No.04「おくすりはひかえめに」

 滝川 葵 (たきがわ あおい)
 10歳 みそら市立下里第一小学校5年2組
 身長:142.9cm 体重:35.4kg 3サイズ:65-49-70
 短く切りそろえられた黒髪が健康的な、元気で明るい女の子。

 ヒロインの物語開始直前一週間の日別排便回数(←過去 最近→)
 0/0/1/0/0/0/0 平均:0.1(=1/7)回 状態:便秘

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(半分だけ飲んじゃおっかな……)
 葵は半分だけ飲んで残りを翌日に残すことにした。
 そうすれば、今夜も翌朝もそれなりの幸せを感じることができる。無難な妥協を選択したのだった。
 葵はボトルを傾けてきっちり半分のジュースをコップへと注ぎ、それを一気に飲み干すと、それなりに満足したふうな顔でとんとんと二階へ戻っていった。

「はぁ……」
 しかし、部屋に戻るころにはまた元の暗い表情に戻っていた。相変わらず下剤を飲む勇気が出せないのだ。
 葵はベッドに横たわって手足を伸ばすと、大きなため息をついた。
 時刻はもうすぐ九時半だから、そろそろ飲まないと、最悪の場合、学校でもよおしてしまうことにもなりかねない。
 それでも葵は下痢が怖くてなかなか勇気が出せなかった。

 『おなかがぐうーって、痛くなるの……』『うんちも下痢みたいになっちゃう』『おなかピーピーになっちゃった……』『わたしおなか痛くて早退したんだよ』『その次の日は休んじゃったし……』『……とにかくたいへんなことになっちゃうから』『あれだけはやめたほうがいいと思うよ』
 便秘という苦しみを解消するために決死の覚悟で下剤を買ったというのに、今の葵は下剤によって引き起こされる新たな苦しみに脅えているのである。
 葵は臆病な自分を泣きたいほどに嫌悪した。心底情けなくて怒りに体を震わせた。

(早く飲まなくちゃ……おなかピーピーになってもうんち出さなくっちゃ……)
 しかしそれでも、頭では分かっているにも関わらず、葵はいつまでも起き上がることができなかった。
 そうして横になったまま飲もう飲もうと思っているうちに……相当に疲れていたのだろうか、葵はいつのまにか甘い眠りの世界へと吸い寄せられてしまった。


「――!!」
 次に葵が意識を得た時、部屋は真っ暗になっていた。
 驚いて灯りをつけた葵は、時計がすでに四時を指しているのを見て愕然とした。
(コーラック飲まなくっちゃ!)
 瞬間、自身の臆病さと間抜けさへの怒りにも等しい反省から、葵は下痢のように激しい強迫観念に取り付かれた。もう何が何でも飲まなくてはいけないと感じた。再び葵の思考は下剤を買おうと決心した時に戻ったのである。
  ガラララッ!
 葵は慌てて机の引き出しをあけ、中からコーラックの箱を取り出すと、すぐにピンク色の小粒を薄いアルミ板から押し出し、汗で湿った手のひらにのせた。あまりにも鮮やかなピンク色を見て、一瞬躊躇し喉をごくりと鳴らした。
「んくんっ……!」
 が、次の瞬間ついに二粒をまとめて小さな口に放り込み、一思いに唾液で飲み込んでしまった。

(……。飲んじゃった……コーラック……)
 小さな物体感が喉を通り落ちると、葵は急に冷静さを取り戻した。
 とうとう下剤を飲んでしまったと思い、恐怖と後悔の念が生じて表情を暗くした。
(やっぱり……、ゲリ、するかな……?)
 ベッドに座り込み、重く膨らんだおなかをゆっくりとさすった。
 この中身が、これから半日も経たない内に全部出てくるというのだ。きっと物凄い量の大便をすることになるだろう。
(やだな……おなか痛くなるかな……恥ずかしい音とかでちゃうかな……、でも……)
 下痢は怖い。初めて飲む下剤。自分のおなかに何が起こるか考えるのが怖い。――けれど。
(もう、こうするしかないんだ……)
 この苦しみから逃れるためなのだから。仕方がない。そう何度も何度も葵は自分に言い聞かせた。

 目が覚めたのは尿意によるものだったので、それから葵はトイレに行っておしっこをした。
 その最中に時間を逆算し、学校で効いてきてしまう可能性が高いことに気付いた。が、すぐにそれ以上の思考を止め、もう何も考えないことにした。
 それからベッドへと戻った葵はそっとおなかに手を当てて、脅えと満足を半々に合わせた表情で眠りへと戻った。


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 朝の七時半に、葵は目覚ましの音で目を覚ました。
 真っ先におなかへと気を配ったが、まだ何も起こってはいなかった。
 わずかに腸が蠢くような感じもするが、はっきりと知覚できる程度ではない。やはり飲んだのが遅すぎたのだ。

 おなかのふくらみは前日よりもさらに大きくなっていたが、葵はそれから意識を逃した。
 部屋はかなり暑く、たまらず葵は冷房のリモコンに手を伸ばしてスイッチを入れ、冷風を顔に浴びせて涼んだ。
 それから歯磨き洗顔放尿といった毎朝の日課をこなすと、葵は部屋でパジャマを脱いで袖と肩先だけ淡いピンク色に染められた可愛らしいデザインの白い女児用シャツに着替え、男子が着用する半ズボンに似た形をした裾の短いホットパンツを穿き、そして居間に下りて半切れのパンをもそもそと食べた。
 テレビには天気予報が映っていて、今日は相当に暑い一日になるようだった。
 コップ半分だけ残しておいたジュースはその後健太に飲まれてしまったそうで、葵はすでに家を出発してしまった兄を恨み、もう二度と口をきかないと固く誓った。

「はぁ……」
(もし授業中にしたくなっちゃったら、やだな……)
 葵は授業中に便意に襲われることを恐れていた。何分間も戻れなかったらきっと大きい方だとばれてしまう。
 手を挙げてトイレに行くのはちゃんとできる自信があるが、大便をしたのだとクラスメートたちに知られるのは恥ずかしくて嫌だった。小学校高学年の女の子なのだから当たり前である。特に男子には絶対に知られたくない。
 葵は沈鬱な表情で家を後にした。


「――おはよう葵ちゃん」
「あやちゃん、おはよ……」
 家を出てすぐ、昨日別れたのと同じ場所で葵は綾香と再会した。毎朝そこで待ち合わせて一緒に登校しているのだ。
 二人はいつものように挨拶を交わしたが、昨日のことが一晩開けて恥ずかしく感じられるようになった上、互いに心配事で頭を満たしていたから、どちらもあまり元気が無かった。
 そのため、並んで歩き出すも、なかなか会話は始まらなかった。
 互いにちらちらと顔色を伺いあい、時に目を合わせてしまうとすぐにそっぽを向き合った。

「コーラック、飲んじゃった……」
 先に口を開いたのは葵だった。綾香はそれを聞いてどきりとしたが、おおかた予測はついていたので、葵が思っていたほどには驚いた様子を見せなかった。
「ごめんね……あやちゃん、やめたほうがいいよって、言ってくれたのに……」
 綾香が黙っているので、葵はさらに続けた。
 綾香はどう反応すれば良いか分からなくて黙っていたのだが、葵はアドバイスを無視したことで綾香を怒らせてしまったのだと思っていた。
「……でもね、やっぱり、……その……少しでも早く、出しちゃいたかったんだ……」
 葵は恥ずかしそうに下を向きながらしどろもどろに話し続けた。
「ううん」
 それまで何かを考え込んでいるふうだった綾香は、そこまで聞いてようやく口を開いた。
「わたしも、葵ちゃんの気持ちよくわかるから。――だから、気にしないで」
「ありがとう……でも、ほんとにごめん……」
 綾香の優しい声を聞いて、葵はふわりと気が楽になった。

「……でも、今はおなかの具合、だいじょうぶなの……?」
 それから綾香がそう尋ねると、葵は「うん」と言ってうなずいた。
「飲んだの遅かったから……、まだ効いてきてないみたい」
「えっ……!?」
 葵が答えると、綾香は驚いた表情を見せた。葵がもう大便をすませたとばかり思っていたからだ。
「……そうだったんだ……」
 しかし同時にある疑問も解け、綾香はどこか納得したような雰囲気も見せた。
 実は、さっきから葵の平然とした様子に違和感を覚えていたのだ。コーラックを飲んで、もしすでにその効果が表れているとしたら、葵は今頃トイレから離れられないほどに酷く下しているはずである。そうなると、そもそも学校に来ること自体困難だし、仮に無理をして家を出たとしても、こんなに平然としていられるわけがないのだ。

「いつ飲んだの?」
「夜中の、たぶん四時ぐらいかな……」
(……それじゃあ……)
 きっと学校で下痢が始まってしまう、と綾香は思った。それもただの下痢ではなく、猛烈な便意と腹痛を伴う凶悪なものに襲われることになる。
(葵ちゃん……大変だよ……学校でピーピーになっちゃうよ……)
 綾香は締め付けられるような痛みを胸に覚え、密かに小さく震え始めた。
 すぐ未来の葵が痛ましく下痢をしている姿を思い描いてしまったせいである。が、それが体の震えにまで至ったのは、彼女の今置かれている状況が半年前の自分のそれと酷似していることに強く脅えたからであった。

 ……実のところ、綾香は半年前、下剤が効きすぎて学校で下痢を漏らしてしまっていた。
 授業終了と同時に駆け込んだトイレで、一週間分の大便を全て下着の中に吐き出してしまったのだ。
 その後は個室に篭もり続けたため、担任と保健医、そして母以外には知られずにすんだが、この事件は綾香の心に深いトラウマを残していた。

(……葵ちゃん……わたしはコーラックのせいでウンチ漏らしちゃったんだよ……)
 綾香は記憶の奥底に封印していた茶色い悲劇を思い起こした。
 涙の出そうな腹痛、体中の力を吸い取る便意、下着の中を蠢く下痢便の生暖かい感触、やってしまったパンツの異常な重さ、その中身を見た時の胸詰まる絶望、個室中を満たす吐きそうな悪臭、心を蝕む焦燥感――。
 それらの光景は今でも時折夢の中で再現され、綾香のパジャマを冷や汗でぐっしょりと湿らせていた。
(わたしみたいなことには、なっちゃダメだよ……)
 まさか、葵ちゃんがそんな情けない失敗をするはずがない……。そう理解してはいたが、綾香はなぜか不安だった。
 どういうわけか頭の中に、あの時の自分と同じ苦しみを味わっている葵の姿が浮かんでしまうのである。

「もしおなかが痛くなったら、授業中とかでも絶対すぐにトイレ行ったほうがいいよ……」
 わずかなのち綾香が真剣な表情でそう言うと、見つめられた葵もつられて同じ表情でうなずいた。
 授業中でも普通にトイレへ行けそうな葵にとっては無用の助言だったのかもしれないが、綾香はそれを伝えずにはいられなかった。彼女が漏らしてしまったのは授業が終わるまで無理な我慢を続けていたのが原因だったから、そのアドバイスはまさに彼女にとって究極の教訓だったのである。

 そして、それを最後に綾香は口を閉ざしてしまった。困惑した表情で恥ずかしそうに唇を尖らせ、何を口にすれば良いか分からないといった様子であった。同時に葵も自身のおなかのことを改めて心配し始めて険しい表情で無口となり、そのまま二人はほとんど何もしゃべらずに校門へと至った。

 葵の小さなおなかとおしりは、今は眠りについているかのように穏やかで静かだった。
 まるで、来るべきその時を待っているかのように……。


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 朝の会から三時間目まではいつも通りに終わった。
 葵と綾香は席が離れていたので授業中に会話をしたりすることはなかったが、綾香は休み時間になるとすぐに葵のもとへとやってきた。
「おなか、だいじょうぶ?」
「まだなんともないよ」
「そう……」
 綾香はこうやって休み時間のたびに、葵におなかの具合を尋ねるのである。
 心配してくれているのはよく分かるのだが、葵は気恥ずかしくて嫌だった。
 おなかが痛くなったら勝手にトイレに行くのだから、わざわざ具合を尋ねに来ないでほしい、と思っているのである。
「……じゃ、またあとでね」
 そう言って綾香が去っていくと、葵は机に突っ伏して体を休めた。
「はぁ……」
(早くうんちしちゃいたい……)
 いつ訪れるとも分からない便意に脅え続けるのは、予想外に気持ちの悪いことだった。
 今の葵はおなかの中に時限爆弾を抱えているのである。
 騒がしい教室の中で、葵はひとり誰にも気付かれないように、こっそりと静かなおなかをさすり続けた……。


  ……キーンコーンカーンコーン……

 やがて鐘の音が鳴り響いた。四時間目は社会の時間である。生徒たちはいつも通りに席に戻った。
 ――が、どういうわけか担任の伊藤先生が教卓にいなかった。三時間目が終わった時は確かにいたのに、いつのまにかいなくなっているのである。
「先生、どうしたのかな?」
「何か取りにいったとか……?」
「もしかして自習?」
 すぐにクラスはざわめきだし、その空気は休み時間の延長と化した。
「……私、職員室に行ってくるね」
 しばらくして学級委員の女生徒が立ち上がり、教室を出て行った。

 ――そしてすぐに学級委員は先生を連れて戻ってきた。
 が、その側にいたのは担任の伊藤先生ではなく、別の学年を受け持っている鬼島先生だった。
 生徒にやたらと厳しいことで有名な先生で、それまで騒がしかったクラスはこの先生の姿を見るなり、ぱっと静かになった。

「伊藤先生は祖母が倒れられたとのことで、急遽病院に向かうことになった」
 鬼島先生はそう言って教科書を教卓の上に置くと、そのまま黙って生徒たちをにらんだ。
「――起立!」
 日直の生徒がはっとして号令をかける。
「気をつけー、礼!」
 クラス全員が機械的に動作をし、静かに授業が始まった。

「では教科書の三十二ページから始める」
 鬼島先生はそう言うと、静かに板書をし始めた。
 普段ふまじめな生徒までもが黙ってその内容をノートに写してゆく。クラス全体が完全に威圧されてしまっていた。

(やだ……どうしよう……)
 しかし、葵の脅え方はクラスの中でもとりわけ普通ではなかった。
 鬼島先生の姿を見るなり体をびくっと震わせ、それからずっと震えているのである。異常な脅え方だった。
(……こわい……こわいよ……)
 実のところ、葵は小学四年生の時にこの先生から体罰を受けたことがあった。あやまって高価な花瓶を割ってしまったのを見咎められ、容赦無く平手打ちされたのである。
 それで深く傷付いた葵はそれ以後この先生を見るだけで脅えるようになっていたのだ。
 が、このとき葵が脅えている理由はもちろん、それだけではない。
(もしうんちしたくなっちゃったら……)
 葵は怖かった。普段なら堂々とトイレに立つことができるが、今はその自信が無かった。わずかな会話をすることさえも恐ろしいのだ。
 しかし、だからと言ってトイレに行かずに我慢を続ければ、待っている結果はおもらしである。
 もしそんなことになってしまったら、葵はもう恥ずかしくて生きてはいけない。
(この授業中だけは効いてこないで……おねがい……!)
 葵は膨らんだおなかをさすりながら祈り始めた。

  キュグウゥ……
(……あ……)
 しかしそれがかえって刺激を与えてしまったのか、葵はついにおなかに痛みを感じ始めてしまった。
(い、いや……)
  ……ゴロロロロッ
「あぅ……」
 まだ痛みもわずかで便意も無いが、こうなってしまうと、もういつ本格的におなかが下り始めてもおかしくはない。
 葵は唇を噛みながらおなかをさすり続けた。おなかがぐっと痛むたびに体が小さく震えて肛門がひくひくするのが分かった。
 腹痛は時間と共にゆっくりと重くなってゆき、葵の心は焦りに包まれていった……。


 ――そしてそれから二十分ほどが経ぎた。
  グルグルグキュルッ……
(あと、二十三分……)
 葵は少し前から残り時間を数え始めていた。ときおり背中を冷や汗が流れる。
 幸いにしてまだ便意は訪れていないが、腕を押し付けられるようなおなかの痛みは最初よりもだいぶ重くなっていて、葵は体をわずかに前へと傾けていた。

  ……クキュゥゥゥ……
「ぅうぅ……」
 ふくらんだおなかはいつしか熱を発するようになっていた。
 腸がぐねぐねとうごめいているのが、おなかに当てている手を通して感じられる。
 葵は不安で頭の中がいっぱいになっていた。もう今すぐにも便意に襲われそうな感じだった。ノートなどはほとんど全く取っていない。

