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やだ……おなかいたい……
どうしよう……おなかがまんできない……
……うんちがしたい……
トイレ……、トイレにいきたい……!
クキュウウゥゥゥ〜〜……
「はぁーー……はぁー……」
グウッ!
「っ!」
プリプリプリ……ッ!
「っ……、ふぅぅ……」
――ある冬の白い日の午前。
とある都内区立小学校の体育館では、三年生の体育の授業が行われていた。
内容は、跳び箱とマット運動のグループ別練習。今は得意組グループの発表の時間で、クラスメートに囲まれた中央の器具を舞台に、五人ほどの生徒が次々と巧みな技を披露していた。
バンッ!
「わーっ!」
「すっげー!」
「かっこいいーー!」
普通の倍の段の跳び箱があっさりと飛び越されるたび、周囲から大きな歓声が上がる。
雪が降るほどの寒い日。体育館の中はひんやりと冷え込み、薄い体操着しか身に着けていない生徒たちはいかにも寒そうに身を縮ませていたが、演技が始まるなりそれを忘れ、今はその卓越した躍動に熱中しきっていた。
しかし、そんな中にあって、一人だけ輪から離れて青ざめ震えている少女の姿があった。
色白く小柄なおかっぱ髪の女の子。――岩崎真雪である。
演技などまるで見ていない。生徒たちの後方で固く体を丸め込み、険しい表情でおなかを何度もさすっていた。脂汗が頬を伝っている。その下腹からはゴロゴロと不気味な音が鳴り響き、そして周囲には不快なガスの臭いが漂っていた。
――おなかを冷やしてしまったのだ。
完全に下痢をしてしまっていた。それもかなり激しい。肌寒い体操着に着替え、腕を擦りながら体育館へと入って、それから十分も経たない内におなかの辺りに嫌な感じが広がりだして、それからすぐに強烈な便意と腹痛が生じた。――あれからもう二十分。苦と楽の波に何度も何度も腹と肛門を蹂躙され、苦は訪れるたびに耐え難くなり、今ではもう彼女の尻は限界の様相を呈し始めていた。
グゥウウゥゥゥ……ッ……キュルルウゥ……
「はぁーー……、はぁー……っ……」
大腸の中をドロドロの下痢便が流れ蠢く、醜く汚らしい音。そのうなりの周期がどんどんと短くなっている。――苦しい。おなかが痛い。トイレに行ってうんちがしたい。便意を解放したくてたまらない。
(どうしよう……もうガマン、できない……!)
下りきったおなか。腸が搾られるような腹痛。おしりの穴に水っぽい便圧が次々と押し寄せてくる。
治まってという必死の願いもむなしく、哀れな真雪はもう便所のことしか考えられなくなっていた。
……キュゥゥゥゥ……グピ〜〜……
「ぅっううぅぅっ……」
板張りの床は氷のように冷たく、冷気がおなかにまとわりついてくる。真雪の震えは、外からの寒気と内からの悪寒とが入り混じったものであった。冷えきったおなかの中身がビチビチに下っているのが自分でも分かる。――寒い。窓の外の雪が憎い。状況はまさに地獄だった。
(だめ……、うんちしたいぃ……! このままじゃ、ゲリ、もらしちゃう……)
これほど具合が酷いにも関わらずいまだに彼女がこうして震えているのは、どうしても恥ずかしくてトイレに行く勇気を出せないからであった。
授業中に大便をしに行くということにすごく抵抗があった。今までにもこういうことは何度かあったが、彼女は常に必死の思いで休み時間まで便意を我慢していた。その上で他学年用のトイレに駆け込み、何が何でもクラスメートから恥ずかしい事実を隠匿していた。これほど切羽詰った状況に追い込まれたのは、今回が初めてだった。
ギュルルルルルーッ!
「っ……っ!」
プッ、プス、プスス……
だが、授業終了まではあと十五分。――もはや、とてもではないが我慢できそうになかった。
獰猛な排泄欲求。もう本当にまずい。今すぐ尻をむき出して下痢を放ちたい。肛門はどんどんと脱力して緩み、真雪はもう五分ほど前から漏れ出すおならを抑え留めることができなくなっていた。止まらない屁。尻から漂う悪臭。彼女が他の生徒から距離を置いているのはこのためだ。
……プッ……ブピ……ッ……
荒れ狂う腸圧によって次々と便口から押し出される、熱く水っぽいおなら。その灼熱と皺を湿らせる汗が、疲弊した肛門の感覚をさらに軟らかく麻痺させてゆく。
「よーし。じゃあ、あとは自由時間だ。今のを見本にして各自がんばってみてくれ」
(…………っ)
気が付くと、発表の時間は終わっていた。
真雪ははっとして、鳴り続けるおなかを抱えておしりを上げた。
ブウゥゥッッ!
「っ――!」
と同時に、浮いた肛門から激しく屁が溢れ出し、今度は"実"まで噴出しそうになった。
大便座りの姿勢をとったせいだ。真雪は耐えられなくなり、ついに右手の指で肛門を押さえつけた。山のように大きく膨らみ盛り上がっているのが、指の感触ではっきりと分かった。
キュルルゴロコポコポグポ……ッ……!
(ぅぅぅぅぅ……もうダメ……!)
生徒たちが次々と自分の場所に戻り始める。わずかに遅れて立ち上がった真雪はそっと肛門から手を離すと、再び両手でおなかを抱え込み、内股中腰でふらふらと一番低い跳び箱へと向かった。実はなかば前を歩く先生の姿を追っていた。その異様な姿に、何人かの生徒が怪訝な眼差しを送っていた。
(……これがおわったらトイレ行かせてもらってうんちしよう……)
そして五人ほどからなる列の最後尾に並んですぐに、真雪はとうとう意を決した。
顔面蒼白で小さな体をぶるぶると震わせながら。……いよいよ我慢ができなかった。下痢。とにかく糞をしたい便意。気が狂いそうなほどに苦しみを解放したい。パンツをずり下ろしておしりを外にむき出したい。肛門が猛烈に便器を求めている。一刻も早く苦しみを便器に吐き出したい。もう脱糞したくてたまらない。このままここにいては、やがて便意に負けて漏らしてしまう。背に腹は代えられない。
ちょうど先生は跳び箱の向こう側に立ってくれていた。運が良かった。これなら、自分が飛び終えてすぐにこっそりと許可をもらうことができる。状況が最後の勇気を振り絞らせた。
グピィ〜ギュロロロロォォ〜
「はあーー、はぁー、……はぁー……!」
グウウグウウゥーーッ!
