No.06「妹のにおい(前編)」

 彼崎 未来 (そのさき みき)
 8歳 みそら市立下里第一小学校2年2組
 身長:121.3cm 体重:20.7kg 3サイズ:56-43-58
 胃腸が生まれつき弱くて下痢ばかりしている、可哀想な女の子。

 ヒロインの物語開始直前一週間の日別排便回数(←過去 最近→)
 7/13/9/6/4/8/5 平均:7.4(=52/7)回 状態:下痢

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「ねえねえあおいちゃん」
「なーに?」
「きょうね、あやかママとおでかけするんだよ」
「どこにおでかけするの?」
「あのね――」
 一年の内でも最も肌寒い時期である、二月の中旬。
 前夜降り積もった雪がまだ残っている静かな午後の通りに、明るい声が響いていた。
 黄色い帽子をかぶった小さく可愛らしい一年生の女の子が、二人で楽しそうにおしゃべりしながら下校している。互いに暖めあうかのように体を寄せ合う姿が、いかにも親しげであった。

「……」
 そしてその様子を、後ろから羨ましそうに眺めている小さな女の子の姿があった。
 体はかなり小柄で痩せていて、二年生なのに前を歩く幼女たちよりも背が低い。肌の色は白く、その表情は暗くて寂しそうだった。
 彼崎未来には友達がいなかった。同じクラスの誰かといっしょに下校をしたことなど、今までに一度も無い。
 もちろん、喜んで孤独を選んでいるわけではないし、未来の性格が悪いわけでもない。
 体に抱えている悩みのせいで、未来はクラスメートたちに心を開くことができないのだ。

 未来の胃腸は、生まれつき、それも人並み外れて弱かった。
 ほとんど毎日のように下痢を繰り返してしまうのである。食べた物をちゃんと消化して排泄することができないのだ。体質によるものなのか、薬を飲んでもおなかの具合はよくなることがない。
 そしてその下痢の症状自体も普通の娘より重く、あまりに日々の排泄回数が多いため、過剰な刺激を受けた肛門が炎症――痔を起こし、しかもそれが慢性化してしまうほどだった。その人形のように穢れの無い外見からは想像もつかないことだが、未来は肛門科への通院を余儀なくされているのである。
 体の発育が悪いのも、下痢のせいで食べ物の栄養分を吸収することなく体外に吐き出してしまうのが原因であった。
 下痢。――普通の少女にとっては運悪く訪れる事件が、未来にとっては日常と化してしまっているのだ。

 治ることなく繰り返される下痢は日常生活にも支障をきたしてしまうものであり、幼稚園の頃は勿論、小学校に入学しても未来はおむつを外すことができないでいた。二年生への進学を期にようやく普通の下着を使い始めたが、それによって毎日のようにトイレに駆け込んで、悪臭と爆音を撒き散らしながら下痢便を排泄しなければならないという、この上なく惨めな思いをしなければならなくなってしまった。トイレまで間に合わなかったり無理に我慢してしまったりして、教室や廊下などと言った公共の場で粗相をしてしまうことも珍しくはない。
 担任教師の指導が行き届いているため、未来の行為をからかったりいじめたりする者は幸いにしていないが、それでもその行為が周囲に迷惑をかけてしまうことは事実なので、非難や軽蔑の眼差しを向けられることはもちろん、心無い者から何気なく揶揄されたりまたは無視されたりするなどといった、小さな排除行為を受けることは避けられなかった。

 ちょうどこの日も、未来は帰りの会の最中にトイレに駆け込んでしまい、結果的に班で行う教室の掃除をサボることになってしまった。
 残便感を残しつつもおしりを拭き、慌てて教室に戻った未来だったが、その時にはすでに後片付けの最中だったのである。
 教室に入るなり冷たい非難の視線を浴びせられた未来は、ただうつむきながら小さな声で謝ることしかできなかった。
 ――これだけでも普通の女の子にとっては深い心の傷になりかねない、あまりにも恥ずかしくて惨めな出来事だが、しかし未来は毎日のようにこういった苦しみを味わっているのである。
 未来自身もこれまでの経験を通して、自分が周囲から邪魔者扱いされていることを理解してしまっているので、自身の殻に引き篭りざるをえなくなってしまっているのだ。クラスメートが怖いのである。未来は学校が好きではなかった。

 日常起こりうるトラブルの中でも、最も苦しくそして恥ずかしい事の一つである下痢。
 特に女の子にとっては、たとえまだ物心ついてから間もない幼女であっても、その羞恥心を耐え難く刺激される悪夢である。
 そして未来はその悪夢からいつまでも覚めることができない。
 あまりにも哀れでそして惨めな体質に、未来は生まれついてしまったのだった。

 ――だから、目の前で展開されているごく当たり前の風景でさえ、未来の大きな瞳には憧れの光景となって映るのである。
 可哀想な未来は、自分のことを理解してくれる友達とまだ出会うことができないでいるのだ。

「あとねあたらしいおようふくもね、かってもらうの」
「それからそれから?」
「あとね、パパにチョコレートかってあげるの」
「チョコレート、あおいもあしたママとかいにいくんだよ」
 楽しそうにおしゃべりを続ける幼女たち。明日はバレンタインデーだった。
 それは恋する乙女のための記念日だが、まだ恋愛を知らない幼女たちにとっても、やはり心躍る幸せな日なのは同じようである。

(みきも、チョコレート買いにいくんだよ)
 そしてそれは未来にとっても同じだった。
(おにいちゃんにあげるの)
 会話に入れない代わりに、心の中で必死に自己主張をする。
 未来には大好きなおにいちゃんがいた。
 未来の両親は共働きで夜遅くまで帰ってこないため、八歳年上の兄である直樹が未来の親代わりとなっているのである。
 彼は未来の体の苦しみを誰よりもよく理解し、そしてまた未来が学校で友達がいなくて寂しい思いをしていることにも気付いていて、親が忙しくてできない分まで、未来のことを大切に可愛がってくれていた。
 下痢による体の苦しみと、それを周囲から疎外される心の苦しみ。――幼く脆い小学二年生の女の子にとっては到底耐えられそうにないような重い苦痛に日々曝されている未来が、それでも心折れることなく日常生活を続けていられるのは、おにいちゃんがいる家という安息の場所が存在してくれているおかげに他ならなかった。

(おにいちゃん。ことしはどんなチョコレートをあげようかな?)
 そしてそのまま未来は兄のことを考え始めた。
 兄のことを考えている時、そして実際に兄といっしょにいる時だけ、未来は幸せを感じることができる。
 未来は心も体も兄に依存していたのである。兄の存在が未来にとっての全てだった。彼がいないと生きていけないと言っても、過言ではなかった。
(えへへ。おにいちゃん……)
 チョコレートをあげる時の嬉しそうな兄の顔を想像する。
 それだけでも未来は幸せでたまらなかった。そしてさらにその後の幸せな時間にまで思いを馳せて微笑んだ。
 しかも今日は兄が学校の職員会議のためにいつもよりも早く帰ってくる。明日と共に、未来にとっては幸せな二日間となりそうであった。

 ……だが、その甘い空想は長くは続かなかった。
  グウゥゥ……
「ふぁ……」
 静かな腹痛。未来は顔をわずかに歪め、おなかにそっと手をあてた。
 便意を伴うものでこそなかったが、わずかに赤くなっていた未来の頬を青ざめさせるには十分なものだった。

「はあぁぁ……」
 そのわずかな腹痛が治まると、未来は体を小さく震わせてため息をついた。
 今日はなんだか体の調子がおかしい。

 ――とは言っても、おなかを壊していることではない。
 今日はすでに登校前に一回、学校でも三回、合わせて四回も腹痛に悶え苦しみながらドロドロの下痢便を排泄してきた未来であったが、常におなかが不安定な彼女にとって、これぐらいの下痢は普段よりは少しだけ症状が重いにせよ、目立った体の異常として認識されるものではなかった。
 未来の下痢が本当に酷い時はこんな程度では済まないのである。
 実際に未来は一週間ほど前に猛烈な下痢に襲われ、トイレから離れられず学校を休んでしまっていた。
 その時の苦痛と比べれば、まだ今日ぐらいの下痢はましであるとさえ思えてしまうのだ。

(やっぱり、ねつっぽい……)
 小さな手の平を額にあてる。――たぶん、いつもよりも熱い。
 未来が感じていた体の違和感は、昼休み頃から感じ始めた全身の発熱であった。
 加えて頭痛と倦怠感も五時間目頃から感じられ始め、いつしか喉も痛くなっていた。
 ――どうやら風邪をひいてしまったようである。

「ぅううっ」
 未来は白い息を吐き出しながら、小さな体をぶるぶると震わせた。
 赤いダッフルコートに薄ピンク色のマフラーと手袋。――全身を可愛らしい防寒具で包み込まれ、いかにも暖かそうな未来だったが、それなのに芯から冷やされるかのような寒気を全身に感じていた。
(あたまいたいよぉ……)
 少し前まで気にならないぐらいに穏やかだった頭痛が、いつの間にかはっきりとした不快感になっている。
 未来の風邪の症状は、時と共に重くなりつつあるようだった。

(やっぱり……インフルエンザになっちゃったのかなぁ……?)
 未来はふとそう思った。
 今、学校でインフルエンザが大流行しているのだ。
 未来のクラスでも今日は五人以上が欠席しており、高学年の方では学級閉鎖になりかけているクラスもあるらしい。

「やだなぁ……」
 未来は脅えたような表情を見せながら、ゆっくりとおなかをさすった。
 今年のインフルエンザは、発熱に加えて激しい下痢と吐き気を引き起こすそうである。
 ただでさえ胃腸が弱い未来。もしそんなものに感染してしまったらおなかがどれほど酷い状態になってしまうかは、想像するだけでも恐ろしかった。
 学校を休めるのは嬉しいことだが、一週間前のような苦しみはもうしばらく味わいたくない。

