No.03「おくすりはひかえめに」

 滝川 葵 (たきがわ あおい)
 10歳 みそら市立下里第一小学校5年2組
 身長:142.9cm 体重:35.4kg 3サイズ:65-49-70
 短く切りそろえられた黒髪が健康的な、元気で明るい女の子。

 ヒロインの物語開始直前一週間の日別排便回数(←過去 最近→)
 0/0/1/0/0/0/0 平均:0.1(=1/7)回 状態:便秘

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(うん。全部飲んじゃおっ)
 葵は今現在の快楽を優先させることにした。
 翌朝寂しい思いをすることになるだろうが、下剤を飲む勇気を出すためにも、今の自分を元気づけることの方が重要だと考えたのだ。
 葵はボトルをひっくり返すようにして最後の一滴までをコップへと注ぎ、それを一気に飲み干すと、満足げな顔でとたとたと二階へ戻っていった。

「はぁ……」
 しかし、部屋に戻るころにはまた元の暗い表情に戻っていた。相変わらず下剤を飲む勇気が出せないのだ。
 葵はベッドに横たわって手足を伸ばすと、大きなため息をついた。
 時刻はもうすぐ九時半だから、そろそろ飲まないと、最悪の場合、学校でもよおしてしまうことにもなりかねない。
 それでも葵は下痢が怖くてなかなか勇気が出せなかった。

 『おなかがぐうーって、痛くなるの……』『うんちも下痢みたいになっちゃう』『おなかピーピーになっちゃった……』『わたしおなか痛くて早退したんだよ』『その次の日は休んじゃったし……』『……とにかくたいへんなことになっちゃうから』『あれだけはやめたほうがいいと思うよ』
 綾香の重い言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。
 便秘という苦しみを解消するために決死の覚悟で下剤を買ったというのに、今の葵は下剤によって引き起こされる新たな苦しみに脅えているのである。
 葵は臆病な自分を泣きたいほどに嫌悪した。心底情けなくて怒りに体を震わせた。

(早く飲まなくちゃ……おなかピーピーになってもうんち出さなくっちゃ……)
 しかしそれでも、頭では分かっているにも関わらず、葵はいつまでも起き上がることができなかった。
 そうして横になったまま飲もう飲もうと思っているうちに……相当に疲れていたのだろうか、葵はいつのまにか甘い眠りの世界へと吸い寄せられてしまった。


「――!!」
 次に葵が意識を得た時、部屋は真っ暗になっていた。
 驚いて灯りをつけた葵は、時計がすでに一時半を指しているのを見て愕然とした。
(コーラック飲まなくっちゃ!)
 瞬間、自身の臆病さと間抜けさへの怒りにも等しい反省から、葵は下痢のように激しい強迫観念に取り付かれた。もう何が何でも飲まなくてはいけないと感じた。再び葵の思考は下剤を買おうと決心した時に戻ったのである。
  ガラララッ!
 葵は慌てて机の引き出しをあけ、中からコーラックの箱を取り出すと、すぐにピンク色の小粒を薄いアルミ板から押し出し、汗で湿った手のひらにのせた。あまりにも鮮やかなピンク色を見て、一瞬躊躇し喉をごくりと鳴らした。
「んくんっ……!」
 が、次の瞬間ついに二粒をまとめて小さな口に放り込み、一思いに唾液で飲み込んでしまった。

(……。飲んじゃった……コーラック……)
 小さな物体感が喉を通り落ちると、葵は急に冷静さを取り戻した。
 とうとう下剤を飲んでしまったと思い、恐怖と後悔の念が生じて表情を暗くした。
(やっぱり……、ゲリ、するかな……?)
 ベッドに座り込み、重く膨らんだおなかをゆっくりとさすった。
 この中身が、これから半日も経たない内に全部出てくるというのだ。きっと物凄い量の大便をすることになるだろう。
(やだな……おなか痛くなるかな……恥ずかしい音とかでちゃうかな……、でも……)
 下痢は怖い。初めて飲む下剤。自分のおなかに何が起こるか考えるのが怖い。――けれど。
(もう、こうするしかないんだ……)
 この苦しみから逃れるためなのだから。仕方がない。そう何度も何度も葵は自分に言い聞かせた。

 目が覚めたのは尿意によるものだったので、それから葵はトイレに行って勢いよくおしっこをした。
 その最中に時間を逆算し、学校で効いてきてしまう可能性が高いことに気付いた。が、すぐにそれ以上の思考を止め、もう何も考えないことにした。
 それからベッドへと戻った葵はそっとおなかに手を当てて、脅えと満足を半々に合わせた表情で眠りへと戻った。


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 朝の七時半に、葵は目覚ましの音で目を覚ました。
 真っ先におなかへと気を配ったが、まだ何も起こってはいなかった。
 わずかに腸が蠢くような感じもするが、はっきりと知覚できる程度ではない。やはり飲んだのが遅すぎたのだ。

 おなかのふくらみは前日よりもさらに大きくなっていたが、葵はそれから意識を逃した。
 部屋はかなり暑く、たまらず葵は冷房のリモコンに手を伸ばしてスイッチを入れ、冷風を顔に浴びせて涼んだ。
 それから歯磨き洗顔放尿といった毎朝の日課をこなすと、葵は部屋でパジャマを脱いで袖と肩先だけ淡いピンク色に染められた可愛らしいデザインの白い女児用シャツに着替え、男子が着用する半ズボンに似た形をした裾の短いホットパンツを穿き、そして居間に下りて半切れのパンをもそもそと食べた。
 テレビには天気予報が映っていて、今日は相当に暑い一日になるようだった。
 ジュースの無い朝食はやはり寂しいもので、葵は前夜の選択を後悔した。

「はぁ……」
(もし授業中にしたくなっちゃったら、やだな……)
 葵は授業中に便意に襲われることを恐れていた。何分間も戻れなかったらきっと大きい方だとばれてしまう。
 手を挙げてトイレに行くのはちゃんとできる自信があるが、大便をしたのだとクラスメートたちに知られるのは恥ずかしくて嫌だった。小学校高学年の女の子なのだから当たり前である。特に男子には絶対に知られたくない。
 葵は沈鬱な表情で家を後にした。


「――おはよう葵ちゃん」
「あやちゃん、おはよ……」
 家を出てすぐ、昨日別れたのと同じ場所で葵は綾香と再会した。毎朝そこで待ち合わせて一緒に登校しているのだ。
 二人はいつものように挨拶を交わしたが、昨日のことが一晩開けて恥ずかしく感じられるようになった上、互いに心配事で頭を満たしていたから、どちらもあまり元気が無かった。
 そのため、並んで歩き出すも、なかなか会話は始まらなかった。
 互いにちらちらと顔色を伺いあい、時に目を合わせてしまうとすぐにそっぽを向き合った。

