No.06「噴出」

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「ちょっと、どうしたの!?」
「だいじょうぶ?」

 平凡な体育の授業中、ある場所にとつじょ不穏なざわめきが広がった。

「おい、どうした?」
 またたく間にできた輪の中に、中年の体育教師が入ってゆく。
 その中央で、一人の少女が膝を抱えてうずくまっていた。

「どうした? 大丈夫か?」
 体育教師は少し驚いた様子で傍によってたずねた。
 色の深い黒髪を後ろで結んだその少女は、勉強にも運動にも優れた、誰もが一目を置く存在だった。整った顔立ちで能力相応のプライドに満ち、いつも凛としていて力強く、このような姿には強い違和感があった。

「おい、大丈夫か? どこか具合が悪いのか?」
 しゃがみこんで顔を覗き込むも、少女は黙ったままだった。
 唇を固く引き締め、険しい瞳でただ地面を睨みつけていた。顔色がだいぶ悪い。額には大粒の汗……。

「……とにかく、保健室に行った方がいいな」
 わずかなのち、体育教師はすっと立ち上がるとそう言った。

「あ、わたし、保健委員です」
 すかさず輪の中の少女が手をあげる。
「いや、先生が連れていこう」
 しかし体育教師はそれを制した。

「立てるか?」
 声をかけられると、少女は小さく息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。膝を抱えていた手がぎゅっとふとももをつかむ。相変わらずうつむいたままで、背が少し曲がっていた。

「よし、行こう。すぐに戻ってくるから、みんなはかまわず続けているように」
 生徒達の見守る中、二人は静かに歩き出し、校舎の中へ消えた。


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 中に入ると、少女は急にひどくそわそわし始めた。
 唇を噛み、体を震わせながら、前をゆく体育教師の後姿をじっと見つめる。
 見つめながら、腹をべこりとへこませた。ふとももに爪がめりこみ、鼻から息が溢れ出す。
 眉を八の字にゆがめ、唇をわななかせながら、ゆっくり進む後姿を睨み続ける。

 ほどなくして、それはふいに止まった。

「早く行って来い」
 振り返り、教師が言う。少女は怪訝な表情で彼を見つめた。

「ここで待ってるから、早く、便所に行って来い」
 黙っていると、彼は静かにそう言った。
 少女は目を丸くして教師の顔を見た。彼はどこか遠くへと視線をやっていた。

 灼けた吐息と共に、少女は廊下の向こうにあるトイレへと走り出した。


 ハーフパンツに手をかけながらトイレの中へ入ってゆく。
 迷わず最寄の個室に飛び込み、荒々しくドアを閉め、音を立てて鍵をかける。
 便器をまたぎ、着衣を引きずりおろし、尻をむき出してしゃがみこむ。

  ドボドボドボブリリリリブリブリブリーーーーッッ!!!

 瞬間、少女の尻は張り裂けんばかりの勢いで下痢便を便器へとぶちまけていた。
 彼女は……腹を壊していたのだ。

  ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ!!
  ビチビチビチビチビチビチビチビチビチ!!
  ブボボボボボボボブーーーーーッッ!!
 大噴火であった。震える尻から激烈な勢いで大量の下痢と屁が便器の中に叩き込まれてゆく。
 爆音が鳴り響き、誰もいない女子トイレの空気を醜く激しく震わせる。

  ブピィィドボドボドボドボドボーーーッ!!
  ビヂビヂビヂブビビビビビビビーーーーーッ!!
 少女は両手で膝を掴み、眉間に皺が浮かぶほどに目を固く閉ざして震えていた。
 苦しげにうごめく肛門からドロドロの未消化物が滝のように吐き出され、便器の底に広がってゆく。

  グウウゥゥゥゥゥ〜〜〜〜……
「はあーー、はあーー……」
 堰を切ったような噴出が収まると、少女はゆっくりと目を開けた。
 鳴り響く腹をさすりながら、汗にまみれた股の間から便器の中を覗きこむ。……激しく飛び散った下痢便の海。所々に昨日の夜食べたものが見える。立ち上る強烈な悪臭。
 外からは、自分のクラスが球技をしている爽やかな声が聞こえていた。少女は腹を繰り返しさすり、嘆くように息を吐きながら、自身の排泄物をじっと見つめ続けた。

  ググウッ!!
 その下腹がまたもやうねる。
  ギュルルルルルル!!
 歯を噛み締め、腹に手をめりこませながら、少女は再び肛門を便器へと突き出した。

「んふうっ!」
  ブウウゥゥゥゥーーーーッ!!

 直後に少女が汚い息みと共に巨大な屁を放出したのと、体育教師がそっと様子を見に来たのは同時だった。
 彼は狼狽しながら光景を見つめた。固く閉ざされた個室と使用中を示す赤。トイレ中に漂う物凄い便臭。それは美しく誇り高い女生徒の、禁断の有様だった。

  ブリリリリリリリリリリリリーーーーーッ!!
  ビジューーーブチュブチュブチュブビーーーーッ!!
  ブブウッ! ブボッッ!! ビチビチビチビチ!!

 ……教師は静かに戻っていった。


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「治まったか?」
 青白い顔でうつむきながら戻ってきた少女に、教師は静かにそう尋ねた。

「……はい」
 重い声で少女は答える。廊下の時計は、実に十分以上進んでいた。

「そうか。……まあ、とにかく、ちょっと保健室に行って休んできた方がいい」
 凄まじい排泄を物語るかのように、少女の顔はげっそりとしていた。
 しかし彼女は黙ってうつむいたままだった。

「みんなには、腹の調子が悪かったことは言わないでおくから」
「……すみません、お願いします」
 しばらくの沈黙があって教師がささやくと、少女は折れるように細い声でそう言った。

 そして小さく会釈をすると、彼女は力のない足取りで保健室に向かっていった。
 教師はその後姿を重い表情で見つめていた。
 やがて見えなくなると、彼は大きくため息をついた。


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