(だれかから、うつされちゃったのかなぁ……?)
 欠席とまではいかないものの、明らかに具合の悪そうな生徒を、未来は学校で何人も見てきた。
 トイレの様子もいつもとは違い、普段なら下痢便を排泄しているのは未来ぐらいのものなのに、インフルエンザが流行し始めてからは、他の娘が下痢をしている光景も珍しいものではなくなっていた。
 頻繁にトイレを利用する未来は、特にそういった現場に多く遭遇していた。
 トイレに駆け込んだ時にもう誰かが汚い音を立てていたり、自分が排泄している最中に誰かが隣の個室に荒々しく駆け込んできて間髪入れず爆音を響かせ始めたり、和式便器の周りの床が酷く汚れていることもあった。
 ――未来は気付いていないが、トイレの中は彼女たちに運ばれてきたウイルスによって汚染されてしまっていたのである。
 排泄とは別に咳やくしゃみを繰り返す娘も多く、未来自身はそのせいで移されてしまったのではないかと思っていた。

「くしゅんっ!」
 未来がそう思っている時に、小さなくしゃみが聞こえた。
 前を歩いている女の子の片方も風邪を引いていたようである。
「だいじょうぶ?」
「……うん。だいじょうぶだよ」
 しかしその声はさっきよりも少し弱々しくなっていた。この数分の間に急に発症してしまったのかもしれない。
 昼休みに未来の体に起こった変化もちょうどそんな感じで、教室にある絵本を読み始めた時はなんともなかったのに、読み終えた時には体が熱くなっていた。
「あやかちゃんおかおまっかだよ?」
「なんだか、かぜっぽいかも……」
 未来は心配そうに二人を見つめた。
 一年生には元気そうな娘が多いような気がしていたが、やはり流行しつつあるのかもしれない。

  キュグルルル……
「はぅっ……」
 そして、再び腹痛が未来の小さな体を襲った。
 確実にさっきよりも痛みが重い。胃と腸の全体が締め付けられるような、不気味な質感の痛みである。
(はやく帰ろっと……)
 この感触だと、もういつ便意をもよおしてしまうかも分からない。
 未来は経験からそう判断し、足を速め帰路を急ぎ始めた。


 ……それからわずかに五分ほどの後。
「はぁ……はぁっ……」
 未来は両手でおなかを抱え込みながら、内股中腰という情けない姿で足を前へ前へと進めていた。
  グギュルルルゥゥゥーーッ
「ふぅぅ……っ……」
(おなか、いたい……うんちしたい……)
 おなかから大きな音が鳴るたびに、足がふらついてしゃがみこみそうになる。
 未来は猛烈な便意と腹痛に襲われていた。予感の通り、家へと急ぎ始めてから一分も経たない内に、もよおしてしまったのである。

  ピーー……キュゥゥルルウゥゥ……
「はあぁぁぅ……」
 しかし、そのおなかの下る勢いの激しさは完全に予想外のものだった。
 もよおしてから五分足らずで、未来は早くも限界に差し掛かりつつあるのだ。
 熱く水っぽい質感が肛門の奥にはっきりと感じられる。もう直腸の中には相当量の下痢便が充填されているようだった。
「おなか、いたい、よぉ……」
 自分しか歩いていない道路の上で、誰に伝えるというわけでもなく、かすれた声で苦しみを訴える。
 すでに括約筋だけで抑えるのはつらい状態にまで便意が高まっていたが、それでも未来は痔の痛みが怖くて肛門を手で押さえ付けることができなかった。これも未来がうんちを漏らしやすいことの理由の一つである。

  ギュルキュルルルルルゥゥ……
「……はあー、はぁー……」
 真っ青な顔を苦しげに歪めながらふらふらと歩いている未来の小さな姿は、いかにも苦しそうで痛ましかった。
 実際、八歳の幼女にとって下痢を我慢するというのは大変な作業である。
 体がどんなに小さくか弱くとも、その苦しみは大人と何ら変わることがないのだ。
  グウウウゥゥ……ギュグゥゥゥウゥウゥ……ッ……
「うんち、したいよぉ……!」
 未来の瞳にはもう涙が浮かんでいた。頬を脂汗が伝わり、小さな歯がかちかちと擦れ合う。
 いたいけな幼女には過酷すぎるおなかの痛み。その苦しみから逃れる方法は、その根源である熱い下痢便をおしりの穴から体外に吐き出すことのみである。
 未来がしばしば我慢できずにうんちを漏らしてしまうのも、仕方の無いことなのかもしれない。

「……んぅぅ」
  ギュルルルルルルルルッ!
「っはぁぁぅう……っ!」
  ピブゥッ!
 おなかが鳴ると同時にさらに激しい便意が駆け下り、未来は我慢できず小さなおならを漏らした。
 不気味な暖かさが汗で湿った肛門を刺激し、酷く気持ちが悪い。こういう時に漏れ出すおならが未来は大嫌いだった。
  プスプス……ブシュッ
「んっ……ぅぅ……っ!」
 わずかにゆるんでしまった未来の肛門から、さらに連続して臭いおならが漏れ出た。
 たとえ大嫌いでも、もう未来には制御できなくなっていたのだ。今にも溢れ出そうとする下痢便の奔流をせき止めるだけで精一杯である。
 前の排泄の時に残便感のあるままトイレを後にしたのが良くなかったのか、それともやはりインフルエンザにやられてしまったのか。
 明らかにいつもとは異なる、凄まじいおなかの急降下であった。

  ……ゴロゴロゴロゴロゴロ……
(はやく、はやくおトイレ……)
 今にもゆるんでしまいそうな肛門を必死の思いで締め付けながら、小さな歩幅で早歩きを続ける。
 未来は、通学路の途中にある公園の公衆便所へと急いでいた。下校中に下痢に襲われてしまった場合は、いつもそこに駆け込んでいるのだ。おむつを外してからはいつも週に最低一回は使っている、未来愛用のトイレである。
 そして目的地である公園の入り口を、未来はもう視界に捕らえていた。ここからならあと一分もあれば着く。
 激しい便意ではあるものの、もよおした場所が公園に近かったことが幸いして、なんとかギリギリで間に合いそうだった。

 ――だが、この時の下痢はやはりいつもとは違った。
「あ、はぁ……はっ……」
  ギュルルルルゥゥーー
「……はぁぅぅ……」
(ぅぅぅ……はやくうんちしたい……)
 もう何度目かも分からない激しい差し込み。未来は足をふらつかせながら、おなかをなでさすった。
 今までと同じ、ある意味では安定した苦痛の、その直後――、

  グギュルグウウゥゥゥゥゥッッ!!
「っ!!?」
 これまでとは段違いの凄まじい腹痛と便意が、突如として未来の体を襲った。
「ぁ、は……ぅ……」
 瞬間、たまらず未来はかすれたうめき声を漏らしながら柔らかくしゃがみこんでしまった。
 おなかが焼けるような物凄い腹痛が全身に響きわたり、体中ががくがくと痙攣して脱力してゆく。
(どうし、て……きゅ、ぅに……?)
 あまりに突然の事態に未来はわけが分からず目を白黒させたが、そのおなかの状態はもう、苦しみで何も考えられなくなるほどに切迫していた。
 物凄い勢いで熱い痛みがおしりへと駆け下り、めりこむぐらいに強くおなかを抱え込んだ両腕に猛烈な腸の蠕動が伝わってくる。
 それまでにないような寒気がした。異常におなかが痛い。うんちを漏らす時の痛みだった。
  ゴロギュルギュルギュルギュルゥッ!!
「はうっ!!」
 次の瞬間、一気に肛門が盛り上がった。未来は必死におしりをすぼめようとしたが、脱力した括約筋はもう言うことを聞いてくれなかった。
(ぁあぁダメあ、ぁあっあ……!)
  ブシュブビビビッビビィッ……!!
 たまらず未来は肛門をゆるめ、それまでにない大きなおならを漏らし始めた。
 その肛門もガスを漏らしながら急速に力尽きてゆく。おしりの感覚が軟らかく溶けていった。
 頭が認識するよりも早く、未来の身体は限界を迎えてしまったのだ。もう、うんちを我慢できない。肛門が開き始める。
  ギュルゥッッ、ゴボポゴボキュルルグギュゥゥゥゥーーーッ!!!
(ダメっうんちでちゃうでちゃぅっぁあぁぁ、あ!!)
  ビュヂュジュヂュヂュジュジュッ!!
「……ぁあ……」
 やってしまった。肛門の周りに暖かく軟らかい感触が拡がってゆく。
 猛烈な下痢、あまりにも激しすぎた便意の最悪の帰結――惨めなおもらしの始まりである。

  ギュルギュルグゥゥウゥウゥゥ!!
「はぁあぁ、あ……」
  ブチュブチュビュチュッ!! ビジュッ!ブリュビュビチチチチッッ!!
  ブポッ!! グジュジュジュジュジュゥッ! グポビヂビヂビジュゴポッ!!

 そのまま未来はぶるぶると身体を震わせながら、次々と下着の中にドロドロの下痢便を排泄した。
 全開になった肛門を軟らかい質感が滑り抜けるたびにくぐもった汚らしい音が鳴り響き、おしりのまわりを直腸の中とおなじ暖かさの、泥のような不気味な質感がうごめく。
 同時におしりから立ち上り始めた強烈な悪臭はすぐに未来の鼻腔にまで達し、下半身の気持ち悪さやおなかの激痛と共に、耐え難い不快感となって未来の意識を蝕んだ。おもらしのたびに経験している、何よりも嫌いで恐ろしい感覚である。
 だが、一度開いてしまった肛門を再び締め付ける気力は、もう未来には残っていない。
 おもらしをする時はいつもそうであるように、全身が排泄という本能に支配されてしまっていた。

「はっ……ふぅうっ、ぅぅ……あぁぁ……っ……」
  ブッ!ブリリリリュッ!! ブジュブジュビヂュビィィッ!!
  グジュビジュビヂヂヂィィッ!! ビチブチュビチブリュリュリュゥッ!!
  ビュビビチビチチッ!! ブゥビブピビィビビビィィーービビッッ!

