない。

  ドボドボドボドボドボドボドボッ!!!
  ブウウブゥーーーブゥゥブビビビビビビッッ!!
  ブゥゥドポドポドボドボドボドボォォーーーーッ!!
 すぐにものは噴き出した。
 きちんと便器に収まりすべての泥が収まっていく。


<4> / 1 2 3 4 / Guest / Index

 〜10分後〜
 顔面蒼白で沙耶は帰ってきた。
「大丈夫ですか? とりあえず水をもらっておきました」
「……ありがとうございます」
「すいません、わたくしもお手洗いに行かせて頂きます」
「えっ! 今は……」
「いえ、気にしないでください。その間に注文を決めておいてください」
 そういって、席を立ち上がりトイレに消えていった。
(まだ、臭いはずなのに……)
 桐山は気にしないって言ってくれたのだがそれでも落ち着かない。
 落ち着かせるためにメニューを見るがどれも高く一番安いのにしようとすぐに決めてしまった。

 そこへ桐山が戻ってきた。
「すいません、急に席を立ってしまって」
「いえ、大丈夫です!」
「それで、注文は決まりましたか?」
「はい、決まりました」
 そう返事すると店員を呼び慣れた手つきで注文していく。
 初めてとは思えない手つきだ。
「あの……それで不思議な目ってのは……」
「ふふふ、あれはあなたを誘うための嘘ですよ。本題は別のところにあります」
「嘘……」
「さて、本題に入りましょうか」
「……」
「あなたはわたくしたちの過去について知りたがっていますね?」
「いえ、そんなことは……」
「でも、その前にいろいろ話しておきたいのです。あなた自身についてお聞かせねがいませんか?」
「私は時沢沙耶と言って……」
「いえ、違います。あなたが抱えてる問題についてです」
「どういうことですか?」
「簡単に言うとあなたの過去についてです」
「えっと……」
「それでは割に合わないのでもちろんわたくしについても話します」
「えっと、話がよくわからないのですが……」
「すいません、話が唐突すぎましたですよね」
「はい……」
「すいません、わたくしも焦りすぎました」
「はぁ……」
「わたくしはあなたと仲良くなりたいのです。そのためにもあなたのことを知っておきたいのです。あなたが何か抱えているのは楓からすでに聞いています」
「そうなんですか……」
「すいません、わたくしの勝手な事情で巻き込んでしまって」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ事情がわかり安心しました」
「そうですか、ありがとうございます。それではわたくしから話させていただきます。こういうのは自分から言うものだと聞いたことがあるので」
「いえ、別に私からさしてください。こんなとこに連れてきたお礼もかねてお願いします」
「わかりました。では黙って聞くことにいたします」
「すいません、勝手で」
「いえ、気にしないでください」
「えっと、どこから話せばいいのか……」

 この後、沙耶は柿村や楓に話したように自分の過去を話した。
 桐山は何も言わず聞いてくれて、それでしっかりと内容を理解してくれた。
 そして、その上で声をかける。
「そうなんですか、よくわかりました。あなたは大変な日々を送っていたのですね。大丈夫です、わたくしもあなたの味方です。これからも何かあればフォーローするように心がけます」
「いえ、そんな気を使わないでください」
「いえ、わたくしもあなたの味方でいたいのです。そんな偏見で人を見る人にはなりたくないので」
「ありがとうございます」
 沙耶は心の底から笑顔になれた。
 であって一日も立たない人間になぜかすごく信用が置けた。
 理屈とかではなく感覚でこの人は信じられると思った。
「では、わたくしの番ですわね。わたくしは……」
 そして桐山の話が始まった。
 その内容は沙耶よりも薄いものだったが普通の人が経験するものではなかった。

 桐山静香は父は普通のサラリーマン、母は普通の専業主婦というどこにでもある家庭だった。
 収入も一般的でありお嬢様という感じではなかった。
 桐山は小学校低学年のころからいじめを受けていた。
 理由は単純で気に入らないから。という理由だった。
 そのころの桐山はテンションが高く男子に紛れているような少女だった。
 ほかの女子から見たら好きな男子を取られている感じで気分はよくなかった。
 そんなささいな理由でいじめられ始めた。
 方法はほかの男子達から見えないところで嫌がらせを始めたり、と初めのほうはましだった。
 しかしどんどんエスカレートしていってはみごされるようになっていき、高学年になると完全に一人ぼっちになってしまった。
 そのころに桐山静香は目覚めつつあった。
 「もっとおしとやかになって、もっと強くなればい」とそれはどんどん実行に移していった。
 まず初めに言葉遣いを丁寧にしていき、その次に作法を学んでいった。着物などはこの時に覚えた。
 そして最後に武術を学んだ。ありとあらゆる拳法や空手や柔道など格闘技系をマスターしていった。
 中学時代はこれらをするのに励みあっという間に過ぎていった。
 そのころになるとこっちが忙しくなってひとりぼっちなどどうでもよくなっていた。
 そして完成したころには中学時代なんて終わりそうな時期だった。
 そして父親の転勤の関係上家族そろってこの街に来た。
 そして……
 