「ぐーー……!」
決意の直後に、真雪はうなり声を上げてその場にしゃがみ込んでしまった。
排泄を具体的に意識したのがまずかったのか、ここにきて下痢の苦しみが一段と激しくなったのだ。あまりの腹痛に、もう立っているのさえつらくなった。
「っふ……、ぅ」
大便座りだと逆効果なので、不発弾のようなおしりをそっと慎重に床の上に乗せる。ひくひくと収縮痙攣する肛門。その周りの濡れた空気は今にも水泥に埋まりそうだ。もう、少しでも気を抜いたらパンツの中に噴射してしまう。本当に漏らしそうな感覚。ぎりぎりの緊迫感。真雪はもはや全意識を肛門へと注いでいた。しかしその感覚は掌上の雪のように溶けてゆく。
(だめ……っ、はやく、はやく、はやく……っ!)
……プスプス……ピッ……、プリプリビピピ……ッ……
四人、三人、二人……。
暴れ狂う下痢腹を必死になだめさすり、駆け下ってゆく便意に悶絶しながら、真雪は涙目で耐え続けた。
もわもわする肛門。熱く湿ったガスが次々と粘膜を舐めて滑り出る。もう本当に限界だった。
おなかの潰れるような激痛。苦しい。下痢。ゲリうんちしたい。うんち。ゲリ。うんち。――もう、
(……もうダメがまんできない!)
ぐっ……!
結局、真雪は自分の番まで我慢できなかった。あと一人だが、もうそれさえも待っていられない。直接先生の所へ行くべく、再び立ち上がろうと尻を浮かせた。
が、それと同時に。激しい波がぐうっ、とおなかを襲った。
グキュルゥゥゥーッ!
「あっあっあっ……」
漏れる。もれる、もれる、もれる――!
グピッ!!
ムリュッ
「――っ!!」
ムリュムリュムリュ……
「、ぁああ……」
泥のような感触が尻の谷間に広がる。やってしまった。慌てておしりを押さえたが間に合わなかった。指先にぬるりと軟らい質量が伝わる。
ブピッ……!
(やっちゃった……すこしもらしちゃった……)
真雪は顔を真っ白にした。ついに我慢できず漏らしてしまった。直後に全肉体力で穴を締め付けなおしたので、量はわずかですんだ。しかし下着を汚してしまったのは事実だ。下痢を放ってしまった肛門。パンツがべっちゃりと貼り付いている。おしりがすごく熱い。
(はやくトイレ! せんせいに言わなくちゃ……っ!)
おしりを押さえたまま立ち上がる。足ががくがくと痙攣していた。いよいよ緊急事態だ。次に波が来たら確実に大爆発が起こるだろう。もう一刻の猶予もない。真雪は遠くにいる先生の姿を睨みつけた。
「まゆちゃん顔まっさおだよ。具合でも悪いの?」
「っ」
「すごい汗……どうしたの?」
だがその時いきなり横から声をかけられ、真雪ははっとして固まってしまった。飛び終わった少女たちだった。早くもここまで戻ってきたのだ。
「あ……あの……、だいじょうぶ、だから……」
慌ててその場で釈明する。今すぐにも走り出したいと言うのに、彼女は無視という行為を取れなかった。
おなかとおしりを押さえて震え続けながらも、必死に平静を装う。
「うっそだー。ちょっと普通じゃないよ」
ゴロゴロゴロゴロ……
「ほんとに……だいじょうぶだから……」
真雪はうつむいてしまった。苦しさに表情が歪む。目を合わせられない。
「……もしかして……おなかこわしちゃった?」
「あ……」
ブリュリュリュリュ……
(いや――っ!?)
直後、また勝手に肛門が開いてしまった。もう肛門が言うことを聞かない。
へっぴり腰でびくっと震える真雪。同時にぷうん、と下痢の臭いがした。数秒前に漏らした方のそれが鼻の高さまで立ち上ってきたのだ。即座にそれと分かる強烈な悪臭。
「ちょっとまゆちゃん、ほんとにだいじょうぶ?」
ブリッ! ブピピッ!!
「ぅぅぅぅ……っ」
「え? うそ……?」
最後の力を振り絞り肛門をきゅっと締め付ける。が、一瞬後に今度はおならにこじ開けられ、はっきりと聞こえる大きな音が出てしまった。酷い腹痛に、ついうめき声さえ上げてしまう。真雪は完全にパニックになった。漂う便臭。今の状況でこれを嗅がれたら――。
「まゆちゃん、ゲリ……」
「だいじょうぶだから!」
珍しく語気を強め、弾かれるように前へと歩き出す。
グキュルルル!!
(だめ、トイレ! もうだめ……トイレ、うんちもれる……!)
しかし遅い。内股で小刻みに二歩三歩と足を進める。背筋は逆にぴんと伸びていた。爪先立ちで踵が浮いている。あまりにも鈍足で、そして露骨な歩き方。
「まゆちゃん、トイレ行きなよ!」
友達はあっさりと後を追ってきた。手の届く後ろから声が聞こえる。
キュウウゥゥゥーッ!
同時に腸が搾られる感覚。悪寒がぶるっと全身に広がる。
(ダメぇ――!)
「なにしてるの? 前いないよ? 早く飛びなよ」
「――!!」
タッ!
さらに寄ってきた少女がそう言った瞬間、気付いた真雪は全力で前へと走り出した。自身を遠ざけるため。そして何よりも先生のもとに行くためだ。
(ぁあぁああぁ)
タタタタタタッ!
先生の姿だけを捉えながら、ほとんどわけもわからず足を前へと動かす。
完全に跳び箱のコース。疾走という行為を自然化するためだった。しかし実際は、なかば条件反射的にインプットされた運動を行っただけだった。
「っ!」
バンッ!
そしていきなり目の前に跳び箱。その瞬間まであることを忘れていた。真雪ははっとしてマットを蹴った。
飛び越せる――はずだった。
ドサッ!!
「あうっ!」
次の瞬間に真雪の身体が味わったのは激しい衝突の痛みだった。
跳び箱にまたがって尻肉を打ち付けてしまったのだ。腹痛のせいでちゃんと踏み込めていなかった。肛門が振動に殴られてじんと痺れ、さらに衝撃はおしりから頭まで貫くように響きわたった。
グキュルルゥゥゥッ
「え……あ……あぁ……」
一瞬飛んだ視界に、全開になった自分の股と挟み込まれた白い布が映る。同時に凄まじい腹痛が生じ、痛みに悶えていた真雪の肛門は一気に緩んだ。下半身が脱力する感覚。大股開きのせいで全く力が入らない。
ブリ、ブリリリ……!
(だ――!)
ギュルウゥッ!!
「はぅっ!」
ブリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュッ!!