 口と鼻から熱い息を漏らしながら、未来は本能の赴くままに下痢便を垂れ流し続けた。
 静かな路上にくぐもった音が断続的に響きわたり、そのたびにスカートの中の下着の、そのおしりの周りの歪んだ盛り上がりが大きく醜く膨らんでゆく。
 未来の頭の中はもう白くなっていて、おもらしの自覚を伴う排泄の感覚と、それに伴う不快感しか感じることはできなかった。
 目は大きく見開かれて前方を直視していたが、その瞳に映っている風景は未来の脳へと伝達されていない。
 ただおなかが痛く、おしりが熱くて気持ち悪く、そして自分が出しているうんちが臭かった。

  ビュジュビュジュビュジュジュ……ブニュルルゥゥッ!!
  ……ビュルルッ! ビチッ……ゴポンッ!!……ゴポ……ブチュッ…………
「……はぁぁ、ぁ……」
 大きなゲル状の便塊を排泄したのがきっかけとなったのか、爆発的な排泄は突然として穏やかな終息を迎えた。
 肛門は依然として開きっぱなしだが、もうわずかな液体しか出ない。
 腹痛は相変わらず続いていたが、便意はほとんど消えていた。少なくとも直腸の中は空になったようである。

「やっ、ちゃっ……た……」
 そっとおしりに手をあてると、排泄されたばかりの軟らかい下痢便の感触がぐにゅりと伝わってくる。
 未来は瞳に涙を浮かべて小さな体を震わせた。幼いながらに自分が情けなかった。
 またトイレまで我慢できずにうんちを漏らしてしまった。また下痢に負けてしまった。
 月曜日の朝礼の最中に脱糞してしまってからわずかに二日、今週二度目のおもらしであった。

「……ひくっ……っふぅ、ぅう……うくっ」
 未来は悲痛そうに顔を歪め、そのまま幾度か小さくしゃくりあげた。
 体中にまとわり付く濃密な便臭。生暖かくてぬるぬると気持ち悪いおしり。下半身にかかる排泄物の重さ。
 幾度経験しても決して慣れることのできない惨めな全身の感覚が、未来の幼い神経を蝕む。
 ――おもらし。
 下着の中に脱糞をするという異常な行為。大切な自分の身体を、他ならぬ自分自身で穢してしまうあまりにも惨めな行為。
 そんな最低の行為を何度も繰り返してしまう情けない自分が、未来は嫌いだった。
 自分のおしりから出てきたうんちが臭くて汚らしくてたまらない。
 哀れな未来は、惨めさに耐えられず顔を覆い隠し、自ら汚した小さな体を震わせ続けた。


 ……だがいつまでもここでおもらしを嘆いているわけにもいかない。
 こんな所では誰かに自身の惨めな姿を人に見られてしまいかねないし、おもらしの後始末もしなければならない。
 すぐに未来は涙をぬぐうと、おしりの重みを気にしながらゆっくりと立ち上がった。
「あ――」
 ふと右を向いた未来の視界に、一面真っ白な空間が飛び込んできた。
 空き地であった。昨夜降り積もり地面に覆いかぶさった雪がそのまま残っていたのだ。
 居並ぶ住宅街の中に存在している、どこか神秘的な静かな世界。
 そんな存在感にも気が付かないほどに、未来の便意は切迫していたのだった。

 そして未来はなぜだか足を止めてその空間を見つめてしまった。
 その純白に惹かれ、そして傷付いたのだ。朝に穿いた時の下着の姿を、無意識に重ね合わせたのである。
 未来は一ヶ月間の間に、何度も真新しい純白の下着を身に着けては汚して捨て、そのたびに暗い自己嫌悪に苛まされている。
 今朝穿いた下着も、この日始めて袋から出した新品の下着であった。それが今では下痢便で茶色く染まりきり、もう二度と使えない惨めな姿となっている。パンツを殺してしまったと未来は思っているのだ。
 ――悲劇の起こる前の下着をその純白の中に見ることで、未来は小さな現実逃避を始めたのであった。

(……おトイレ……いかなくちゃ……)
 もちろん、そんなことをいつまでもしているわけにはいかない。
 早くトイレに行って臭く重い下着を捨て、汚れたおしりをペーパーで綺麗にしたい。
 何秒間か空き地を見つめたのち、未来は前を向いて再び公園の入り口を視界に捕らえた。
 しかし未来がまだかすかに震えている足を前に出そうとした時、

  ビュウウウゥゥゥゥ……

「……ぅぅぅっ」
 突然空気の震える音が響き、すぐに未来は体を小さくしてぶるぶると震えだした。
 右横――純白の広がる空き地から、冷たい風が未来の体に向かって吹き荒れ始めたのである。
 一面雪に覆われた空き地には障害が何も無いため、冷たい風が時々、容赦無く道路に向かって吹きすさぶのだ。

「ぁぅ、うぅ……っ……」
(さむい、よぉ……)
 髪の毛が舞い踊るほどに強く激しい風だった。マフラーの隙間から冷気が流れ込んで、肌までもが冷たくなってゆく。
 寒さが怖い未来は体を動かせず、ただ震えることしかできなかった。
 全身が凍りつきそうな中で、ぬるつくおしりだけが不気味に生暖かい。未来は全身を強張らせながら、肛門だけを穏やかに収縮させた。

「……ぅう、ぅ……」
 風はすぐに止んだが、未来はそのまま体を震わせ続けた。
 おなかが冷たい。嫌な悪寒が未来の全身を包み込み始めていた。
  ……クキュルルルゥゥゥーー……
「ふぅっ……!」
 次の瞬間、おなかの冷たい不快感は痛みと排泄感になって未来の意識を蝕み始めた。
 下着の中に脱糞してしまってから、わずかに数分。未来のおなかは再び、猛烈な下痢の症状を呈し始めたのである。
 全身の寒気と下半身の排泄衝動とが混ざり合って酷い不快感となり、未来は顔を歪めてその震えを大きくした。

  グキュウゥゥゥー……キュルルルルゥゥーー……
(やっぱり、おなか……ひやしちゃった……)
 そして未来はおなかをさすりながら、突然に便意が再発した理由を自分で理解していた。
 まさに凍えるような強風を受けておなかが冷やされてしまったことが原因だったのである。
 日常的に下っている未来のおなかだが、特に冷やされることに極めて弱かった。
 頭が冷たいと感じるほどの冷気に触れると、確実にいつもよりも激しい下痢を起こしてしまうのだ。
 そのために未来はこの日も全身を防寒具で包み、さらに腹巻を身に着けて下着も二重に着用していたのだが、それでも今のように冷える時は冷えてしまうのであった。未来のおなかはあまりにも敏感すぎるのである。

  ギュゴロゴロロギュルッッ!
「ふぅぅ、はぁ、ぁぁ……」
 あっというまに、水っぽい質感が肛門に押し寄せ始める。
 さっきあれだけの量を排泄したにも関わらず、容赦の無い激しい便意が未来の意識を満たしていた。
 一刻も早くトイレに行って苦しみの元を吐き出したくなる、下痢特有の切実な便意である。
(おトイレ……)
 未来はねじれるように痛むおなかを抱え込み、慌てて足を前へと踏み出した。
  ギュルルルル……ギュグウゥウウゥウゥゥウッ!!
「ぁっ、ぅぅ……!」
 しかしすぐに激しい差込が起こり、足が震えて止まってしまう。
 未来の体はまだ、おもらしに伴う脱力状態から完全に回復していなかった。足にも力が入らない。
 ただ大腸だけが活発に蠕動を繰り返していた。――もちろん、それは正常な活発さではない。
 すでに下痢便に包まれ暖かくゆるんでいる肛門と、汚れたおしりから立ち上る自身の便臭は、疲れた未来の意識から我慢する力を溶かし吸い取っていた。

  ビュルブヂュヂュヂチチヂチヂチッッ!!
 そして何秒かの後、未来のおしりからくぐもった音が響いた。
 再び未来は下着の中にうんちを漏らしてしまったのだ。
「んん……ふぅ、ん……っ……」
  ブリビヂヂヂヂブチュッ!! ビュリビュジュビヂュビュジュゥッ!
 だがそれは便意を我慢できずに始まってしまったおもらしではなかった。
 未来は自らの意思で肛門を開きおなかに力を入れ、下着の中に脱糞し始めたのである。
 すでに下着の中が救いようがないほどに汚れてしまっていることを認識した未来は、排泄欲求をその場で満たすことを選んでしまったのだ。
 もうここまで汚れてしまっているのだからと開き直ってしまったのである。おむつをつけていた頃の感覚だった。
 ――結局、たとえどんなにおもらしの感覚が嫌いであろうと、心身ともに疲れ果てている幼い未来に、この状態においてなお便意を我慢し続ける気力はもう残っていなかったのだ。

  ブジュグジュビジュブビィィィィッッ!! ブリブリッ……ブビリリリッ!
「ぅぅぅくっふぅぅ……うぅ……っ……!」
  ギュゴロゴロロロロォォッ!
  ビュジュビチチチチッ! ブリリリッ!ビチビチビチチチィッッ!