「コーラック、飲んじゃった……」
 先に口を開いたのは葵だった。綾香はそれを聞いてどきりとしたが、おおかた予測はついていたので、葵が思っていたほどには驚いた様子を見せなかった。
「ごめんね……あやちゃん、やめたほうがいいよって、言ってくれたのに……」
 綾香が黙っているので、葵はさらに続けた。
 綾香はどう反応すれば良いか分からなくて黙っていたのだが、葵はアドバイスを無視したことで綾香を怒らせてしまったのだと思っていた。
「……でもね、やっぱり、……その……少しでも早く、出しちゃいたかったんだ……」
 葵は恥ずかしそうに下を向きながらしどろもどろに話し続けた。
「ううん」
 それまで何かを考え込んでいるふうだった綾香は、そこまで聞いてようやく口を開いた。
「わたしも、葵ちゃんの気持ちよくわかるから。――だから、気にしないで」
「ありがとう……でも、ほんとにごめん……」
 綾香の優しい声を聞いて、葵はふわりと気が楽になった。

「……でも、今はおなかの具合、だいじょうぶなの……?」
 それから綾香がそう尋ねると、葵は「うん」と言ってうなずいた。
「飲んだの遅かったから……、まだ効いてきてないみたい」
「えっ……!?」
 葵が答えると、綾香は驚いた表情を見せた。葵がもう大便をすませたとばかり思っていたからだ。
「……そうだったんだ……」
 しかし同時にある疑問も解け、綾香はどこか納得したような雰囲気も見せた。
 実は、さっきから葵の平然とした様子に違和感を覚えていたのだ。コーラックを飲んで、もしすでにその効果が表れているとしたら、葵は今頃トイレから離れられないほどに酷く下しているはずである。そうなると、そもそも学校に来ること自体困難だし、仮に無理をして家を出たとしても、こんなに平然としていられるわけがないのだ。

「いつ飲んだの?」
「夜中の、たぶん一時半ぐらいかな……」
(……それじゃあ……)
 きっと学校で下痢が始まってしまう、と綾香は思った。それもただの下痢ではなく、猛烈な便意と腹痛を伴う凶悪なものに襲われることになる。
(葵ちゃん……大変だよ……学校でピーピーになっちゃうよ……)
 綾香は締め付けられるような痛みを胸に覚え、密かに小さく震え始めた。
 すぐ未来の葵が痛ましく下痢をしている姿を思い描いてしまったせいである。が、それが体の震えにまで至ったのは、彼女の今置かれている状況が半年前の自分のそれと酷似していることに強く脅えたからであった。

 ……実のところ、綾香は半年前、下剤が効きすぎて学校で下痢を漏らしてしまっていた。
 授業終了と同時に駆け込んだトイレで、一週間分の大便を全て下着の中に吐き出してしまったのだ。
 その後は個室に篭もり続けたため、担任と保健医、そして母以外には知られずにすんだが、この事件は綾香の心に深いトラウマを残していた。

(……葵ちゃん……わたしはコーラックのせいでウンチ漏らしちゃったんだよ……)
 綾香は記憶の奥底に封印していた茶色い悲劇を思い起こした。
 涙の出そうな腹痛、体中の力を吸い取る便意、下着の中を蠢く下痢便の生暖かい感触、やってしまったパンツの異常な重さ、その中身を見た時の胸詰まる絶望、個室中を満たす吐きそうな悪臭、心を蝕む焦燥感――。
 それらの光景は今でも時折夢の中で再現され、綾香のパジャマを冷や汗でぐっしょりと湿らせていた。
(わたしみたいなことには、なっちゃダメだよ……)
 まさか、葵ちゃんがそんな情けない失敗をするはずがない……。そう理解してはいたが、綾香はなぜか不安だった。
 どういうわけか頭の中に、あの時の自分と同じ苦しみを味わっている葵の姿が浮かんでしまうのである。

「もしおなかが痛くなったら、授業中とかでも絶対すぐにトイレ行ったほうがいいよ……」
 わずかなのち綾香が真剣な表情でそう言うと、見つめられた葵もつられて同じ表情でうなずいた。
 授業中でも普通にトイレへ行けそうな葵にとっては無用の助言だったのかもしれないが、綾香はそれを伝えずにはいられなかった。彼女が漏らしてしまったのは授業が終わるまで無理な我慢を続けていたのが原因だったから、そのアドバイスはまさに彼女にとって究極の教訓だったのである。

 そして、それを最後に綾香は口を閉ざしてしまった。困惑した表情で恥ずかしそうに唇を尖らせ、何を口にすれば良いか分からないといった様子であった。同時に葵も自身のおなかのことを改めて心配し始めて険しい表情で無口となり、そのまま二人はほとんど何もしゃべらずに校門へと至った。

 葵の小さなおなかとおしりは、今は眠りについているかのように穏やかで静かだった。
 まるで、来るべきその時を待っているかのように……。


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 朝の会と一時間目はいつも通りに終わった。
 二時間目は体育だったから、葵たちは体操着へと着替え始めた。
 着替えに使う部屋は男女共にそのままの教室である。
 葵と綾香は席が離れていたので着替えの時間になってもすぐには会話をしなかったが、綾香はいつもよりもだいぶ速く着替えて葵のもとへとやってきた。葵はちょうどシャツを脱いだところだったが、乳首を平然と男子の前にさらしつつも、おなかのふくらみだけは必死に隠していた。

「おなか、だいじょうぶ?」
「……少しだけ痛いけど、まだそれだけ」
 綾香が具合を尋ねると、体操着を着た葵はおなかをさすりながらそう答えた。
 一時間目の後半からおなかが鳴りだして同時にわずかな痛みも生じ始めたが、肝心の便意はまだ訪れていないのである。
「ならいいけど、でも、そろそろくると思うよ……」
 綾香はそのわずかな鳴動の後にいよいよ本格的便意が訪れることを知っていた。
 葵はその言葉を聴いてごくりと唾を飲み込んだ。おなかは確かに熱かった。
「ねえねえ、なんの話してるの?」
 その時に葵の二つ前の席で着替えていた里村夏実が割って入ってきたので、二人はそれ以上秘密の話題を続けることができなくなってしまった。
 夏実は二人にとって共通の友人だったが、さすがにこの時ばかりは邪魔な存在だった。
 それから二人と夏実に他の女子も加わり、他愛のない雑談をしながら教室を出た。

「そろそろマット運動あきてきちゃった」
「わたしもー」
「なにかほかのことしたいよね」
「ボク、外で走りたいな」
 やがて少女たちは体育の授業について話し始めた。
 体を動かすことの大好きな葵にとってその話題は興味のあるものであったが、今は参加する気になれなかった。

「葵ちゃんは?」
「……あたし?」
 夏実はふとそばにいる葵に話題をふった。
「あたしは……」
  グキュルルウウゥーーー
「あ……」
 答えようとした葵は、突然おなかから大きな音が鳴ってしまい顔を赤くした。
「葵ちゃん、もうおなかすいたの〜?」
 その音を聞いた夏実は笑いながら葵をちゃかした。
 だが、葵はそれには答えられなかった。