「っぁぁぁぁぁ……!」
そしてさらに物凄い腹痛に腹をねじられた瞬間、真雪は目の前が真っ白になって猛烈に脱糞してしまった。
激しい開放感を伴う、これまでとは程度の違う物凄い勢いでの噴射。大量の軟便がパンツの中に吐き出され、ブルマがもこんもこんと派手に膨らみあがった。――ついに、本当にやってしまったのだ。
グルル……グウゥゥ〜……!
「や、あぁ……はぁぁ……ぁ……っ」
ブブブウゥゥッ!!
……ブリリリリリッ!! ブビッ! ブリュブプブチュチュビチッ!
ミュルブリュブリュブリュブリュブリュリュリュブポッッ!
もう取り返しが付かない。さらに巨大な便意が駆け下ってくると、真雪は無抵抗にその熱い苦しみを下着の中へと放ってしまった。激烈な腹痛。意識が溶けて肛門は少しも締まらなかった。しかし股の間がドロドロになっているのは自分で分かった。土石流が溢れるたびに肛門粘膜が灼熱に焼かれ、尻中に暖かいぬるつきが広がる。下痢便に股間を犯されている感覚。
ビュリュリュリュッ、ブジュウウゥーーーーッ……、ブピッ!
「あ、あぁ……、ぁ……」
(…………、うそ……、やっ、ちゃった……)
直後に全て出終わると、便意と腹痛が和らぎ真雪は理性を取り戻した。
同時に胸の潰れるような絶望感が心の中に広がる。今にも泣き出しそうな表情に顔が歪み、喉がくうん、と子犬のように鳴った。下痢にまみれた尻。泥に埋まった肛門。穴をひくつかせるたびに汚物の生暖かいぬるつきが蠢く。――うんちを漏らしてしまった。下痢で我慢できず。小学三年生にもなって。破り割かれるような屈辱と羞恥に少女の心が締め付けられる。わずかに遅れてむわっと強烈な悪臭が漂い始めた。……ものすごく、臭い。
(――どうしよう! もしみんなに気付かれたら…………どうしよう!)
そしてすぐにパニックになった。脅えで全身が強張り、胸がどくどくと鳴り始める。
下痢便おもらし。今は授業の真っ最中。真雪は女の子。ばれたら人生終了だ。
(トイレ行かないと……っ! みんなに気付かれる前に!)
おしりに手を伸ばしながら、いつしか天井に向かっていた視界を下ろし周りを見渡す。
幸いにして、まだ誰も気付いていなかった。ごくありふれた授業の光景が展開されている。先生は隣のグループに目をやっていた。
……みゅちゅぅ……っ……
(……いや……っ……!?)
しかし同時に下半身が悪夢のような状態になっていることに気付いた。
右の手のひら一面に、ぐにゅりとした泥の感触。ブルマはめちゃくちゃに膨らんでいた。おしりの中がすごいことになっている。膨大な量の下痢で、真雪の下着はまさにパンパンの状態だった。
(どうし、よう……っ! 先生に……でも……!)
これでは、動くことさえできそうにない。きっと先生のもとへ行く途中で誰かに見咎められる。そうでなくとも、先生には確実に恥ずかしい事実を知られる。
先生の姿をただひらすらに凝視し続けながら、針のような悪寒に震え、真雪は絶望に打ちひしがれた。ひくひくと肩が跳ね、目に涙が浮かび始める。どうすれば良いか分からない。このままこうしていることはもっと危険なのに。頭も体も動かない。
「はあ、はぁ、はぁ。はぁ……っ……!」
ぐちゅぶちゅぶちゅぅぅ
無限に加速する鼓動。真雪は心臓を吐きそうになりながら、慌てて隠すように両手で下痢尻を包み込んだ。
左手を双球の中央に当て、震える右の指先を股の底へと滑り込ませてゆく。大量にわだかまっていた未消化の泥粥が押し潰され、世にも汚らしい音を立てた。
「――っ!!」
そして次の瞬間。股の間をふっと見下ろした真雪は、さらに絶望的なことに気付いてしまった。
「あ……、ぁ」
胸が凍りつく。
……ブルマの裾から大量に黄土色が溢れ出し、股の間の白布の上に泥の小山ができていた。跳び箱まで下痢で汚してしまっていたのだ。それと同時に、ブルマの股間の生地が紺色から限り無く黒に近いこげ茶色に変色していること、そして自分の下半身から湯気が立ち上っていることにも気付く。
いよいよ救い様がない。あまりに悲惨な状況に、真雪はもう声さえ出せなかった。――だが、
「やだ……まゆちゃん……?」
後ろからさっきのクラスメートの声。彼女が真に凍りついたのは、この瞬間であった。
「う、わ……」
驚愕しきった、氷のような様相の声が続く。
真雪本人は見えないために気付いていなかったが、ブルマの後ろ一面も黒茶色に染まり、さらに茶色い下痢汁が布に染み込み始めていた。後ろからの光景も酷い状態になっているのだ。悪臭もさらに広がり、辺り一面が真雪の下痢便の臭いに包み込まれていた。
「やだ、このニオイ……」
さらに別の声が続く。さっき話した内のもう一人だ。真雪はもう、今すぐにも死にたかった。
「……うそ、はみだしてる……」
「っ!」
そして直後に、今度は後ろでなく前から声が聞こえた。その内容に、真雪はびくんと震えた。うつむいたまま固まっていた彼女がはっとして顔を上げると、少女はすぐ斜め前に移動していた。同時に目が合う。軽蔑しきった表情。真雪は即座に顔を下ろした。
「え……なに、なに」
「ほら、ゲリが……」
「うっそ……、なにあれ……」
友達はもう悪魔だった。真雪は何も言えずに震えていた。「誰にも言わないで」と言いたかった。けれど、そんな勇気は出せるはずもなかった。もう、息さえできなかった。
「おい、そこ、どうしたー?」
その時、遠くから先生の声が聞こえた。
わずかな静寂の後、
「せんせー、岩崎さんがウンチ漏らしましたー」
――それが、悲劇の始まりであった。
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「おい、岩崎がウンコ漏らしてるぞ!」
「うっわ、くせー!」
(やめて! 言わないでっ!)
「やだー……」
「マジで下痢漏らしてるぜあいつ」
「きったねー」
「くっさ〜」
(やめて、やめて、やめてっ! やめてえっ!!)
「やだ……くさい……!」
「おいおい見ろよ、ゲリベンがはみ出てるぜ」
「……うっそ……信じらんない……」
「あの膨らんでるの、全部ウンチ?」
「くさすぎー」
「いやあああっ!!!」
ガタッ!!
