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「はあ……はあ……はあ……!」
閑静な住宅街の一角にある、とある高層マンション。
険しい表情でおなかを抱えながら、足早にその中へ駆けてゆく少女の姿があった。
「はい」
「お母さん? 早く開けて!」
エントランスに入り荒々しくパネルを操作した少女は、やや遅れて母親が出るや震える声で叫んだ。
「愛美? どうしたの?」
「いいから、はやく、あけて!!」
怪訝そうに尋ねる母に、泣きそうな表情で声を荒げる。
わずかな間の後、電子音がしてドアが開いた。いなや中へと飛び込む。
不運にも、エレベーターは二基とも上の方の階で止まっていた。
23階と19階。少女は即座に低い方のボタンを押した。
「はやく……もれそう……はやく……」
息を乱し、膝をこすり合わせながら、下がり始めた数字をじっと見つめる。
少女は色白で赤いランドセルが映える、細く清潔な印象の美少女だったが、今はそういう状態ではなかった。
おなかの上を何度も往復する左手。彼女の顔は真っ青だった。可憐な相貌は情けなく歪み、額には大粒の汗が浮かび、前髪が乱れて貼り付いていた。
グウウウゥゥ〜〜……キュウゥゥゥ〜〜〜……
静かなホールに異様な音が鳴り響く。可愛らしいスカートの奥で、震える穴が収縮を繰り返していた。
唇を噛み締め、ひたすらに腹をなぐさめながら、目の前の数字を見つめ続ける。
プスッ、プスプスプスッ! プウッ!
ようやくエレベーターが下りてきたとき、彼女はもう放屁を我慢できなくなっていた。
ドアが開くや中に飛び込み、殴るようにして自階のボタンを押す。焦るあまり一つ下のボタンを押してしまい、音を立てて押しなおした。17、18と光が並ぶ。間髪入れず閉のボタンを押し付ける。
グリュリュリュゴロゴロゴロゴロゴロッ!
「はあっ、ううぅぅぅ……っ!」
動き始めるエレベーターの中、少女は震えながら腹をへこませ、体を大きく丸め込んだ。
地獄そのものの内臓。わずかなのち、張り詰めたおしりに右手がずぶりと突き刺さる。
ブプス! ブッ! ブリッ! ブブッブブッブブッ
熱く軟らかいものが、ひくつく出口から今にも溢れ出そうとしている。
滝のように噴出する脂汗。膝が小刻みに痙攣し、ランドセルの中身が音を立てて揺れる。
少女は歯を食いしばり、鬼の形相で数字を睨み続けた。
はやく……はやく……はやく……はやく、はやく、はやくはやく、はやく。はやくはやくはやくはやくはやく。
3F……4F……5F……6F……7F……8F……9F……10F……。
暴発寸前のおしりをあざ笑うかのように、エレベーターはゆっくりと上がってゆく。
「ふうぅぅぅっっ!!」
ブウーーーーーッ!!
15階を過ぎたとき、少女の便意は頂点に達した。
うめくように息を吐きながら両手を肛門の上でえぐり重ね、しゃがみこまんばかりに腰を落とす。
激しく盛り上がる肛門。もう限界だった。数字を見るのをやめ、頭をこすりつけるようにして体をドアに密着させる。
地獄のような数秒の後、ついにエレベーターは停止した。
チャイムと共にドアが開くや、少女は猛牛のごとく飛び出した。
が、すぐに立ち止まってしまった。
目の前の壁に記されている数字。……17。知らない数。
少女は一瞬パニックになったが、すぐにはっとして振り返った。
泣きそうな顔でエレベーターの中へと駆け戻る。
痙攣する指先で必死に閉のボタンを押し付ける。
ゆがむ視界の中、ゆっくりと閉じ始めるドア。
ブフッ!! ブボッ!!
――そこまでだった。
ブリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ!!!
さなか、少女の肛門は力尽きた。同時にドアが閉まり、エレベーターが動き始める。
ブブブブブブブブブーーーーーーーッ!!
ブリブリビチビチビチビチビチビチッ!!
グボボボボブヂュブヂュブウウウゥゥゥゥッ!!
なお押さえ続ける手もむなしく、ぶるぶると震えるおしりからくぐもった音が漏れ続ける。
開いた穴から次々と下着の中に溢れ出す灼熱。もう肛門に力が入らない。止められない。
少女は眉をかたむけて潰れるほどに固く唇を噛み締めながら、ただ正面のドアを睨み続けていた。
再びドアが開くや少女は体をぶつけながら飛び出した。
這うように走り、立ち止まることなく自分の家の扉を引っ張り開ける。
「愛美、どうしたの!?」
心配そうな顔で玄関に立っていた母にかまうことなく、靴を跳ね上げ、トイレへと駆け込む。
ドアを叩き閉め、スカートをまくりあげパンツを引き、開き続けている肛門を便器へと突き出す。
「ふうううぅぅぅぅーーっ!!」
ドボボボボボボボボボボボボブーーーーーーッッ!!!
尻が水面を捉えるのと、肛門が意思によって全開になったのは、ほとんど同時だった。
噴出した下痢便の滝が激烈な勢いで水を跳ね上げ、すさまじい音を響かせる。
ボチャボチャボチャブビーーーーーーーッ!!