(あっ……)
 うつむいていた顔をふと上げた葵は、綾香と目が合った。葵は最後列の廊下の側、綾香は最前列の窓際に座っている。綾香は葵の様子が気になってわざわざ振り向いていたのだ。先生は板書をしている最中で、綾香の不良行為には気付いていなかった。
 心配そうな視線を送る綾香に、葵はわずかに作り笑いをして、「まだだいじょうぶだよ」とメッセージを送った。
 それを見た綾香はほっと安心したような穏やかな表情を見せ、自身も優しく微笑み返した後、すぐに前を向いた。

(……あと、二十一分……)
 板書を終えた先生が、再び淡々と授業を進めてゆく。
 昼の最も暑い時間帯だったが、教室の中は窓が全開にされていたために意外と涼しかった。
 遠くからガタガタと工事の音が聞こえる。周りの空気に同調するかのように葵の心は静かになり、恐怖感が少しだけやわらいでゆくのを感じた。
 もしかしたら、このままもよおさないで授業を終えられるかもしれない。
 葵は小さくため息をついた。

 ――が、次の瞬間。
  グキュルルウウゥーーー
「ぁぅっ!!」
 葵のおなかからそれまでで一番大きな音が響き、強く締め付けられるような激痛が走った。
(ぁぁ……あ、うぐぅっ……!)
 同時に葵は肛門の奥に熱い圧迫感を感じて、体をびくんとさせた。

  キュグルルルルル……
(やだ……ぁ……どうして……こんな急におなか……)
 体全体に響き渡るその不快感はまさしく便意だった。
 それもただの便意ではなく、今すぐの排泄行動を促す、極めて強烈な便意である。
 下剤に刺激された葵の腸が溜まりに溜まった大便を物凄い勢いで溶かし、次々と肛門へ向けて送り出し始めたのだ。
 痛烈な腹痛と強圧的な便意は完全に下痢の時と同じもので、葵はわずかに顔をゆがめ、体を小刻みに震わせて苦しみ始めた。

  グウゥゥー……ギュゴロゴロゴロォッ……
(あと、二十分……ガマン、しなくちゃ……!)
 突然訪れた物凄い便意に悶えながらも、葵はなんとか授業が終わるまで我慢できると思った。
 今までに十分間以上下痢を我慢したことが無い葵は、二十分間というものがどれほどに苦しい長さであるか知らないのだ。
  キュクルルルル……グルグルグルギュル……
「……ぅぅ……」
 おなかが鳴るたびに腸がねじれるような激痛が走り、肛門をむりやり押し開けようとする激しい便意と共に葵の体中の力を奪ってゆく。
 葵はおなかをさすりながら、たまらず体を大きく前屈みにした。
 授業中の教室での孤独な便意の我慢――つらく長いものになるであろう戦いが、ついに始まってしまったのだ。

  ……ゴロゴロゴロゴロゴロ……グピィィィ……
(あと、十七分……)
 そしてそれからわずか三分の間にも葵の腹痛と便意は大きな激化を見せていた。脂汗がだらだらと噴き出て、もうトイレのこと以外何も考えられない。
 便意の方は早くも、肛門を意識して強く締めていないと中身が一気に溢れ出してしまいそうなほどまでに強まっていた。
 あれほどに待ち望み、挙句は自ら引き起こしたこの激しい便意を、今は必死で我慢しなければならない。あれほど強く望みながらも全くうんちが出せなかった一昨日とは完全に正反対である。あまりにも残酷な反転であった。

  グキュゥゥウ……ゴポポ、ゴボゴポッ……
(ぅぅぅ、おなかいたい……)
 おなかが鳴るたびに腸がぼこぼこと蠕動するのがはっきりと分かる。
 下剤によってその活動が異常なまでに活発化されているのだ。
 いくらなんでもここまで強いなんて思わなかったと、葵は下剤の服用を改めて後悔したが、もう完全に手遅れなのは本人が一番よく解っていた。
 葵は切ない顔をしながら何度も何度もおなかをさすり、両膝や靴下の中の足指同士を擦り合わせ、必死に便意を紛らわせようとした。

(……あと、十五分……)
  キュルルルゥーー……キュゴロロロロオッ!
「はぁ、はぁ……っ……!」
(うう……はやく終わって……はやくうんちしたい……)
 一分一分が異常に長く感じられる。涙が出そうなほどにおなかが痛い。
 何度も盛り上がり開きそうになる肛門を必死の思いで締め付けながら、いま味わっている腹痛と便意が普通の下痢とはまるで程度が違うことに、葵はようやく気付き始めた。
 今の葵を苦しめているのは、おなかを膨らませるほどに溜まりに溜まった一週間分のうんちが下剤によってドロドロに溶かされて直腸へと流し込まれた、凄まじい量の汚物なのである。――腹痛と便意の直接の原因となる下痢便の質量が段違いなのだ。
 シャツやショーツが脂汗によって起伏の小さな体に貼り付き始め、全身の不快感がますますその程度を増してゆく。

  クキュゥルルルルグルッ!
(あ……)
 葵は急にそれまでとは異なる圧迫感をおしりに感じた。
(おならが出ちゃいそう……)
 わずかな量の空気圧。葵はすぐにそれがおならだと分かった。
(あああ……!出ちゃうっ……!)
「ぁっ!」
  ブププシュウウゥゥゥーーー……ッ……
 葵はほとんど我慢することなく湿り気のあるおならを出してしまった。――正確にはほとんど我慢できなかった。
 一瞬の間に便塊の隙間を流れ抜けて肛門にまで至ってしまったおならを押し止めることができなかったのだ。
 圧倒的な便意の波に曝され続けている葵のか弱い肛門は、ものの数分で、わずかな量の流動物を押さえることもできないほどに、疲弊させらてしまっていたのである。
 直腸で荒れ狂っている下痢便をなんとか抑えることができているのも、ほとんど出口付近に詰まって栓の役割をしてくれている硬質便のおかげだった。

(ぅうう……くさい……)
 出る瞬間に肛門をすぼめたので音はごくわずかですんだが、臭いは強烈なものだった。
 わずかな量の中に悪臭の微粒子が密集していて、ほとんど下痢便と変わらない臭さである。
 葵の座っている席はクラスで最も右後ろにあり、隣の席の男子も風邪で休んでいたので、幸いにして直撃を受ける者はいなかった。
 が、おならを放った葵自身は当然、酷い悪臭に苦しむことになってしまったのだ。

(……うぐぅぅ……)
  キュゴロゴロゴポポポッ、グキュルキュルキュルゥ!
 下痢便に限りなく近いおならの悪臭は葵の体にむわりとまとわりつき、我慢する気力を奪うと同時に排泄欲求を強くかき立てる。
 ショーツと肛門との間にあるわずかな空間が生暖かい湿った気体で満たされ、まるでうんちを漏らしてしまったような感触を葵は味わうことになってしまった。
 その感覚に排泄器官としての機能を刺激された肛門が激しく収縮する。そしておなかは相変わらず灼けるように痛い。
(トイレ行きたい……はやく行ってうんちしたい……!)
 この数分の間に何度白い陶器を頭の中に思い描いたか分からない。
 同時に幾度と無く先生の様子も伺っていたが、まだ手を挙げるつもりにはなれなかった。

  ゴロゴロググウウウゥゥッ!!
(だ、だめっ……!!)
 残り十三分を頭の中で数えようとした瞬間、突然肛門が高く盛り上がり、葵は慌てて左手でホットパンツの上からおしりを抑えつけ、次の瞬間には右手も重ね合わせた。早くも括約筋の力だけでは便意を抑えられなくなってしまったのである。
 汗で湿っている肛門に、上から押しつけられたショーツがべちゃりと貼り付き、おもらしをしてしまったかのような生暖かい不快感はさらに実体性を増した。

  キュルキュルキュルキュルルゥゥーーッ……!
(うんち……、したい……!)
 栓になっている硬質の便塊が熱く煮えくり返った液状便の重圧に押され、今にも肛門から飛び出そうとしている。
 腸の中が下痢便でぱんぱんになっていて隙間が全く無いため、肛門に押し寄せる液状便の奔流は逆流すらしようとしない。
 葵の震える左手は、便塊の先端のごつごつとした固い質感をはっきりと感じ始めていた。

  グリュリュウウゥゥゥ……キュゥゥウゥ……ッ……
(おなかくるしいっ、うんちしたい……!)
 手による安らぎを失ったおなかが悲鳴のようにうなる。葵はあまりに酷すぎるおなかの痛みに打ち震え、ついに目に涙を浮かべ始めた。体はさらに前へと折り曲げられ、白いノートの上に大粒の汗がぽたぽたとしたたり落ちる。
 葵が固く目をつぶると、目尻から一筋の涙が流れて頬を冷やした。その瞬間にも肛門が開きそうになる。
 そして葵はその涙を肩で拭き取った。もう肛門から両手を離すことができないのだ。

  ギュルギュルグピィーー……グリュギュルル……ゴロギュルグウッ!!
「……ふうぅ、ぅぅ……っ……!!」
 わずか数秒の間に肛門が何度も何度も盛り上がる。
 あまりに強すぎる排泄欲求に理性が飲み込まれそうになる。
(もうダメ……!このままじゃ、がまんできない……)
 葵はついに、授業が終わるまであと十分以上も我慢するのは無理だと悟った。
 下剤によって物凄い勢いで膨ませられた便意と腹痛は、あっという間に少女の体を限界まで追い込んでしまったのである。

(トイレ行きたい……いかなくちゃ……!)
 考えるだけでも恐ろしいことだが、先生にお願いしてトイレに行かせてもらうしかない。
 そうしなければここで脱糞してしまうことになる。もう恐怖に脅えているどころではないのだ。
 葵は閉じていた瞳をうっすらと開けて、黒板を指しながら何かをしゃべっている先生を上目で見つめた。
(行きたいですって、言わなくちゃ……)
 葵は溜まっていた唾をごくりと飲み込んだ。
 手を動かすことはできないから、いきなり声を上げるしかない。
 だが、それは今の葵にとって相当に勇気が必要な行動だった。
 先生の重苦しい授業を自分のために中断させてしまうというのは言うまでもなく恐ろしいことであるし、この静まり返った雰囲気の中でトイレに行くことの許可を願うというのは、女の子としてこの上なく恥ずかしいことでもある。
 それで結局葵は覚悟を決められず、そのまま先生をにらんで悶え始めた。

「あぁ、はぁ……ふぅぅぅ……っ!」
  ギュルゥッ!! グキュルッ……グウウゥゥゥーー!!
(うんちしたいぃ……っ……!!)
 もう一刻も早く教室から逃げ出してトイレに駆け込んで白い陶器の上に座るかまたがるかして、おしりの穴を思いっきり開いて、おなかの中にある苦しみを全て吐き出してしまいたい。――気が狂いそうなほどにうんちがしたい。
 それなのに、どうしても勇気を奮い立たせることができない。

  ギュゴロゴロゴロゴロォ!クキュウウウゥゥッ!!
(はやく、はやくトイレ行きたいのに、どうしてあたし……っ……!)
 それから一分ほどが経ったが、まだ葵は何もできずにいた。
 あと何秒経ったら先生に言おう、そういう決死の誓いをもう十回ほどしていたが、そのことごとくを破ってきていた。
 そうしている間にも腹痛と便意は際限なく激しさを増してゆき、自身の情けなさへの怒りから生じる焦燥感と結びついてさらに重く葵を苦しめる。

  グギュルギュルギュル!!ギュルッッ! ピーーッギュルギュルゥーーーッ!!
「……ぁぁはぁぁ……」
 葵はいよいよ本当に限界が訪れつつあることを悟り始めた。
 全身がびくびくと痙攣し始め、肛門を抑えている両手の力までもが徐々に抜けてゆく。
 わずかにでも気をゆるめたら体中の力がふっと抜けてしまいそうだった。
 もうあと一分我慢できるかもわからない。早く先生の許可を得てトイレに行かないと、本当にここでうんちを漏らしてしまう。
 今度の五秒後は絶対に勇気を出そうと固く誓った瞬間、
  ……ッキュウウゥゥゥ……ギュググゥウウウウゥゥッ!!!
(もうダメっっ!!)
  ガタッ!
「せんせぃ、トイレいってきてもいいですか!?」
 かつてなく激しい便意に襲われた葵はついに先生にその欲求を訴えた。肛門を押さえたまま立ち上がったのである。勇気をふりしぼるよりも早く、本能が体を動かしていた。
 立ち上がるだけでも全身に振動が響き渡り、一気にうんちが飛び出しそうになる。もう声を出すのもつらい。
 先生が話すのを止めると同時にクラス全員の視線が一斉に葵に注がれ、教室の時間が止まった。
 葵の顔色は一瞬で真っ青から真っ赤へと、信号のように変わった。その体は痛みと恐怖と羞恥で大きく震えていた。

「……トイレ?」
 先生は怪訝な顔をしながら、乞うような瞳でじっと自身を見つめている葵を見た。
 静寂が教室を満たす。

 葵は必死の思いでそのままトイレに行かせてくれることを祈ったが、次の瞬間、信じられない答えを返された。
「駄目だ。休み時間まであともう十分も無い。低学年じゃないんだから我慢しろ」
「ぇ……」
 葵は胸を締め付けられた。あまりにも残酷な返事だった。
 先生は葵の排泄欲求が急を要するものであるとは思わなかったのである。
 葵の席が教卓から最も遠くにあったため、その異常な雰囲気に気が付かなかったのだ。
 葵は立ち上がってすぐに、下痢をクラスメートに悟られないように無理して背筋を伸ばしたので、おしりに両手が回されているのも単に休めの姿勢をしているようにしか見えなかった。
 ――総合して、先生の目に葵は忍耐力の身に着いていない駄目な生徒に映ってしまったのである。それで彼は冷たい態度をとったのだった。

「……早く座れ」
 先生は静かにそう言って、固まっている葵をにらみつけた。
「……ぁ……」
 葵はそれに威圧され、崩れるように席に座り込んでしまった。

  キュクグウウゥゥーーッ!! ギュルグギュルギュウッ!……ゴロギュルギュルルルッ……!!
「ぁぁあ……ぁぁ」
 ショックで頭の中が白くなってしまった葵をさらなる便意が襲う。
 葵は絶望していた。
 先生に言えばトイレに行かせてもらえるという、それまで心のより所にしていた希望が完全に打ち砕かれてしまったからだ。
 もう授業が終わるまで我慢し続ける以外に無事にトイレに行くすべは無いが、その残り時間はまだ六分間もある。今の葵にとっては永遠にも等しい長さだった。
  ゴロッゴロゴロゴロォ……ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!
(ぁあぁぁあ……もうがまんできない……)
 全身が一つになって苦しみを吐き出そうとしている。
 おもらしという言葉が急に差し迫った現実となって葵に近づいてきていた。
(うんちしたい……うんちしちゃいたい……)
 排泄欲求があまりに強すぎて、他のことが何も考えられない。
 わずかに残る自尊心でもって必死に便意を我慢しているが、すでに肛門の決壊は時間の問題だった。
 こんなところでうんちを漏らすなんて絶対にできないはずなのに、もう本当に出してしまいそうだった。

  キュグゥーーゥゥウグウゥゥーーッ!!
「……ぁぁあ……」
 頭の中が白くなってゆく。
 先生の裏切りによって与えられた絶望はあまりにも深いものだった。
 葵の心身はもう、苦しみに耐えられない。
  グゴポゴポ、ゴポッ……ギュグルルルルルルゥゥゥーーーッッ!!!
「ぁぁ」
 限界だった。手に力が入らない。体中の感覚が抜けてゆく。肛門がゆるむ。
 もう、我慢できない――。

「先生っ!!」
 突然高い声が響いた。綾香の声だった。
「葵ちゃんおなか壊してるんです!トイレに行かせてあげてください!」
 葵ははっとした。綾香はクラスでただひとり、葵が限界を迎えていることに気付いてしまったのである。
 本来なら耳打ちで先生に伝えるべき内容だが、もう一刻の猶予も無かったから、やむをえず大声で訴えたのだ。

 ……しかし、それはもう遅かった。
 遠くにいる綾香を見つめる葵にクラス中の視線が突き刺さる。
(やだ……みんなみないで……はずかしいよ……)
 葵は羞恥に打ち震えた。これから自分が何をするのか理解してしまっていたのである。
 綾香の行動は皮肉にも、葵をさらに苦しめただけだった。
  グギュルギュルギュル、グゥウウウウウゥゥーーーッッ!!!
 たまらずうつむいた瞬間、全ての意思力を断ち切る絶対的な便意が葵の体に響いた。
 肛門が開いて、奥のものが進んでゆくのが分かった。
(みないで――!!)
  ブリミチミチミチニチミチ!!
(いやぁあっ!!)
 あまりにも鮮明な、硬く太いうんちが肛門を通り抜ける感覚。ついに葵はうんちを漏らし始めたのだ。
 全開になった肛門から、物凄い勢いで大便の塊が飛び出してゆく。