  キュグルルルルル……
(きちゃった……)
 葵は大きな音が鳴った瞬間に、急に強く締め付けられるような痛みをおなかに感じ始めた。
 そしてそれと全く同時に、肛門が奥から強く圧迫され始めたのである。
(うんちしたくなっちゃった……!)
 体全体に響き渡るその不快感はまさしく便意だった。
 それもただの便意ではなく、今すぐの排泄行動を促す、極めて強烈な便意である。
 下剤に刺激された葵の腸が溜まりに溜まった大便を物凄い勢いで溶かし、次々と肛門へ向けて送り出し始めたのだ。
 痛烈な腹痛と強圧的な便意は完全に下痢の時と同じもので、葵はわずかに顔をゆがめ、体を小刻みに震わせて苦しみ始めた。

  グウゥゥー……ギュゴロゴロゴロォッ……
(どうしよう……トイレ行かなくっちゃ……でも……)
 葵は悩み始めた。その便意はもちろん葵にとって待ち望んでいた喜びの瞬間だったが、今は完全に焦りの心の方が強かった。
 いますぐにでもトイレに駆け込みたいが、そうなると何分も授業に遅れて、みんなに不審がられてしまうかもしれない。
 これから始まる排泄がすぐに終わるようなものでないのは明らかだった。

  ……ゴロゴロゴポッ……キュルルルウゥゥゥゥ……ッ……
(ぁうぅっ……)
 そうこうしている内に目の前にトイレの入り口が見え始めた。体育館入り口のすぐ側にあるトイレである。
(トイレ……行きたい……!)
 そしてそれを見るなり、葵はもうトイレに入ることしか考えられなくなった。
 腹痛と便意は数十秒の間にさらに勢いを増していて、葵の心はもう排泄欲求で完全に満たされていた。
 トイレの入り口は今までの苦しみがついに報われるゴールのように見えたのである。
  キュルル……グリュルルリュルゥゥ……!
(……トイレ……トイレ……)
 葵はトイレの入り口を一点に見つめながら内股でふらふらと歩き続けた。もう友達の声すら頭に入らない。トイレに吸い込まれていた。

(葵ちゃん……?)
 綾香はこの時になって葵の様子が変なのにはっきりと気付いた。
 葵はもう背筋を伸ばして歩けなくなっていたのである。
 さらによく見ると、両手はおなかこそ押さえてはいないものの体操着のすそを固く握り締めていたし、体もかすかに震えていた。
(うんち、したくなったんだ……)
 階段で葵のおなかが苦しげに鳴る音を聞いた時から抱いていた推測はこれで確信となった。
(すぐにトイレ行くよね……?)
 綾香は問いかけるような視線を葵に向けた。

  ブウウウゥゥゥッッ!!

 その瞬間爆音が響き、少女たちは限り無く便臭に近い、濃密な悪臭に包み込まれた。
「ぁぁぁ……」
 葵がおならをしてしまったのである。
 目の前にあるトイレに意識を惹かれすぎてしまっていたために、肛門の締め付けが少し緩慢になっていたのだ。
 出る直前に気付いて肛門を閉めたがもう遅かった。
 葵は体をぶるぶると震わせながら、肛門が小刻みに収縮を繰り返しているのを感じた。
「くさい……」
「もう。いきなりおならなんかしないでよ……」
 すぐに顔を耳まで真っ赤にしてうつむいている葵が犯人だと分かった。
 それで少女たちは鼻をつまみながら多少の非難を葵に向けたが、切なげな顔をして震えているその姿を見て気の毒に思い、すぐにやめた。

  グギュルルッ……ギュルルルゥゥ!
「……っ!」
 その直後、再び葵のおなかから大きな音が鳴り響き、ついに葵は痛さのあまり両手でおなかを抱え込んでしまった。
「葵ちゃん……もしかしておなかいたいの?」
 夏実はこの時になって葵の異常に気が付き、心配の声をかけた。葵は答えられなかった。
「そういえばさっきから――」
「葵ちゃん、ゲリしちゃってるの……?」
「だいじょうぶ?」
 周りの少女たちも葵の異常に気がついたようで、次々と心配の言葉をかけた。
 葵はますます恥ずかしくなり、うつむいて黙りこくってしまった。

  グピイイィッ!……ゴロゴロゴロゴロォ……グルルッ!
「……ぅぅ……」
 腸がねじ切れるような腹痛に耐えきれず、葵はついうめき声をあげてしまった。
 葵が泣きそうな表情をし始めたので、周りの少女たちは驚いて言葉を失ってしまった。
「……早くトイレ行ったほうがいいよ。先生には、わたしが言っとくから」
 それまで黙っていた綾香がついに口を開いた。
 耳打ちをするつもりだったが、こうなってしまってはもうその意味は無いので、堂々と言った。
「ごめん……!」
 葵はそれを聞くなり、トイレに向かって一目散に走りだした。
「え?もしかして葵ちゃん今から……」
 夏実はそこまで言って、はっとして口をつぐんだ。――その続きは子供でも言ったら失礼だと分かるようなことだった。
 少女たちは走り去ってゆく葵の後ろ姿を心配そうに見つめていた……。


  ガチャッ!
「はぁ、はぁ……」
 葵はトイレに駆け込んですぐ側にある個室に入り、手早く鍵を閉めた。
  ゴギュルルッルルルルゥッッ!!
「はぅっ……!!」
 灼けるような熱い痛みがおなかに走り、葵はたまらず体を曲げておなかを抱え込んだ。肛門がひくひくと震える。
「ぁあはあはぁ、はぁ、……ふぅぅんっ!」
 葵はそのまま便器の上へと歩を進めてハーフパンツとショーツを一気に膝まで下ろし、しゃがみこむと同時にふんばった。
 一気に盛り上がった葵の肛門がぐばっと開いた瞬間、
  ブリミチミチミチニチミチ!!
「くはぁあっ!!」
  ミチュクチニミチチチミチミチミチ!!!

 巨大すぎる便塊が全開になった肛門を一気に貫いた。
 腸の中に溜まりに溜まった汚物が、今ついに体の外に押し出され始めた――まさしく夢見ていた瞬間だった。
 あれほどふんばっても出せなかったうんちが、いとも簡単に出始めたのだ。下剤の力はやはり絶大だった。
  ニチミチミチィニチプチブリニチ!!
「ぁっぁはぁぁぁぁ……!」
 肛門から全身へと響き渡る排泄の快感と腹部全体を蝕む痛みとがせめぎあい、異常な感覚となって葵を打ち震わせる。
 すぐに葵は頭の中が真っ白になり、自分がうんちをしていることとおなかが痛いこと以外はよく分からなくなってしまった。
 肛門直下から立ち上る熟成されつくしたうんちの臭いは言うまでも無く酷いものだったが、この時の葵はそれにはあまり意識を引かれなかった。

  ミチヌチュプピチミチィミチブリュニチミチミチ!!