「……あ……」
跳び箱にまたがったまま、クラス中から止まない嘲笑を受ける真雪。
壮絶な後悔。ただうつむき震えながら、絶望に胸を潰され、恥辱で唇を噛み千切る。
だが気付くと、いきなり視界は薄暗い自分の部屋に変わっていた。そして静寂。
……夢だったのだ。
「はぁっ、はあっ、はあっ……っ……!」
安堵が心に響くが、しかし胸の痛みは少しも楽にならない。真雪は布団をのけて体を起こすと、それぞれの手で反対の肩をぎゅっと掴み、小さな体を荒く大きく震わせた。見開かれた瞳は恐怖に染まり、涙さえ浮かんでいた。――悪夢。人生最悪の瞬間の再生。全身に冷や汗が浮かび、下着が肌にじっとりと貼り付いていた。
(ゲリ……したから、だ……)
この悪夢を見たのはこれが初めてではなかった。
ちょうど一年前に実際にあった事件の記憶。おなかを冷やし、授業中に下痢を漏らしてしまったという消し去りたい最低の記憶。――その内容のせいか、真雪はおなかを下すたびに同じ悪夢を見ていた。今はまさに下痢の真っ最中だ。昨日は塾で授業中に二回もトイレに駆け込み、腹痛で堪らず早退したのちも部屋とトイレを往復した。間違いなくこのせいだ。
「……っ!」
そこまで思い至ると同時に、真雪ははっとして右手を肛門に当てた。
ぬるっ……
(っ……)
水っぽいぬるつきがべっちゃりと付着していた。穴にパンツが貼り付く。意識の覚醒と同時に感じた冷たく軟らかい違和感。真雪は寝糞をしてしまったのであった。
「やっちゃった……」
ため息をつきながら、おしりをかばうようにして慎重に体をベッドから下ろす真雪。
実は、これもまた初めてではなかった。この悪夢を見る時は、ほとんどいつもこうして下着を汚してしまうのである。ゆるゆるの便を腸内に泳がせながら見る悪夢。おそらく、一年前の自分がブルマの中に漏らすたびに、今の自分も微量の下痢を下着の中に放ってしまっているのだろう。
ファサ、ズズズズ……
真雪は静かに明かりをつけると、ガニ股の姿勢でゆっくりとパジャマのズボンを下ろし始めた。
膝下まで下ろして中を見てみると、内側の布に黄色いシミができていた。雪色の生地のせいではっきりと分かる。パンツから染み出したのだ。さらにズボンを脱いでおしりの周りを見てみると、やはり丸く水下痢色に染まっていた。はっとして布団を払いシーツを見ると、こちらにも小さな丸いシミ。――後始末はだいぶ大変そうだ。
「はぁっ……」
パンツを下ろす前に、いったんため息をつく。
親に知られたらという緊迫感は意外と弱かった。こういうことですら初めてではなかった。それどころか、実のところ両親は真雪の寝糞癖に理解があったからだ。――今までに後始末をしてもらったことが何回もあるのである。今回は幸いにして少量ですんだが、シーツの上に茶色い世界地図を描いてしまったこともある。その時は泣き震えながら母親に告白することになった。
そう考えると、今回の失敗などはむしろ可愛いものだった。が、それでもやはり女の子として耐え難く恥ずかしいのは事実で、できることなら親には知られたくない。それで真雪は自分で後始末をするつもりなのだ。
ガササ……ガサ……
そしてすぐにパンツを下ろし始める。水色のリボンがついた、可愛らしいデザインの女児ショーツ。しかし、その純白は惨めに汚されてしまっていた。肛門の当たる場所を中心に、ドロドロの水っぽい下痢便でぐちゃぐちゃになっていた。すぐに腐った卵のような臭いが立ち上り始める。
「はぁ、ぁ……」
げっそりとした険しい表情で、再び重くため息をつく。
予想よりも酷かった。これではもう洗っても綺麗にならないかもしれない。
……キュゥ〜グルルゥゥ〜〜……
「っふぅ……」
プウーーッ!
急に不気味な腹痛が生じ、真雪は下痢まみれの肛門から可愛らしい響きの屁を放ってしまった。
同時におなかを冷やしてしまっていることに気付き、左手でそっと暖めさすり始める。部屋は寒かった。時計は午前六時。冬の早朝。降雪の翌日とあり、空気は凍えるように寒かった。そうでなくとも、脳の覚醒と共に真雪の腹はしくしくと痛み始めていた。
……シュッ、シュッ、シュッ
カサカサカサ、カサ……
真雪はパンツを脱ぎ暖房のスイッチを入れると、静かにティッシュでおしりを拭い始めた。
ぬる、ぬるる……ぬちゅ……
まずは情けない肛門から。
紙を動かすたびに粘膜と指先の両方に汚物の湿ったぬるつきが感じられる。まさにぬるぬるに埋まっているといった感じであった。数回手を動かすだけで面が黄土色にまみれ、再びティッシュ箱へと手を伸ばす。
シュッ、シュッ、シュッ
カサ、カサカサカササ……
……ぬる……ぬるぬちゅ、ぬるぅ……
白い顔でおなかをさすりながら、ガニ股で肛門をひくつかせその汚れた穴を拭き続ける真雪。
静寂の部屋に、ティッシュペーパーの引き抜かれる音、それが数枚重ねて折り畳まれる音、そして水泥がぬめる湿り気のある音もかすかに響く。絶対に人には見せたくない、あまりにも恥ずかしく情けない少女の尻拭いの光景。
……そうしながら、彼女はあのおぞましい悪夢の続きを思い出し始めていた。
下痢おもらしの記憶。
あのおしりと肛門がドロドロの生暖かい汚物に埋まった時の異様な感覚は永久に忘れられない。
そして下半身中を包み込む異臭。その自分の排泄物の臭いをクラス中に嗅がれ、くさいくさいと嘲笑を受けながら、真雪はただうつむいて涙を流し震えていた。ぼやける視界には、股の間に溢れ出した黄土色のうんちの山。……下痢をもらしてしまったという自覚、取り返しのつかないことをしてしまったという死にも等しい後悔を味わった。
どうしてもっと早く、勇気を出してトイレに行かせてもらうことができなかったんだろう――。
今に至るまで、真雪はもう何十何百、何千回、あの体育の授業での愚かだった自分を後悔したか分からない。あの悲劇のせいで、真雪の人生は平凡な少女のそれから大きく外れてしまったのだった。
やがて先生に腕を引かれ、真雪は跳び箱から力なく崩れ降り、そして保健室へと連れていかれた。
自分のおしりが想像を絶して重くなっていたことが強く記憶に残っている。嘲笑の続く体育館からふらふらと外に出た時はまさに逃亡者の感情だった。途中の廊下で何度か足元に泥が落下した。