「ぁぁあぁ、あぁぁ……!」
  ミチュクチニミチチチミチミチミチ!!!
 でこぼこした硬質便が肛門を貫いてゆく排泄の快感に、下着の中を巨大な物体がうごめく異常な感覚が加わる。
 ショーツにぶつかったうんちの先端が、その行き場を求めて周りの空間をぐにぐにと押し広げているのだ。
 栓の役目をしていたこの便塊は下剤の影響を受けずに便秘の時の硬さのままだったから、ホットパンツの張力を受けても押し潰されるということがないのである。
 葵の穿いているホットパンツは目で見てもわかるほどに大きく盛り上がっていき、肛門を抑えつけたまま固まっている両手にうんちの重さと暖かさを伝えていった。ホットパンツの膨らみが見える最後列の生徒たちが、早くも葵の脱糞に気付き始める。

  ニチミチミチィニチプチブリニチ!!
 ホットパンツをはち切れんばかりにまで膨らませた葵のうんちはついにその張力に負け、大きくねじ曲がって肛門とショーツの間の狭い空間でぐるぐるととぐろを巻いていった。
 その便塊は長さ三十センチメートルを超えてもなお一度もちぎれることなく、物凄い勢いで葵の肛門から外に出てゆく。
(くさい……やだ、あたし……うんちもらしてる……)
 熟成された大便の臭いが葵の全身を包み込み始めていた。
 おしり中が感じているうんちの生暖かさと、その硬いでこぼこが肛門を擦るたびに響く痛みをともなった熱さが下半身を絶え間なく刺激し続ける。腸からうんちが次々と絞り出されているのがうねる痛みで分かり、その排泄の感覚が全身に浸透して便意を溶かしてゆく。
 ――今まさに自分はうんちを漏らしている。それが何よりもはっきりと分かった。
  ミチヌチュプピチミチィミチブリュニチミチミチ!!
「あぁあぁぁ……ぁ……」
 自分がもう取り返しのつかないことをしてしまっていると絶望しながら、葵は脱糞を続けているのである。
 肛門を必死に閉めようとしているが、もう完全に感覚が無い。
 長い苦しみの末に訪れた排泄は大きな開放感を葵に与えていたが、それよりもはるかに恥ずかしさと後悔の念が強かった。

「ぁあ、はあぁぁ、ああ……っ……」
  ブリュニュルッブリブリュミチピチュブリニュリュミチュ!
 そうしながら、葵は肛門を通ってゆく摩擦感が急になめらかになってゆくのを感じた。
 それまでは形を大きく変えることのなかった大便が下着にぶつかるなり潰されて、すべすべの尻たぶに塗りつけられてゆく。
 直腸から押し出されているうんちがどんどん軟らかくなっているのだ。奥にあるうんちほど下剤の影響を強く受けているのである。

  ミチブリミチュイィィッ!……ブポオオォォッ!!!
  ビジュビチビチプビヂビチブピュビヂブピイィィッッ!!!
  キュグゥグキュルキュルキュルルゥゥ!!
「ぁぐぅっ!!」
 次の瞬間ついにうんちが途切れて葵の肛門は一瞬閉じかけたが、間断無く巨大な質量によって押し開けられた。
 下剤によってドロドロに溶かされた軟便がガスと共に葵の肛門から下着の中へと噴き出し始めたのだ。
 その瞬間に響いた湿り気のある破裂音は教室全体にまで伝わり、葵に集中している視線はさらにその好奇を強めた。
 まだ綾香が葵の下痢を訴えてから数十秒も経ってはいないのである。

「ふぅぁぁぁぁぁぁぁ……」
  ブリビチビチビチ!! ブリブビピッブリブリリブリ!!!ブォリュッ!!
  ビジュブリブリリイィィッッ!! グジュブビビッピビビバブォッ!!

 葵は全身をぶるぶると震わせながら下痢便を漏らし続けた。
 それまでとは段違いの悪臭が下半身から立ち上り、葵はその繊細な羞恥心をより激しく刺激されたが、今の彼女にできることはもう、ただただ本能のままに苦しみを吐き出し続けることのみであった。肛門も足も痙攣するだけで神経が働かない。ここから逃げ出すことすらできないのだ。
 下痢便の生暖かく軟らかい質感が小さなおしり全体にぬるぬるとまとわりつき、おなかの激痛と結びついて激しい不快感となって葵を震わせる。
 ホットパンツから下痢便の水分が滲み出て、おしりにぴったりと添えられている左手を湿らせてゆく。

(うんちもらしちゃってる……あたしうんちしちゃってるよお……)
  グジュブリブリブピ!! プウゥゥッ! ブリジュビィィイイ!
 肛門が激しく震えて湿り気のある排泄音が響き続けていたが、幸いにしておしりを包んでいる下着に多くを吸収されて、しばしば響くおならの音以外はごく周辺の生徒にしか聞こえなかった。
 ――が、それでもすでに生徒たちの多くはその連発される湿った破裂音で、葵のおもらしに気付いてしまっていた。
(葵ちゃん……うそ……うそ、だよね……?)
 教室中が明確に凍り付いてゆく中で、綾香は頭の中では分かっていながらもなおその事実を飲み込めないでいた。

  キュゴロゴロロロロ!! グギュグギュグルゴポンッ!!
  ブリブリビチビチビヂジュビチビチブリブビィッ!!!
  ブォブゥウッッ!! ブジュビチビチィィィッ!! ブビビビブプゥウゥッ!
 肛門を下痢便の灼けるように熱い奔流が絶え間なく走り抜け続ける。完全に垂れ流しだった。
 熟成された下痢便の物凄い悪臭が葵のおしりから教室全体へと拡がってゆき、何人かの生徒はついに鼻をつまみ始めた。
 葵の穿いている小さな下着は、すでに大量の下痢便でパンパンになってしまっていた。新たな下痢便が肛門から吐き出されるたびに周りのうんちが押されてうごめき、葵の未成熟で愛らしい丸いおしりをぬるぬるとした生暖かい質感でもって何度も何度も撫で回す。
 茶色く膨らんだホットパンツの下に埋まっている指先をわずかに動かすだけでも下痢便のぐにゅりとした軟らかい質感が伝わってきて、葵は幼い体をびくんと震わせた。

「……ぁあぁぁあ……うぁ……ぁぁ……っはぁぁぁ……」
  ブビビブピブヂッ!! ブッ!ブリリリッ!! ブリビジュビチュブチュ!!
  ビチビチビチブビッッ!!ブビビビッ……ビブリビヂブチチブォブッ!!
  ブリプリブリブリ!! ブオッ! ブビブビチチブリビヂチチュッ!!

 この一週間に摂取した様々な食べ物が一様にドロドロの汚物と化して、おしりの穴から外へと排泄されてゆく。
 最も根源的な生命活動を少女は小さな体で必死に行っていた。

(――っ!?)
 葵は目を固くつぶって腹痛と羞恥に耐えていたが、突如それまでにない悪寒が体中に走り、はっと目を開いた。
「あ……やぁぁ……」
  ブッ!ブリビチビチビチビチ!! ビジュブリブピッ!!
 ホットパンツの裾から茶色い下痢便が溢れ出して椅子の上に拡がり始めたのだ。一週間分の排泄物は小さな女児ショーツの中などに入りきるものでは到底なかったのである。体中に走った悪寒は敏感な内ももに下痢便が塗りつけられることで生じたものだった。
 外気に晒された下痢便はそれまでよりもさらに激しい悪臭を立ち上らせ、葵は臭さと気持ち悪さで汗まみれの顔をいっそう苦しげに歪めた。

  ギュルルッ……クキュウウウゥゥゥウ!!
(だめ……とまらない……!)
  ブリリッ! ビチビチビジュッ!! ブビリリリッリリ……!!
  ビヂビヂビヂブチュッ!! ビイィィィーーッ! 
 もちろん、だからと言って自身の脱糞を制御できない彼女にはどうすることもできない。
 弱まることのない激しい勢いで肛門から下痢便が産み出され続け、そのたびにパンツの裾から下痢便が漏れ出す。
 下着の中の広さは一定だから、中心にある肛門から新しい下痢便が吐き出されるたびに、端にある下痢便が押し出されて出てくるのだ。
 下痢便はホットパンツの裾全体から溢れ出ていたが、特にその量が多いのは、最初に溢れ出し始めた場所である股の間だった。葵は足をゆるく開いた姿勢でうんちを漏らし続けていたため、その辺りが最も裾の隙間の大きい箇所だったのである。

(……こんなに、あたし……うんち……いっぱい、もらして……)
  ブリブリブビ!! ブブウゥッ!ブビッ! グジュビチビチビヂビチッ!!!
 葵は脅えきった瞳で股の間の下痢便が増えてゆく様を見つめていたが、直後にはさらに恐ろしいことが起こった。
  ボタッ! ベチャボトボトボトボトッ!!
(!!?)
 あっという間に太ももと太ももの間のわずかな隙間を埋め尽くしてしまった下痢便が、今度は椅子の縁から床へと流れ落ち始めたのだ。
(だ、ダメっ!)
  ボダッッ!!!ベヂボドトトトトトベチュッ!!ベヂャベチャベチボタッ!
(ああああぁっ……!)
 葵は慌てて足を閉じたが、それは逆に最悪の結果を引き起こした。
 股の間に溜まっていた大量の下痢便が閉じようとする両ももに押し出されて、その大部分が床にぶちまけられてしまったのである。
 その激しい落下音は教室全体に響き渡り、床に飛び散った下痢便は葵の靴下や上履きをめちゃくちゃに汚し、前の席の娘の上履きにまでも茶色い斑点をつけてしまった。
「きゃあっ!!」
「汚ねぇ!」
「滝川がうんこ漏らしてるぞ!!」
「やだぁっ!」
 ほとんど同時に周りの生徒たちが大声で騒ぎ始めた。
 ついに葵のおもらしは、今までの音や臭いに加えて、目に見える形でも明らかになってしまったのだ。
 それまで疑惑でしかなかった葵のおもらしは、明瞭な現実となって生徒たちにその実体を現したのである。
「ぁあ……」
 葵は小さなうめき声を上げた。
「ウソ……?」
「なにあれ、信じらんない……」
「まさか葵ちゃんが……」
「さっきからずっとうんこ臭かったよな」
「変な音も聞こえたし……」
 教室は一瞬にして静かなざわめきに包まれた。クラスメートたちの言葉の一つ一つが葵の心に突き刺さる。
 近くの生徒は葵の出した臭く汚い下痢便から離れ、遠くの生徒はそれを好奇と嫌悪の視線で眺める。
 葵はもう、自身の排泄物を隠すことさえできなくなってしまったのだ。

  グピィィィィ……キュクゥッ! ギュルゴロゴポゴロロォッ!!
  ボトトトトビチャビシャドポッ!! ビブッ!! ベチャビチャビチャァッ!
  ドポポボチャビチャッ! ボタボタプボッ! ベタビチャビチャドプッ!!
「あぁ……ぁぁぁぁ……」
 それでも葵の排泄は止まらない。
 肛門から滑り出てゆく下痢便は後になるほどその軟らかさを増していたが、いつしか完全な液状となっていた。
 肛門から勢い良く放たれる水流によって下着の中に充満している下痢便はさらに軟らかく溶かされ、液状便の流れに乗ってホットパンツの隙間から椅子の上を流れ抜け、次々と床に落下していった。

  ビチャボチャチャチャッ!! ボチュッ!ベチャベチャビチャビチャッ!!
 椅子の縁からドバドバと水のような下痢便が流れ落ちてゆく様はまるで滝のようですらある。
 葵の机の下には下痢便の沼ができ始めていた。周りの生徒が慌てて机ごと避難してしまったため、葵は広い空間の中でひとり晒し者になった。
「くさ……」
「漏らすほど下痢ってんならもっと早くトイレ行けよな」
「次の給食カレーなんだけど。どうしてくれるんだよ」
「……てゆうかここで食べたくない……」
 次々と冷酷な罵声が浴びせられる。それは臭くて汚い排泄物で公共の場を汚してしまった葵への制裁に他ならなかった。
(やめ、て……みんな、やめてよ……ひどいよ)
 葵はかつてない恥ずかしさと惨めさに胸を締め付けられながらも、こみ上げる悲しみを必死に抑えこみ、それでもなお止まらない下痢便を震えながら排泄し続けた。

「静かにしろ!」
 それまで固まっていた先生がはっとして大声で注意をすると、教室は再び静かになった。
 それを確認した先生はゆっくりと葵の席に向かって歩きだした。
「はぁぁぁ、ぁ……っ……」
  ……ボタボタボタポタドプッ! ベチャポタポタッ……!
  ビチャッ……ボタビチャペチャボトッ!……ボタッ
 ここまできてようやく、葵の排泄は勢いが弱まり始めていた。
 永久に続くかのように思われたおもらしも、とうとう収束に向かい始めたのである。

「――おい」
  ブブビビッ……ブリブビッ…… ポチュ、ポチャ……
(……)
 先生が葵の席の前に立った時には、もう葵の肛門から漏れ出す下痢便はほとんどわずかとなっていた。
「下痢をしていて本当に漏れそうなら、ちゃんとそう言わなければ駄目だろうが……」
 先生は眉をひそめながら下半身下痢便まみれの無惨な姿の葵を見下ろして、苦々しげな声でそう言った。
 葵は脅えうつむいたまま、その言葉を聞いていた。
(……いえ、ません……そんな、の……)
 ――そう反論したかったが、口を開くことなどできるはずもなかった。
 もう自分がここに存在しているだけで恥ずかしいのである。

  クギュウウゥゥゥゥッ!!
(――っ!?)
 そのまま数秒の静かな時間が流れたが、突然葵は巨大な圧迫感が直腸へと下りてくるのを感じた。
  ブボッボボボボボボポォォォッ!!!
 次の瞬間、巨大なガスの塊が葵の肛門で爆発した。葵はおならをしてしまったのだ。
 浴槽の中で放屁をした時のような濁りくぐもった破裂音が鳴り響いたのは、葵の下着の中が大量の液状便に満たされて水槽と化しているからである。
 生暖かい薄茶色の水便に包み込まれている葵の肛門は、まさに入浴している最中と同じ状態になっていたのだ。

「あぁぁあぅ……っ……!」
  ブビビビブビブブボオッッ!! ブボポビィベチャッ!ビビビィッ!!
 びくんと体を強張らせた葵の肛門からはさらに大きなおならが放たれた。
 下着の中、肛門の周りで次々と気泡が破裂し、世にも汚らしい爆音が教室中に響きわたる。
 放出の際に生じる気圧で下痢便をわずかとは言え床に押し落としてしまうほどに、激しい放屁である。
 先生は目の前にいる女児のあまりの下品さに絶句してしまった。

「……ふうぅううぅぅ……!」
  ブポポォボトトトトッ……グビビブビビッボポポゴポベチュッポッ!!
  ブブゥゥゥッ! ……グボゴボタッ!ビブ! プボ、ビボボボボォッ!!
 おならが止まらない。
 今までにも相当量が下痢便と共に噴き出したはずなのに、まだ葵のおなかの中には大量のガスが残っていたのである。
 腸に詰め込まれて熟成されたうんちは、彼女の想像よりも遥かにたくさんのガスを放出していたのだ。

  ブボボポッボボビトトト!ビビビィィッッ!!!
「……すっ……ぅぅうぅ……っぇぇえう……っ……!」
(もういや……しんじゃいたい……しんじゃいたいよぉ……!)
 唇を固く噛み締めて悶えていた葵は最後に大きなおならをすると、静かにうめき泣き始めた。
 男の子に負けない気丈夫さが自慢だった葵は、それまでずっとせめて涙だけは見せまいと、おなかや心の激痛にも健気に耐え続けてきたが、もう一少女としてこの絶望的な羞恥に耐えられなかったのである。
 顔を手で覆い隠したかったが、両手ともホットパンツの下で下痢汁にまみれてしまっていたため、その切ない願いすら叶えられなかった。

「保健係はいるか?」
 先生はそれを見てもう嫌になったのか、突然後ろを振り向いてそう言った。
「……はい」
 教室の真ん中辺りにいた短髪の女生徒が暗い表情で手を挙げた。葵の親友の里村夏実である。
「じゃあ、こいつを保健室に連れて行ってやってくれ」
 先生はそう言いながらちらりと時計を見た。授業終了まではあと二分ほどだった。
「少し早いが、これで終了とする――」
 先生はそう言って教卓の上の教科書もそのままに、さっさと教室を出て行ってしまった。