 静かな道路の片隅で、立ったままの姿勢の未来は、震える足をぎゅっと閉じながらおしりを後ろへと突き出した恥ずかしい格好で、幼稚で情けない排泄を続けた。
 静かな路上に下品な音が断続的に響きわたり、徐々に冷えつつあったおしりに、再び新鮮な暖かさが加えられてゆく。
 下着の中にうんちを意識的に排泄するという異常な行為。未来もその異常性を幼いながらに自覚し、数分前のおもらしの時よりもさらに熱い羞恥に心を悶えさせていた。あれほどに冷たくなっていた身体が再び熱くなってゆく。
 濃密な下痢便の臭いを嗅ぎながら、未来はその元をさらに次々と体外に産み出していった。

「すぅぅ……はぁ、ぁぁ……」
  ブビィィィ……ッ……ビチビチビチッ……ブチュッッ!
  ブボッッ! ビチビチブプゥッ!……ブリ……ブリビチジュグゴポッ……
  ビチビチッ……ブッ! ブリィッ! ブチュブチュブチュッ

 未来は頬を赤く染め目を細めながら、小さな身体を震わせてうんちを出し続けた。
 熱く軟らかい排泄の感覚が直腸の内壁から肛門へと伝わってゆくたびに、おしりが暖まり重くなってゆく。
 羞恥による戸惑いのためか、それともすでにかなりの量を下着の中に出してしまっているためか、今度の排泄は勢いが弱く、なかなか収束に至る気配が無い。
 しかしそれでいて腹痛と便意は相変わらず激しいままだった。どうやら未来の下痢は渋り腹の症状を呈し始めてきたようである。

  ……ビシュィイィ…………ビジュッ…… ブリプリプリゴブ……ッ……
  キュグゥゥゥゥーー……
「……はあ……はぁ……」
 そのまま一分ほどの間、その場でふんばりうんちを漏らし続けた未来だったが、やはりおなかの重い違和感は治まらなかった。
 かなりの量を出したおかげで腹痛と便意はだいぶ弱まってきたが、それでもまだおなかに力を入れればおしりからうんちが漏れ出す状態である。
(おトイレ、いこ……)
 もうこんな所にいたくない。――そう思った未来はこの場で全てを出すことを諦め、肛門をゆるませたまま、がに股でふらふらと公園に向かって歩き始めた。安全なトイレで思いのままに残りを出そうと考えたのである。どうせトイレには後始末のために行かなければならないのだ。
 未来が去った後も周囲の路上には不快な残り香が漂い、その臭いはしばらくの間消えることがなかった……。


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 下里公園は閑静な住宅街の中にひっそりと存在している、小さな公園である。
 スペースが狭い上に周りの建物のせいで日当たりが悪く、さらに数年前に近所に大きな公園ができたため、子供からの人気は悪く、利用者はほとんどと言って良いほどにいなかった。
 隅に設置されているトイレはいまだに男女共用で、内装も古臭く汚らしい。それもこの公園の人気の無さの一要因である。

 ――しかし、そのトイレは未来にとってはなくてはならない場所となっていた。
 下校中に突発的な下痢に襲われることが珍しく無い未来にとって、通学路の途中にあるそのトイレは、便意を開放できる場所として重要な役割を果たしてくれているのである。
 今回のように後始末のために訪れるということもしばしばあり、未来はもう何度このトイレのお世話になったかも分からないほどだった。

 そして未来は恥ずかしそうにうつむきながら、ゆっくりと公園の中をトイレに向かって歩いていた。
 一歩足を踏み出すごとにおしりと下着とが擦れ、肌に厚く塗りたくられた下痢便がぬるぬるとうごめく。
 汚れたおしりだけが暖かい一方で全身は酷く寒気がし、腰から下が不快感に包まれていることもあって未来は頭に重い痛みを感じ始めていた。
  ゴブッ!
「……んっ……」
 大きなおならが漏れる。未来の肛門は相変わらずゆるみっぱなしで、ここまで来る途中にも何度か、おならとも液状便とも分からない抵抗の少ない流体を下着の中に放っていた。完全に垂れ流しである。
 加えて下着の中の下痢便は絶え間なく濃密な悪臭を放ち続け、未来が脱糞してしまった路上からここまでの空気をすべからくその独特の臭いで汚染してきていた。
 その繊細な外見からは想像もできない下品で強烈な悪臭を、未来は今その身体から放っているのである。
 あまりにも多いおもらしの副産物に苦しまされながら、未来はこれ以上無いほどに惨めな思いでこの公園まで歩いてきたのだった。


「――っ!」
 すぐにトイレの入り口へと辿り着いた未来だったが、中に入ろうとした瞬間、驚いて立ち止まった。
 突然中から女の子がうつむきながら出てきたのである。
 髪が短く男の子のような服装をしているので一見すると女の子には見えなかったが、しかしその可愛らしい顔と背中の赤いランドセルは、間違いなくその娘の性別が未来と同じあることを示していた。黄色い帽子をかぶっているので、どうやら下校中の一年生のようだ。
 直後に相手の娘も未来の存在に気付いて顔を上げ、二人の幼女は目を丸くして互いを見詰め合ったが、それはわずかに一瞬であった。
 下痢便の詰まった下着を穿いている恥ずかしい状態の未来は羞恥を伴う驚きによって体を強張らせたが、目の前の幼女はそれ以上に驚いたようで、未来の姿に気付くなり全身を見て分かるほどにびくりとさせ、次の瞬間には再びうつむいて逃げるように駆け出してしまったのだ。

(……?)
 未来は呆気に取られてその後姿を目で追った。
 目が合う直前、なぜか彼女はまるで世界の終わりのように絶望しきった表情をしていた。その表情を見たのは一瞬だったが、それは未来の目に焼き着いてしまっていた。
 それに加えてげっそりと青ざめていたし、目じりにはわずかに涙も浮かんでいたような気がする。
 自分以外の誰かがあれほどに痛ましい表情をしているのを見るのは、もしかすると初めてかもしれない。
 ――いったい、彼女の身に何があったのか。未来には想像もつかなかった。

  ブッ! ブピピピッ!ピブッ!

「え……」
 釈然としないまま未来がトイレの中に入ると、下品な破裂音が聞こえてきた。一瞬遅れて下痢便の臭いが鼻腔へと流れ込む。
 すぐに未来は二つある個室の内の片方――左側の個室が使用中になっていることに気付いた。

「はぁ、はぁ……ふぅんっ……」
  ビジュブジュビジュッッ……ブリリリリッ!
 女の子の息み声である。どうやら下校中におなかを下し、家まで我慢できずにやってきたようだった。
 普段なら珍しいことだが、未来はここ一ヶ月の間に似たような光景に何度か遭遇しているので驚かなかった。
 インフルエンザが流行している上に、そうでなくてもこの寒さである。下校中におなかの具合が悪くなってしまう女の子が多く現れるのは、仕方の無いことだった。

「ふぅ、う……くっう……ふっっ!」
  ブリブリ……ブビッ! ブプウゥゥーー……
 できれば左側の個室を使いたかったが、この様子ではしばらくの間は空きそうにない。
 未来は下痢に苦しむ顔も見えない女の子に同情しながら、さらに左にある用具室に入ってトイレットペーパーを二つ手に取り、半開きになっていた右側の個室のドアをゆっくりと開けた。

「……ぁ……」
 直後に便器を見下ろすなり未来は驚き固まり、しかし同時にさっきからの疑問が氷解してゆくのを感じた。
 便器の中にドロドロとした粥状の下痢便がぶちまけられていたのである。状況からして、まず間違い無くさっきの娘が排泄したものだった。水を流すことなくトイレから出て行ってしまったのだ。
 そして未来はなぜあの娘がこのような非常識なことをしてしまったのか、理解することができていた。
 わざと水を流さなかったのではない。流せなかったのだ。
 右側の個室は水を流す機能が半分壊れているのか、十分間ほどにわたって断続的にレバーを倒し続けないと水が流れないのである。
 未来が半年前にやむをえずこちらの個室を使うことになってしまった時、偶然に発見したことだった。
 それまでは未来も右側の個室を避けていた。二年生になってすぐの時に水を流せずに半泣きで逃げ出してから、この個室は恐怖の対象となっていたのである。

 ――だから、未来にはさっきの娘の心の痛みがよく解った。
 実際にこういうことは時々あるのである。産み出した本人と遭遇するのは初めてだったが、便器の中に放置された大便を未来は何度も見てきた。この一ヶ月の間でも、すでにこれで三度目だった。
 ペーパーの補充や未来が捨てた下着の回収などはちゃんと定期的に行われているため、管理者は間違い無く存在しているようだったが、修理するのが面倒なのか、この不具合は全く解消される気配が無い。
 全力で走り去っていった彼女の絶望的な表情が、改めて鮮明に思い起こされる。
 未来は心から同情しながら悪臭漂う個室へと入り、静かに戸を閉め鍵を掛けた。

 そして個室の隅にペーパーを置いた未来は便器をまたいで立つと、便器の中のドロドロの下痢便を改めてまじまじと見つめ、そして口の中に溜まっていた唾をごくりと飲み込んだ。
 これからこの上に下着の中の下痢便を落とし、さらにその上に大腸の中の下痢便を排泄するのである。
 自分以外の誰かの排泄物が広がっている便器の上で肛門を開いて脱糞するという異常な行為。もちろん未来は今までに一度もそんなことを経験したことはないが、しかしそれをこれからしなければならないのである。未来は幼いながらにも、不気味な背徳感を感じずにはいられなかった。

 ただ、未来が暗く脅えた理由はそれだけではなかった。
 猛烈な悪臭を放ち続けている足元の惨状が、最初に受けた印象よりもだいぶ酷い状態だったのである。
 便器の中に広がっている下痢便は相当に激しくぶちまけられたようで、便器の側面はもちろん、その縁や周りの床までもが茶色く汚れてしまっていた。
 しかもそれに加えて彼女の下痢便は大量の未消化物を含んでおり、赤いニンジンや黒いひじき、さらに形のほとんど崩れていないキノコや野菜らしき緑色のかけらなど、様々な色が黄土色の中に混ざっている。
 ――明らかに単純な下痢便ではなく、病的な下痢便であった。便意と腹痛も相当激しかったに違い無い。
 さっきの娘は普通の下痢の状態よりもだいぶ酷くおなかを下してしまっていたようである。