そして漏らした下痢便の後始末。保健医に指示され、真雪は震える手で膨らみきったブルマをパンツごと膝下にずり下ろした。と同時に、ベチベチと物凄い音を立てて大量の下痢便が床に落下した。真雪はぐちゃぐちゃに溶けた自分の大便を脅えきった瞳で見つめた。物凄い悪臭。まさに泥にしか見えない、ピーピーに下った未消化の下痢ウンチ。
それが手早く掃除されると、真雪は尻を突き出すように指示され、そして尻拭いが始まった。
下痢まみれの尻と肛門を人前に晒し、それを他人の手でいじくりまわされるという恥辱。数分の後、真雪は惨めさにとうとう耐えきれなくなり、大声で泣きわめいてしまった。――その最中、クラスメートが真雪の普段着を持って保健室にやってきた。真雪とはわりあい仲の良い女の子だった。しかし慰めの言葉はなく、まるで汚いものでも扱うかのように服をベッドの上に置くと、挨拶だけしてさっさと出て行ってしまった。真雪はその様に冷たい違和感を覚えた。
後始末が終わった真雪は学校のパンツと靴下に穿き替え、早退することになった。
家に帰ってからも下痢が続き、親の理解もあって、真雪は三日間学校を休んだ。
そして新しい朝。羞恥と脅えに震えながらも勇気を出して登校した真雪は、自分の机の前に至るなり凍りつくことになった。
机の上にはトイレットペーパーが置かれ、茶色いチョークででかでかと「ゲリベン」と書かれていた。
教室に入ったと同時に雰囲気が変わった理由がようやく分かった。――いじめの、始まりだった。
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いじめの記憶。
もしかすると、これこそが本当の悪夢なのかもしれない。
その日から、真雪はクラス中から嘲笑と疎外を受けるようになった。いきなり自分のあだ名が「ゲリ」になっていた。「まゆちゃん」と呼んでくれる人はもう誰もいなかった。それまで親しかった娘たちからは名字で呼ばれるようになり、そして完全に距離を置かれた。
真雪のことを積極的に「ゲリ」と呼んできたいじめの中心グループは、騒々しく活動的なタイプの、クラスに於いて最も権力と存在感を有している生徒たちであった。真雪からは最も離れた存在だった。特に激しく攻撃を仕掛けてきたのは、クラスで二番目に勉強ができる、委員長を務める女子だった。一番は真雪で、いくらかの能力差があった。
いじめの内容は広範かつ残酷に及んだ。
真雪の身体に触ると"下痢菌"が移ると吹聴され、彼女は周囲から物理的に隔離されるようになった。毎日のように下痢、ゲリ、ゲリ、と呼ばれ、ノートや教科書に下に関する落書きを山のようにされた。上履きを隠されたり、ブルマを便器の中に入れられたりもした。机の中に犬の糞が入っていたこともあった。
日を重ねるごとにいじめはエスカレートし、真雪はランドセルに傷を付けられ、さらに言葉に加えて肉体的暴力も受けるようになった。体のあちこちにあざができ、親と一緒におふろに入れなくなった。特におしりと肛門に執拗に蹴りを入れられ、真雪は尻肉を赤く腫らし、痔に苦しむようになった。
これらの暴力に対し真雪はただ涙目で脅え震えるだけで、少しも抵抗することができなかった。その小動物のような姿は行為者の嗜虐心をいっそう刺激した。
そしてまた誰も助けてはくれなかった。真雪が内心で救いを求めたかつての友人たちは、ただ遠くからいじめの光景を見つめていた。力ない少女たちは、真雪を助けることで自分まで攻撃の対象にされるのを恐れていたのだ。真雪自身も勇気がなくて親や先生に相談することができなかった。真雪は毎日のように自分の部屋で孤独に泣いた。
いじめが始まってから一ヶ月がすぎる頃には、真雪は明らかに顔色が悪くなり、食欲がなくなり、家での口数も減り、そして勉強が全く手につかなくなった。テストの点数は崩壊し、いじめを指導する少女がクラスで一位になった。
やがて真雪は毎日のように胃に痛みとむかつきを感じるようになった。食欲がないのに一定量を食べなければならない給食の時間がひどく苦痛になり、間もない内にそれを胃が拒絶するようになった。真雪は昼休みのたびに吐き気に襲われ、職員用トイレに無断で入り込んで食事を全て戻すようになった。
そしていじめ発生から二ヵ月後、ついに決定的な事件が起こった。
ある日の放課後、真雪はいじめグループから呼び出され、下剤を飲むように命令された。
ピンク色の小さな錠剤――コーラックという薬を十粒手渡され、それを今夜の零時ちょうどに全部飲めと言われた。真雪はその鮮やかな色を見て脅えた。下剤というものの効果がどれほどかは知らなかったが、何か嫌な予感がした。
しかし直後に「飲んだらいじめるのをやめてあげる」と言われると、一気にその感情を変えた。健気な表情で、「本当?」と何度も何度も訊ねた。五人ほどの少女たちは、互いに顔を合わせあってにやけながら、本当本当と答えた。その夜、真雪は零時ちょうどに下剤を全て服用した。
――翌日。真雪が時間通りに下剤を飲んだことを伝えると、いじめっ子の少女たちは相変わらずにやにやとしながら真雪のことを褒めてくれた。優しくされたのは初めてだった。「約束通りもういじめない」とも言われ、真雪はすごく嬉しくなった。
一時間目の最中、真雪は凄まじい下痢に襲われた。腸の握り潰されるような腹痛と共に雷鳴のような便意が駆け下り、即座に耐えられなくなって顔面蒼白でトイレに駆け込んだ。汗まみれの手でパンツを下ろし、肛門をむき出すと同時に物凄い音がして、水状の下痢便が激烈な勢いで便器の底に叩きつけられた。腹の中が真空になる感じがした。最初の数秒で便器と周りの床を汚物まみれにするほどの量を出したが、でたらめな便意と腹痛は全く治まらず、真雪はがくがくと痙攣しながら爆音を立てて股の間に水をぶちまけ続けた。
すぐに休み時間になると、真雪が篭っている個室の周りは急に人の気配に満たされた。それで真雪は脅えて肛門を締めたが、あっという間に我慢できなくなって再び大音響を立ててしまった。――その瞬間、外は大爆笑に包まれた。同時に悪臭と爆音への嘲笑と罵倒が始まった。女子トイレなのに男子まで多数入ってきていた。真雪はようやく騙されたと気付いたが、もうどうしようもなかった。そのまま泣きながら汚い音を鳴らし続けた。ようやく教室に戻れたのは、二時間目が始まってから二十分ほどの後だった。
もちろん、それだけで下剤による猛烈な下痢が治まることはなかった。真雪はその後も授業中休み時間問わず、腹を大きくうならせ脂汗を流しながらトイレに立ち、完全に水になった腸の中身をビービーと噴射する羽目になった。