 あっという間に長さ三十センチメートルを超えた固く太い巨塊は、葵の小さく可愛らしいおしりの穴をめちゃくちゃに押し拡げ、さらにモリモリと勢い良く伸びていった。
 便器の底に到達した塊の先端が腸からの圧力に押されてぐにぐにと陶器の上を伸び進んでゆき、その様はまるで生命体のようである。
 これだけの長さの大便が少女の小さな体から途切れることなく伸びているのは、あまりにも異様な光景だった。
「あぁぁあぁぁぁ……」
 葵は口をゆるく開きながらその大きな開放感に身を委ねていた。
 おしりの中のものが外に出て行くのが単純に気持ち良かった。

「っふううぅぅんんっ……!」
  ブリュニュルッブリブリュミチピチュブリニュリュミチュ!

 それから急に便塊の色が黒に近いこげ茶からカレーのような鮮やかな茶色へと薄まり始め、葵の肛門が震える音も湿り気のあるものへと変化していった。
 同時に、直腸の内壁から肛門へと続く摩擦感がごつごつしたものからするするしたものへと変わってゆく。
 うんちが急速に軟らかくなってきたのだ。

  ミチブリミチュイィィッ!……ブポオオォォッ!!!
  ビジュビチビチプビヂビチブピュビヂブピイィィッッ!!!
  キュグゥグキュルキュルキュルルゥゥ!!
「ぁぐうっ!!」
 そして次の瞬間、ついに便塊が途切れた。が、葵の肛門を離れた先端が水面に落ちる音は聞こえなかった。
 間断無く、粥のようにドロドロに溶けた軟便が腸内のガスと共に肛門から噴き出し始めたのである。
 肛門の爆発と同時に腸が潰れるような激痛が下腹を走り、葵はぎゅっと目をつぶって体を強張らせた。
 下品な破裂音が次々と股下で響きわたり、熱湯のように熱い、ドロドロとした質感が肛門を滑り抜け始める。
 同時に寒気にも似たひどい不快感が全身に響いて排泄の快感を一気に飲み込み、それはさらに足元から立ち上り始めた桁違いの悪臭への嫌悪に刺激されてより耐え難い苦しみと化した。
 ついに葵の肛門は下痢便を吐き出し始めたのだ。最も恐れていた時間が始まったのである。

「んはぁぁあぁ……あ!!」
  ブリビチビチビチ!! ブリブビピッブリブリリブリ!!!ブォリュッ!!
  ビジュブリブリリイィィッッ!! グジュブビビッピビビバブォッ!! 
  グジュブリブリブピ!! プウゥゥッ! ブリジュビィィイイ! 

 火山のように盛り上がった肛門から、爆発的な勢いで水泥状の下痢便がぶちまけられてゆく。
 葵の肛門は栓になっていた硬質の便塊が外れたことで、大量の下痢便を垂れ流すだけのただの穴となっていた。
 汚物と同じぐらいに大量に腸に詰め込まれたガスによって次々と肛門から吹き飛ばされる下痢便のかけらが、便器の中はもちろん、そのまわり全体にまで派手に飛び散ってゆく。葵の脱糞はまさに火山の噴火だった。

  キュゴロゴロロロロ!! グギュグギュグルゴポンッ!!
  ブリブリビチビチビヂジュビチビチブリブビィッ!!!
  ブォブゥウッッ!! ブジュビチビチィィィッ!! ブビビビブプゥウゥッ!
「ぁぁっ……ぁああぁぁ……!」
 おなかをさすりながら苦しげに下痢便を排泄する今の葵は、もう完全に下痢に苦しむ一人の少女だった。
 確かに便秘の苦しみからは解放されたが、その代償はこうにも過酷なものであった。
 あれほど望んだ排泄の瞬間に今もいるはずなのに、もう嬉しいと思う余裕を失っていた。
  グギュルギュルギュルギュル!!
(おなかいたいぃ……っ……!)
 下痢便の排泄と同時にますます強まった腸のねじ切れるような腹痛が葵を酷く苦しめる。それは彼女がこれまでに一度も経験したことが無いほどに激しいもので、普通の下痢の比ではなかった。
 葵がおなかを抱え込む手にさらに力を入れると、その体はますます丸くなり、小さなおしりはより後ろへと突き出された。

「……ぁうぁあ……あぁ」
  プピピブピブヂッ!! ブッ!ブリリリッ!! ブリビジュビチュブチュ!!
  ビチビチビチブピッッ!!ブビビピッ……ビブリビヂブチチブォブッ!!

 黒い便塊はもう下痢便の山に埋もれて見えなくなっていた。その上に絶え間なく下痢便が降り注いでその規模を拡げてゆく。
 すでに個室内にはその茶色い山から放たれる強烈な便臭が充満していた。
 熟成されつくした葵のうんちは下剤によってむりやりに溶かされたことで異様な悪臭を放つようになっていた。それが個室中のむわりとした暑苦しい空気を重厚に汚染しているのである。

「あぁ、はあぁあ、ううぅぅ……うぇっ……」
 葵は自身の下痢便の臭いを吸ってしまわないように口だけで呼吸しているが、あまりに空気が汚すぎてどうしても臭いが鼻の中へと入り込んできてしまう。個室の中は処刑場のような空間へと変貌していた。
 それでも葵はここで、腸が壊れるような腹痛に耐えながら下痢便を排泄し続けることしかできない。まさに地獄だった。

  キュグゥゥウウゥウ……! グゴロゴロゴロ……ギュピィィッ……
  ブリプリブリブリ!! ブオッ! ブピブビチチブリビヂチチュッ!!
  ブッ!ブリビチビチビチビチ!! ビジュブリブピッ!!
「あぅう、うぅ……ぅうう……っ……!」
 肛門を熱い奔流が駆け抜けるたびに葵は体をびくびくと震わせた。
 便器の中はすでに葵が排泄した圧倒的な量の下痢便でどこもかしこも茶色く染まっていた。
 底は大量に排泄された下痢便によって肥溜めと化し、側面や縁は幾度と無く飛び散った汚物によって陶器の白い色がほとんど見えなくなっていた。
 ここまで汚くなってしまうと、便器というよりも便槽と表現した方が正しいのかもしれない。

「……ううっ……うくっ! ……うえぇ、んんぅ……!」
  ギュルルッ……クキュウウウゥゥゥウ!!
  ブリリッ! ビチビチビジュッ!! ブビリリリッリリ……!!
(おなかいたい、いたい、いたい……!)
 葵は汗だくになりながら下痢便を垂れ流し続けた。肌という肌から滝のように汗が流れ出て、体中をべたべたにしてゆく。体中が熱かった。特におなかは中に炎でもあるかのように熱く、その痛さの度合いも火に焼かれるようだった。

  ゴログキュルキュル、ググウゥウゥゥッ!!
  ビヂビヂビヂブチュッ!! ビイィィィーーッ! 
  ブリブリブピ!! ブプウゥッ!ブピッ! グジュビチビチビヂビチッ!!!
(もうやだ。もう、いや……もういたい、の……やだ……!)
 葵の大きな瞳には、いつしか涙が浮かび始めていた。
 それが汗と混ざり合って、葵にはもうぼやけた視界しか見えない。
 腸が破裂するかのような異常な腹痛が、小さな全身を病的なまでに痙攣させる。
  ギュルギュルギュルギュルグウッ!! グウウゥゥッ!!
「っふうううぅ……っ……! ぁう、っぅぐうぅぅっ……ぁぁぅぅぅう……っ……!」
 そして葵はとうとうおなかの激痛に耐えきれずに泣き出してしまった。

