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携帯電話の通話終了を押すや、静流は激しく息を吐いて立ち上がった。
座っていたベッドから一直線に部屋のドアへと向かい、閉めることなく廊下に飛び出す。
唇を押し合わせ、尻に手を当てながら長い廊下を突っ切ると、奥にあるトイレへと駆け込んだ。
素早く戸を閉め鍵をかけ、下着ごと絹地のパジャマを掴み下ろす。
露わになった純白の尻を彼女は便器の中へと突き出した。
ボチャボチャボチャボチャボチャボチャボチャ!!!
ブーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!
物凄い音を立て、一瞬で水面が茶色く染まる。
眉間に皺を刻み込み、静流は全身を大きく震わせてあえぐようにため息を吐いた。
乱れた呼吸のなか、尻の向きと座る深さを整え、パジャマを膝まで下ろしきる。
唇を噛み締めて腹をけわしく数回さすると、彼女は体を後ろにねじってレバーを回した。
ドボボボボボボボボボーーーーーーッッ!!
ブピボピブピブピビピボピッ!! ブボッッ!!
轟く水洗音と同時に、下劣さを極めた音色がトイレ中の空気を振動させる。
下痢の勢いの方が圧倒的に激しく、なされた音消しはほとんど意味をなしていなかった。
グウ〜〜〜ウウゥゥウウウゥゥ〜〜〜〜〜ッ!
美しい顔を情けなく歪め、細い眼で鳴り響く腹を睨みながら、それでも水が再び貯まるのを待つ。
ブオッ!! チョオオオォォオオォォ!!
ブウウウウビイイイイイイイイイィィィィィィィ!!
大きな装置による水洗よりも、パンパンに充血した肛門の方が巨大な音を立てるのは、悲劇だった。
眉を八の字にかたむけて目をつぶり、静流は暴れ狂う尻から壮絶な下痢の音を放ち続けた。
「ふうっ……ふうっ、ふうっ……」
ようやく腹圧が治まり、額に脂汗をいっぱいに浮かべて切なく息継ぎをする。
一時間ほど前から、彼女はトイレを出るのも困難なほどの猛烈な下痢に襲われていた。
部屋には、雪香に断りの連絡を入れるために無理をして戻ったのだった。しかし何度かけ直しても話し中で、限界近くまで我慢を強いられる羽目になってしまった。
ギュルルルルルルルッ!!
「んふ……っ!」
ろくに休む間もなく、再びその腸が大きくうねる。
激痛の走った腹を押さえながら、静流は歯を噛み締めてレバーへと手を伸ばした。
「静流、具合はどう?」
そのときだった。静流は手と肛門の動きをぴたりと止めた。
「沢渡さんにお電話はした?」
「はい……しました……」
人には見せられぬ表情で、肛門を蠢かしながら答える。
「そう、良かったわ。それでお腹の調子はどうなの? まだしばらくかかりそう?」
「まだおなかが痛くて……もう少し……」
トイレの中には鼻のねじれるような悪臭が渦巻いていた。外にもだいぶ漏れていることだろう。
「可哀想に。落ち着いたら病院に行きましょうね」
チュオッ!!
震える汗だくの尻から、茶色い水流がこぼれ出す。
「お母様……音が……恥ずかしいから……」
「そうね、ごめんなさい。落ち着いたら内線をしてね」
揺れ乱れた声色で、母はようやく察してくれたようだった。静かに足音が去ってゆく。
ドボオオオオオオーーーーーーーーーーーッッ!!!
ブウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥ!!!
それから数秒も経たないうちに凄まじい排泄音が廊下中に鳴り響いた。
様子を伺っていた母は顔を重くしかめて口元を押さえ、振り返ることなく一階へと下りていった。
「ぐううううぅぅーーーっ……!」
ビチビチビチビチビチビチビチビチビチッ!!
同じ時間、わずかに百メートルを隔てた古風な家では、凜が真っ青な顔でトイレの中に篭っていた。
「くああぁぁあぁ……っ!」
ベチャベチャベチャベチャベチャッ!!
ビチチボチャチャチャチャチャチャチャチャッ!!
青いタイル張りの段上にある和式便器をまたぎ、汗だくの尻から下痢便を放ち続ける。
眉を八の字に大きくかたむけ、その表情はふだん絶対に見られない女々しい弱さに満ちていた。
すでに着替えをすませていた彼女は昨日と同じジーンズを膝まで下ろし、両足をがくがくと痙攣させていた。
「うふっ!!」
ブーーーーーーーッッ!!
