No.24「朝の駅で」

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 朝のホームは、その日も乗客でごった返していた。
 いくつもの路線が乗り入れる駅で、通勤や通学の利用者で溢れ、身の置き場もないほどである。

 やがて、同じように人で詰まった電車が入ってきた。
 二十分離れた駅からの、途中停車無しの通勤快速である。

 ゆっくりと速度を落としながらホームを進んでゆく電車。それを見つめる人の列。
 忙しくもありふれた、毎朝の光景であった。

 だが、中にいる乗客の個々を把握できるほどまで速度が落ちると、ホームにいる幾人もが、怪訝な顔でそれを見た。
 ある車両の、ドアの正面。
 眉を八の字に傾けてひどく顔を歪めながら、下腹を押さえ体をふるわせ続けている女子高生の姿があった。
 止まりゆく車内で、彼女は唇を押し固めると、物凄い形相でホームにある階段を捉えた。

 ドアが開くなり、彼女は飛び出した。
 いちじるしく体を屈め、驚きの眼で見る者達をこじあけて階段に向かって突進する。
 途中で両手を尻に押し付けると、肩の鞄が人にぶつかるのもかまわず、歯を噛み締め段を駆け下りていった。
 長い黒髪で優しげな顔立ちをした、育ちの良さを感じさせる少女だったが、今その面影はなかった。

 階段から這うようにして飛び込んだ女子トイレは、待つ女性達で埋まっていた。
 少女は大きく息を吐き出すと、列の先頭に向かって割り込んだ。

「すみませんすみません先に入れてください具合が悪くてがまんできないんです」
 最寄の個室の先頭にいた、キャリアウーマンを思わせる中年の女性に願い請う。
 女性は驚いた様子で口をつぐんだ。直後に少女が隣のOLを向くと、女性は「どうぞ」と言った。

  ブーーーーツ!!
 先頭に立つなり少女は放屁した。
 両手を肛門にめり込ませ、膝を激しく痙攣させ、唇を狂おしく揉みあわせながら、赤い印を睨み続ける。

 少女の顔がいっそう醜く歪んだとき、水洗の音が聞こえた。
 軽快な音を立てて印が消える。ドアが動く。

  ブリブリグプビジュブジュ!!
 中から若い女性が姿を現すや少女は目を回しながら個室の中へ突進した。

  ブジュジジュブブブブブブ!!
 あわてて避けた女性を見ることもなく、灼けた息を放ちながらドアを叩き閉めて鍵をかける。
  ゴプウブリュリュリュリュリュリュ!!
 便器を一気にまたぎ、スカートを跳ね上げ、膨らむパンツを掴み下ろす。

  ベチッボチャッベチャッボチャッブピッ!!
 尻と布から大量の泥を足元に落としながら、少女は猛烈にしゃがみ込んだ。

  ビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチビチ!!!
  ブジュウウウボボボボボボボボボボボボボボ!!!
 茶色で塗り包まれた尻からえぐるようにして下痢便の滝が噴出する。
 富士と化した肛門が便器を焼き、その底を灼熱の土石流が埋め尽くしてゆく。

  ブウウウビイイィィイイィィィーーーーーッ!!
 ひときわ激しく尻が揺れ、巨大な音を立てて肛門がめくれあがると、褐色の噴霧が直下一面に爆発した。

「はあっはあっ、はあっっ……!!」
 少女は大口を開け、肩を跳ね上げさせて息をついだ。瞳の焦点が定まってゆく。

 そして訪れたのは悪夢だった。
 がくがくと震え続ける足。その間が下痢便の海になっているのが視界に入る。ドロドロに溶けたそれは便器一面に未消化物を浮かべながら広がり、周りのタイルに飛び散り、純白だった靴下に幾多のしみを作り、なにより彼女の下着と尻を壊滅的に汚していた。

 たくし上げたままのスカートを掴み締め、少女は嘆くように吐息をついた。
 二十分前、いつものように快速電車に乗って、突然始まった激しい腹痛と便意。
 満員電車の中で地獄のような下痢を堪え続けてきた彼女の、これが結末だった。
 途中からは人目もはばからず鳴りうねる腹をさすり、放屁は大小何十回したかわからない。それだけ我慢しておきながら、最後の最後で苦しみを堪え切れなかった。漏らしてしまった。

 かつての狂おしき欲求は今、彼女の肛門の下に凄惨に撒き散らされ、強烈な悪臭を放っていた。
 我慢できなかった肛門を情けなくうごめかしながら、少女は固く目をつぶり、音を立てて鼻水を吸った。

 やがて自身の出したものをはっきりと捉えると、少女は鞄を個室の端に下ろし、静かに紙を巻き始めた。


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「もしもし、大丈夫ですか?」
「……すみません。もうしばらくかかります」

 個室に駆け込んでから数分後、唇を固く噛み締め、繰り返し紙を尻に押しつけ続ける少女の姿があった。
 鼻の曲がるような悪臭が個室を包み、それはおそらくトイレ中にも広がっていた。


 彼女が個室の鍵を開けたのは、中に飛び込んでから十分後のことであった。
 間に合わなかった尻に加え、床に撒き散らした汚物を全て拭き取るのに、トイレットペーパーは実に二巻き近くを消費した。汚した下着は幾重にも紙で包んで汚物入れに押し込んだ。

 外に出てみると、先頭を譲ってくれた女性はすでにいなかった。
 代わりにいた同じ年頃の少女が、彼女を怪訝な眼で舐めるように見てから、中へと入っていった。

 そうして彼女はうつむきながら足早にトイレを出た。
 手を洗うつもりにはなれなかった。

 外の通路では、相変わらず人々が忙しなく行き来していた。
 何事もないその光景を憔悴しきった瞳で見つめると、少女は来たときとは反対行きのホームへと階段を上っていった。
 彼女はこの日、学校を休んだ。


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