「すげえおなら……」
「そういうこと言っちゃダメでしょ……」
「……誰が掃除すんだよ?あれ」
「何食ったらあんなにうんこ出んの?ありえねー!」
「葵ちゃんだいじょうぶ?」
「てゆーかくせぇ!」
 教室中の者が先生の突然の退室にあっけにとられてしまったが、数秒の後には威圧から開放されたことによって爆発的に騒々しくなった。
 教室中が葵の壮絶なおもらしについてしゃべり始めたのである。
「ぅぅぅひくっ!……っうぅぅ……ひっぅぅぅぅうぅ……!」
(もうやめて……やめ、てよ……!!)
 葵は涙を流しながら机へと顔を押し付けた。恥ずかしさと絶望――あまりに酷すぎる苦しみに耐えられず、心が急速に閉ざされてゆく。消えてしまいたい。とにかくもう二度と学校に行けないと思った。おしりの暖かさとうんちの臭さがより鮮明に感じられ始めた。

「いくら腹壊してるからって、ここですることねーだろ」
「きっと、ほんとうにガマンできなかったんだよ……」
「……かわいそうだよね……」
「あいつのせいでもう給食食えねえよ!!」
「そういう言い方やめなよ」
「やーいおもらし女!」
「下痢女!」
「下痢便おもらし女!!」
 女子の多くは軽蔑の感情を持ちながらも葵のことを心配していたが、男子の中には容赦無く罵声を浴びせ続ける者や、おもしろがって葵のことをからかい始める者までいた。綾香は遠くからぼんやりと、半ば放心状態で葵の様子を眺めていた。

「やめなよ男子!」
 次の瞬間、それまで沈黙していた夏実が大声で叫んだ。
「さっさとつれてけよ里村」
 すぐに男子の中から声が上がる。
 夏実はそれを聞くよりも早く、葵の元へと向かっていた。
(葵ちゃん……)
 葵の正面に立った夏実はあまりに凄惨な光景にのどをごくりと鳴らした。
 目の前で震えている汚く惨めな少女が自分の知っている葵だとは、にわかには信じられなかった。
 今の哀れな葵の姿は、いつもの明るく元気なその姿とはあまりに乖離しすぎていたのである。
「……葵ちゃん、保健室いこ?」
 夏実は声を震わせながらそう言った。葵の下痢便はあまりにも臭くて醜かった。もしおもらしをしたのが違う娘だったら、自分もまた軽蔑していたかもしれない。
 葵は反応しなかった。もう動けなかった。何も考えられなかった。

「マジで滝川の下痢便、カレーにそっくりなんだけど」
「もう食えねーよ……」
「カレーうんこおもらし女!!」
「男子教室から出てって!!」
 その間にも男子からは罵声が浴びせられる。夏実はかっとなって大声でどなりつけた。
「じゃあおまえも出てけ」
「ボク女の子だよ!!」
 揶揄された夏実はむきになって言い返したが、一人称のせいで説得力が無かった。
 ちょうどその時――、

  ……キーンコーンカーンコーン……

 四時間目終了の鐘が静かに鳴り響いた。ようやく休みの時間が訪れたのである。
 教室は一瞬静寂に包まれたが、その直後、
「うわぁっ!おい見ろよあれ!!」
「うんこ漏らしてるぞ!」
「二組の滝川が糞漏らしてるぞ!!」
 廊下から次々と大声が聞こえてきた。一組の男子たちが廊下で騒ぎ出したのだ。
 二組の教室が異常にざわついていることに興味を持って、鐘が鳴るなり様子を見に来たのである。
 葵の側にあるドアは先生が出て行った際に開けられてしまっていたので、撒き散らされた下痢便のひとかけらにいたるまでの惨状が廊下から丸見えとなってしまっていた。

「ちょっと一組男子来ないでよ!!」
 夏実はパニックになって叫んだが、もうどうしようもなかった。
「すげぇ本当だ!」
「うっそーっ……五年にもなって……」
「超くせー!!」
「マジでゲリ漏らしてるよ……」
「二組悲惨だな」
 次々と一組の生徒たちが廊下に集まり、葵の悲惨な姿を目の当たりにするなり好き勝手なことをしゃべった。

「……ほらあれあれ!」
「マジで?」
「うわ……なんだよありゃ……」
「臭すぎる」
 すぐに同じ階に教室のある六年や四年の生徒たちも集まり始め、五年二組の前の廊下はあっという間に野次馬でいっぱいになってしまった。
 葵にとって開放の音となるはずだった鐘の音は、より深い地獄の到来を告げるものになってしまったのである。
「ひくっ!ぅぅぇえんんっ……ひくっ!ぇぇえ、ぇえ……」
 葵は体を震わせとめどなく涙を流し続けた。その静かな泣き声はきり無く続く罵声にかき消されて誰の耳にも聞こえない。
 一つ一つの言葉が刃物のような鋭さで、ボロボロに傷ついた葵の心をなおえぐってゆく。惨めだった。昨日までの自身の存在が消えてゆくような気がした。

「……!」
「…………!!」
「――!」
「――」
 その内ふっと何も聞こえなくなった。心が完全に閉じてしまったのだ。命に係わるまでに激しくなった精神の痛みを防ぐための、本能的防衛である。
 意識が下半身を包む暖かい感触のように軟らかく溶けてゆく。
 全てが空虚になってゆく――。

  ブウッ!!
(……っ)
 次の瞬間、葵はおならをしてしまった。
 体の感覚が遠ざかっていたために、腸内を空気が動いていたことに気付かなかったのだ。
 止まりかけていた心の歯車が再びぐるぐると回り始める。もう恥ずかしいというどころではない。
 そして。
「……ぷっ」
「今の、おなら……?」
「くすっ」
「聞いた?今の……」
「うぷぷぷぷ……」
「笑っちゃかわいそうだって!」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
 一瞬訪れた静寂は、直後にそれまで以上のざわめきによって打ち破られた。一人二人と大きな笑い声を上げ始め、それが周りの生徒たちに次々と伝播してゆく。すぐに葵の周りはその下品なおならへの嘲笑で覆われてしまった。

「ああぁあぁああぁぁんんっっ!!!」
 それまで静かに泣き続けていた葵だったが、突然物凄い大声で泣き叫び始めた。
 ずっと自身を支えてきていた心の糸が、新たに加えられた負荷で完全に切れてしまったのである。
「……」
「バカ、笑いすぎだよ」
「あーあ、泣かせちゃった……」
「誰だよさっき死ねって言ったの」
 あまりにその姿が悲痛だったので、誰も笑い声を上げることができなくなってしまった。罪悪感に苛まされ始めたのだ。

「ぁああぁぁぁああっ!!!ああぁぁあああぁんっ!!」
 葵はひたすら泣き叫んだ。悲しくて悲しくてたまらなかった。
 誰かがおもらしをした葵のことを幼稚園児みたいだと言ったが、まさにそれぐらいの幼女のように何も考えずに泣きわめいた。きわめて本能的な悲しさに体が突き動かされていた。

「あなたたち、教室に戻りなさい!」
 その時に、廊下から一組の担任である小林先生の声が聞こえた。
 葵がおもらしをしてしまったのは生徒の声を聞いてすでに知っていたが、いつまで経っても騒動が収まらないので、変に思って二組の教室までやってきたのである。
 小林先生はドアのすぐ側で泣いている葵を確認すると、教室の中に入って一気にドアを閉めた。

「……滝川さん?大丈夫?」
「うぐううぅぅぅぅぇぇええぇぇん!!……ぁぁあ、っひくっ!ああぁぁあああんんっっ!!!」
 先生は靴が汚れるのもかまわず葵の側に立ち、ポケットからハンカチを取り出して、その綺麗な頬を伝わっている涙をそっとぬぐってあげた。
 泣いている理由は恥ずかしさからだろうと想像がついたが、いつも元気で明るくて二組の中でも目立っていたこの娘がなぜ、授業中にトイレに行くぐらいのことができなかったのかは、どうにもよく分からなかった。

「鬼島先生はどうしたの?」
 担任代理で教室にいるはずの鬼島先生がいないのに気付いた小林先生は、側でおどおどしている夏実に尋ねた。
「職員室に……帰っちゃいました……」
「えぇ!?」
(漏らした娘を放って行くなんて、なんて無責任な……)
 先生はそれを聞いて呆れた。
(こうなることは想像がついたはずなのに……)
 いつまでも騒動が続いていたのは、まさに注意する者がいなかったためである。
 目の前で泣いている葵があまりに不憫だった。
 そのホットパンツはめちゃくちゃに膨らんで茶色く染まり、足元に広がっている下痢便からは物凄い悪臭が湧き上がっている。
 ――この娘は鬼島先生に見捨てられたのだ。

「うぁぁああぁぁひくっ!……ああぁぅぁぁひくっ!……ぅぅうぅぅぅぅ」
「かわいそうに……大変だったね……」
 先生は震えている葵の小さな背中を優しく撫で始めた。
「ひくっ!ぅぅ、ぅぅあぁぁぁあんっ!……あぁぁぅああ……あああぁぁ……」
 葵の小さな体は先生の手が触れた時にびくっとしたが、すぐにその震えを穏やかなものにしていった。
 この日初めての安らぎを感じたのである。

 そのまま先生は何も言わずに葵の背中を撫で続けた。
 途中で周りの生徒たちに構わず給食の準備をするよう指示したので、葵を包んでいた残酷なざわめきもだいぶ少なくなっていた。
 まだ葵の側に立っているのは夏実と、その間にやってきた綾香だけである。
「……ぁぁぁあ……ぁあ、ぁ……」
 そして葵は静かに泣き終えた。先生が頬をそっとハンカチでぬぐう。

「……立てる?」
 母に甘えるような目付きで自分を見つめ始めた葵に、先生は優しく話しかけた。
 葵はこくりとうなずいて腰をわずかに浮かせたが、次の瞬間には再び座り込んでしまった。異常に重くなっている下半身を支えられなかったのだ。
 かなりの量がホットパンツの裾から流れ出たとは言え、葵の穿いているショーツの中には、今はぺこりとへこんでいるおなかを目に見えるほどに大きく膨らませていたほどに大量の一週間分の排泄物のほとんどが、今もパンパンに詰め込まれているのだ。
 長時間の我慢とそれに次ぐ激しい排泄で疲れきってしまった葵のか細い肢体はもう、その何キログラムもある砲丸のような重量に耐えることができないのである。
「ぁぁあ……」
 座り込みながら葵は小さなうめき声を上げた。
 体重でおしりの下の下痢便が押し潰されて下着中にぐにゅりと拡がり、軟らかい泥の中にむき出しのおしりをめりこませるような不気味な感覚を味わったのだ。

「だいじょうぶ?今度は先生が支えてあげるから、がんばって」
 先生はそう言って葵の細い腕を優しく掴んだ。
「――んっ!」
 それに勇気付けられたのか、葵は一気に膝を伸ばし、今度は立ち上がることができた。
 すぐにふらふらと崩れ落ちそうになったが、先生がぐっと腕を支えてくれたので、足を震わせながらも、なんとかそのまま体勢を維持することができた。
(このままじゃ、保健室まで行くのは無理ね……)
 椅子による支えを失ったことで、肛門のやや上でとぐろを巻いていた巨大な一本糞が股の間へとずれ動き、同じように重力に従って下着の底へと流れ落ちた大量の下痢便と共に、ホットパンツの下部を大きく大きく盛り上がらせる。重さでずり下がろうとするホットパンツを、葵は慌てて両手で下から押し上げた。
 傍目から見ている先生にも、相当な重さが少女のか細い足にかかっていることがよく分かった。
 この状態で今いる三階の教室から一階の保健室まで階段を下りてゆくのは危険すぎる。
 まずは安全な場所で、汚れた着衣ごと汚物を捨て下半身を軽くさせる必要があった。
「保健室に行く前に、トイレに行ってパンツを脱いじゃった方がいいわね」
 先生がそう言うと、葵はこくりとうなずいた。
 葵の瞳と挙動はいつしか、幼稚園児のように幼げなものになっていた。

「その前に、汚れた上履きと靴下を脱いじゃいましょうね」
 先生はそう言うと、床の汚れていない教室の後ろまで葵を歩かせ、棚の上にある雑巾を手に取った。
 下痢便にまみれた足で廊下を歩かせるわけにはいかないので、上履きと靴下を脱がせて足を拭いてあげることにしたのである。
 最初は自分で処理してもらうつもりだったが、自力で立つことすらできないこの様子では無理そうだった。

「足を拭くから、どっちか、私がしてるみたいに支えてあげててくれるかしら?」
 腕を掴んだままでは自由に動けないので、先生は側にいる綾香と夏実に指示をした。
(え……?)
 床に広がった下痢便をぼんやりと見ていた綾香は、はっとして先生の方を向いたが、すでに夏実が葵の腕を掴んでいた。

「まずは上履きを脱がすわね」
 教室中が遠目に見守る中、先生は雑巾を手袋のように使って、茶色く染まった葵の上履きを脱がし始めた。
 足の甲の上には椅子から垂れ落ちた下痢便がべっちゃりと積もっていて、それが上履きを脱ぐ時に床にどろどろと流れ落ちた。
「次に靴下――」
 右、左の順で葵の上履きを脱がせた先生は、続いて上履き同様に茶色くなっている元は白かった靴下を、引っ張るようにして脱がせた。
 液状便の大量に染み込んだ布に覆われていた葵の小さな素足は、下痢汁で黄色くなっていた。
「ざっとだけど、足拭くわね」
 先生はそう言って、早くも使い物にならなくなった一枚目の雑巾を床に置き、二枚目の雑巾で葵の汚れた足を底から拭き始めた。
 言葉通りに素早く足底を拭き終えると、脚、膝、ももの順に下から上へと手早く、液状便の流れ跡を拭き取っていった。
 しかし先生は足の付け根を拭く時は、ゆっくりと丁寧だった。
 その上で茶色く膨らんでいるホットパンツの裾をわずかでも押してしまうと、中からドロドロの下痢便が飛び出してきそうだったからである。
 葵もそれが分かっていて、下着の重さを支えている両手をびくとも動かそうとはしなかった。

「……あっ……」
 ももの後ろ側を拭きながら雑巾を五枚目に取り替えた先生は、葵のシャツの裾までもが茶色く染まっていることに気が付いた。
(まさかここまで……)
 先生がそっとシャツをまくり上げると、腰にまでべっちゃりと下痢便が付着していた。
 ショーツの中にパンパンに詰まった葵の下痢便は、下からだけでなく上からも溢れ出していたのだ。
 ちょうど椅子から下痢便が垂れ落ちている最中のことだったので、葵はそちらに意識を取られて腰の不快感には気が付かなかったのだ。同時に肌を撫で回す下痢便の触感に慣れてしまっていたのも、理由の一つである。
(かわいそうに……)
 ももを拭き終えた先生は腰についた下痢便も拭き取り始め、その時になって葵はようやく腰に不快感が付着していることに気が付いた。

 ――そしてその光景を綾香は泣きそうな目で見ていた。
 半年前にトイレの個室の中で後始末をした時の、あの哀れな思いが、目の前の葵の姿を通して鮮明に甦ってくるのだ。
 葵の下痢便の色も臭いも、そしてその凄まじい量も、あの時の自分が漏らしてしまったものとそっくりだった。
 綾香にとって葵のおもらしは他人事ではないのである。
(葵ちゃん……)
 綾香の全身が、おもらしをした時のあの悪寒を思い出して震えていた。
 今は穏やかなおなかは排泄の時の痛みと開放感を、今は静かにすぼまっている肛門は下痢便が流れ抜ける時の熱い痛みを、今はすべすべとしている白いおしりは下痢便が下着の中を拡がって行く時のぬるぬるとした悪寒を思い出していた。

(あおいちゃん……!)
 それだけに何もできないでいる自分が情けなかった。
 何か言葉をかけてあげるべきなのかもしれないが、そんなものは思い浮かばなかった。
 下手に同情の言葉などをかけてもかえって傷付けることになってしまうのは、自分が一番よく知っている。
 結局綾香はそのまま、葵を見つめ苦しみ続けることしかできなかった……。

「すぐに戻ってくるから、雑巾とかはそのままでいいわよ。あなたたちも自分の給食の用意をしなさい」
 葵の腰を綺麗にし終えた先生は夏実にお礼を言うと再び葵の腕を掴み、ゆっくりと教室を出て行った。
 綾香は茶色く染まった雑巾をそのままぼんやりと眺めていたが、夏実に肩を叩かれてふと我に帰った。
「はやく、準備しちゃお……」
 先に歩きだした夏実を追いかけ、綾香は慌てて配膳ワゴンの方へと歩いていった。
 葵が排泄した醜い下痢便は、相変わらず凄まじい悪臭を放ち続けていた――。


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「大丈夫?一人でおしり綺麗にできる?」
 トイレの床に膝をついて震えている葵に、先生は心配そうに声をかけた。
 便器の上にしゃがみこませて手を離した途端、葵の体が崩れ落ちてしまったのである。
 地獄のような我慢とその果てのおもらしによって葵の全身は疲れ果てていて、もうしゃがんでいることさえできないのだ。
「だいじょうぶ……です」
 それでも葵はそう答えた。
 もうこれ以上恥ずかしい姿を見られたくなかったし、何よりも一人になりたかった。
 早くぬるぬると気持ち悪い下着を脱ぎ捨てて、誰にも見られることなく自由におしりを外気に晒したかったのである。