吐くような顔をして腹の肉を掴み、凄まじい量のガスを放出する。
胃腸の強さに自信のある彼女にとって、生まれて初めての本格的な下痢であった。
グウウウゥゥウウウゥゥ〜〜〜〜ッ!
歯をえぐり合わせ、自分のものとは思えない音を立てる腹をぐるぐるさする。
うず高く盛り上がったままひくつきを繰り返す肛門。地獄のような腹痛と便意はいくら出してもまるで治まりそうにない。
一すじの線だけが走る股の下は、大量の湯気を放つドロドロの汚物で埋め尽くされていた。
「……ぐぅくっ!!」
ブウウウゥゥーーーーーッ!!
つま先を跳ねさせ、ほとんど制御できず放屁をする。
額からは絶えることなく脂汗が溢れ、冷えきった便所にもかかわらず凜は顔じゅう汗だくにしていた。
「凜、大丈夫?」
そのとき、大きいノックがして母の声が聞こえた。
「雪香ちゃんに断りの電話をしておいたからね」
凜は情けない瞳できゅっと唇を噛み締めた。黙り込み、自分は言葉を発しない。
「正露丸を出しておいたから。落ち着いたら居間に来なさいね」
それだけ言うと、母は去っていった。
ブチビチビチビチビチビチビチ!!
そのあとを追いかけるかのように、下しきった排泄の音が響きわたる。
「ちっくしょ……、なんで……こんな……」
泣きそうな顔で桜色の唇をえぐりながら、凜は便器をまたぎ続けた。
腐った卵のような臭いの満ちた中、大粒の雫がつたう純白の尻はただひたすら陶器の中をとらえている。
ゴウウウウゥゥゥゥ!!
「ぐーーーーっっ!!」
ビチュウウウウゥゥゥゥーーーーッ!!
ベチベチベチベチベチャ!! ブゥビイイィィッ!!
まるで嘔吐のごとく乱れた腹の中身を便器へとぶちまける尻。
彼女がトイレから出ることができたのは、それから実に一時間後のことであった。
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雪香は机に座り、柔らかい頬をぼんやりと両手の上にのせていた。
特にやることはないし、またやる気もおきない。
やがて彼女は立ち上がると、窓から外を眺めた。
手をかざすだけで指の冷える硝子の先には、見慣れた家々の屋根と白く輝く山が見えた。
小さく音を立てて、車が一台だけ雪に覆われた道路を走ってゆく。
そろそろ二人も病院に着いた頃だろうか。
――そう思ったとき、電話が鳴った。
雪香は足早に部屋を出ると、両親の寝室に入り、点滅を続ける子機を取った。
「はい、沢渡です」
「雪香。いま病院にいるのだけど……」
「お母さん? どうしたの?」
母の携帯電話からだった。しかしその声は妙に緊張していた。
「待合室が同じ学校の子たちでいっぱいなの。みんなお腹を壊してるみたい。雪香、あなたはなんともない?」
「えー? うそ、ほんとなの?」
雪香は子機をより耳に近く持ち直した。
「わたしはぜんぜん大丈夫だけど……」
「それならいいのだけれど……もしかしたら、食中毒が起きたのかもしれないわ」
凜と静流のことが雪香は真っ先に頭に浮かんだ。
「それでね、実は、澄音が車の中でおなかが痛くなって……急いで病院に入ったのだけど、トイレが空いていなくて漏らしちゃったの」
「えーーっ!?」
「下着とパジャマが必要なのだけど、病院にそういうのはないらしくて……悪いんだけど持ってきてもらえないかしら」
「……うん、分かった」
子機を持つ手に力を入れながら雪香はうなずいた。
かかりつけの小児科までは車で五分、徒歩だと十数分ほどの距離だった。
「本当は私が取りにいきたいんだけど、ちょっと澄音から離れられなくて……ごめんなさいね」
「ううん。すぐに持ってくから」
「それじゃあお願いね。柄とかはどれでもいいから」
そう言うと、電話は切れた。雪香は大きくため息をついて子機を戻した。
すぐに寝室を出て、隣にある澄音の部屋へと入ってゆく。
食中毒の可能性を聞いたときには驚いたが、にわかには信じられないし、それどころでもなかった。
一刻も早く澄音に着替えを持っていってあげなければならない。きっと今ごろ泣いているのだろう。
可愛らしい暖色に包まれた部屋で、まず机にかかっていたハローキティの布バッグを取ると、雪香はぬいぐるみの並ぶタンスへと向かった。
タンスに手をかけたとき、突然激しい痛みが脇腹を刺した。
雪香は一瞬顔をしかめてそこを見たが、痛みはすぐに消え去った。
段を引き出し、並ぶ小さなパンツの中から一つ、二つと取り出してバッグに入れる。
加えて靴下も一足出すと、ぐっと力を入れて押し戻した。
続いて上の段にも手をかける。
雪香は、動きを止めた。
唇を小さく曲げ、下腹をじっと見る。
タンスから手を離し、そっと指先を服に這わせる。
次の瞬間、雪香の顔はぐにゃりと歪んだ。
当てた手を激しく左右に動かし始める。丸い頬から赤みが急速に消えてゆく。
ひとしきり腹をさすると、雪香は震える手をタンスに戻し引っぱった。
いちじるしく前屈みになった彼女の前に、色とりどりのパジャマや衣服が姿を現す。
……だが、彼女はそれ以上動けなかった。その視界では様々な色が渦を巻いて混じりあい、奇妙な絵画のように溶け合っていた。
ギュルルルルルルルルルルルル!!