 やっぱりインフルエンザかな、と未来は思った。
 この寒い中コートすら着ていなかったような、一目で健康的で活発だと分かる雰囲気を持っているあの女の子が、これほどに酷くおなかを壊してしまう理由は、未来にはそれぐらいしか思いつかなかった。
  ブピビチビチビチビチブリッ!
 隣で下痢に苦しんでいる女の子も、同じ様にインフルエンザのせいでおなかを壊しているのかもしれない。
 そうだとしたらまさにインフルエンザの大流行であった。
 未来は熱くなっている額に手をあてて自分の身を案じながら、脅えと寒気で幼い体を小刻みに震わせた。


 ……しかしこうしている間にも、未来の体調は悪化してゆく。
 頭の痛みは重くなってゆく一方であり、全身の力もどんどんと抜け落ちつつある。
  ゴロゴロゴロゴロォ……
  ブチュッ!! ブリビチブチュッ! ブリブピピピッ!
 早く家に帰って休みたい。――そう感じた未来は隣の個室から聞こえてくる下品な音にはもう気をとめず、すぐにランドセルを下ろし、小さな背をいっぱいに伸ばしてコートを扉に掛けた。
「……ぅぅうぅっ……」
 すぐに寒気で体が震え始めたが、それでもうんちを出してさらにおしりを綺麗にし終わるまでは、再びコートを着るわけにはいかない。
 もちろんできることなら着たままでいたいが、排泄や後始末の時に長い裾が厄介な存在となるのである。
 昨年コートを着始めた直後に、実際にその裾を下痢便だらけにしてしまうという惨めな経験を短い間に何度も繰り返してしまった未来は、もう個室の中で下に関わる動作を行う時には絶対にコートを着用しないようにしていた。

 コートの下に未来は、上には暖かそうなクリーム色のセーター、下には裾が長くサイドにファスナーが付いた濃紺色のフレアスカートを穿いていた。
 防寒性の面でスボンよりも劣るスカートを身に着けているのは後始末がしやすいからである。ズボンだと下着の中から下痢便がはみ出した時に面倒なことになるのだ。後始末の手間が二重にかかってしまうのである。
 そしてまた、特に未来の穿いているスカートは、おもらしした時のことを想定して着用されているものだった。
 下痢便の汁が下着から染み出してしまってもあまり目立たない上、ファスナーのおかげで簡単に脱げるので後始末が手早くできるのだ。
 意に反しておもらしを繰り返してしまう可哀想な未来のために、兄が見つけてくれたものだった。未来も気に入っていて、家には全く同じスカートが何着もある。

 未来はスカートを外すと、その後ろ側――おしりが当たっていた部分を見つめた。
 ……やはり中央に大きな丸いシミができている。下痢便の汁が染み込んでしまっているのだ。
 しゃがみ込みスカートと下着を密着させた状態で、水分を多く含んだ下痢便を大量に漏らしてしまったせいである。
 未来自身が見ることはできないが、スカートの中から表れた女児ショーツも肛門の周りが真っ茶色に染まってしまっている。
 重ね穿きされたショーツですらこれなのだから、その下で直におしりに触れているショーツ、さらにその中身は救いようの無いほどに酷い状態になってしまっていそうである。二度にわたる排便を受け止めた未来の下着は、いつになく重くなっていた。

「はぁっ……」
 未来は暗い表情でスカートも扉に掛けると、崩れ込むようにして便器の上にしゃがみこみ、苦しげにため息をついた。
 コートとスカートを脱いだせいで、冷気が容赦無く肌へとまとわり付いてくる。作業を続ける未来の体は全身の悪寒でぶるぶると震えていた。
 それに加えて頭は熱くてガンガンと痛く、さらに体がふらついて吐き気もする。――自覚するまでもなく、未来はもはや完全に発熱してしまっていた。やはりインフルエンザに感染していたのである。

「んぅぅくっ……ふぅ、ぅん……!」
  ブウッッ! ブリブリブリブリ!ブウゥゥゥーーッ!!
 隣からは相変わらず、苦しそうな息み声と下痢便の排泄音が断続的に聞こえてくる。どうやら未来と同様、おなかが渋っているようだ。
 ある意味において静かである意味において騒々しい、閑静な住宅街の中の小さなトイレに、三人の女児の便臭が混ざり合って充満していた。
 隣の個室でふんばっている女児のおしりから次々とその元が放たれてゆく下痢便の臭い、未来の足元の便器の中から立ち上っている下痢便の臭い、そして茶色く膨らんだ未来の下着から拡がっている下痢便の臭い。
 元となった食材はそれぞれに異なるものであったが、しかし乱れた消化器官を通り抜け肛門から吐き出された彼女たちの下痢便は、どれも同じ質感の独特な悪臭を放っている。
 ――おなかを壊した哀れな女児たちが望むことなく作り出した、あまりにも汚らしい悪臭の饗宴であった。


 そしてその猛烈な便臭が立ち込める個室の中に、未来は新しい悪臭を追加しようとしていた。
 茶色く膨らんだ下着を脱ぎ捨てて汚れたおしりを外気に晒し、さらにその中央の穴から腸の中に残っている汚物を吐き出さなければいけないのだ。
「……はぁ……はっ、はぁっ」
 荒れていた呼吸を無理矢理に抑え込んだ未来は、まず手袋を下着に着いた下痢便で汚してしまわないよう、両手共に脱いでランドセルの上に置き、続いてセーターをその下に重なっている洋服ごとたくし上げて腕で押さえ、さらに両膝をぴたりと合わせておしりを小さく後ろに突き出した。もうこれまでに何度繰り返したかも分からない、後始末の準備動作である。

 そして喉をごくりと鳴らした未来は、震える両手でショーツの裾を掴んでゆっくりと下ろし始めた。
 色白で肉付きの薄い、無垢で可愛らしいおしりが見え始めたが、それはわずかに一瞬で、すぐに黄土色の汚らしい下痢便が姿を表し始めた。
 同時にそれまでの厚布越しとは段違いに濃密な便臭が立ち上り始め、個室の空気がますます酷く汚染されてゆく。
 下痢便の臭いに慣れてしまっている未来は顔の歪みを強めるだけだったが、もし普通の少女が未来と同じ体調でこの臭いを嗅いでしまったら、もうその瞬間に嘔吐を始めてしまってもおかしくはない。――それほどに不快な臭いが、未来のいる狭い個室の中を満たし始めていた。

  ……ヌチャッ……ベチャベチベチョッ……
 さらに未来がショーツを下げると、その中に詰まっていた下痢便がぼたぼたと便器の中へ垂れ落ち始めた。
 便器の中にできている茶色い山の上に、それよりもさらに色の薄い下痢便が小山を造ってその裾を拡げてゆく。
 未来が排泄した下痢便も相当量の未消化物を含んでおり、やはり赤いニンジンや緑色の野菜のかけらなどが混ざっているほか、消化の良いはずのうどんの麺まで細切れの状態で下痢便とからまっていた。
 それに加えてピンク色のかまぼこのかけらなども見え、排泄物を見るだけで前夜の食事が想像できてしまうほどである。
 インフルエンザに感染してしまったせいか、未来の胃腸は普段よりもさらに消化能力が落ちているようであった。

  ボタボトボタタ……ボトッ、ベチャ……ッ……
「はぁ、ぁ……っ……」
 下着を下ろすにつれて下痢便にまみれた哀れな姿のおしりがゆっくりとむき出しになってゆく。
 赤く膨らんだ痛々しいありさまの肛門が、まるで何かに脅えるかのように、付着している下痢便を巻き込みながら敏感な収縮を続けている。
 そして尻たぶの所々にもニンジンのかけらが貼り付いていた。黄土色の下痢便が厚く塗りたくられている未来のおしりは強烈な悪臭を放ち、その下にある白く繊細な肌は完全に埋もれてしまっていた。
 しかしそれでも臭く蒸れた下着の中からおしりを外に出せることは気持ちの良いもので、未来は開放感に震えながら柔らかいため息を漏らした。
 全身を震わせている冷気さえ、生暖かい下痢便に包まれていたおしりには気持ちが良い。
 未来はぼんやりとしながらおしりを小さく振り、流れる冷気の感触を味わった。

  ブリ! ブリブリブリブリブリブリッ!!
  ブリビチヂチチチチ……ブピビチブピピブビィィ……ビジュッッ!
 そのまま未来はショーツを下ろし続けたが、再び隣から爆音が響いてきたので、未来の下痢便が便器の中に垂れ落ちてゆく小さな音はもう聞こえなかった。
 今までよりもだいぶ激しく痛ましい排泄音である。おなかが渋り止んで腸の奥の下痢便が一気に駆け下ってきたのかもしれない。
  ビィッ! ブプピッ! ブリブビブビブリプゥゥゥーーーッ!
「はぁー、はぁー、はあぁー……」
 かなり高くまで熱が上がってきた未来は息を荒げながら体を動かしていたが、隣から聞こえてくる呼吸はそれよりもさらに荒々しいものになっていた。
 隣の娘も、未来と同じかそれ以上に体の具合が悪いようである。
 どう考えても普通の下痢の症状を逸していて、やはりインフルエンザにやられているようだった。

 しかし未来にはもう同情などしている余裕が無い。
 うんちに包まれたおしりを除いて体中が寒く、さらに頭の痛みもますます酷くなっていた。
 体の震えもさらに大きくなり、心なしかおなかの違和感も大きくなってきたように感じられる。
「うぇっっ……」
 気持ちが悪くて吐き気がする。
 悪臭のせいではなく、単純に風邪のせいであった。未来はその事実を忘れてしまっていたが、これも今年のインフルエンザの症状の一つである。