「ぇぐっ!……ぅぅぅ、う……ひくっ!! ふっぅぅぅぅ……!」
 嗚咽するたびに体の震えがおなかに伝わり、腸が千切れそうになる。
(やっぱり……飲まなけれ、ば、よかった……)
 同時に葵は下剤を飲んでしまったことを痛切に後悔し始めていた。
 大人の女性でも酷い下痢に苦しみかねないコーラックは、やはり未成熟で愛らしい女児には強力すぎたのだ。
 一粒にしておけばとも葵は考えたが、おそらくそれでもかなり苦しむことになっただろう。
 実のところ半年前の綾香は一粒のコーラックしか飲まなかったにもかかわらず、便意と腹痛に負けてうんちを漏らしたのである。
 ――結局、子供が大人用の薬に手を出すこと自体が間違いだったのだ。

「ぅえぐぅ……っん、ひくっ! んぐぅうぅぅぅ……!」
  グピィィィィ……キュクゥッ! ギュルゴロゴポゴロロォッ!!
  ジュビチチュジュビイィーーッ!! ピブッ!! グジュビヂュビジュゥッ!
  ブジュビジュゥゥーッ! ビブジュプボッ! ビジュブジュビーーーッ!!

 後になるほど軟らかさを増していた下痢便は、ついに完全な液状となった。
 汗で濡れたおしりから茶色い水流が次々と噴き出し、肛門に届きそうなぐらいにまで高くなったゲル状の汚物の山を物凄い勢いで溶かし散らしてゆく。これでも相変わらず、おなかにほとんど力は入れていない。完全に大腸が暴走していた。
「ひくっ! っふぅぅぅ、ぅ……はぁ……はあぁぁ、ぁ……」
 そうしながら葵はしゃがんでいるのもつらくなって、両手で便器の前にある金属管を掴んだ。
 両足がもうさっきからずっと、体の重みを支えられないほどにがくがくと震えているのだ。
 楽な洋式便器のある個室に入れば良かったと後悔したが、今さら移動するわけにもいかなかった。

  ジュポッ!……ブジュビチビチジュビーーーーーッッ!! 
(……のど、かわいた……)
 そしてまた葵は強い喉の渇きを感じていた。脱水症状を起こしてしまっているのだ。
 三十度を超える蒸し暑い個室の中で、全身の皮膚からは大量の汗を、開きっぱなしの肛門からは大量の水分を含んだ下痢便を、何分にも渡って垂れ流し続けているのだから当然の結果だった。
「ぁぁ……はあぁ……ぁぁあぁぅ……」
 しかしだからと言って動くこともできないのである。
 下腹に響き続ける激痛にもかかわらず、とうとう葵の意識はぼんやりとし始めた。
 これ以上脱水症状が重くなると、意識を失ってもおかしくはない。痙攣がどんどんと激しくなってゆく。

  キュグルルルルルゥゥゥ……
  ブジュウゥーッッ! ブリプピブピピピピ!!ビジュッ!
(おみずのみたい……おみず…………)
「……ぁ」
 顔を上げている力も無くなった葵は力無くうなだれたが、その時に自身の体操着の状態に気付くなり、はっとした表情でそれを脱ぎ始めた。
 葵の体操着は桜色の乳首が透けて見えるほどにべったりと体に貼り付いていた。
 ――大量の汗を含んでいたのである。葵は汗でも十分だと気付いたのだ。
「んぅぅ……ふぅ、んう……!」
 葵は水にひたされたような有様の体操着に噛み付いて、自身の汗を必死に吸い始めた。
 その間にも緩みきってほとんど壊れた状態の肛門からは、凄まじい勢いで体液が吐き出されてゆく。

  ……ブビッビビイィッブゥッ! ビジュジュジュッ……!
  ジュビッ……ビチビチュジュビプリッ!……プオッ
「あぁ……はあっ……はあ……っ……!」
 身体から流れ出した水分を少しとは言え取り戻して、葵は幾分楽になった。
 そしてそのまま葵は小さな歯型でいっぱいになった体操着を金隠しの上に乗せ、ほとんど全裸で排泄を続けた。
 個室内が元の暑さに加えて汗だくの体から立ち上る湯気で相当に蒸されていたので、裸の方が快適だったのである。
 そして永久に続くかのように思われた葵の排泄も、ようやく勢いが弱まり始めていた。

  ブプピピッ……プリプビッ…… ポチュ、ポチャ……
 ここにきてついに液状便の流れが止まり、わずかな量の雫が肛門から垂れるだけになった。
  キュルゥゥ……ギュリュリュル……ゴロゴロキュルルルゥ……
「ぅぅぁぁうぅ……っ……うぅぅぅ……!」
 だが、にも関わらず、おなかの痛みと圧迫感は一向になくならなかった。

「ふんぅ……っ!」
  ブゥオォ! ジュビッイイィィイーー……
  ギュルッッ!!
「ぁくっ!!」
 残りを一気に出してしまおうとして葵はふんばったが、凄まじい痛みにおなかを刺し貫かれてすぐに止めた。
 こうなるともう、無理に力を入れずおなかの自然降下に任せる――脱力して下痢便を垂れ流すほかに、苦痛を解消する手だては無さそうだった。
 すなわち、葵の下痢は激しい下り腹から便意があるのになかなかうんちが出ないという渋り腹の症状へと、その様態を変化させたのである。
 すでに相当の時間を排泄に費やしているが、この調子だと、まだまだかなりの時間が必要なようだった。

  プビッ……ポチョポチョ……プゥッ! プリポチュプビッ……
(みんな、心配してるかな……?やだな……はずかしいな……)
 葵は途切れ途切れの下痢便を垂れ流しながら、体育館でのクラスメートたちの様子を想像し始めた。
 相変わらず腹痛はあるものの、痛みの根源の大部分が肛門から吐き出されたことによってその程度はだいぶ楽になっていた。多少の思考を働かせることぐらいはできるようになったのである。

(男子とかにも知られちゃってるのかな……やだな……)
 女子に知られてしまうのは仕方が無いと思えたが、男子にまで知られるのはいやだった。
 葵はなぜか男子からちょっかいを出されやすい。
 授業に出ないで下痢をしていることなどが知られてしまったらどうなるかは想像に難くなかった。
「はあぁ……」
  プスゥッ……ポチャンッ ……ブリプビチ……プピッ
 葵はおなかをさすりながら下痢便を断続的に排泄し続けた。


 ……それから十分が経った。
  キュゴロゴロゴロ……ゴロ……
「はあはぁ、うぅう……」
  ……プリ、ピチュッ……ビチ……ブッ……

 葵はまだ微量の下痢便を排泄していた。
 腹痛も便意もだいぶ楽になってはいるが、それでもまだ肛門を拭いて個室から出られるような状態ではないのである。

「んんぅ……ふぅ、ふぅう……」
 再びのどの渇きを感じ始めた葵は湿ったシャツを掴んで水分を吸ったが、今度はもう完全に足りなかった。
(もうだめ……外に出てお水のみたい……)
 水だけでなく全てにおいて葵は限界を感じていた。
 体中の節々が軋むように痛く、鼻は正常な感覚を失い、頭までガンガンと痛くなっていた。
 ――もう一刻も早くこの地獄から逃げ出したかったのである。

「ううんっ!ん!……ふぅん……っ……!」
  キュグググウゥゥッ!! グギュゴロゴロキュクルゥゥ!!
  ブッ!ブビッジュビブチチチチッ!! ジュボビブビ!ビヂビヂビヂビヂ!!
  プビジュブジュビジュブォビ! ブリブリブビチイイィィィィィ!!