かすれた呻きと共に腰が砕け、その右手が尻に飛ぶ。
眉を八の字に傾け、バッグをその場に横たえると、雪香は弾けるように歩きだした。
スカートをたくし上げながらトイレに入り、ドアを閉めて鍵をかける。
白い女児ショーツを下ろすと、ふくよかに満ちた二つの丸みが露わになった。
乱れた呼吸と共に便座へとすわり込む。ふるえる肛門が、冷たく張った水面を捉える。
ムリリリリリリリリリリリブボッッ!!!
ドボボボボボボボボボボボボボオオーーーーッッ!!!
尻の裂けるような大噴火が始まった。
太い便が水を喰らうように突き出されるや噴霧に包まれ、上から土石流のような下痢便が轟音を立ててぶちまけられる。
ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ!!
ボチャボチャボチャボチャボチャボチャボチャ!!
ブビビビビビビビビビビーーーーーーーーーーッ!!
トイレに溢れる灼熱の吐息。一瞬で下痢便の海と化した便器の中に、さらに膨大な量の泥とガスが注ぎ込まれる。
激烈に爆ぜる飛沫と跳ね返りで、またたく間に雪香の尻は直下の渦と同色に化した。
ぬめり照る黄土色に包まれた底で、すべてを噴出する肛門だけが充血しきって真っ赤に高い。
ブポッッ!! ブピブピブピブピブピッ!!
ドポポポボポポポポボポポポポポポボポ!!
早く、病院に行かないといけないのに……。腹を抱えこんで悶絶しながら、雪香は瞳をゆがめて唇を噛みえぐった。
しかし、ポンプのごとく蠕動を続ける大腸と無限に充填される便意は、彼女に便器からの離脱を許さない。
全身を溶かす脂汗。もう尻を出し続けることしかできない。激しく腹をへこませ、雪香の内容物はどんどん水気を増して吐き出されてゆく。
「ぐううううううううぅぅぅーーーーっ!」
ブチョオーーーボチョチョチョチョチョチョッ!!
ブウウウウゥゥゥゥゥーーーーーーーーーッ!!