「……ふぅ、んん……っ……」
 とにかく早く家に帰りたい。
 未来は尻たぶが完全に見えるほどまでにショーツを下ろすと、そのままゆっくりとおなかに力を入れ始めた。
  ギュルルルルルルルゥ……
  ブジュビジュビジュ、ブビチュゥゥーーーーッッ!!
  ビジュゥゥゥーー……ブジュッ! ブピピピブリビジュィィィイーーーッ!
 「はあぁあ、ぁぁあ……」

 すぐに肛門が開き、液状化した下痢便が細い水流となって汚れたおしりから便器の中の茶色い海へと注がれ始める。
 二度にわたる惨めなおもらしの後、ようやく未来は正常な形での排泄を行うことができたのだった。
 もう排泄の感覚と同時に身体が汚される屈辱を味わわなくて良いのである。今排泄している汚物はもう、おしりに付着しているものとは違って完全に未来の体から離れてゆくのだ。
 他人の下痢便の上に排泄を重ねるという異常な状況だったが、それでも未来は路上での脱糞と比較しての安心感を味わわずにはいられなかった。

「……ふぅ……っ……!」
  ビジュビジュジュィーーッ! ……ピチャチョポポポ……プピッッ
  ……ポチャチョポチョポチョポッ……プリ……プスッ…………
 そして元々穏やかだったその排泄はすぐに終わり、ゆるんだ肛門からは下痢便の残滴と腸液の混ざり合った汁がわずかに垂れるのみとなった。
 腹痛は相変わらず鈍く続いているが、便意は無い。
 路上で漏らしてから断続的に続いてきた未来の排便は、ここにきてようやく終焉の時を迎えたのである。直腸に溜まっていた下痢便を全て体外に絞り出すことができたのだ。

  ……クキュルゥゥ……
「はぁー……」
 未来はおなかをそっとさすりながら、小さくため息をついた。
 長く続いてきた便意から開放された未来のその行為は穏やかなものに見えたが、しかし実際の未来の心の中は安堵と脅えが半々であった。
 確かに排泄はもう終わったが、それによって引き起こされた惨事はまだ収拾がついていないのである。
 今なお震え続けている細く弱々しい両腿の間には汚れきったショーツが橋を架けて中の下痢便の重みで垂れ下がっているし、見る影もなく茶色の汚物にまみれた惨めなおしりは相変わらず猛烈な悪臭を放ち続けている。
 ――まだ、おもらしの後始末をしなければならないのだ。
 そしてそれはある意味で排泄それ自体よりもつらい作業であった。下着を脱ぎ捨てるだけならすぐに終わるが、下痢便まみれのおしりを元通りに綺麗にするのは肉体的にも精神的にも大変なことである。
 便器の中に放っていれば流して終わりのはずの汚物。しかしそれをトイレまで我慢できずに下着の中に出しおしりを汚してしまった未来は、自らの手でそれを全て拭き取らなければならない。
 もう今までに幾度その最中に泣き出してしまったかも分からない、あまりにも惨めで情けなく、そして汚らしい行いを、未来はこれからしなければならないのだ。


 とにかくおしりを拭かないと家に帰れない。
 未来は寒さと頭痛で小さく体を震わせながら再びため息をつくと、ペーパーを巻き取り床を拭き始めた。
 ショーツを脱ぐ際に靴や靴下を汚さないよう素足になる必要があるが、今のままでは便器の周りが汚すぎて素足を床に着けられないのだ。
 未来の肛門の真下とほぼ同じ場所を中心として、前の娘の下痢便がめちゃくちゃに飛び散っているのである。

 しかしそれ自体はたいした作業ではない。ペーパーの扱いに慣れている未来はあっというまに足の周りの床を綺麗にし、体に力を入れて立ち上がった。
 もう立っているだけでも重労働であるが、しゃがみながらではこれ以上ショーツをずらせないのだ。
 ショーツの中の汚れ具合を確認しながら慎重に下ろさないと足が下痢便まみれになってしまうことを、未来は経験から知っていた。

  ビチビチビチビチビチッッ!! ブリブリブリブリブウゥゥゥゥーーッ!!

 立ち上がった未来が壁に手をついてふらつきを抑えると、隣から再び爆音が響き始めた。
 未来は便意から開放されたが、隣の娘は相変わらずおなかが渋っているようである。
(だいじょうぶ、かな……?)
 今度の未来には少しだけ同情する余裕があった。
「く……っ……ふぅ、うぅぅ……」
  ブピピピピピッ! ブビチチュチュチブチビシャァァァァーーーッッ!!
  ブジュビヂュ!ビジュジュビチビリュッ!! ブリブリブリブリベチャッ!!
 とは言っても声などをかけるわけにはいかない。どう考えても大丈夫そうでない激しい音が聞こえてくる中、未来はさらに作業を続けた。
 靴、続いて靴下を脱いで足元から離れた場所に置き、綺麗にしておいた床の上に素足を乗せる。
 ショーツの中は予想通りに酷い汚れ具合だった。未消化物だらけの下痢便が何重にも塗りたくられ、まるで便器の中である。
 実際に未来はこのショーツをトイレ代わりにして大量の下痢便を排泄してしまったのだから、当然の結果だった。
 朝は真っ白で可愛らしかった新品の女児ショーツも、こうなってしまってはただの汚物である。もう捨てることしかできない。
 未来はいつものように深く心を痛め、悪臭を放つショーツにうんちを漏らしてしまったことを小さく謝った。
 そして未来はそのままゆっくりと、震える手で重いショーツを下ろし始めた。

 だが、そのショーツが膝下にまで下ろされた時。
  グウウウゥゥゥゥッ!!
「あっ、ぅう……っ!」
 未来のおなかに突然、物凄い激痛が走った。
 便意が再発したのである。ほんの数分前に落ち着いたはずの下痢がもうぶりかえしてきたのだ。
 あやうく足を折って崩れ込みそうになった未来は、とっさに両手でおなかを抱え込みながらも、現実を受け入れることができずに目を見開き口をぱくぱくとさせて震えた。
 あんなにいっぱいうんちしたはずなのに。――それなのにこれほどに凄まじい便意が、それも排泄し終わった直後に訪れるのは、普段ならまずありえないことだった。
 元々の胃腸の弱さと下痢を起こすインフルエンザの発症が重なった結果、未来は悲劇的な下痢に見舞われてしまったのである。
  グウゥゥーー、ゴロゴロゴロォッッ!!
「ぁぁぁやぁぁ……ぁ……」
 大腸が凄まじい勢いで蠕動を始め、空になっていた直腸が奥から洪水のように流れてくる熱い下痢便で一気に満たされてゆく。
 直腸の膨らみはそのまま肛門に伝わり、赤く腫れた未来の肛門は一瞬にして膨らみ高く盛り上がった。
 あっという間に凄まじい排泄欲求で意識を塗りつくされてしまった未来は、全身、殊に細くガラス細工のような両足をガクガクと痙攣させながら、脱力してゆっくりと膝を折り曲げていった。

  ゴロギュルギュルギュグゥゥーーーッ!!
「ふぅうぅっっ!」
  ビジュチャチャチャチャァァァァーーーッッッ!!!
 そしてその直後、ちょうど未来の体が中腰の姿勢になった瞬間、未来の肛門は抵抗無く押し開けられた。
 高く盛り上がった肛門から水鉄砲のような勢いで茶色い水流が噴出し、便器の後ろの床に叩きつけられその周りにドロドロの未消化物を撒き散らす。
 深刻な発熱によって全身の筋力が溶けつつある未来はもう、わずかな間も肛門を締めていることができなかったのだ。
 もよおすと同時に限界を迎えてしまうほどの括約筋の弱体化。未来のか弱い身体は、獰猛なインフルエンザに冒しつくされてしまっていた。
  ベチャビチャビチャブリッ!! ボトビジュジュビチブジュビィィィッッ!!
「や……!」
 さらに連続して肛門から下痢便が噴き飛び、未来は慌てて便器の上にしゃがみ込み股を開いた。
 脱いでいる最中にしゃがみ込んだためにショーツの中の下痢便が薄いふくらはぎにべちゃりと貼り付き、さらに中央でわだかまっているものが恥丘をかすめて便器の中へと垂れ落ちてゆく。

「ふぅぁぁっ……ぁ、はぁ……くぅ……」
  ベチャッ! ブリブビヂビヂビヂブシャァァーーーーッ!!
  グジュジュジュゥゥゥウゥ……ブピブチビチビチブチュチュゥゥッ!!