 ついに葵は腹痛を覚悟でおなかに強く力を入れ始めた。
 ガスを多く含んだ下痢便が次々と葵の肛門ではじけ、水分の蒸発によって色を濃くしつつあった下痢便の山を鮮やかな黄土色で染めてゆく。
 ふんばるたびに針でさされるようにおなかがずきずきと痛んだが、葵は必死で肛門を開き続けた。

(――!!)
 そうしながら、突然葵は巨大な圧迫感が直腸へと下りてくるのを感じた。
「ふぅんんっ!」
  ブオオオオォオオォォーーーーーッッ!!!

 次に葵がふんばった瞬間、物凄い勢いで肛門からガスが放出され始めた。
 うんちではなくこれこそが、最後まで葵のおなかを圧迫していたものの正体だったのである。
 腸に詰め込まれて熟成されたうんちは葵の想像を絶する大量のガスを放出していたのだ。
 すでに相当の量がおならとして放出されていたが、今になってついに奥の奥に貯蔵されていたガスの塊が直腸へと下りてきたのである。

「んくぅぅんんう!……んううぅん、んんっ!……ふぅんんぅ!」
  ブウウゥウウゥウッッ!! ブビビビイィッイィイィィイーーー!!
  ブブブォオオォォーーーーッ!! プゥゥゥウウーーッ!!
 真剣そのものといった表情で唇を固め、汗まみれの両手をぎゅっと握って下腹に全力を籠める葵。
 空気鉄砲のような勢いのおならが連発され、そのたびに肛門に付着している下痢便、さらに便器の中で山を成している下痢便が、獰猛な気圧で吹き散らかされてゆく。
 肛門を熱い気塊がすり抜けるたびにおならで爆発した下痢便が尻たぶにべちゃべちゃと貼り付き、泣きそうなほどに気持ちが悪かったが、葵はガスを出すごとにおなかの圧迫感が急速に無くなってゆくのを感じ、さらに強くふんばった。

  ブオゥッ!……ブウウゥゥーーーゥゥ!ブゥウウゥゥーーーッッッ!!
 盛り上がりっぱなしの肛門から、全力で腸内のガスを搾り出し続ける。
 これ以上無いほどに下品な音がトイレ中に響き渡っていたが、葵はもう全く気にしていなかった。
 これまでにあまりにもたくさんの下劣極まりない排泄音を響かせてしまったため、もはや自身の肛門の音を聞く羞恥に慣れてしまっていた。どうせ誰も聞いてはいないのだと開き直ってもいた。
 もちろん屁の臭いは個室中に充満している便臭と比べればたいしたものではない。葵はとにかく早く個室から出たかった。

「んふぅぅぅううんんんっっ!!!」
  プゥゥウウッウウウッゥゥゥウウーーーーーーッッ!!!
「……はぁぁあぁ……」
 そして最後に全身全霊の力でかん高い巨大なおならを響かせ、それで葵はようやくおなかの圧迫感――すなわち便意の収束を感じた。
 あれほど膨らんでいたおなかが綺麗にへこんでいる。ついに長い戦いが終わったのだ。
 葵はもうほとんど痛まなくなったおなかに手を当てて安堵した。

 ……だが、次の瞬間、
  ――コンコンッ
(ぇっ!!?)
 突然ドアがノックされ、葵はびくっとした。まだチャイムは鳴っていない。信じられないことだった。
(いや……!!……うそ……だれ?どうして……!?)
 葵はパニックになった。
 今のおならの音、もしかするとその前のものも聞かれてしまったかもしれない。いずれにせようんちの臭いは間違いなく嗅がれている。
 恥ずかしくて声など出せない。葵は固まってしまった。
 幾筋もの汗が体を伝わり、胸の鼓動が異常に速くなるのが分かった。

「……滝川、だいじょうぶか?」
 担任の伊藤先生だった。
 綾香から事情を聴いてはいたものの、いつまで経っても葵が体育館へとやって来ないので、心配になって女子トイレまで様子を見に来たのである。

 葵はもともと暑さのために上気させていた顔をさらに真っ赤にした。あまりにも恥ずかしすぎて、顔の熱さで火傷しそうだった。
 先生と扉一枚隔てた個室の中で、自身の下痢便でめちゃくちゃに汚れた便器の上に、それと同じぐらいに汚い肛門をむき出してしゃがみ込んでいる自分が異常に下品な存在のように思えた。
 葵はもう泣きそうだった。恥ずかしすぎてどうすればいいのか分からなかった。心が壊れそうに苦しかった。
 自身が排泄した下痢便がそれまでになく臭く汚く感じられた。今すぐに水を流したくなったが、その音を立てる勇気すら無かった。
「まだ出られそうにないか……?」
 出られそうにない。葵は平らな胸を両手で抱え込んで悶えた。心臓の音を聞かれるのさえ恥ずかしかった。

「保健の門脇先生には事情を説明しておいたから、もしつらいようだったら、無理しないで保健室で休むなり早退するなりしていいからな」
 先生はしばらくの間黙っていたが、最後にそれだけ言ってトイレから去っていった。
 たとえ生理も始まっていない小学五年生と言えども相手は女性なのだから、細かく状況を尋ねるのは失礼だと判断したのである。
 もし何らかの事情で葵が三時間目になっても個室から出られないような場合は、そういったことの処理に慣れている門脇先生に任せることになっていた。

(…………)
  ガラガラガラガラ……ビリッ……
 葵は先生が去った後もそのまましばらくのあいだ羞恥に悶えていたが、やがてうつろな表情で力無くトイレットペーパーに手を伸ばし、汚れた肛門を拭き始めた。
 下痢便は肛門だけでなく尻たぶ全体にも付着していて、全てを拭き取るだけでも大変な作業だったが、葵はぬるぬるとした不快感にも負けず、手早くそれらを拭き取っていった。