「――じゃあ、先生は教室の様子を見てくるわね」
 先生はそう言ってトイレから早足で出て行った。
(早く床を綺麗にしてあげなくちゃ……二組の子たちかわいそう……)
 様子を見てくるというのは葵を傷付けないためのごまかしで、実際は葵が垂れ流した下痢便を一刻も早く綺麗にするために、先生は教室へと急いだのだ。
 葵の行為を責めるつもりは毛頭無かったが、葵の排泄した下痢便がこれ以上無いほどに臭く汚いのはどうしようもない事実だった。
 事実、先生自身もすでに食欲を完全に失っていた。それどころか吐き気すらもよおしていた。
 熟成されつくした葵のうんちは下剤によってむりやりに溶かされたことで異様な悪臭を放つようになっていたのである。

「は……ぁ……」
 ようやく一人になれた葵はゆっくりとため息をついた。
 自分以外に誰もいないトイレの中はただ静かだった。
 さっきまでのことは悪い夢だったのかもしれない――心の不安定な葵にそう現実逃避させてしまうような魅惑的深遠を、その静寂は持っていた。
 だがそれでも、今おしりが凄まじく重くて臭いのはどうしようもない事実だったし、個室の中の空気も徐々に汚染され始めていた。

 葵はそのままの姿勢でホットパンツを下ろし始めた。
「ぅん、ん……っ……」
 ショーツから染み出した下痢便の水分を吸い込み固くなっていたホットパンツは、わずかにずらすだけでも一苦労だった。
「……んん……くぅっ……」
 その動きは同時にショーツを撫でるように圧迫し、葵のおしりは軟らかい下痢便が潰し拡げられる触感を再び感じることになってしまった。
 時折、ショーツの裾から少量の下痢便がぼたぼたと便器の中へこぼれ落ちる。
 なんとか膝までホットパンツをずらした頃にはもう、個室の中は葵の下痢便の臭いに満たされてしまっていた。

 ホットパンツを床に脱ぎ捨てた葵は次に、隅から隅まで茶色く膨らんでいる無惨な姿の女児ショーツに手を伸ばした。
「……んっ……!」
 腰のゴムを掴むためにショーツの中に差し込まれた親指が、その高さにまで詰まっている軟らかい下痢便にめりこむ。
 それでも葵は指を引き抜かずに、そのままゴムを掴んでショーツをずり下ろし始めた。

  ボトトボドトトトッッ……ベヂャッ! ボタボタ、ボトトトトトトッ……
「はあぁぁ、ぁぁ……」
 ショーツを下げるにつれて、中に詰まっている下痢便が次々と便器の中に垂れ落ち、下痢便が塗りたくられ真っ茶色に汚れている哀れな姿のおしりがゆっくりとあらわになってゆく。
 それまで生暖かい下痢便に包まれていたおしりには、外気がこれ以上無いほどに涼しく心地よく感じられた。
 葵は赤く腫れた瞳をうっとりさせながら、ようやく下着の外にむき出すことのできた肛門を何度もひくひくと収縮させた。
「ぁあ……はぁ、あ……」
  プゥッッ! プウゥゥッ! プウッ!
 脱力してゆるんだ肛門から可愛らしいおならが一つ二つ、三つと放たれる。爽快な放出だった。

  ボジャンッッ!!!
「ひゃっ!」
 とぐろ巻きになっている重い硬質便を便器の中に落とした瞬間、暖かい何かが内ももに次々と貼り付き、葵はびくっとした。
(やだ……)
 それは茶色いかけら――下痢便だった。
 ショーツから垂れ落ちて便器の中に山をつくっていた下痢便が、重く巨大な便塊の墜落によって四方八方に飛び散ったのである。
 葵はその時に初めて便器の中を見下ろし、足元や後ろの床にも下痢便が付着しているのに気付いて顔をしかめた。
 実際に一番大量の下痢便が飛びかかっていたのは便器の真上にあるおしりだったが、すでに下痢便に覆われていたため、葵の触感が刺激されることはなかった。

「よいしょ……」
 下半身の軽くなった葵はそのまま腰を上げてショーツを脱いだ。
 同時に、ショーツの裾に付着している下痢便が細いももにぬるぬると塗りつけられていき、葵は不快感に顔を歪めた。

  ガラガラガラガラ……ッ
 そして葵はショーツを床まで下ろすなりトイレットペーパーを巻き取って、ももについた下痢便を拭き取り始めた。
 せっかく綺麗になっていた足をまた汚してしまったのを、ショーツを下ろしながら、悔しく感じていたのである。

(ぅぅ……っ……)
 そして手早くももの汚れを拭き取った葵は、足元に横たわっているショーツをそっと拾い上げ、拡げて中身を見た。
 なぜそんなことをしてしまったのかは分からないが、ショーツの汚れ方は葵の想像を絶する酷さで、結局葵はその行動を後悔することになった。
 頑丈な布をもはち切れんばかりに大きく膨らませていた下痢便の大半を便器の中に落としたとはいえ、ショーツの中にはまだ茶色い下痢便が所狭しと塗りつけられていて、下の生地などは全く見えなかった。
 葵は、その自分が排泄してしまったドロドロの汚物を、切なく悲しげな瞳で見つめた。
 一週間にもわたって葵の腸の中に留まり続け、あれほど硬くていくらふんばってもおしりから出ようとしてくれなかった大便の、哀れな成れの果ての姿である。下剤を飲んでまで出したかったはずのものなのに、今の葵の頭の中には出してしまったことへの後悔しか無かった。
 何かがこみ上げてきそうになった葵は、すぐにショーツをホットパンツと共にペーパーで何重にもぐるぐると巻いて、一思いに汚物箱の中へと押し込んだ。
  ガラ、ガラガラガラ……ガラ
 そして葵は再びしゃがみこんで両膝を床に付け、下痢汁で黄色くなっている両手をペーパーで拭き始めた。
 おしりを綺麗にするよりも先に、手の汚れを拭き取るべきだと考えたのだ。

(くさい……)
 それから数分をかけて指と指との間までも丁寧に拭いた葵だったが、一見綺麗になっているように見えるその手を鼻に近づけるなり、顔をしかめた。
 黄色い水分こそ拭き取れたものの、手にこびり付いた臭いは全く取れていなかったのである。
 石鹸で丁寧に洗わないと取れるはずがないのは葵もよく分かっていたが、今は外に出ることもできない。
 葵はそのままペーパーを巻き取っておしりを拭き始めた。

「は……ぁぁ……」
 おしりにべったりと付着している下痢便を、ペーパーに塗りつけるようにして剥ぎ取ってゆく。
 ペーパーを下痢便に押し付けるたびごとに、おしりから手へと下痢便のぬるつきが伝わり、葵は顔をしかめた。
「……ふうんっ……」
 葵はそれまで左手を腰に当てて右手でおしりを拭いていたが、途中でその体勢もつらくなり、左手を床につきおしりを後ろに突き上げて拭き始めた。
「はあ、はぁ、はぁ……」
  プウゥッ!
 それまで以上に楽な姿勢を取ったことで全身が脱力し、葵は再びおならをしてしまった。静かなトイレに下品な音が響く。
  ブピィッ……プビビピッ!
 葵はさらにおならを連発した。肛門を全開にして垂れ流しているのだ。
 誰にも聞きとがめられないおならは純粋に快感だった。今の葵は排泄も放屁も許される、安らぎの場所にいるのである。
  ガラガラガプゥッ! ……プスゥゥーーー……プリッ……ガラガラガラガラ……
 四つんばいの姿勢で下痢便まみれの臭く汚いおしりを後ろに突き出し、おならを連発して肛門を収縮させながらうんちを拭き取ってゆく葵の姿は、これ以上無いほどに下品だった。
 普段の愛くるしい女児としての振る舞いからは想像もできない姿であるし、葵自身にとっても女性として絶対に人には見せられない姿である。
 給食時間中のトイレの個室内という絶対的に安全な、一人だけの空間だからこそできる行為であった。

(あたし……ほんとにうんち、もらしちゃったんだ……)
 そしてその穏やかさの中で、それまで停止していた思考回路が徐々に回復し始め、葵は自身がしてしまったことを改めて後悔し始めた。
 手に伝わる下痢便の軟らかい感触、おしりを覆っている気持ちの悪いぬるつき、個室中に立ち込めている強烈な便臭、足元の便器の中に散らばっている下痢便――。
 教室で下痢を漏らしてしまい、今はその後始末をしている――夢でも何でもない、残酷な現実が突きつけられていた。

  プゥ!
(……みんなの前で……もう二度と学校なんて、いけない……)
 恥ずかしいなどという次元のものではない。
 繊細な少女には耐えることなどできるはずのない、明確な絶望だった。
「うぅぅぅ……!」
  ピブッ!
 そこまではっきりと自覚した葵は再び目に涙を浮かべはじめた。
(コーラックなんて、飲なければよかった……!)
 便秘に苦しんだ果てに自分で下剤を飲んだ引き起こした便意。
 まさかそれが下痢のおもらしとして開放されるとは夢にも思わなかった。
(あやかちゃんが、あんなに……教えて、くれたのに……)
『あれだけはやめたほうがいいと思うよ』
 もう遥か昔に聞いたような気がする綾香の言葉が葵の心に重くのしかかる。
 それを無視して下剤を飲んでうんちを漏らしてしまった自分はもう、綾香に合わせる顔が無かった。
(どうして?どうして、わたし……!!)
「うぅぅぁあ……ぁくっ!……ううぅぅぅう……っ……!」
 いくら後悔しても、もう何もかもが遅かった。幸せだった昨日には二度と戻れない。この最悪の結末は覆せないのだ。
 葵はとめどなく涙を流しながら、下痢便で汚れたおしりをひたすら拭き続けた――。


 それから十五分ほどが経ち、葵はようやく体の裏側の汚れを一通り拭き終え、涙も枯らしていた。
 あと綺麗にしなければならないのは、体の前側――生殖器とその上に広がっている恥丘である。どちらも下痢便に埋もれていた。
「んしょっ……」
 四つんばいの姿勢のままでは拭きづらいので、葵は尻たぶと踵をくっつけて股を開いた。
 これで前側に付着している下痢便をはっきりと視界に捕らえながら、拭いてゆくことができる。
 葵が再びペーパーに手を伸ばしたちょうどその時、
  ――コンコンッ
(あ……)
「そろそろ綺麗になったかしら?」
 葵が教室に撒き散らした下痢便をようやく掃除し終えた小林先生が、様子を見に戻ってきたのである。
「まだ、です……」
「……そうよね」
 先生も大方予想はついていた。
 あれほど大量の下痢便を漏らしたのだから、わずか十分二十分の間に、それも自力では、綺麗にできるはずがない。

「トイレットペーパーは十分ある?」
 少し沈黙していた先生がふと葵に尋ねた。個室に備え付けられている量で足りるか心配になったのである。
「……お願いします……」
 すぐに葵は答えた。足りなかったのだ。
 個室に入った時に掛けられていたペーパーはとっくに使い果たし、スペアとして置かれていたものも、すでに残り半分程度となっていた。
 このままでは、恥丘あたりを拭いている最中に切れてしまう可能性がある。

「――じゃあ、ドアの側に三つ積んでおくわね」
 用具室からスペアを多めに持ってきた先生は、そう言って葵の入っている個室のすぐ前にペーパーを置いた。
 手渡そうと言っても拒絶される可能性が高かったので、気を利かせたのである。
「他に何か必要なものとかある?」
「……牛乳飲みたいです……」
「牛乳?」
 次に先生が尋ねると、葵は予想外の返事をした。喉が渇いていたのだ。
 教室で便意を我慢しながら大量の脂汗を流し、その後のおもらしでも肛門から大量の下痢便を吐き出したことによって、葵の小さな体は脱水症状に陥っていたのである。
 少し前から個室の中も暑く感じられ始め、今も短い髪の毛の先からぽたぽたと汗を恥丘に垂らし、その表面の下痢便をわずかに溶かしていた。

「のどが渇いたのね、わかったわ。ちょっと待ってて」
 先生はそう言って再びトイレから早足で出て行った。
 その間に葵はドアをそっと開け、積んであるペーパーを急いで個室の中に取り込んだ。

「滝川さんの牛乳、持ってきたわよ。またドアの前に置くわね」
 先生はすぐに戻ってきて、牛乳瓶を床の上に置いた。ことりと言う音が静かなトイレの中に響く。

「一本でいいかしら?足りなかったらもっと持ってこれるわよ。下痢の時は水分補給が大切だからね」
「……もうだいじょうぶです、ありがとうございました」
「そう。じゃあまた後で来るわね」
 先生はそう言って窓を静かに開けて去っていった。
 窓を開けたのは、葵の下痢便が放つ凄まじい悪臭に汚染され、呼吸すら困難になっているトイレの空気を入れ替えるためである。
 音を立てないように静かに開けたのは、自分がその臭いを不快に思っていることを葵に気付かせないための配慮だった。

「んくんくっ、んくっ!」
 先生が去るとすぐに、葵は牛乳を取って飲み始めた。
 うんちの臭いを嗅ぎながら飲む牛乳はあまりおいしくなかったが、それでも体の中に水分が補給されてゆくのが気持ち良く、葵は恍惚とした表情で一気に飲み干してしまった。

「はあ……はぁ……はふぅ……」
  プゥーーーッ
  ガラガラガラガラッ
 瓶口についた牛乳まで舐め取った葵は呼吸を整えながらおならをし、再びペーパーに手を伸ばして下半身の下痢便を拭き取り始めた。
 排泄されてからの時間の経過に伴う水分の蒸発により粘り気の弱まっていた葵の下痢便は、最初と比べるとだいぶ楽に剥ぎ取ることができるようになっていた。
 やがて愛らしいたてすじがその姿を見せ、さらに葵が恥丘にペーパーを伸ばす頃には、もう下痢便を拭き取るというよりも、茶色い塊を剥がし取るというような有様となっていた。

  ――コンコンッ
「どうかしら?」
 その内に再び先生がやってきた。今度は葵の体操着袋を持ってきていた。
「……もうすぐ。……おわります」
 ペーパーで下痢便をつまみながら葵が答える。もう恥丘の大部分は元の美しさを取り戻していた。

「あと五分で昼休みになっちゃうけど、おしり綺麗になったら出れる?」
 先生がそう尋ねると、葵は急に押し黙ってしまった。
 昼休みの最中に個室の外に出ることなど怖くて絶対に嫌だったが、恥ずかしくてそう言えないのだ。
「……誰かに遭っちゃうかもしれないのが、いや?」
 再び先生が尋ねる。それは葵の思いの代弁に他ならなかった。
「五時間目まで出たくないです……」
 そのおかげで、ようやく葵はそう伝えることができた。

「――じゃあ、体操着だけとりあえず置いておくわね。五時間目になったらまた来るから」
 先生はそう言って体操着袋を置き、去っていった。


  ……キーンコーンカーンコーン……

 葵が体操着を取り込んですぐに鐘の音が鳴り響き、昼休みが始まった。
 葵はそのまま恥丘の汚れを取り続けていたが、心の中では脅え始めていた。人が来るのが怖かったのである。
 トイレに満ちている下痢便の臭いを嗅がれてしまうのは恥ずかしくて嫌だったし、たとえ間に扉や壁を挟んでいるとしても、下半身裸で下痢便を処理している惨めな自分の傍には近寄られたくなかった。最悪の場合には、個室に篭っているのが自分だと見破られて何かを言われる可能性もある。
 ――とにかく葵は独りでいたかったのだ。

  ガラ……ガラ、ガラ……ガラ……
 すぐに廊下からざわめきが聞こえ始め、葵は音をできるだけ立てないように、ペーパーを巻き取る速度を遅くした。
 そしてまた葵は、鐘が鳴る前に一度水を流しておけば良かったとも後悔した。自身の下痢便の臭いを少しでも薄めたかったが、もう音を立てるのが怖くて水など流せないのである。
 葵は静かな恐怖に脅えながら、恥丘にこびり付いた下痢便を剥ぎ取り続けた。

  ……ガラガラ……ガラ、
「やだ、このにおい……」
(!!)
 ペーパーを巻き取っている最中、ついに自分以外の誰かの声がして、葵はびくりとした。
「ねえねえ、ここやめようよ」
「うん、あっち行こ」
  バタンッ
 だが幸いにして、中に入ることなく出て行ってくれた。
 葵の下痢便のあまりの臭さに耐えられなかったのである。