 ここで桐山の口が止まってしまった。
「それからどうしたのですか?」
 ついつい待ちきれなくなり口を挟んでしまった。
「ごめんなさい、これ以上はわたくしたちの過去につながりますのであとで、という形でよろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
「すいません、わたくしのほうから言ったくせに……」
「あっ! 料理が来ましたよ! 食べましょう!」
 なんとかごまかそうとする。
「そうですわよね。食べましょう」
「そっ、そうしましょう!」
 そして運ばれてきた料理を口に運ぶ。
 今まで食べた中で最もおいしい外食だった。
 沙耶はそう感じていた。
 そのはずだった。しかしおかしい。頭の中が満たされない、もやもやが全然晴れない。
 いくら料理に集中しても晴れない。
 どうすれば味わえるか本気で悩み始めたころ桐山のほうから声をかけてきた。
「すいません、食事のあとにする話でしたね。本当に申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください」
「本当にわたくしのせいですので申し訳ございません」
「いえ……」
 とうとう握っているフォークとナイフが止まってしまった。
 頭の中のもやもやが許容量を超えてしまったのだ。
 それを見た桐山は
「仕方ありません、本題に入ります」
「お願いします」
 この時はその返事しか思いつかなかった。
 否定もできなかった。
「わたくしたちの過去はおぞましいものです。そして踏み込んでしまったら後に引くことはできません。
 わたくしはわたくしの独断で話すことが許されています。
 正直話したくはありませんがあなたはかなり踏み込んでしまっているのでもうどちらにもいけません。
 それはあなた自身がわかっているでしょう」
「はい……」
 正直に答えてしまう。
 そう、すでに沙耶自身にもわかっていたのだ。これ以上は踏み込む以外道がないことが。
「あなたは覚悟ができていますか? もしできていないのであればいくらでも待ちます。
 だけど今のあなたに待つことはできないはずです。そこまで踏み込んでしまっているのだから。
 しかし安心してください。私はあなたを踏み込む前の状態することが可能です。
 だからこそ聞きます。あなたはどうしたいですか?」
(確かに、引き返せるのなら引き返したい。でももっと関わりたい。
 でも、この人がここまで言うことなんだ相当すごいことなんだろうそんなところに私が……)
 
 沙耶は必死に考える。
 この選択が間違いなくこの先を変える。
 それを考えると全身が震え上がる。
 しかし、それをこらえて言葉を出す。
 明確な返事を。

 「お願いします」

 この返事がすべてを変えるその危険性をしっかりと覚悟したうえで発した。
 その覚悟をしっかりと受け止め桐山は返事をする。
「それでは、今日あなたの家に伺いますので食事を済ませましょう」
 この時の桐山の目は沙耶が初めて見るものだった。
 それほどまでに真剣だった。



<あとがき>

 第5作目となります、みそかつです。
 
 自分でもやってしまった感はあります。
 でも、ここで沙耶を過去に触れさすことで新たに成長させる予定です。
 
 というわけで次回は沙耶がほとんど出ません。
 それどころか初の前篇後篇に分ける可能性もございます。
 自分としてもどうなるか楽しみです。
(自分が書くのに不思議な話です笑)

 話としましては期末テストを入れようとしたのですが時期が完全に過ぎているんですよね。
 というわけでこれはボツです。
 七夕まつりで1話、夏祭りで1話?する予定です。
 そのあとは夏休みをエンジョイさせる予定です。

 ところで新キャラこと、瞳、静香、悠子。どうでしたか?
 思いっきり個性的にしてみました。
 
 白衣を着たゲテモノを作る調理部
 着物を着た和風の女子、しかしとんでもなく強い
 無駄にテンションが高すぎるキャラ
 
 という感じで作ってみました。
 正直扱いがむつかしいです。
 本編には絡んでいく予定ですがまあメインキャラクターよりは少ないでしょう。
 希望があれば増やしたりしますが……

 そんなわけで次回桐山たちの過去について書きます。
 あっと驚く話になると思いますのでお待ちください。


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