(うわ……)
 ようやくおしりを綺麗にし終えた葵はハーフパンツとショーツを穿くために立ち上がり、その時に初めて便器の中をはっきり見て、その壮絶すぎる光景に絶句した。
 便器の中全体に溢れかえっている下痢便の異常な量は、排泄した本人の想像を完全に超えていた。
 葵の肛門の真下を中心として便器の側面や周りの床のタイル、果ては葵の履いている靴下や体育館履きにまで濃密に茶色いかけらが飛び散っていることもあって、まるで肥溜めをひっくり返したような有様だった。
 一週間に渡って葵の腸内に詰め込まれ続けた大便と、それが熟成されることで放出した大量のガスとが、この物凄い光景を作り出したのである。
 葵は青ざめて震えた。これだけのうんちが自身のおなかの中に詰まっていたのだと思うと、恐ろしくなったのだ。

「――っ!」
 葵は救いを求めるように水洗レバーに手を伸ばし、一気にそれを押した。

  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

 水が流れ、便器の中を満たしていた下痢便をバラバラに溶かして一気に押し流してゆく。
 葵はこれでようやくトイレの外に出れると思った。
 ――が、ここで予想外の事態が発生した。

  ……ゴポゴポゴポ…………
(えぇっっ!?)
 なんと、下痢便の前に排泄した硬く大きいうんちが流されないで残っているのである。
 葵はびくっとした。同時に初めてその姿を見てあまりの大きさと太さに驚いた。
 三十センチ定規よりも長く、葵の手首よりも太い。自分のおしりから出たものとは思えなかった。

(な、ながれて……!)
  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
 葵は切実に願いながら、再びレバーを倒した。
    ……ゴポゴポゴポ…………
(……そんな……)
 だが便器の中に横たわっている便塊はわずかに動く気配すらなかった。
 あまりに重すぎて多少の水圧ではびくともしないのである。

(おねがい流れて!!)
  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

(……ながれてよぉ……!)
  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

「……」
 ――それから十回ほど水を流す音が響いたのち、葵は暗い表情で個室から出てきた。
 結局うんちを流すことができなかったのである。やむをえず、先にのどの乾きを潤すことにしたのだ。

  ジャアアァァーー……
「んぐっ、んぐっ、んぐっ!!」
 葵は水道の蛇口をひねると、すぐさまその下に顔を突き出して、出てくる水を直接口の中に流し込んだ。
 この時葵は、冷たい水を生まれてきてから今までで、一番おいしいと感じた。
 滑らかな水の感触が食道から胃へと伝わってゆくのが快感だった。胃の中で波打つ水の質感すら気持ち良かった。体全体に水分が満たされてゆくのもはっきりと分かった。それは生体としての根源的な歓喜だった。
 葵はしばらくのあいだ恍惚とした表情で水を飲み続けた――。

「……はぁ、はあ……はあ……」
 やがて葵は満足したように水を飲むのをやめ、そのまま手を洗った。
 その時に鏡に映った自分の姿を見てはっとした。
 髪はめちゃくちゃに乱れ、表情はげっそりとし、顔色は青白かった。これではもう下痢をしていましたと言っているようなものだ。
 体操着や靴下も悲惨な状態だったが、下痢を排泄していた葵の体自体が一番露骨にそれまでの苦闘を物語っていたのである。

 葵はこの時に、はっきりと早退することを決心した。
 それまで早退というものをしたことが無かった葵にとって抵抗のあることだったが、こんな惨めな姿を人前に晒すわけにはいかなかった。
 女性としてのプライドは、心身ともに未成熟な女児の中にもちゃんと育っているのである。
「はあ……」
 葵はため息をつくと、再び個室の中へと戻っていった。

  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
(やっぱり、ダメなの……?)
 鍵をかけた葵はまず水を流してみたが、便器に横たわっている黒い巨塊は相変わらずびくともしない。

 葵はそのままペーパーを巻き取って便器の周りにこびり付いた自身の下痢便のかけらを拭き取り始めた。この作業もまた後回しにしていたのである。
 最後に吹き付けられたおならのせいか、汚物はかなりの広範囲に拡がっていて、それらを一通り拭き取るだけでも、今の葵にとっては体力的にも精神的にもつらい作業だった。
 が、葵は戸惑う様子もなく次々とペーパーを巻き取り、おしりを拭いていた時と同様に手早くそれらをぬぐい取っていった。
 急がないと、下痢便の臭いが立ち込めるこのトイレにいるあいだに、クラスメートたちが来てしまうかもしれないからである。
 すでにトイレに入ってからかなりの時間が経っていることを葵は認識していた。焦っていたのだ。

「……ふぅ……」
 目に見える汚れを一通り拭き終えた葵は、再び水洗レバーに手を伸ばした。
 何十枚も覆い重なっていた茶色いペーパーは次々と流れていったが、やはり肝心のうんちは流れてくれなかった。
 葵は目に涙を浮かべて唇を噛みつけながら、便器の底に鎮座している自身の排泄物をにらんだ。
(もう、知らないっ……!!)
 結局、もうどうしようもないことを悟った葵はついにそのまま個室から逃げ出した。
 トイレ全体に広がる下痢便の悪臭に加えて自身の排泄した汚物までもそのまま残していくには相当の抵抗があったが、本当にもうどうしようもなかった。 廊下の時計は十時二十五分を指していた。あと五分で休み時間である。間一髪の脱出であった。

(いそがなくっちゃ……)
 葵は三階の教室まで全力で疾走した。足腰がぎしぎししていたが、それでもおなかの軽さが心地良かった。
 そして葵は教室に着くと同時に服を着替え、汚れた靴下と体操着を共に袋に突っ込み、それを掴んだままランドセルを背負って教室を飛び出した。
 チャイムが鳴ったのは葵が昇降口を駆け出るのと同時だった。
 そのまま葵は振り返らずに家へと向かった。


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 綾香は授業が終わるとすぐに夏実といっしょにトイレへと向かった。
「葵ちゃん……だいじょうぶかな……?」
 夏実が不安げに口を開く。
「…………」
 綾香は考え込んでいた。
(あのとき、うんち行きたくなってから、まだすぐだったよね……?)
 葵がトイレに駆け込んだ時の状況からして漏らしているとは考えがたかったが、それでも綾香は不安だった。
 いくらなんでも時間がかかりすぎている。
 授業中に様子を見に行ってきてくれた先生は、「まだ調子が良くないようだ」と言うだけで細かいことは教えてくれなかった。

「ぅ……」
「ぇうっ……」
 トイレのドアを開けるなり、強烈な悪臭が二人の体を包み込んだ。
 下痢便特有の臭いではあるが、その濃さが尋常ではなかった。二人はたまらず鼻と口を手で押さえた。
(葵ちゃん……?)
 臭いはまだ新鮮なものだったが、閉まっている個室は一つもなかった。
(保健室に、行ったのかな……)
 そう考えながら、綾香は一番入り口に近い個室を見つめた。葵がおそらく使っていた個室である。半年前に自分が中でうんちを漏らしてそのまま閉じこもった個室でもあった。
 綾香はごくりと唾を飲み込むと、その個室のドアを押した。