  ガラ、ガラ……ガラ……
 葵は静かに安堵して再びペーパーを巻き取り始めた。
 しかし、音を立てないよう注意して葵がペーパーを切り離した瞬間、
「うえ……っ……」
 再び声が聞こえた。
「あのあと、ここに入ったんじゃない?」
 声に聞き覚えがある。一組の女子のようだった。
「このにおいは、ゼッタイそうだよね」
 葵は胸が痛んだ。名前を挙げてこそいないものの、自分のことを話しているのは間違いないからだ。
「……わたしやだ、向こう行くね」
「わたしも……」
  バタンッ
 三人ほど入ってきていたようだったが、今度もすぐに出て行ってしまった。
 やはりトイレの中に渦巻く濃密な便臭に耐えられなかったのである。
 外の清浄な空気との懸隔に、未成熟な女児たちの脆弱な体は適応することができないのだ。

 その後も次々と少女たちが入ってきたが、排泄行為にまで至る者は一人もいなかった。
 凄まじく臭い下痢便のおかげで、葵は自身の排泄物の臭いを嗅がれる以上の羞恥を味わわないですんだのである。まさに不幸中の幸いだった。


 ……そしてそれから十分が経った。
「はぁ……」
 葵はペーパーを敷いた床の上にむき出しのおしりを乗せて体育座りの姿勢をとり、五時間目の訪れるのを静かに待っていた。
 恥丘についた下痢便はとっくに拭き終え、とぐろ巻きのうんちを便器の中へと落下させた時に周りの床に飛び散った、茶色いかけらも拭き終えていた。
 遠くからは生徒たちの遊び声が聞こえる。すでに昼休みの真っ最中で、トイレの中は静寂に包まれていた。
 もう、誰かが入って来る気配が無い。綾香や夏実などの親しい友達が心配して様子を見に来るかもしれないと葵は思っていたが、その気配も無い。
 独りでいたい葵にとってはむしろ嬉しいことだった。

  プウゥゥッ!!
「……ふう」
 葵は額の汗をシャツでぬぐいながら、おならをした。何分か前から我慢していたのだ。
 廊下が静かになってからだいぶ時間が経っているので、もう大丈夫だろうと思って欲求を開放したのである。
(水、もう流しちゃおっかな……)
 便器の中にはもう茶色いペーパーの山しか見えないが、その下に埋もれている下痢便の山からは今でも濃密な悪臭が立ち上っている。
 今までは水洗音が恥ずかしくて流せなかったが、今なら多少大きな音を立てても大丈夫なように感じられた。現におならだって堂々とできたのだ。

(うん。流しちゃお……)
 葵はすぐに決心して、便器の上にしゃがみこんでレバーへと手を伸ばした。

  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

 静かなトイレに、大きな水洗音が響く。
 葵はバラバラになって便器の底を流れてゆく下痢便を、疲れきった瞳で感慨深そうに見つめた。
 一週間にわたる便秘、下剤によって引き起こされた下痢、そしてその果ての惨めなおもらし――
 あどけなく繊細な小学五年生の少女の心と体を徹底的に痛めつけた一連の悲劇。その全ての苦しみの原因が、今ついに下水の底へと消えてゆくのである。
  ……ゴポゴポゴポ…………
「はぁ……」
 便器の底が、元の白い陶器の色を取り戻す。葵はため息をついて安堵した。
 ――が、ふと股の間から後ろに目をやった瞬間、想像を絶する光景に愕然とした。
(えぇっっ!?)
 なんと、最初に漏らしたとぐろ巻きの巨大なうんちが流されないで残っているのである。
 葵は衝撃を受けた。同時に初めてその姿をまじまじと見て、あまりの大きさに驚いた。
 自分で排泄したことも、小さなショーツの中に入っていたことも、全く信じられなかった。

(な、ながれて……!)
  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
 葵は切実に願いながら、再びレバーを倒した。
  ……ゴポゴポゴポ…………
(……そんな……)
 だが便器の後ろに鎮座している巻き糞はわずかに動く気配すらなかった。
 あまりに重すぎて多少の水圧ではびくともしないのである。

(おねがい流れて!!)
  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

(……ながれてよぉ……!)
  ゴボジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

 もう水洗音を恥ずかしがるどころではない。
 葵は泣きそうな表情で、何度も何度もレバーを倒し続けた。

  ……ゴポゴポゴポ…………
(もうやだ……どうして……)
 十回ほどレバーを倒したが、それでもうんちはびくともしない。
「ひくっ!」
 葵は瞳をうるませながら、自身が産み出してしまった巨大な巻き糞を見つめた。
 いつのまにか大量の汗が流れ始めていて、それが便器の底へと落ちてぽちゃぽちゃと静かな音を立てる。
 葵はもう、どうすればいいのか分からなかった。

 顔の汗をシャツでぬぐった葵が、再びレバーに手を伸ばそうとした時、
「――みんな入れないって言ってたけど、もうだいじょうぶみたいだよ」
 十数分ぶりに人が入ってきた。完全に知っている声――葵のクラスメートだった。
「うん。おしっこしよ」
 次にしゃべったのもクラスメートだった。
「でもまだちょっとくさいね……」
「うん……」
 そう言いながらも二人の少女は平然とトイレの中に入ってきた。
 凄まじい悪臭を放っていた下痢便が下水の底に消えたことで、トイレの中の空気が窓から入ってくる風によって急速に浄化されつつあったのだ。
 葵をある意味で守ってくれていた便臭の壁はもう、外の者をはじき出すことができないほどに薄くなっていたのである。

(やだ……出てってよ……)
 下半身裸で便器の上にしゃがみこんでいる惨めな姿の葵にとって、それは恐れていた瞬間だった。
 葵は閉じた膝に頭を押し付けて体を小さく丸め、静かに脅え始めた。

  バタン……ガチャッ
  ……カサ……カサカサ、カサ……
 ドアを閉める音、鍵をかける音、スカートをたくし上げる衣擦れの音――、すぐ側で少女の気配がうごめく。
(うぅ……)
 葵はもう満足に呼吸をすることもできなかった。小さく開けた口からわずかな量の空気を出し入れするのが精一杯である。
 どくどくと速まる胸の鼓動を聞かれまいと、平らな胸を膝に強く押し付ける。とにかく自分の音を聞かれたくなかった。

  チュイィィィーーーー……
「でもさあ、信じられないよね……」
 放尿し始めると同時に、隣の個室にいる少女が再び口を開く。
「――え?」
「葵ちゃんのこと」
(!!)
 小刻みに震えていた葵の小さな体がびくりと痙攣した。
 ついに自分の名前を直接挙げられてしまった。脅えと羞恥とが入り混じって、葵の心をそのおなかの中のようにぐるぐるとかき乱してゆく。

  チョポチョポ……シュゥゥゥゥゥーーッ……
「まさか葵ちゃんがもらしちゃうなんてね……。それも、うんち……」
 必然的に葵の恥ずかしいおもらしへの言及が始まる。
 葵は耳を塞いで心痛から逃れたかったが、彼女たちの話を聞かないですます勇気も無かった。

「おなかこわしてて、どうしてもガマンできなかったんだろうね……葵ちゃんのうんち、すごいゲリになってたし……」
「うん……あやちゃんも先生にそう言ってたしね」
 さらに自身が漏らした排泄物の形状にまで言及され、葵はますます傷付いた。
 「ゲリ」という下品な言葉は、葵にひどく惨めな思いをさせた。
 その汚らしい響きはまさに、自分がしてしまった下痢便のおもらしという最低の行為の、絶対的下品さを表しているように感じられた。

「手をあげたときにもう、もれそうだったんじゃないかなあ?声が少しへんだったよ」
  シュイイィィィィーーー、シュピッ……
「……だよね。鬼島先生、酷いよね……。葵ちゃんかわいそう……」
「かわいそうだよね……」
(…………)
 葵の予想に反して、少女たちは葵がおもらしに至ってしまった理由をよく理解していた。心から葵に同情していたのである。
 そのことに葵も気付いたが、それでも心はずきずきと痛み続けていた。
 今の敏感すぎる葵の心には、慰めの言葉すら鋭利な刃物となって突き刺さるのだ。

  シュゥゥゥーー……
「――そういえば、葵ちゃんあれからどうしたのかな?保健室行ったのかな?」
(……!!)
 隣の少女は一呼吸置くと、葵の最も恐れていること――葵のいる場所を尋ね始めた。
 それまで羞恥が優勢となっていた葵の心の苦しみは、瞬時に脅えで覆いつくされた。

「萌ちゃんをおみまいにいった時はいなかったよ」
(?)
  シュゥゥゥィィーー……シィゥゥッ……チュイイィィィーー……
「その時はトイレ行ってたとか?」
(??)
 しかし次に少女たちが話したことは意味不明で、葵はさらにパニックになった。
「萌ちゃん」というのはクラスメートの名前だったが、「おみまい」の意味がよく分からなかった。

  ポチャポチャ、シュイイィィィィーーー……
「最初から保健室には行かなかったみたい」
「あ、そうなんだ……じゃあどうしたんだろう……?」
 話の筋は見えないものの、意味は再び解り始め、葵はその脅えを強めた。背中を冷や汗が幾筋も伝わる。
 葵はまさに少女たちのすぐ側――同じ空気の流れる空間で、下半身裸の惨めな姿でしゃがみこんでいるのである。
 もし自分の存在に気付かれたらと思うと、もう震えが止まらなかった。

  ……シュッ……シュイッ……シュピッ、ブオッ!
「――っ!」
 次の瞬間、隣の個室から突然おならの音が響いた。
 おしっこを切っている最中におなかに力を入れすぎたらしい。
  チュィッ、シュゥィィ……シュッ……
「……」
 おならをした少女は恥ずかしさ、それを聞いた少女は気まずさのためだろうか、二人の会話はそれきりとぎれてしまった。
 その滑稽なハプニングとそれに続く静寂にわずかながら和まされ、葵は体の震えをやや弱めた。

  ガラガラガラガラ……
  ……カサカサ、カサ……
 そしてそれからすぐに奥の個室からはペーパーを巻き取る音、隣からは衣擦れの音が聞こえ始めた。
 少女たちの放尿はほぼ同時に終わったようだったが、どうやら隣の娘はおしっこを拭かずに下着を上げてしまったらしい。

  カサカサカサ……
 数秒遅れて奥の個室からも衣擦れの音が聞こえ始める。

  ゴボジャアアジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……

 そしてほとんど同時に、二つの個室から水洗の音が響いた。

  ガチャッ
  ……ガチャ
「葵ちゃんここでおしりふいて、なにかにはきかえて、帰っちゃったのかな?」
 おならをした少女は個室から出るやいなや、中断していた話を再開した。
 側にいる少女の意識を自身の恥態から逸らさせるためである。
 そしてその誤った推測はかえってありがたいものだったので、葵は少しだけ安心した。
「……え?……うん。そうかもしれないね」
 一方の少女は呆気にとられながらそう返事をし、耳まで真っ赤になっている友達の顔を見るなり、気まずくてそっぽを向いた。
 そのまま二人は黙って洗面所まで歩いていった。

  ジャアアァァーー……
「萌ちゃん、どんな感じだったの?」
「まだ気持ち悪いって」
「……そう……」
 少女たちは手を洗いながら再びわずかな言葉を交わしあったが、その声は水の流れる音に遮られて葵にははっきりと聞こえなかった。
 葵がトイレに連れて行かれた後の五年二組では、葵の排泄した下痢便のあまりの臭さと見た目の汚さにやられ、悪心を訴える生徒が後を絶たなかった。
 そしてその中でも特に症状の重かった少女――「萌ちゃん」は、給食を食べることなく保健室行きになってしまったのである。
 葵にとっては知らない方が良いことだったので、この時会話が聞こえなかったことはむしろ幸福だった。

  バタンッ
 やがてトイレ全体のドアが閉められる音が響き、トイレの中は再び静寂に包まれた。
(はぁ……)
 葵は声を出さないよう、静かにため息をついた。
 泣きそうなほどに恥ずかしい思いをさせられたものの、自分がここにいることにはなんとか気付かれずにすんだのだ。
(……ふう……)
 葵は体の緊張をゆるめて、腕で顔の汗をぬぐった。
 その時になって葵は、静かだった廊下に人の声が増え始めていることに気付き、昼休みの終わりが近いことを知った。
 もうすぐ五時間目――人目を恐れず自由に動ける時間が来るのである。
(はやく昼休み終わらないかな……)
 そう、思った時だった。

  キュゴロロロロロ……
(あ……)
 おなかが突然大きなうなりを上げ、葵はおしりの穴を手のひらで押し上げられるようなずんとした違和感を覚えた。
 反射的に括約筋に力が入り、すぼまっていた肛門がさらに奥へと引っ込む。

  グギュウウゥゥゥーーッ……
「ぁくっ!」
 そして次におなかが鳴った時、その重い違和感は一瞬にして腸が絞られるような激しい腹痛へと変化した。
 同時におなかの中が膨らむような不快感が全身に響き、さらに灼けるように熱い水圧が奥から肛門に押しかかる。

  ……ギュルゴロゴロ、ゴロ……
(や、やだ……どうしてまた……)
 もうおなかの中のものは出し尽くしてしまったはずなのに。葵は再び便意をもよおしてしまったのだ。
 教室で肛門を爆発させてからもうずっと疲れきり眠っていたはずの腸が、今になって再び下痢便を生産して直腸に流し込み始めたのである。
 下剤の効果はまだまだ続いていたのだった。腸がどんなに疲弊していても、その中にまだ何かがある以上は、なにがなんでもおしりの穴から体外に排泄させようとするのだ。

  キュルルゥゥウゥゥッ……ギュピィッ……!
「ぅぅ……」
(いたい……っ……!)
 葵は汗でぬるぬるしているおなかをゆっくりとさすり始めた。
 腸の中を熱い液体がぐるぐると流れ下ってゆくのが、同時に移動してゆく痛みによってはっきりと感じられる。
 次々と肛門に水圧が重ねられてゆき、便意が急速に膨らんでゆく。
  ゴロゴロゴロゴロ……!
(ど、どうしよう……うんちしたい、でも……)
 今の葵は、すでに肛門をむき出して便器の上にしゃがみ込んでいる。
 うんちをするための場所でうんちをするための姿勢を取っているのだから、しようと思えば今すぐに便器の中に腹痛の元を吐き出すことができる。
(でも。もし……だれかきたら……)
 しかし、下痢便の排泄には激しい爆発音が伴う。
 いつ誰がトイレに入って来るか分からないこの状況では、とてもではないがそんな大きな音を立てるわけにはいかなかった。
 十歳の女児には、水を流して下品な音を隠すなどいう知恵はまだ無いのである。

  ギュググウウゥゥゥーーーッ!!
「――っ!」
 すぼまっていた肛門が一瞬開きかけ、葵は慌てて括約筋を締めて便の噴出を抑えた。
 激しい腹痛と便意が、元々ほとんど残っていない全身の体力を、根こそぎ吸い取ってゆく。
 排泄するための空間――排泄が許される空間にいるという甘えにも似た認識が、葵の便意を物凄い勢いで加速させていった。

  グゥルゴロゴロォ、ゴロゴロ……ッ……!
 静かなトイレの中に重苦しいうなりが響く。
(もうダメ……うんちしちゃいたい……もうどうせなら、今のうちに……)
 絶対にうんちをできないと自覚したにもかかわらず、それから一分足らずで、葵の理性は排泄の欲求に深く飲み込まれ始めてしまった。
 下痢便を受け止めてくれる白い陶器の甘い誘惑に、心身共に疲れきっている葵はその意志力を簡単に溶かされてしまったのである。
 一日に経験できる量を超越して負荷を与えられてきた葵の体は、本能的にこれ以上の我慢を拒絶していた。

(すこしずつ出せば……とちゅうで、だれか来ても……)
  キュクルルルルルルゥゥウゥッ……!!
 むき出しの肛門はたえずひくひくと収縮し、空気の流れに触れられるたびに刺激を受け、激しい開放欲求を葵の脳に送り込む。
 葵はもう、うんちをしたくてたまらなかった。
 思考が便意に導かれるままに、つらい我慢から楽な排泄の方向へと、一気に転がり落ちてゆく。
(……だいじょうぶ、だよね……)
 葵はゆっくりと肛門をゆるめはじめた。

 ――が、まさにその肛門が開こうとした瞬間、
「ここってさあ」
(!!)
 再びトイレに女の子たちが入ってきてしまった。
 葵の小さな体が反射的にびくりと震え、盛り上がっていた肛門が一気にすぼまる。
「五年のウンチもらしたコがおしりふいたトイレでしょ?」
「そうらしいね。下着とかもここではきかえたって」
(……!?)
「なんだかやだなぁ……そのコがおしりふいたりしてたのと同じ個室、使うことになるかもしれないんだよ?……きたなくない?」
 この少女たちもやはり葵のことを話していたが、葵はその自分を汚物として扱うかのような残酷な会話内容に深く傷付くと同時に、実際と異なることが話されていることにもひどく困惑した。
 噂がきり無く拡がってゆく過程で、少しずつ事実が湾曲されているのである。
 葵もなんとなくそのことに気付き、自分のおもらしがどれほどに生徒たちの間で話題になっているかを感じ取って胸を痛めた。