休み時間のたびに個室を囲まれ大笑いされ、真雪は今日家に帰ったら死のうと思った。
あまりの苦しさに何度か気を失いそうになったが、凄まじい腹痛と心をかき乱す羞恥心に意識を強制的に覚醒され、それにさえも至れなかった。
そして、四時間目が終わり給食の時間。すでに十回以上トイレに駆け込んでいた真雪はもうふらふらで、その様相は完全に病人のそれであった。先生にも腹具合が尋常でないことを認識され、昼休みになったら保健室で休むように指示されていた。
やがて、いつも通りの給食の光景が始まった。真雪はかけらも食欲がなくて、牛乳だけ飲むと、あとはもう箸にさえ手をつけることができなかった。――その直後に悪夢は起こった。真雪は再び猛烈な便意に襲われた。トイレに行かせてもらおうと思った。が、一瞬遅れて腸を貫いた腹痛があまりにも酷く、彼女は声さえ出すことができなかった。
一分ほどの間、うつむきおなかを抱えて静かに悶絶した。腹が痛すぎて呼吸さえできなかった。ようやく先生が異常に気付き立ち上がった。だがその瞬間、真雪は激しく屁を響かせながら、パンツの中に下痢の洪水を噴射してしまった。液化しきった便は一瞬で着衣を通り抜け、彼女の足元には大きな水溜りができた。完全な水。色もごく薄い黄土色で、それはまるでおしっこを漏らしたかのような光景であった。ただ生々しい硫黄の臭いは明らかに大便のそれで、立ち上る異臭はあっという間に教室を満たし、平和な給食の時間は大パニックに陥った。
その後のことは不思議と記憶していない。気が付いたら家のベッドに横たわっていた。
悪夢のような下痢はその後も続き、真雪は衰弱してベッドから起き上がるのさえつらくなり、以後一週間寝込んだ。
その間、親に何度も病院に連れて行かれそうになったが、そのたびにおなかを冷やしただけと泣き叫んで強情に断った。診療によって下剤を飲んだことがばれるのを――いじめの事実が発覚するのを怖れたのだ。
そして。再び学校に戻ることになった日の朝。
もう二度と行きたくないと嘆き悲しみつつも、親を心配させるのが嫌でいつも通りに登校の準備をした真雪。今朝の訪れが怖くて前夜はほとんど一睡もできず静かに泣き明かした真雪。
玄関で靴を履いている最中、彼女はいきなり物凄い腹痛に襲われて動けなくなった。下痢の腹痛とは違うものだった。それよりもさらに酷く激しい痛み。おなかを抱えながら涙を流して痙攣を続け、すぐに救急車で病院に運ばれた。
……真雪は、胃潰瘍を起こしていた。ストレスで胃に穴が空きかけていた。
即座に入院することになった。同時に腸が荒れているのも指摘され、その原因が下剤の過剰摂取だと判明するやいなや、真雪はもう事実を隠せなくなった。ストレスの原因がいじめだと、ついに親に知られることになったのだ。真雪は泣き震えながら苦しみのたけを全て告白した。入院中に、隠して使っていたボロボロの教科書やノートも発見された。
やがて退院した真雪だったが、彼女はもう学校には行けなかった。
親も行けとは言わなかった。そして引き篭もり生活が始まった。
その間のことは、もうあまりよく覚えていない。思い出したくもない。
親が何度も学校に行ったり、先生が何度も家に来たり、あれこれと変に優しく励まされたり、精神科に連れて行かれそうになったり、――何もかもが嫌だった。真雪は自分の部屋に篭って世界に脅え続けた。苦しかった。引き篭もり中、真雪は毎晩のように夜泣きをし、おねしょを繰り返した。
――今こうして普通の小学生に戻れているのは、親が引っ越しを決意してくれたからであった。
「う……ぅぅぅう……ぅぅう……」
いつしか真雪は泣いていた。
思い出すだけで悔しくて情けなくて涙が出てくる。
愛らしい頬が紅く染まり、大粒の涙がとめどなく流れ落ちる。
「ひっ! ……ひくっ!」
左手で涙を拭いながら、小さく細い肩を小刻みに震わせる。
雪色のパジャマに包まれた、柔らかく愛らしい天使のような少女の肉体。
しかしこの未熟でいたいけな身体に、あのおぞましい悪夢が焼き付けられているのだ。
キュウッ
「っ」
クゥゥグキュルルキュルゥゥ〜〜
「は、ぅ……っ……!」
そしてまた――可哀想に、真雪は再び下痢をもよおしてしまった。
おなかの中に広がる嫌な感覚。たまらず苦しげに顔を歪め、腹を抱え込み腰を曲げる。
大便を出したいという猛烈な欲求。下半身を脱力させる重く激しい腹痛。あの時や昨日と同じ下痢の苦しみ。
(もうやだ……あれだけゲリ止め飲んだのにどうして…………!)
唇を固め背筋をぴくぴくと強張らせながら、すぐに肛門からティッシュを離し床に置く。
震える手。板張りの床には紙屑の小山。ようやく寝糞の後始末が終わりかけていたというのに。これからまた肛門をドロドロに汚してしまう……。
思い嘆きながら、慌てて真雪はパジャマのズボンに足を差し込みずり上げた。
その間にもゆるゆるの下り腹がぐうぐうと蠢き、茶色い腹痛でおしりの穴が開きそうになる。
ブビッ!
(だめ、トイレっ……!)
ぐっと肛門を締めると、真雪は一階のトイレに向かって部屋を飛び出した。
キュルキュルキュルキュル
(トイレっトイレっ、トイレっ!)
おなかを抱えながら内股中腰でふらふらと、しかし素早く足を前に運んでいった。
おしりの穴に振動をかけないように、薄暗い階段を一歩一歩慎重に下りてゆく。
そして便意に尻を突き出し、目の前にあるトイレへと飛び込んだ。
バタ! ガチャッ!
グウゥゥーーーッ!
「は、っああぁぁぁ……!」
ガサガサズズズズッ!
狭く寒い和式のトイレ。入ると同時に激しい便意が腹を下り、真雪は慌てて便器にまたがりズボンを下ろした。
真っ白な尻が冷えつくのを感じながら、腰を下ろし便器の底に膨らんだ肛門を向ける。――その瞬間、
(でるっ!)
ブピッ! ブリブリビチビチビチュビヂビヂビチビチッ!!
「ううぅぅぅんっ……!」
ブリブリブリブボッ!!!
ブブブゥゥブウッ!! ……ブリィッ! ブピッブビピピピッブチュッ!
桜色の肛門が火山のように盛り上がり、土石流のような勢いで水泥状の下痢便が撃ち出された。
まるで爆発のような物凄い噴射音が響きわたる。猛烈な便射によって肛門粘膜が暴力的に振動される音。
白い陶器にぶちまけられた少女の下痢粥は底一面に飛び散り、便器から溢れ出して周りの床にも付着した。
グギュルゥゥゥ〜〜!