「――!!!」
 瞬間、物凄い光景が視界に入ってきて綾香はびくっとした。
 便器の中には葵が残していった巨大なうんちが横たわっているのだ。
(葵ちゃんの、うんち……きっと、大きすぎてこれだけ流れなかったんだ……)
 綾香は以前の経験で、肛門付近に固まっているうんちは下剤を飲んでも溶けないでそのまま出ることを知っていた。
 後ろを振り向くと、夏実は唖然としてその巨塊を眺めていた。
「葵ちゃん、おなかこわしてたよね……?」
 夏実はなぜそのようなものがここにあるのか理解できていないようだった。
 下痢をしているならドロドロのうんちしか出ないはずだと思っているのである。
「……これは、違う人のかも……」
 事情を説明するわけにもいかないので、綾香はとりあえずごまかした。

「うぅ……」
 何かを言おうとした夏実が、突然うめき声を上げた。
 わずかに空気を吸い込むだけで葵の便臭が鼻から入り込むため、呼吸すら満足にできないのだ。
「ごめん、夏実ちゃん、窓開けてきて……!」
「んう」
 夏実は鼻をつまみながら返事をすると、すぐに個室から出て行った。
 その隙に綾香はそっと汚物箱の蓋を開けてみたが、中はからだった。
(よかった……)
 ガラガラと窓が開けられる音を聞きながら、綾香はようやく安堵した。

  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
 夏実が個室の前に立つと、水洗音と共に綾香が出てきた。
「流れた……?」
 夏実の質問に綾香は首を横に振った。

「用務員さんに言ってくるね」
 トイレを出ると、綾香はそう言って走っていった。
 夏実は外の清浄な空気を吸い込んでようやく生きた心地がした。
 二人と入れ替わりに三人の女の子が入っていったが、すぐに死にそうな表情をして出てきた。
(葵ちゃん、よっぽどおなかの具合悪かったんだ……)
 夏実は葵のおなかが鳴る音や苦しげな表情、そしてトイレへと走り去って行く後ろ姿を思い出した。
 あれほどに苦しそうな葵の姿は今までに一度も見たことがない。
(……葵ちゃん……)
 夏実は両手でおなかをぎゅっと包み込んだ。自分のおなかまでもが痛いような気がしたのである。
 その後二人が葵の早退を知ったのは保健室を経由して教室に着いてからだった。


「ママ、ドア開けて……」
 家に着いた葵がインターホンでそう言うと、母が心配そうな様子で鍵のかかっていたドアを開けてくれた。
「……どうしたの? おなかの具合が悪いの?」
 立っているのもつらそうな様子でおなかを抱え込んでいる、げっそりと青ざめた葵を見て、母はすぐに大方の事情を飲み込めたようだった。
「うん……おなか痛くて、早退してきちゃった……」
 葵はそう言ってランドセルと体操着袋を玄関に置いた。
 その時にランドセルを、すごく重い何かを扱っているかのように震えながら両手で持っているのを見て、母は娘が想像以上に疲弊していることに気が付いた。
  グウゥッ……ゴロゴロゴロ……
「……ごめんねママ……ちょっとトイレ……」
 葵はそのままおなかを押さえて内股でふらふらとトイレに向かった。下校中に再び便意に襲われていたのである。

  ジュボッ!!ブビチビヂビチブジュッ!! ビジュボビブボボポジュッ!!

 すぐに激しい音がトイレの外にまで響き渡った。
 側で見守る母にとってその音は汚い音というよりも痛ましい音に聞こえた。
(何か変なものでも食べさせちゃったのかしら……それとも……)
 彼女は娘がこれほど酷くおなかを下してしまった原因をあれこれと推測し始めたが、答えは一向に出なかった。
 娘が便秘に悩んでいたことすら知らないのである。まさか下剤を飲んだなどとは想像もつかなかった。

  ブビィッッ!! ブリビチビヂッビチジュビジュブボピジュブッ!!!
  ブリッ!ブジュビジュビジュゥッ!! プゥッ!……ブリビジュポポポポッ!

(……とりあえず、下痢止めを出してあげなくちゃ……)
 母は暗い顔でトイレの前から去っていった。

「はぁ……はぁ、くぅんっ!」
  ビジュブリビヂビヂ……ジュビイィッ!!ビブジュッ!! ボジュッ!
  プビジュグジュビチュジュビ……ブピッ……ブブプププウゥゥーーッ!!
「ぁぁ、はあ……はぁ、は……ぁ……」
 葵の排泄はすぐに終わった。便器の水面は茶色く染まっていたが、その上には所々に下痢便のかけらが浮いているのみだった。
 もう腸の中にあるものは下剤によって全て流し出されてしまっていたので、いま肛門から吐き出されたものは、ほとんど学校のトイレでがぶ飲みした水だけだったのである。飲んだ水がそのままおしっこのようにして肛門から排出されたのだ。

「はぁ……ぁ……」
 葵はため息をつきながら、ぬるぬるとする肛門を拭き始めた。
 鈍い腹痛が相変わらず続いていて気持ち悪かったし、手を動かすだけでも指の関節がぎしぎしして痛かった。
 もう全身が限界で、葵は肛門を拭いている最中に何度か意識が途切れそうになった。

  ジャアアアアァァァーーーーッッ……
  ガチャッ

 倒れるようにトイレから出てきた葵は、目の前に母がいないのに気付いて少し安心した。
 おなかを壊していると知られているとしても、下痢便の排泄音を聞かれることには強い抵抗があった。

「ママ……あたし、二階で休むから……」
 葵は居間にいる母に弱々しい声でそう伝えた。もう少しでも気を抜いてしまったらその場に倒れてしまいそうな状態である。
「机の上に下痢止めを置いておいたから、飲みなさいね」
 家庭用医学書の「小児の下痢」という項を読んでいた母はとりあえずそれだけ伝えた。
「うん……」
 葵はもう聞こえるかどうかも分からないほどにか弱い声でそう答えて、二階へと階段を這いながら登っていった。

 部屋についた葵は用意してあった水で下痢止めを飲んだ。薬によって生じた下痢を薬によって治すことになってしまったのである。
 そして葵はそのままベッドに倒れこみ、すぐに意識を失ってしまった。

 それから夕方に目を覚ました葵はその後も何度かトイレで茶色い水を排泄し、もう二度と下剤に頼らないことを誓った。
 夜には綾香から電話があり、翌日の欠席を伝えることになった。

 その後もほとんどずっと寝続けていた葵は翌日の午後にはだいぶ体力を取り戻し、お見舞いに来た綾香と夏実に元気な姿を見せることができた。
 下痢もその頃には完全に止まり、さらに数日後には再び便秘に苦しむ生活に戻ったが、葵は前ほどにはつらいと感じることがなくなった。あの地獄よりはずっとましだと思えるようになったのである。
 救いを求めて手を出した下剤によって地獄の苦しみを味わうことになった葵は哀れな悲劇の少女であったが、その理不尽な苦痛によってわずかながら成長することもできたのだった――。


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