「――みんなそう言ってるから向こうがあんなにこんでるんだよ」
  ガチャッ
「かえってガラガラでいいじゃない」
  ギュゴロゴロオオォォォォッ!
(や、やだ……)
 数秒の間静かだったおなかが再び大きなうなりを発し、葵は顔を真っ赤にした。
(おなかの音きこえちゃうかも……どうしよう……)
 排泄時に生じる爆音は便意さえ我慢すれば防げるが、おなかが鳴る音ばかりは隠すことができない。
 そしてその下品な音は、下痢をしている以上、便意を解消しない限り止むことがないのだ。
(はやく出てって……!)
 葵はおなかをぐっと押さえ込み、唇を噛み締め肩を震わせた。
 自分を汚物扱いするような娘におなかの音を聞かれてしまうのは恐ろしいことだった。
 もしそんなことになっておもらしをした自分がまだここにいるとばれたら、どんなに酷いことを言われるかも分からない。
 ――自意識過剰になっている葵はそこまで考え込み、脅えてしまっているのである。

  ガチャリッ
「それはそうだけど……」
 隣に続いて奥の個室からも施錠の音が響く。
 先に個室に入った隣の少女はすでに下着を脱ぎ始め、カサカサとした衣擦れの音が聞こえていた。
「まだ少しくさ……」
  グギュウウウゥッ!!
「ふぅ……っ……!」
 奥にいる少女が何かを言いかけた瞬間、葵のおなかから個室中に響くほどの大きな音が鳴り、さらに葵は同時に腸を走った激痛に我慢できずにうめき声まで上げてしまった。
「……」
 何かをしゃべりかけた少女の声、そして隣から聞こえていた衣擦れの音までもがぴたりと止む。
(やだぁ……きかれちゃった……!)
 間違い無く、今の下品な音と恥ずかしい声を聞かれてしまった。
 葵は灼けるような熱さを頬に感じながら、汗でべたついているもも肉に手の平をにちゃにちゃと擦り付けて、激しい脅えと羞恥に悶え始めた。

  ……シュウウウゥゥゥゥーーーッ、シュイイィィーーーーッ
 少女たちはそのまま何もしゃべらずに、おしっこを始めた。
  ギュルギュルッ!……ゴロゴロゴロゴロッッ!!
 葵のおなかが間髪入れず、再び激しいうなりをあげる。止めることなどできない。もうどうしようもないのだ。
 葵はそのままの姿勢で大量の汗を流しながら、おなかの荒れる音を聞かれるという惨めな羞恥を味わい続けた。
 おなかが鳴るたびに、槍で貫かれるような激痛が体と心の両方に走るのである。

  チュゥゥゥーーーッ シュゥゥゥ、シュゥィイィーー……
  クギュルキュルグウウゥゥッ!!
(ぁあぁぁぅ!)
 静かなトイレの中に、少女たちの放尿の音と葵のおなかのうなりが交互に響く。
 葵は痛みと羞恥に耐えられず目に涙を浮かべ始めていたが、下剤に壊されたおなかは容赦無く大きな音を鳴り響かせ続けた。
 予想に反して、どんなに酷い音を鳴らしても少女たちが何も言わないでいてくれるのが、地獄の中にある葵にとってわずかな救いだった。

  ギュルッ!!ギュルルルルッ!グギュルルルルゥゥゥゥーー!!
(うんち……うんちしたい……!)
 しかしすぐに、葵の意識は音を聞かれることへの羞恥から、差し迫った便意へと動き始めた。
 便意が凄まじく高まり、他のことを考えられなくなりつつあるのである。
 排泄の直前でむりやりに肛門を閉めたことで、一気に直腸へと降りてきていた大量の下痢便が行き場を失って猛烈な便意となり葵の意識を蝕み始めていたが、それがついにおなかの音への羞恥心までも飲み込み始めてしまったのだ。

  シュイイィィーー……チョロチョロチョロ……シュウゥゥ−−
 脂汗をだらだらと流しながら悶えている葵を尻目に、気持ち良さそうなおしっこの音が響く。
 葵は少女たちを羨み、そして恨まずにはいられなかった。できることなら今すぐにも肛門を開いてうんちを出したい。彼女たちのせいでそれができないのである。
 おなかの轟音を聞かれてしまうのはもう仕方が無いとしても、うんちをする音だけは絶対に聞かれるわけにはいかない。

  ギュゴロゴロゴロゴロオオォォッ!!
「ぅくうぅっっ!」
(うんちしたいぃ……っ!!)
 さらに猛烈な痛みが腸をねじり、葵はまたうめき声を上げてしまった。
 便意が激しすぎて、もう声を恥ずかしがる余裕も無い。
 葵は膝と膝とを擦り切れるぐらいに激しくこすりながら腰を上下左右に振り、必死の思いで便意を紛らわそうとしていたが、これほどに猛烈な排泄欲求の前ではその効果は無にも等しかった。

  チョポポポッ……シュイッ、シュウゥゥゥウウゥゥーー……
(はやくでてって!でてってよぉ!)
 足元の白い陶器が肛門を誘惑して開かせようとする。
 葵の必死の願いなど知るはずもなく、少女たちはゆっくりと放尿の快感を味わっていた。
  クキュルルルルゥ……グギュウッ!!
  ブチュッ!!
「っ!」
(あぁぁぁ……)
 次に激痛がおなかに走った瞬間、葵は下痢便をちびってしまった。あまりの腹痛に、一瞬、全身の感覚が止まってしまったのである。教室で便意を我慢していた時と違って直腸の中には下痢便しか詰まっていないから、一瞬の脱力で中身が出てしまうのだ。
  …………。
 静寂に包まれるトイレ。
 水気のある破裂音は、もちろん壁を挟んですぐ側にいる少女たちの耳にも入ってしまっていた。
 おなかの音を最初に聞かれてしまった時は会話を途切れさせてしまったが、今度は放尿まで途切れさせてしまったのである。

  ガラガラガラガラガラ!!ビリッ!

 静寂を打ち破ったのは物凄い勢いでペーパーが巻き取られる音だった。
 葵が下痢便に触れずに手で肛門を押さえるために、慌ててペーパーに手を伸ばしたのである。
 それまで括約筋だけで便意を抑えてきた葵だったが、もうそれでは間に合わないと悟ったのだ。
(ん……っ……!)
 折り重ねたペーパーを肛門に貼り付け、下から一気に両手で押し上げる。
 それが効を奏し、葵は再び盛り上がりかけていた肛門を間一髪で押し戻すことができた。
  キュゥルルルゥルルルウゥゥーーッ!!
「ぅぅっ……!」
 同時に悲鳴のようなおなかの鳴音、そして苦しげなうめき声が個室の中に響く。
 その音と声も、紙を巻き取る音も、その前に下痢便をちびった時の音も、全てが物凄く恥ずかしいものだったが、それでも葵はもう、その程度の羞恥は気にする余裕を無くしていた。
 肛門からペーパー越しに伝わってくる下痢便のぬるぬるとした触感、そして指で刺激されることでより激しくなった肛門の熱い痛みは、葵の全身に鳥肌を立たせるほどの不快感を与えていたが、それすらも今の葵の頭の中にはほとんど入ってこなかった。

  ギュルルゥゥゥゥウッ!!……ゴポゴポォッ……グピィィッ……!
「くふ、ぅぅ……っ……!」
 今の葵はただひたすら、それらよりも遥かに悲痛な羞恥を生み出す最悪の事態――下痢便の噴出を抑えていた。
 これまでに出してしまった音ですでに自身が下痢をしていることは露骨となっていたが、葵はその事実からは目を逸らしていた。
 とにかく排泄音さえ聞かれてしまわなければ大丈夫だと思い込み、それまでの羞恥から無意識的に逃げていたのである。
(でてって、はやく……いなくなって……!!)
 葵は一刻も早い開放を願って便意を抑え続けた。
 もう、今トイレにいる二人の少女がいなくなり次第に排泄を始めることしか考えられない。
 実際は昼休みが終わるまでは安心できないはずなのに、度重なる負荷によって思考回路の焼き切れてしまった葵はそこまで頭が回らなくなっていた。
 事実以上に単純化することでしか、現状を把握できなくなっているのだ。

 ――そして、残酷にも不幸は続いた。
「誰もいないと思ったけど、けっこうこんでるね」
「そうだねー」
(!!?)
 新たに少女たちが入ってきたのである。完全に想定外となっていた事態が起こり、葵は愕然とした。
 昼休みの終わりが近づき、トイレの利用者が増えているのだ。
 もちろん葵も知っていることだったが、今はそんな常識さえも考えられなくなっていたのだった。

「ごめん。わたしけっこうガマンしてたから、先に入っちゃってもいい?」
「いいよいいよ」
「うん」
 わずかな会話が交わされる。
 トイレの中には個室が四つあるが、内一つは葵、残りの二つは先に入ってきた少女たちが使っているため、空きは一番奥の一つしかなかった。
  ガチャッ
  グウギュルルゥ、ゴロゴロゴロォォオォ……ッッ!!
 葵は混濁しつつある意識の中で、その会話とすぐに響いた施錠の音を聞いていた。
 この少女たちがトイレにいる間に排泄が始まってしまうことは明らかだったが、もうそこまで計算することもできない。
 少女たちが入ってきた時のショックさえも一瞬でぼんやりさせてしまった葵は、ただひたすら全身の力を振り絞って下痢便の氾濫をせき止めていた。

  チョボポポポポポッ!!チュウウウィィィッィィーーーッッ!
 わずかな間を置いて、大きな放尿の音がトイレ中に響いた。
  ……シュィッ……シュゥゥゥィィーー……
 すると先に来ていた少女たちも放尿を再開した。
 最初から閉まっていた個室の中で何か普通ではないことが起こっているのに気付き動揺して体を固めていたが、勢いの良いおしっこの音が聞こえたことで、意識が自身の排泄へと戻されたのである。

「そういえばさ、例の子のおもらしって、どんな感じだったの?」
「もうすごかったよ……」
 そして個室が空くのを待っている二人の少女たちは、今まで入ってきた少女たち同様に、葵のおもらしについて噂を始めた。
  キュグルルルルルギュルッ!!!
  チュゥゥッ!シュウウウウウゥゥ−−!! チョポチョポチョパチョポ!!
 葵のおなかからは相変わらず激しい音が鳴り響いていたが、奥の個室から聞こえてくるおしっこの音が大きかったために、新しく入ってきた少女たちには気付かれないですんでいた。
「……え?どんな感じに?」
「そのコのまわりの床じゅうに、ドロドロのうんちが……」
  ゴロゴロゴロォッッ!!グググウウゥゥゥーッ!!!
「ふうぅぅっ……!」
(もうだめぇ、でちゃうぅ……っ……)
 少女たちが始めた会話は葵の羞恥心を激しく刺激する内容だったが、極限状態の葵はもう、自分の便意以外のことには意識を引かれなくなってしまっていた。頭の中が白くなって何も考えられない。

「……うわぁ、すごいねそれは……」
「見たら給食たべられなくなってたと思うよ」
  ブリュッ!
「――っ!!」
 葵は再びうんちをちびった。
 新たに産み出された下痢便の軟らかい感触が指を暖め、脱力させる。もうこれ以上我慢できそうになかった。
  ギュルルルグウゥウウゥゥ!!!
  ブビジュッッ!
 さらにうんちが漏れ出る。全身の力が急速に抜けてゆく。
(もうダメえぇっっ!!)

  ジュビチャチャチャヂャチャアァァーーーッ!!!

「っあぁぁぁあ……っ!」
 自身の限界を悟った葵はおしりから手を離した瞬間、体をがくんと震わせて大量の下痢便を便器に叩きつけてしまった。
 葵の心身はついに便意に負けてしまったのだ。下痢便の噴出と同時に便器に叩きつけられたペーパーが水圧で溶かされてゆく。
 トイレ中に凄まじい爆音が響きわたり、周りの少女たちはみな驚愕してその体を固まらせてしまった。
(やだ!聞かないでっ!)
 葵は結局やってしまった排泄への絶望的羞恥に心を焼かれ始めた。
 便器の中に下痢便をぶちまけるという点では全く正常な形態の排泄を葵は行っているのに、味わっている心の痛み――苛烈な恥辱は、教室でおもらしをしてしまった時とそう変わるものではなかった。

「くぅぅぅぅ……っふぅぅう……!」
  ビジュブリブプウゥゥッ!! ブリジュビジュビイィィーーッ!!
  ブピィッ!! ブビイィィーーッ! ブビジュジュジューーーーッ!ブリッ!
 赤く充血して盛り上がった肛門から次々と液化した下痢便が噴き出し、生臭い悪臭を立ち上らせ、白い陶器を汚してゆく。
 下痢便の色は茶色と白とが混ざり合った、コーヒー牛乳のような色だった。事実、昼休み前に飲んだ牛乳こそがこの便意の原因だったのである。
 下剤によって活動が異常に促進されている葵の腸は、わずか三十分で口から入った液体をおしりの穴から排泄してしまったのだ。

  ブジュゥゥーーッ! ヂュビチュウゥゥーーー! ブジュブジュビジュビチッ!!
(きかないでよっ……!)
 荒れ狂う肛門から吐き出される水流の勢いは、牛乳瓶一本分の下痢便を排泄しても、なお弱まることがない。
 牛乳として摂取された入った水分は結局のところ、呼び水にしかすぎなかったのである。
 今の葵の腸は元から体内にあった体液を絞り出しているのだ。

  ゴロゴロゴロゴロオォッッ!!
  ビチビチビチビジュッ!! ブジュビチビチジュビィィーーッ! プウゥッ!
  ……クキキュルキュルクキュルルゥゥゥッ!!
「ふうっ……ぅぅぅう……っ……!」
(おなかいたい……! いたいぃ……っっ!!)
 元々欠乏していた体液をさらに吐き出すことは当然、凄まじい苦痛を肉体に与える。
 普通だったらありえないことだが、下剤によって正常な機能を破壊された葵の腸は、わずかな調整すらもできなくなっているのだ。
 大人の女性でさえ酷い下痢を起こしてしまうほどの威力を持つコーラックは、結局のところ、十歳の女児の未成熟で華奢な体には毒にも等しいものだったのである。

(きかないで……!きかないでよぉっ!!)
  ブジュビチチチチチッ!! ブリブリブォッ!……ブビプゥゥゥーーッ!!