「んはっ……っ!」
ブヂュブヂュブチビチッビチッ、ブジュウウゥゥーーーーッ!!!
赤くなった尻穴からさらに次々と黄土色が飛び出し、下痢まみれの便器を隙間なくウンチ色に塗ってゆく。
下痢滝がぶちまけられるたびに汚物が派手に跳ね返り、便器上で震える雪のようなおしりやずり下げられたズボンの裾を汚してゆく。
「ぅんっ……、ぅ、うぅぅぅ……っ!」
……ブヒッッ!! ブボッ!! ブチュビチチチブウッ! ブポッッ!!
熱い腹痛が肛門を貫くたびに股の間で汚い音が弾け、尻肌に悪寒がぴたぴたと付着する。
真雪は自身の下痢の激しさにびくびくと震えながら乱れきった排泄を続けた。
昨日下痢をしすぎたせいか、粘膜が焼けるように痛い。
キュグルルルルル……
(おなかいたい、苦しいよお……!)
ブリリブリブヂュビヂ……ブビッッ!!
「……はー、はあーー……! はぁ……っ……!」
……プビッ……ブッビビビ……、ブチュブチュブチュブチュ……!
尻から体力を吐き果たしのか、真雪の呼吸は大きく荒れ始めた。
がくがくと震える膝。ぶるぶると揺れる脂汗まみれの尻。もう下半身に全く力が入らない。
そして寒い。息が真っ白だ。内臓を食い破られるような内からの悪寒と、零度近いトイレの空気への震え。真雪の身体はその幼い拒絶を痛ましい域へと悪化させていった。
「っ……うえっ、……ぅ、っぅぅ……はぁ、はぁ……っ……」
ブチュブチュッ……ブチュ……ッ……ブピッ……
さらに股の間から立ち上りだした悪臭が追い討ちをかける。
やはり下痢特有の、硫黄や腐った卵を連想させる、どこまでも不快な質感の異臭。
下痢で胃腸の具合を乱している彼女には、吐き気さえもよおさせてしまう、おぞましい臭いだ。
ゴロコポコポゴポ……ッ!
「……っ!!」
ブウーーーーーー!!
そのまま今度はおならが勝手に噴出した。あまりの音の大きさに、真雪はびくんと震えた。
ブッ! ブボッ!! ブブブブウゥゥ!! ブビッピピピッブビッッ!
さらに下品で逞しい音と共に灼熱の屁が連発された。
音に激しい羞恥を感じながらも、真雪は自分の肛門を全く制御できなかった。いきり立った腹圧。止まらない。普通の放屁とはまるで威力が違う。まさに下痢の放屁だった。
……ブピ……ッ…………、
「はっ……はっ…………はっ、……はっ……」
数秒後にようやくそれが治まった時、真雪は疲れきり廃人のような顔をしていた。
「は……っ、はっ…………、っ――!」
そして肩を震わせながら、ぶるぶると震え続けている自身の股の間を覗き込む。
……酷かった。
汗まみれの股の間にはミートソースのような下痢便がどっさりと広がり、強烈な悪臭を放ち続けていた。
便器の側面もめちゃくちゃに汚れ、縁や周りの床も汚し、そして不気味な湯気がもわもわと立ち上っている。
自分が作ったと思いたくない。真雪はすぐに目をつぶり顔を逸らした。
「……は、ぁ…………」
真雪は力なく目を細め、なお痛み続けるおなかをゆっくりとした手の動きでぐるぐるとさすった。
繊細な腕、繊細な胴、繊細な脚。透けるように白い肌と、穏やかに揺れるおかっぱの髪。
しかしそのおしりの下には、膨大な量のピーピー状の下痢汚物。丸みある愛らしいおしりとのギャップが物凄い。
……小さく幼い小学四年生の女の子の下痢の光景は、かくも痛々しいものであった。
(さむい……はやくおしりふいて……はやくでなきゃ……)
しかし、いつまでも放心しているわけにはいかない。
このままでは深刻におなかを冷やしてしまうからだ。並外れておなかを冷やしやすい真雪。一年前の悪夢も、昨日から続いている下痢も、全て原因はこの体質のせいだ。
いま彼女は冷え切った個室の空気に、むき出しの下半身を晒している。パジャマの上着を押し当て、左手で暖め続けているが、この程度の温もりはやがて完全に冷気に飲み込まれてしまうだろう。今でさえ、そうなりかけているのだ。
ガラガラガラガラガラッ
真雪はすぐにトイレットパーパーへと手を伸ばした。
――が、それから数分後、ようやく肛門を綺麗にし終わり、便器の周りの汚物も拭き、そしてズボンを上げ、水洗レバーに手を伸ばそうとしたとき。
……グキュルルルルッ……
「っ!?」
グルルキュグルゥウーー!
(う、うそ……)
真雪はいきなり体をぴくんと震わせて表情を歪ませた。――再び激しい下痢便意に襲われたのだ。
腸のねじれるような腹痛と共に、はっきり液状だと分かる便圧が肛門へと駆け下ってきた。
(いや、おなかいたい……! どうして……!?)
脂汗が噴き出る感覚。たまらずおなかを抱え込み、悶絶しながら今すぐ泣きそうな顔で困惑する。
必死の思いで暖め守りながらおしりを拭いたというのに……。冷えてしまった。自分のおなかに裏切られた。
グーーーッ!!
「ううぅぅぅ……っ!」
ガサッズズズズズッ!
次の瞬間には、もう今すぐに肛門を開かせる強さの便意。
嘆くことさえ許されない。真雪はうめき声を上げながら便器にまたがりなおし、再びズボンを下げて尻を外気にむき出した。同時に素早くしゃがみ込む――、
ブバッッ!!!
「っ!!」
が、その最中にいきなり肛門が開き、真雪は中腰で便器の後方に下痢便を噴射してしまった。
丁寧に拭いた床に茶色い飛沫が撒き散らされる。
ブリュブリュブチュブチュブチュッ!!
ブビビビッ! ブチュチュブピボビビブピブリリブリッ!
そして震える双球が便器の上に至ると同時に、熱く盛り上がった肛門から黄土色のお粥がドバドバと吐き出された。
うず高く積み上げられていた紙の山が液便に溶かされ、下痢色に変色して潰れてゆく。
下劣な音と臭い。愛らしいつるつるのおしりは嵐のように暴れ狂っていた。
(おなかいたいぃっ、ぃぃ……!)
ビチッビチビチビチチッ! ……ピブッ! ブビビビチッッ!!
(もうおなかやだ……、やだ……やだぁ……)
……ブフォッ!