――食中毒。壮絶な下痢と腹痛に目の回る中で、その言葉だけが鮮明だった。
冷たい静寂に包まれた廊下に、苦しみに満ちたうなり声とおぞましい音色が波打ち続けた。
二十分後、電話のベルが家の中に満ちたとき、トイレのドアはなお固く閉ざされ、地獄の音が続いていた。
さらに数回の電話を経てやがて母が戻って来たとき、雪香は一階にまで響く巨大な放屁の音でもって彼女を迎えた。
北海道北見沢市の小中学校で14日、児童や生徒ら1050人以上が食中毒の症状を訴えていることがわかった。
同市教育委員会によると、同日の朝から腹痛や下痢の症状で欠席する児童らが相次ぎ、調査の結果、市内の小中学校計10校で1030人が欠席、うち11人が入院していることが判明した。各校には同じ調理所で作られた給食が納入されており、岩見沢保健所は10日の学校給食が原因の集団食中毒とみて、同施設を立ち入り調査した。
児童らは連休に入った11日以降、腹痛や下痢、吐き気などの症状を訴え始めた。14日午前の時点で小学校8校で945人、中学校2校で85人、教職員22人が学校を休んでいる。市教委はこの10校を18日まで休校とした。
毎朝新聞 2011年2月14日(月曜日) 夕刊
かくして四人の少女たちは、三連休のほとんどをトイレで過ごした。
どれだけ排泄しても腹痛は止まず、腹が空になっても彼女たちの肛門からは水分が迸り続けた。
憶測はすでに広まっていたが、集団食中毒の事実が明らかになったのは、十四日、月曜日になってのことだった。
やつれこけた表情でトイレから出た雪香は、母からクラスの半数が欠席していることを知らされた。
午後には報道が始まり、新聞の夕刊にも記事が載った。給食が原因の、サルモネラ菌による食中毒だった。
夜、雪香は自室でおかゆを食べながら、テレビのニュースでそれを見た。
偶然にも、解説と共に映し出された無人の教室は、自分のクラスのものだった。
見慣れた光景がテレビに映っているのは不思議だった。
ありふれた地方都市で起こった、大規模集団食中毒。
市内の至るところで、実に五百人を超える少女達が、雪香たちと同じように猛烈な下痢に苦しんでいたのである。
下は六歳から上は十五歳まで、誰もが等しく呻きながらその尻から土石流を噴出させた。
少女たちの肛門から下水へと流された体重は、累計でトンにも達した。
その年、北見沢市の小学校にはバレンタインデーが来なかった。
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三月も半ばになると、北海道でもしだいに温かな春の陽気が感じられ始めた。
「お姉ちゃん、もうすぐ春休みだね」
地肌の目立ち始めた道路を、元気に歩き回りながら澄音が言う。
道の端々に寄せられた雪の塊も、まぶしい陽光に照らされて日に日にその形を小さくしていた。
「そうだね」
「澄音ちゃんは、春休みにどこかお出かけするの?」
雪香と静流の声が重なる。はっとして雪香は口をつぐんだ。
「うん! こんどみんなで札幌の遊園地に行くよ」
「そうなんだ。帰ってきたらお話をきかせてね?」
妹と会話を始めた静流から、雪香は針葉樹の立ち並ぶ道の脇へと目をそらした。
先月の下旬に市内の肛門科医院で鉢合わせしてから、二人は気まずくてあまりしゃべらないようになっていた。
「来月であたしたちも、もう六年生か」
「なんだか、あっという間だよね」
「あと一年たったら中学生か……」
目を細めてせつなく青空を見上げる凜。今度は静流が口を閉ざしてしまう。
「制服になったら、凜もスカートはかなくちゃいけないね」
「やなんだよなあスースーして。中学も自分の服で通えればいいのにさ」
凜の話を聞きながら、雪香は静流の横顔をのぞき見た。どこか思いつめたようなその表情は、半分は自分のせいだ。
その彼方に並ぶ深緑の山裾に目を這わせると、雪香は小さく深呼吸して口を開いた。
「静流ちゃんは、春休みどこかに行くの?」
「えっ、わ、わたし? うちは、その、フランスに……」
「フランス!?」
澄音が大きく声をあげる。
「いいなー、海外」
「澄音もいってみたい!」
驚いた様子の静流の腕に、澄音が瞳を輝かせてぎゅっと抱きつく。
静流は困惑を見せながらも、その柔らかい髪をそっとなでた。それからの話題は、ほとんど静流の旅行についてだった。
目を輝かせて次々と質問をする澄音に、静流は一つ一つ丁寧に答えていった。雪香と凜も、その合間にあれこれと好奇心の趣くままに物事を尋ね、静流は嬉しそうに回答した。
「じゃあ、また明日」
「さようなら」
「またね」
「バイバーイ」
そうして、いつもの叉路で四人は別れた。
別れるとき、雪香と静流は目が合った。静流が小さくはにかむと、雪香も同じように微笑んだ。
「ねえお姉ちゃん、澄音も海外旅行いきたいなあ」
歩き出すなり澄音は雪香の顔を見上げてそうせがんだ。
「澄音がもう少し大きくなったら、きっと連れていってくれるよ」
雪香はいつになくまぶしい瞳で遠くに輝く山並みを眺めながら、服をひっぱる妹の頭をそっと撫でた。
「ほんとう?」
「うちだってそれぐらい大丈夫だよ。もちろん、行くときは家族みんなでね」
「……うん!!」
なんとなく手をつなぐと、姉妹はうららかな日差しの中をゆっくりと歩いていった。
空には一面の青がひろがり、彼方まで続く美しい街並みを見下ろしている。
三月十四日の、午後三時すぎのことであった。