 未来はおなかを抱え込んで力無く体を震わせながら、下着の中のものよりもさらに液化が進んだ下痢便を次々と勢いよく排泄した。腸がぼこぼこと蠕動して中身を押し出してゆくのが分かる。
 全身が凍えるように寒い中で、ただおしりだけが生暖かく、そしてその中央の肛門は焼けるように熱くて痛い。
 未来は全身の悪寒と肛門のひりつきに悶え苦しみながら、その幼い体を震わせて痛ましい排泄を続けた。

「……ふぅ、ぅうぅぅっっ……」
  プウゥゥウゥーーッ!! ビチュブチュゥゥゥゥーーーッッ!
  ブチュゥゥッ! ジュイィィーーッッ! ブゥビビビブピブシュッ!!
  ブビチビチビチビジュッ!! ブリッ!!ブチュチュチュチュッ!
「はぁ、ぁあっ……!」
 赤く膨らんだ肛門がすぼまり盛り上がるたびに熱い濁流が噴出する。
 ドロドロの下痢便が便器の中にぶちまけられるたびにその中の下痢便を跳ね上げ、後方の床が茶色い飛沫で汚染されてゆく。
 肛門の振動による下品な排泄音に加えて下痢便と下痢便の汚らしい衝突音が響きわたり、未来のいる個室の中は隣からの音すら聞こえないほどに、騒々しい空間となっていた。
 個室内の悪臭も相変わらず凄まじく、その原因の全てが愛らしい女児たちの体から出たものだとは到底想像もつかない状態であった。

  ギュルゴロゴロゴロゴロゴロ!!
「……っくぅぅっ……!」
  ビチュッ! ビチビチブチュブビッ! ブビビピッ、ブォッ!
  チュビィィィィーッ!! ブジュジュヂュゥゥゥ……ブシューーッ!
 うんちが止まらない。
 下痢便の出る量と勢いは弱まり始めたにも関わらず、便意と腹痛は激しいままだった。
 突発的に再発した未来の下痢は、再び渋り腹の様相を呈し始めたのである。
 早くここから出たい未来にとってはこれ以上無く不幸なことであった。これではもう、いつここから出れるかも分からない。

(はやく……かえり……)
  グウウゥゥウゥゥゥーーッ!
「ふぅぅっ!」
  ジュビイイイィイィーーーーーッッ!!
 穏やかになったかと思うと、再び激化する肛門からの噴出。
 腸は相変わらず活発に蠕動を繰り返してその中身を直腸へと送り込む。そのうねりがおなかに伝わって焼けるように熱い痛みとなり未来の意識を蝕む。そしてその苦しみの根源である熱い下痢便は、外へと噴き出るたびに真っ赤に腫れ膨らんだ未来の肛門に火傷のような痛みを与える。
 ――下痢という苦しみが未来の幼い身体を容赦無く疲弊させていた。
「あぁぁぁ……」
  ビシュゥゥゥッ!! ブゥッ! グジュジュジュウゥゥーーーッ!!
 下痢、悪寒、頭痛、吐き気――八歳のか弱くいたいけな幼女にはあまりにも過酷な全身の苦痛。
 それでも未来は大腸の中を空にしない限り、それから逃れることはできない。
  ビュジュビジュビィィィィーーーッ!! ブリビチビチプゥゥゥゥーーッ!!
「ぅくぅぅ……うぅ、ふぅ……っ……」
 未来は寒さと痛さで全身をがくがくと痙攣させながら、うめき声を上げ始めた。
 できることなら泣きわめいてしまいたいが、そうしてしまうと惨めさがいっそう重なって苦痛が激化するだけであることを、未来は経験で知っているのである。今よりもさらに幼い幼稚園児だった頃は、しばしば排泄の最中に腹痛に耐え切れず泣き出してしまっていたのだ。
 そして未来はずっと目に大粒の涙を浮かべながらも歯をくいしばり必死で苦しみと闘ってきたが、もう声を漏らさずにいることはできなくなってしまったのだった。
 普通の娘ならとっくに泣き叫んでいてもおかしくない地獄の中、ここまで静かに耐えてきただけでも、未来は相当に我慢強かった。
 哀れな未来は、体を痛めつけられることに慣れてしまっているのである。

「ふぅぅ、ぁあ……ぁっうぅ……ぅふぅ……」
  ビチュビチュブチュッ! ジュブビリリリィィーーッッ!
  ブビピピピピ……ブビジュビイィイイイッ! ブボッ!!

 理性がどんなにそれを拒んでも、未来の本能は狂ったように下痢便を吐き出してゆく。
 おなかが痛くてたまらない。肛門が熱く痛く、直腸までもが痛かった。
 おなかの中がぼこぼことして苦しい。便意が収まらない。うんちが臭い。寒くて気持ちが悪い。他はもうよく分からない。
 とにかく下痢が止まらない。未来はうめき、涙を流しながら、痛ましすぎる排泄を続けた……。


 ……そしてそれから十分かそれ以上の後。
「はぁ……ぁぁ……は……っ……」
  ……ブジュッ、ブジュジュジュジュゥ……ビィッ!
 未来はまだ下痢便を排泄し続けていた。
 便器の中の色を完全に塗り替えてしまうほどの量を出してきたにも関わらず、まだ排泄欲求が収まらないのだ。
 さすがに便意も腹痛も弱まってはいたが、それでもおなかに力を入れるたびに色の薄い液状便が肛門から飛び出すのである。
  ブジュビジュ……ビジュヂィィ……ブシュッ
 力無く収縮を繰り返す肛門の周りに、小さな茶色い泡が浮かんでは弾ける。
 未来の腸の中にはもう、水分とガスしか残っていなかった。これまでの激しい排泄でおなかの中の未消化物を全て吐き出してしまったのだ。
 しかしその残りの異物を未来はなかなか全て排泄できないでいた。質量が小さく自然に噴出することはないので、今必死にやっているように、おなかに力を入れて少しずつ絞り出してゆくしかないのである。
 腸の中を空にしない限り、残便感からは開放されない。未来のおなかはまさに最悪の渋り具合であった。

  キュグルルルゥゥゥーーー
  ブピッ…………ブリビチッ! プブゥウッッ
「ぁ、ああ……はぁ、はぁ……あ」
 そして、未来の小さくか弱い体はすでに疲労の限界を迎えつつあった。
 体中が寒気でがくがくと震え、顔色も血が凍りついたかのように真っ青である。
 一方で全身の発熱は完全に微熱の域を超え、頭は叩きつけられるかのようにガンガンと痛く、吐き気も酷くなって口の中にはすっぱい胃液が逆流を始めていた。下痢には慣れているが、嘔吐は怖い。未来は精神的にも圧迫されながら排泄を続けていた。
  チュビィィーーッ……ブビジュゥゥ……
「はあー、はぁ、ぁあぁ……」
 何よりもとにかく寒くてたまらない。おしりに貼り付いている下痢便もすでに排泄されてから時間が経ったことで未来の体温から得た暖かさを失い、ただの冷たい汚物と化していた。
 疲れきった肛門だけは相変わらず猛烈に熱いが、その感覚ももはや痛みとしてしか感じられなくなりつつあった。
 もうどれぐらいの間下痢便を出し続けているのかも分からない。
 早くここから逃げ出したい。暖かい家で休みたい。――ただその思いだけに体を動かされながら、息も絶え絶えの未来は必死の思いで過酷な排泄を続けているのだった。

  ……ブッ、ブプビビビ……ブリビビッ
  ビチュチュゥッ! ブジュジュジュ……ッ……
 うめく体力も無くしてしまった哀れな未来がただ涙を浮かべながら排泄を続けている一方、隣からも相変わらず下痢便の排泄される下品な音が聞こえ続けていた。やはりおなかが渋り続けているようである。
 これまで響き続けてきた音が示している通りの量を排泄したようで、今聞こえてくる音は未来の肛門から放たれているものと同様に、ガスの破裂音が目立つものとなっていた。
 未来と隣の少女――二人の女児の下痢の症状はまるで互いの体が同調しているかのように、どこか似通っているところがあった。

「……うぇ……っ……」
 隣から聞こえてくる排泄音が途切れたちょうどその時、一息ついておなかを休めていた未来は小さなえずき声を上げた。
 吐き気がさらに強まってきたのである。喉の奥の違和感がせりあがってくるような不気味な感覚が、未来の中でより実体感を持ち始めていた。
「ぇえ……うっ、え……」
(……や……はきそう……)
 吐きそうだと頭が意識するにつれてますます吐き気は重くなってゆく。
 未来はおなかを抱え込んでいた右手を口に当て、何度も苦しげにえずいた。
「ぅうぐ、ぅう……」
 このままだと本当に吐いてしまうかもしれない。――そう未来が脅え震えた瞬間、

「おぅええええぇぇぇええぇっっ!!!」
  ボチャベシャビチャベチャビチャビチャッッ!!
(っ!!?)
 隣から突然に凄まじい音が聞こえ始めた。
 苦しげなうめき声と、液状の何かが高いところから落下する音。
 何の音かは考えるまでもなかった。隣の娘が嘔吐をしてしまったのである。
 同じインフルエンザに体を冒されている彼女もまた、未来と同様に吐き気と戦っていたのだ。そして未来よりも早く限界を迎えてしまったのである。

「うぇぇげぇっ!! ぐぷっ!げええぇぇぇっっ!!」
  ベチャベチャバシャッ!! ドボベチャビチャビチャァァッ!!
 さらに連続して醜い音が響きわたる。
 少女のものとは思えないほどに低い、あまりにも苦しげなえずき声と共に、便器の中に次々と吐瀉物が叩きつけられてゆく。
 口から溢れ出している汚物はおそらく今日の給食だろう。それが便器の中で肛門から排泄された下痢便に激突し、凄まじく大きな音を立てているのだ。
 ――隣の個室の光景を、未来は聞こえてくる音からありありと想像することができてしまった。
「げへっ、げほっ……うぅ、うええぇぇぇげええぇえぇっっ!!」
  ボタベチャドボビチャビチャァァァァッ!!
 下手をすれば直後のわが身であるが、しかし未来はただその凄まじく苦しげなうめき声に脅えることしかできなかった。
 あまりにも突然に始まった惨事に意識が完全に飲み込まれ、自身の吐き気すらも忘れてしまうほどであった。
 未来は目を大きく見開いて脅えながら、たまっていた酸味のある唾を飲み込み喉をごくりと鳴らした。

「おえええぇぇぇえぇぇっ!」
  ビチャベチャベブゥゥウウゥゥーーウゥーーッ!!
 嘔吐に夢中で肛門がゆるんだのか、今度は巨大な放屁の音までもが響いてきた。
 汚らしい音と音とが連続して異様なまでに下品な音の波となり、体を固めて脅えている未来の聴覚を荒く刺激する。
 隣では壮絶な嘔吐が展開されているようであった。未来は体を凍りつかせたまま、無意識に唇を噛み締めて聞こえてくる音に脅え続けた。