ドポドポドボボボドボドボドボーーーーッ!!
ジュボボボボブウウウウゥゥゥゥーーーーーッ!!
それからはもう、ひたすらぶちまけるだけだった。
はち切れんばかりに膨らみあがった肛門から、腹の中にうずまく苦しみを一心不乱に排出する。
まだ毛の生えていない陰部。べっとりと茶色く汚れた未熟なおしりの底から、ぐちゃぐちゃの未消化物が次から次へと吐き出される。
ブウウウウウウウウゥゥーーーーッッ!!
ブブブウーーブウウウボボボボーーーーッ!!
ブリブリブブブブブーーーーーッ!!
火山の爆発を思わせる下痢とガスの大噴射。
我慢に我慢を重ねてきた猛烈な欲求は、もはや制御のできるものではなかった。
すぐ外で母が聞いているだろうにもかかわらず。少女は灼熱の息を吐き、全身を激しく震わせながら、乱れた腹の中身を便器へと注ぎ込み続けた。
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「愛美、大丈夫? まだ、おなか痛むの?」
「……うん……もうちょっと……」
細くかすれた声で、母の心配そうな問いかけに答える。
凄まじい噴出が終わってから、どれほどの時間が経っただろうか。
少女はうつむき、虚ろな瞳で、ゆっくりと呼吸を繰り返していた。
その視界の中央には、膝まで下ろされた下痢まみれのパンツがあった。
股の間からのぞく便器の中はミートソースのような下痢便で満たされ、縁にまで激しく飛び散っていた。
むせ返るような悪臭。
とめどなく流れ出す汗が、濡れた毛先からふとももへぽたぽたと落ち続けている。
大便を漏らすのなど、生まれて初めてのことだった。
胸の潰れるような情けなさと自責が少女の中で渦巻いていた。
そして、後悔。
おなかの調子が悪いという友達に頼み込まれて、無理をして胃に送った二人分の冷凍みかんと牛乳。
六時間目の最中に始まった猛烈な腹痛と便意。終わったらするか、家まで我慢するかで死ぬほど悩んだ帰りの会。
くうっ、と小さく喉が鳴った。
負の感情が次から次へと沸き上がり、胸が煮えて張り裂けそうだった。
「愛美……」
さらに長い時間が経った。
静まり返ったトイレの中に再びノックの音が響いたとき、少女は今にも泣き出しそうになっていた。
眉を八の字に曲げ、口元に皺を作り、唇をきゅっと固めて震わせていた。
「どうしたの? まだ出られないの?」
少女は答えなかった。ただ自分の排泄物で満たされた下着を睨み続けていた。
母はそれきり何も言わず、また沈黙が始まった。
静かなトイレの中に、鼻をすする音が小さく響く。それは止まらず増えていった。細い肩が小刻みに揺れ始める。少女の唇はだんだんと膨らんでいった。
「愛美」
一分か二分の後、すする音がくりかえされる中、再び母の声がした。
「……もらしちゃった?」
少女は声を上げて泣きだした。
「おなかの調子が悪いときは我慢できないこともあるわ。恥ずかしいことじゃないのよ」
悲痛を極めた泣き声がトイレから外へと響きわたる。慰めの言葉にも全く応える気配がない。
ぐしゃぐしゃに顔を歪め、うなるように声を震わせて少女は泣いた。
大粒の涙がとめどなく溢れ出し、頬を伝わって唇の下で鼻水と溶け合って落ちてゆく。
溜め込んだ感情を吐き出すかのように、少女はものすごい勢いで泣き続けた。
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――夜。
少女はベッドに横になり、うつろな瞳で天井を見上げていた。
白とピンクで彩られた、棚にぬいぐるみが並んでいる女の子の部屋。
ベッドの側のテーブルの上には、お粥のわずかに残った皿と胃腸薬が置かれていた。さらにポカリスエットのボトルと、小さな猫のキャラクターが描かれた可愛らしいコップ。
淡い花柄のパジャマを着た少女の体は、やわらかな石鹸の匂いに包まれていた。
居間から電話の音がしてすぐに止んだ。
それからしばらくして、母が部屋へと入ってきた。
「愛美、えりちゃんから電話だけど、出られる?」
「うん……」
同じ塾に通う、仲の良い友達だった。
少女はゆっくりと起き上がり、居間へと向かった。
「ごめんね、今日は……うん、ちょっとかぜひいちゃって……明日は、たぶんだいじょうぶだと思う……」
背と肩を小さく丸め、時折おなかをさすりながら、か細い声で言葉を紡いでゆく。
「ありがとう……じゃあ、また明日ね」
一分ほど話したのち、少女はかすかに震える手でそっと受話器を置いた。
「愛美、今日はもう寝なさい。宿題はしなくていいから」
「うん、そうする……」
体中の力の全てを肛門から便器へと放ってしまった少女は、もう歩くのもつらそうな状態だった。
母に促されるままに、彼女はよろよろと洗面所へと向かっていった。
やがて少女は温かい布団の中で腫れきった眼を閉じ、沈むように眠りへと落ちていった。
その日のことは彼女にとって、一生忘れえぬ記憶となった。