 肛門が収縮するたびに薄茶色の液体が便器の底にびしゃびしゃと叩きつけられ、側面や周りの床に散乱する。
 葵は地獄のような腹痛に全身をがくがくと痙攣させながら、その音を聞かれる恥ずかしさに悶えつつ下痢便を排泄し続けていた。
 自身の肛門が放つ音以外の完全な静寂――恥ずかしい音に聞き入られているという事実が、容赦無き重圧となって葵の心を押し潰す。

  ビジュグジュビジュブピ……ジュビイイィィィィーーーッッ!!!
  ギュルギュルギュルギュルルルッ!!
(きいちゃやだあ……っ!!)
「ぁぁうぅ……ぅうぅ、ぅぅ……っ……」
 そしてついに葵は静かに泣き始めてしまった。
 おなかの激痛と惨めな羞恥に耐えられなかったのである。
「……やっぱり、この中にいるの、さっきもらしたコだよ……」
 個室の外にいる二人の少女の内の一方が、こっそり隣の少女に耳打ちをした。実際に葵のおもらしの現場を見ていたため、葵の泣き声を知っているのだ。
 肛門から放たれる下痢便の排泄音はどんな少女のものでも一様に下品で汚らしいが、口から発せられる声は少女一人一人によって違う。
 ――葵は泣き声を上げてしまったことで、自身の存在の決定的証拠を周りの少女たちに与えてしまったのだ。

「ぁぁぁぁ……ひくっ!……ぅえぇぇ、ぇんっ……」
  ビジュッ!……ジュビィィッ! ブリッ……ジュゥビビビビ……
 哀れな葵を慰めるかのように、それからすぐに排泄は収束に向かい始めた。
 だが皮肉にも、肛門から放たれる音が弱まったことで、静かな泣き声がより鮮明な響きとなりトイレ中に伝わってしまうことになった。
 あまりにも悲痛なその声に、周りの少女たちは眉をひそめた。

  ピチャ……チュビッ……プビッ、ポチャ、ポチャン…………
「ひくっ! ぅぇえ、ぇんん……ぁぁあぁあ……」
 そして泣き声しか聞こえなくなった。葵の腸の中が再び空になったのである。
「向こうのトイレ、行こ……」
 個室の外で待っていた少女たちは小声でそう言って、静かにトイレから出て行ってしまった。
 葵のおもらしについて大声であれこれ語ってしまったことを、気まずく思い始めたのだ。
 本来なら個室の中に入っている友達に声をかけなければならなかったが、自身の声を出すことすら気まずく思われてしまうほどの悲痛さが葵の泣き声にはあった。

  ゴボジャアアジャアアアアァジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
 そしてすぐに、水洗音が次々と響いた。
 他の個室に入っている少女たち三人はすでに排泄を終え、下着も上げていたが、なかなか水を流す機会を得られずにいた。それで一人がようやく水を流すなり、残りの二人も水洗音を聞いてそれに続いたのである。
 少女たちは音を立てないように注意深く鍵を開け、水で手を洗うこともなく、静かにトイレから出ていった。

「ぁ……っぁあぁ……ぁぁあぅぅぅ……っ……!」
 そして再び静かになったトイレには哀れな葵だけが残った。
 体をがくがくと震わせながら涙を流し続ける葵の惨めさを、足元から立ち上る下痢便の生々しい臭気がさらに強めていた。
 いつのまにかトイレ中に広まっていた悪臭のためか、それとも先ほどの少女たちが中に入らないよう周りに勧めたためか、それからのちトイレに入って来る生徒はいなかった。
 葵が切望していた鐘の音が高らかに鳴り響いたのは、それからすぐのことだった……。


 五時間目が始まってから十分ほどが経った頃、小林先生がトイレへとやって来た。
 葵が保健室に行った際に先客であるクラスメートの少女と遭遇してしまわないよう、保健室で担当教諭と調整をしていたのである。
「――じゃあ、保健室に行きましょうか」
 すでに涙を枯らして静かになっていた個室の中の葵に、先生は優しい声で話しかけた。
「……せんせい……あたし、このまま帰りたい、です……」
 だが、葵は保健室に行くことを拒絶した。
 自分の惨めな姿をこれ以上他人に晒したくなかったし、何よりも早く家に帰ってベッドに抱きつき、甘い眠りの世界へと落ちたかった。体が本能的に休息を求めているのである。もういつ気を失ってしまってもおかしくないほどに葵は疲れきっていたのだ。
「……どうして?」
 葵の予想に反して先生は優しく理由を尋ねた。
 葵が自身の惨めな姿を見られることに敏感になっているのは給食時間中のやり取りですでに知っていたので、保健医や、もしかしたら保健室にいるかもしれない他の生徒に、その姿を見られることを恐れているのだろう――と推測がついていたのである。
「保健室に、誰か、いるかも……しれないから……いやです」
 そして葵は先生の予想通りにそう答えた。
 その声の震えから願いの切実さを感じ取り、先生は黙って考え込み始めてしまった。

「……どうしても、行きたくない?」
 少しして、先生はゆっくりと尋ねた。
「はい」
 間を置かずに葵が答える。
「……分かりました。じゃあ、替えの下着とランドセルを持ってくるから、少し待っててね」
 そしてすぐに先生は葵の願いを聞き入れ、トイレから去っていった。
 本当はおしりの水拭きと消毒や、保健医による診療など、やらなければならないことがいくつかあるのだが、ここまで葵の心が傷付いてしまっている以上は、無理に強制しても可哀想なだけだと考えたのである。
 葵は自身の要求が通ったことに安堵しながら、目をつぶって静かに先生が戻ってくるのを待った。
 汗でべたべたに汚れている全身を絶え間無く小刻みに痙攣させているその姿は、あまりにも痛々しいものだった……。


「――滝川さん?」
「あ、……はい」
 そして何分かののち、葵は先生の声を聞いてはっと目を開いた。眠ってしまっていたのである。
「ランドセルと替えの下着、それから下痢止め、あとコップも持ってきたわ」
「はい……」
 先生の言葉に、葵は沈鬱な表情で答えた。
 もう自分の後始末を手伝ってくれた先生にも、その惨めな姿を見せたくないのである。
「ランドセルは、教科書入れたら重くなっちゃうから、中身入ってないからね。後で杉野さんが届けてくれるから」
「……」
 葵は先生の言葉を静かに聞いていた。
 先生に出るように言われる時が来るのを、恐れていた。

「……先生はいない方が、いい?」
 しかし次に先生はそう尋ねた。葵の心の痛みをよく理解していたのである。
「……」
 だが葵は答えられない。
 「いない方がいいです」などとは、言えるはずもなかった。
「本当に、一人で帰れる?」
 先生は質問を変えた。葵のあまりに弱々しい声を聞き、不安になっていたのだ。
 本当は、排泄物を漏らしてしまった生徒は保護者といっしょに帰らなければならないのである。
 今回のように生徒の体調が著しく悪い場合は、なおさらだった。
「――だいじょうぶ、です」
 葵は静かに答えた。
「じゃあ、先生は教室に戻るけど、いい?」
 先生がそう言うと、葵は急に寂しさを感じ始め、押し黙ってしまった。
 もう二度と学校に行くことはないと思っている葵にとって、それは永久の別れになるのである。

「……それじゃあね」
 そのまま葵が声を出さなくなってしまったので、先生はそれだけ行ってトイレから去っていった。
「ぁ……」
 葵はかすかに声を発した。
 お礼すら言えなかった自分が、恥ずかしかった。
 窓からは昼の風がゆっくりと流れ込み、遠くからはガタガタと工事の音が聞こえる。
 五時間目のトイレは、ただ静かだった――。


<5> / 1 2 3 4 5 / Novel / Index

 それから二十分ほどが経って、小林先生は再びトイレへと戻ってきた。葵がいたことの痕跡を片付けてあげるためである。
「……」
 先生は最初にランドセルや下着を置くために床に敷いていたタオルを折りたたみ、洗面所に置かれていたコップを拾い上げた。
「――!!!」
 そして次に葵のいた個室の中に入った瞬間、物凄い光景が視界に飛び込んできて先生は絶句した。
 便器の中には葵が残していった巨大な巻き糞が鎮座しているのである。
 学校を出る準備を整えた葵は最後に再びこの恥ずかしい汚物を流そうと試みたが、結局どうしようもなかったので、泣きそうな顔をしながら逃げ出してしまったのだ。
(なに、これ……?)
 先生はなぜこのようなものがここにあるのか理解できなかった。
 状況から考えて、この汚物が葵の排泄したものであるのは間違いが無い。――が、下痢の時は普通、軟らかいうんちしか出ないはずである。事実、教室で葵が床に撒き散らしたうんちも全てドロドロの下痢便だった。

(あの娘のおなかの中、一体どうなってるの……?)
 教室で異常な量の下痢便を漏らしている姿を見た時も驚いたものだったが、今度の衝撃はそれよりもさらに大きかった。
 そのまま先生はその奇妙な矛盾の理由をあれこれと推測し始めたが、答えは一向に出なかった。
 まさか小学五年生の女児が下剤を飲んだなどとは想像もつかなかったし、いずれにせよ下剤を飲んだ経験など無い先生は、直腸で固まっている便が下剤の影響を受けずにそのまま出るなどということは知る由もないのである。
 静かな個室の中で先生は、哀れな少女が残していった悲劇の痕跡をしばらくの間呆然と眺め続けていた……。


「はぁ……」
(いえ、ついた……)
 一方その頃、葵はようやく家――やすらぎの空間へと辿り付くことができていた。
 個室から出た時は歩くのもままならなかった葵だったが、すぐに水をがぶ飲みして失った体液を補充し、なんとか家まで歩くだけの体力を取り戻していたのである。

「ママ、ドア開けて……」
 葵がインターホンでそう言うと、母が心配そうな様子で鍵のかかっていたドアを開けてくれた。
「どうしたの? おなかの具合が悪いの?」
 立っているのもつらそうな様子でおなかを抱え込んでいる、げっそりと青ざめた葵を見て、母は娘が下痢をして早退してきたことを確信した。が、まずはそう尋ねた。
「うん……おなか痛くて、早退してきちゃった……」
 葵はそう言ってランドセルを玄関に置いた。
「どうして体操着を着ているの?」
「体育の時間に、早退しちゃったから……」
 葵は嘘をついた。おもらしをしてしまったという事実を、絶対に家族には知られたくなかったのである。
「そう……」
 体育は二時間目のはずなのに。
 表向きはうなずきながらも、母は娘に何かがあったのではないかと疑い始めていた。よく見ると靴下を履いていない。娘の様子は明らかに普通ではなかった。

「ママ、あたし、二階で休むから……」
 葵はそう言って体操着袋を抱えたまま、ふらふらと二階に向かい始めた。
 母に中身を見られるよりも早く、体操着袋の中に替えのホットパンツを入れておく必要があったのである。
「待って、葵」
 しかし母はすぐに葵を呼び止めた。
「え?」
 葵はびくりとした。何かを見破られたのかもしれないと思ったのである。
 だが、その予想に反して母はふと居間の中へと入っていってしまった。
「ママ……?」
 よく分からない母の行動を、葵はぼんやりと見つめた。

 ――が、次に彼女が居間から出てきた時、
「!!!?」
  ドサッ
 母の手にあるものを見た葵は即死にも等しい衝撃を受けた。
「これ、さっきあなたの部屋を掃除していた時に見つけたんだけど――」
 真新しいコーラックの箱と、三日前の七夕の夜に葵がこっそりと自作した「べんぴが治りますように」と書かれた短冊。
 娘の机の引き出しを定期的にチェックしている母は、昼に葵の部屋を掃除した時に、最下段の引き出しの奥深くに隠されていたそれらを見つけてしまったのである。
 この時は見せなかったが、財布の中にあるレシートも手に入れていて、その下剤が買われたのがまさに昨日だということも知ってしまっていた。
「……ぁあ……ぁ……」
 葵は全身を凍りつかせながら、母の手にある自身の秘密を今にも泣き出しそうな表情で見つめた。
 知られてしまった。絶対に知られてはいけない秘密を、決定的な形で知られてしまった。
 胸が押し潰されるほどに圧迫されて息もできない。葵の中で、それまで残っていた何かがぼろぼろと崩れ落ちていった。
「……葵、よく聞いて」
 葵は脅えきった瞳で後ずさりし始めた。
「こういう薬はね……」
 次の瞬間、葵は母に背を向けて走り出した。
「ちょっと待ちなさい葵!」
 母が叫んだ時には、葵はもう靴をひっかけて玄関の向こうに逃げ出してしまった。

「はあはぁはあ、はぁ……っ……!」
 家を出てすぐに泣き始めた葵は、そのまま大粒の涙を流しながら、ひたすら家から遠くへ遠くへと走り続けた。
 もう自分の家にも帰ることができない。――葵は全ての居場所を失ってしまったのである。
「はぁあ、あぁぁっ……うぅあ、はあ……っ!」
 絶対的な孤独と絶望とが結びつき、葵の心を漆黒で塗り潰してゆく。
 わずかに動くだけでも体中がきしむというのに、葵は普段でさえ苦しくなるほどの速さを維持して走り続けた。
 何もかも失ってしまったと思った葵は、そのまま命を燃やし尽くしてしまうつもりなのだ。

「……はぁ……はぁ、あぁ、ぅ……!」
 しかしその葵の動きは、走り始めて三分ほど経ってから急に鈍くなり、ついには止まり、そしてしゃがみこんでしまった。
  ギュルゴロゴロゴロゴロ……
「うぅくぅっ!はぁ……あ、はぁうぅぅ……っ……!」
 再び便意と腹痛に襲われてしまったのである。
 学校を出る直前にがぶ飲みした水が早くも肛門にまで降りてきたのだ。
 それまで何も考えず足の赴くままに走り続けてきた葵だったが、今度は公衆トイレのある近所の公園へと歩き始めた。

  ……キュルルルゥゥウウゥ……ギュゥゥウゥゥーー
「っくぅっ!……はぁっ!……ぁあ……っ……!」
 幸いにして公園まではものの数分の距離だったが、そこまで行くには急な坂を上らなければならない。
 激しい便意と腹痛に襲われてしまった葵にとって、それを上りきるのは大変なことだった。
 しゃがみこんでしまった瞬間に、それまで三分間の過剰な全力疾走の負荷まで一気に押し寄せ、もう歩いているのもつらい。
 それでも葵は涙を流しながら一歩一歩と坂を上っていった。

「……はぁはあはぁ……っ!……あぁぅぅっ」
  キュルグリュリグピィッ、キュクルルゥゥッ!
「ぁあはぁ、ふうっ……! ぅぅう……ふくぅぅっ!」
 葵は坂を上っている最中、何度も腹痛に耐え切れずしゃがみこんだ。
 汗だくの体操着姿でおなかを抱え込み中腰で、しかも涙を流しながらいかにもつらそうな様子でふらふらと歩を進めてゆく葵の姿は明らかに普通ではなく、周りの通行者たちの奇異の視線を浴びることになった。
 中にはあまりに哀れなその姿に同情して声をかけようとした女性などもいたが、葵の人を寄せ付けようとしない――他者を絶対的に拒絶する雰囲気に圧倒され、結局誰も話しかけることができなかった。
  グギュルギュルギュル、ギュゥ……グギュウウゥゥゥゥーーッ!!
「ふぅぅう……はぁ、はぁぁ……っ……!」
 これまでと同様の凄まじい便意が全身を駆け巡るが、葵はうんちを漏らさずに歩き続けた。
 しかし頭の中が空虚になっている葵はもう、便意を我慢しようとする意思をよく働かせてはいない。
 今日一日を通して心身に焼き付けられたおもらしの恐怖から、肛門を閉めているのである。

 そして葵はついに公園の入り口に至ったが、その瞬間――、
「はあぁぁぁ……」
  ブシュゥイイイイイィィィィィーーーーッ!!
  プビィィッ!! シュウウゥゥゥゥゥーーーッ!シュイイイィィィィ……

 葵は膝からがくんと崩れこみ、うんちを漏らし始めた。完全に液化した茶色い水を肛門から流してしまったのだ。
 肛門から溢れ出た液状便が次々と新しい下着に染み込み、すぐにその上のハーフパンツまで白から茶色へと染め上げてゆく。
 股からももへと流れてゆく水流は葵にかすかなこそばゆさを与えた。
 これまでに二回下痢便の圧力に屈服してきた葵の肛門は、今回もまた直腸内の汚物を全て垂れ流してしまったのである。
 葵は全開になった肛門から汚れた体液を垂れ流しながら、そのまま動けなくなってしまった。

「……」
 それから十分間、葵は動きを止めていた。
 幸いにして公園の中は静かで、葵に声をかけるものはいなかった。
 そして突然葵はふらりと立ち上がり、辺りをゆっくりと見回した。
 足元には水溜りができている。一リットル近く飲んだ水のほとんどが瓶を逆さまにしたかのように、肛門から流れ落ちてしまったのだ。
 股の間からはハーフパンツに染み込んだ液状便がぽちゃぽちゃと水溜りの中へ垂れしたたり、同時に両足を何本もの水流が伝わる。
 排泄された時は体温と同じ暖かさを持っていた葵の水便は、いつしか冷たい液体となり、未熟な下半身を覆い冷やしていた。
 水を吸い込んだ下着とハーフパンツは重く、葵は立っている体勢を維持するのも大変だった。

 そのまま葵はふらふらと公園の脇にある木立の中へと入っていった。
 何も考えずに人目の無いところへと逃げ込んだように見えた葵だったが、明確な目的地を持っているかのように、迷い無く木々の間を通り抜けてゆく。
 静かな木立の中には、もちろん誰もいない。葵は立ち止まることなく前を見つめて歩き続けた。

 ――そして、木立を通り抜けた葵は丘の上に立っていた。
 町の中で最も高い場所に位置するその丘からは、葵の住んでいる町の様子がよく見える。
 葵と綾香が一年前の夏休みに林で遊んでいた最中に偶然見つけた、二人だけの秘密の場所だった。
 葵がなぜここに来たのかは分からなかった。もう二度と会うことのできない友達がここに残していった温もりを求め、吸い寄せられたのかもしれない。

 葵はゆっくりとしゃがみこみ、そのまま横になって四肢を伸ばした。
 わずかに生えている背の低い草々が、葵の小さな、疲れきった体を優しく包み込む。
 昼の風が火照った葵の頬を優しくかすめ、汗で濡れている黒髪を涼しく乾かしてゆく。
 生気を失った葵の瞳に、木々の枝葉と天空が移った。太陽の光は木の葉に遮られ、葵の体を残酷に直射したりはしない。

  ……シュウゥゥゥィィィ……
 再び全身を脱力させた葵の肛門から、わずかな量の体液が漏れ出た。
 肛門を滑る熱い液体の感覚と、冷たくなっていたおしりに拡がってゆく暖かさ。――それが最後の感覚だった。
 葵はゆっくりと瞳を閉じ、そのまま動かなくなってしまった。
 そよ風が吹くたびに木々が静かにざわめく。哀れな少女の疲れきった肉体を、そっと癒そうとしているかのように――。

 <続く>


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