「ぁぁあ、はあぁっ……うえっぇぇえっ!」
 しかし次にえずき声が聞こえた時には、もう吐瀉物が落下する音は聞こえなかった。
 どうやら胃の中が空になったようである。昼食べた給食を全て便器の中へと戻してしまったのであろう。
「おぇぇげほっ! ぅええぅうぅ……げほっ!……はぁ、はあ……っ!!」
 さらにえずき声が続いたが、結果は同じであった。
 下と上から狂ったように中身を吐き出し続けた少女の消化器官の中にはもう、必要最低限の水分ぐらいしか残っていないのだろう。
 胃と食道がどんなに活発に中身を押し上げようとしても、すっぱい胃液ぐらいしか上ってこないのである。

「……はあ、ぁ…………ぁぁぁ、ぅ……ふ……っ」
 それから荒い呼吸が何秒間か続いた後、今度はすすり泣く哀れな声が聞こえ始めた。
 惨めさに耐え切れなかったのか、それとも体の苦痛が限界を迎えたのだろうか。未来には彼女が泣き始めた理由が分からなかったが、それでもその心の悲痛さは自身のことのように鮮明な形で理解することができてしまった。
「ぅぅうぅ……ぅぅ……うっ、ぅ……」
 壁を一枚だけ隔てた隣の個室から聞こえてくる悲痛なうめき声。
 おそらく未来と同じように真っ青な顔で、小さな体を小刻みに震わせながら、大粒の涙を流しながら泣いているのだろう。
 自身の体の中にあったもので満たされた便器の中を見つめ、下痢便の上にぶちまけられたドロドロの吐瀉物に脅えているのかもしれない。
「ふぅぅ……ふっ!ぅう……ひっぅぅっ……ぅぅう、ふ……っ……」
 声の感じからして、おそらく未来よりも上の学年の女の子であろう。
 未来と同じかそれ以上に激しかった下痢便の排泄音、滝のような勢いで響き聞こえてきた嘔吐の声と音、その最中に聞こえてきた下品すぎるおなら。全ての恥態の帰結としての泣き声。
 ――初めて触れる、自分以外の誰か、それも年上の女の子のあまりにも恥ずかしく惨めな姿。
 未来は重い泣き声を聴きながら、それまでに経験したことの無い、異様な質感の恐怖に胸が縛り付けられてゆくのを感じた。
 心も体も冷たく凍り付いてゆくような感じがして酷く恐ろしい。恐怖の原因をはっきりと認識できないことが、その脅えに拍車を掛けていた。

「……ああぅ、ぁあぁぅう……ひくぅっ!」
 止むことなく泣き声が聞こえ続けてくる。
 未来はただ小さく震えながら、その声を聴き続けることしかできなかった。
  グギュルルルゥゥッ!
「ぅくっ……」
 だが、ふいにおなかが激しく痛み、未来は体外をさまよっていたその意識を再び自身の体へと戻した。
 腹痛と同時に、わずかな間忘れていた便意が脳へと響く。
 脅えによる萎縮で未来が肛門をすぼまらせて便意を閉ざしていた間にも、意識と関係無く働く排泄本能によって直腸の中へと下痢便が流し込まれていたのである。
「ふぅ、んん……っ!」
  ブジュビヂュビヂイイィィィーーーーーーッ!!
  ブヂィィィ……ブリッ! ビィジュチュチュイイィィィィーーーーッッ!!
 未来はすぐさま肛門を開いて腸の中の下痢便を吐き出し始めた。
 予想以上に多くの量が下りてきていたようで、その排泄はかなり勢いが激しく、音も大きいものだった。
 ほとんど透明に等しい薄茶色の液体が膨らんだ肛門から次々と噴き出し、汚しつくされた便器の中へと注がれてゆく。
 そして未来は、この時になってついに残便感が溶け始めるのを感じた。

  ブジュジュゥゥゥーーッ!……ポチャチャチャ、ビシュゥゥーーッ!
  チャポッ……ビブピチュビィーーッ……ポチャ……ポチャチャッ…………
「……は、ぁ……あぁ……ぁ……」
 未来の肛門はそれから二回、三回、とすぼまり盛り上がって直腸の中の水便を押し出した後、まるで力尽きたかのようにその動きを止めた。
 同時に手の平に乗せた雪のように急速に溶け始めていた残便感が、意識できないほどに弱まり消えてゆく。
 予期さえしていなかった、突然にして穏やかな便意からの開放。遠い路上から未来の幼い心身を苦しめ続けてきた便意が、今度こそその終息の時を迎えたのである。
 未来は荒い呼吸を繰り返しながら、疲れ果てた瞳でぼんやりと自身の排泄物で茶色く満たされている便器の中を見つめた。

「ぅぅぅひくっ!っううぅぅ……っ……!」
 しかし、それから数秒の後、未来が爆音を響かせ始めるなり止まっていた隣からの泣き声が再び聞こえ始めると、未来ははっと目を見開き、突き上げられるかのように立ち上がった。

 もうここにいたくない。

 もうこんな寒くて恐ろしい空間にはいたくない。――未来は本能的にそう感じた。
 心身を便器へと縛り付けていた便意が収まったことで、未来はようやく自由に体を動かし考えることができるようになったのである。

 すぐに未来は足が汚れるのもかまわずに汚れたショーツを一気にずり下ろして脱ぎ捨てると、素早く靴下と靴を履き、そしてドアに掛けてあるスカートへと手を伸ばした。
 肛門はもちろん、路上で漏らした際におしり中に塗りつけられた下痢便さえまだ拭き取ってはいない。おしりが酷く汚れたままであるにも関わらず、未来はスカートを身に着け始めたのである。スカートの方もすでに未来の下痢便の汁を吸い込んで洗濯が必要なほどに汚れていたから、下痢便まみれのおしりが付着しても今さらどうということはなかった。
 未来は後始末を放棄したのだ。わざわざおしりを拭くためのトイレットパーパーを用具室から持ち込んだ上、ランドセルの中には替えの下着まで用意している未来だったが、もう後始末の長い時間をここで過ごしたくなかったのである。
 便意が完全に収まってくれているおかげで、下着を穿いていなくても家までは帰ることができそうだった。
 家に着きさえすれば、すぐに浴室へと直行して暖かいシャワーでおしりに貼り付いている下痢便を洗い流すことができる。
 吐き気は相変わらずだったが、未来はもうそれに関しては何も考えなかった。とにかく本能的にこの場にいたくなかった。

「ひくっ!ぅぅうっ、ぅう……ひっうううぅ……」
 少女の泣き声が未来の体を加速させる。
 未来はスカートのファスナーを上げると、すぐさまコートを身に着けてそのポケットに手袋を突っ込み、そしてランドセルを背負った。これでもう格好に関しては、今すぐに外へと出れる状態である。
 だが、未来はそこで足元を見下ろして体を止めてしまった。
 自身が作り出した惨状がまだ、そのまま便器の中に残っているのである。
 未来の痛々しい肛門から吐き出された大量の未消化物が便器の中に浮き、凄まじい悪臭を放ち続けているのだ。
 そしてその下痢便は当然流すべきものだが、しかしこの時の未来にその作業をする余裕は無かった。
 水を流すためには十分間ほどにわたったレバーを何度も倒し続けなければならないのである。
 もう一刻も早くここから逃げ出したくて後始末さえ放棄した未来に、そんな作業などできるはずもなかった。
 心がここに留まることを拒絶し続けているし、体の方も限界である。あと十分間もここにいたら疲れ果てて動けなくなってしまいそうな恐怖があった。

「……ぅぅうう……ぅくっ!ううっ……ぁぁあぁ……ひくっ!」
 泣き声は続く。
 みんな流さないから。前の女の子も流さなかったから。トイレが悪いんだから――
 未来は心の中で必死に言い訳を続けた。便器の傍に横たわっている無惨な姿の下着が、自分のことを見つめているような気がする。
 自身の排泄物を便器の中に残していくのは恥ずかしいことである。前の娘は泣きかけていたし、未来も今その心を締め付けられている。
 葛藤だった。心身の安全を取るか、人として、女の子としての尊厳を取るか。もちろん幼い未来にはまだ尊厳のような感覚は身についていなかったが、単純に恥ずかしいと感じることは明白な事実である。
「ひっううぅぅ……っ……ゃぁ……ぁあぁぁあ……」
 しかし、未来はついに便器から目を逸らすと、静かに鍵を外してしまった。
 自分が排泄した汚物を残してトイレを後にするという羞恥を、未来は自ら選んでしまったのである。
 結局、最初から答えは決まっていたのだ。心身の苦痛が羞恥を超えるほどに高まっている未来にはもう、なりふりをかまっていられるほどの余裕は無かったのである。
 隣に尊厳を失った少女が存在していることが未来の羞恥感覚をぼやけさせたのも事実であるが、やはり未来の体をこれほどまでにトイレの外へと駆り立てているのは純粋な脅えに他ならなかった。
 どんなに重い羞恥の痛みを味わってもいいから、ここから逃げ出したい。未来はもう、あまりにも限界だった。

 ……外には誰もいない。未来はドアを小さく開けてそれを確認するなり、早歩きで個室から逃げ出した。
 トイレの建物を出てすぐに早歩きを駆け足へと変える。未来は疲れ果てた体を必死に動作させながら、ひたすらトイレから離れ続けた。
「っあぁぁあぁあ……っ……!」
 便器の中で溢れ返っているドロドロの下痢便と、その傍に捨てられたやはり下痢便まみれの女児ショーツ。
 未来の恥態の全てがありのままに残されてしまった個室の中は、その遺物から生み出される猛烈な悪臭に満たされ、そして行為の止んだ静寂の中、ただ哀れな泣き声だけが止むことなく響き続けていた……。


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