「うっ、ふうぅっぅぅっうっ……」
……止まらない。勝手に肛門をこじ開けて下痢と屁が出てくる。
必死におしりの穴を締めようとしているのに。健気にその終息を願い続けているのに――。
真雪は腹の痛みと悔しさに耐え切れず、静かに嗚咽を上げ始めた。
ブッブブブオッ! ……ブビッ……ブチュボッ! ……ブリュッ……!
「ぅうっ……、あっあっ、……あっ……ぁぁ……」
静かな一階の廊下に悪臭が漂い惨めな音が響き続ける。
彼女が自室に戻れたのは、これから実に三十分も後のことであった……。
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ジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
ガチャ……
「…………」
午前八時半。
澱んだ水洗音と共に、真雪はおなかをさすりながら、げっそりとした表情でトイレから出てきた。
もうため息をつく気力さえない。
あれからもう四回も部屋とトイレとを往復した。おなかの具合は最悪だ。もううんちもシャーシャーである。これ以上ないと言うほどに酷く下してしまった。
うつろな瞳でふらふらと歩き、壁に寄りかかりながら階段を上ってゆく真雪。
結局、彼女はトイレの寒さのせいでおなかの調子を悲惨な状態にまで乱してしまったのであった。最初に三十分篭ったのが何よりもよくなかった。後半は完全に凍え、あれで完全におなかを冷やしてしまった。
暖房などあるはずもない、それどころか中を暖かくしようという設計意識が少しも感じられない、今時にも関わらずの和式トイレ。急な引っ越しに家計が対応できなかったため、岩崎家は古い木造家屋を安く賃借して住んでいるのだった。
真雪が部屋に戻って気を失うかのようにベッドに横たわると、ちょうど同時に母親が廊下を通る物音がした。今日は休日なので、少し起床がゆっくりだ。父親はおそらくまだ寝ている。
真雪は今日も塾があるが、とてもではないがこの下痢では無理なので、もう休ませてもらうことを決意していた。あと少ししたらそのことを告白しに行こうと考えた。
便意の隙間を縫って必死に洗い、パジャマとシーツは何とか目立たない程度には綺麗になっていた。
ただし、寝糞パンツはビニール袋に入れて押入れの中に隠してある。これをどうするかはまだ考えていない。
真雪は頭まで布団に潜ると、温もりの中で体を丸め、その小さく愛らしい肉体をそっと甘く休ませた。
そして三十分後。
九時にセットしてあった目覚ましが鳴ると、真雪はもそもそと起き上がり、パジャマ姿のまま一階へと向かった。幸いにして、この間便意の襲撃はなかった。
「――あら? どうしたの、真雪」
居間に入ると、母の美由紀が不思議そうな表情で見つめてきた。
いつもは着替えてから下りてくるからだ。
「おかあさん……今日、塾……、休みたい」
「え……? どうして?」
真雪が喉を鳴らしてから切り出すと、案の定美由紀は怪訝な表情を見せた。
うつむく真雪。数秒の沈黙。
「……おなかの、ぐあいが……わるいの」
「えっ……」
そして真雪はパジャマの裾を掴むと、ぼそりとそう告白した。同時に真っ白な頬が淡く染まる。
「……下痢、しちゃったの……?」
「うん……」
「下痢」という言葉が母の口から出ると同時に、真雪は耳まで真っ赤になった。
美由紀はそのあまりにも恥ずかしそうな様を見て何も言えなくなった。――また数秒の沈黙。
「今は? すごくおなか痛いの?」
「うん……」
「ウンチはしたい?」
「今はしたくないけど……」
「……けど?」
「さっき、トイレ行ったの」
「そう……」
気まずい会話が続く。
「本当に酷いなら仕方ないけど……でも、冬期講習は進度が早いんでしょ?」
「……」
「もちろん、本当につらいなら全部休んでもいいけど、たとえば、午前中に十分休んで、午後から行くとか……」
「ムリ……おなか……本当にピーピーなんだもん……」
母の提案を、真雪は即座に拒絶した。妙にはっきりと意思を言えた。とにかく今日は行きたくなかった。
「……そんなにひどいの?」
「うん……」
「ウンチはどんなだった? どろどろ?」
「みず……」
「……、そう……」
まさに、そんなにひどかった。
「分かったわ。じゃあ、今日はゆっくり休んで、おなかの具合を治さないとね」
「うん……おかあさん、ごめんなさい……」
「おなか冷やしちゃったんでしょう? かわいそうに……」
「……」
情けなさそうに唇を噛み、切ない表情を見せる真雪。
「おかゆを作ってあげるから、二階に――」
そして、そう美由紀が言いかけた時のことであった。
グルルゥゥ〜……
真雪のおなかから、くぐもった音が鳴った。
と同時に、ぴくんと震えて体を強張らせる真雪。
「真雪……」
「ごめんなさい……!」
声が重なる。真雪はもちろん、美由紀もその音の意味が即座に分かった。
真雪は両手でおなかを抱えると、内股中腰になってトイレへと急ぎ歩き出した。一目で激しい便意腹痛に悶えているのだと分かる姿勢であった。
バタ……ッ、ガチャリッ
トイレは居間の隣にある。すぐに辿り着くと、真雪は吸い寄せられるように中へと入っていった。
美由紀はつい娘を追ってしまっていった。
一瞬の静寂の後、
ブビィィッッ!!!
「――っ!」
いきなり物凄い音がトイレの中から響いた。美由紀は驚き足を止めてしまった。
ブリッ!! ブビビブビチビチブボッッ!!
「……真雪……」
さらに激しい肛門の咆哮が続く。
娘のものとは思えない恐ろしい音に、美由紀は両手で口を抑え、小さく肩を震わせた。
ブチュブチュビチュチュブチュブチュブチュ……ブピッ!
そして今度は軟らかい音。美由紀はそれを聞いて少し落ち着いたが、その明らかに大便が液状化している質感に、改めて胸を痛めることになった。――まさに「みず」。まさに下痢だ。
ブピピ……ッ、プピッ、ブリュリュチチチュチッ……
……プッ、プピピピピッ……ビュチッ!
さらにピーピーの排泄音が続く。
すぐに中から下痢の臭いが漂ってきた。臭いだけで完全に下していると分かる、酷く生臭い未消化の便臭。
……美由紀は暗い表情でその場から立ち去った。
ジャアアアアァァァーーーーーーーッッッ……
ガチャ……
「……は、ぁ……っ……」
約十分後に真雪は倒れるようにしてトイレから出てきた。
げっそりとした表情に蒼白い顔色。もう何度同じことを繰り返しているかも分からなくなってきた。
「机の上に下痢止め出しておいたから、それ飲んで休んでなさい」
台所から母の声が聞こえた。
「いまお粥作ってるからね」
真雪はふらふらと二階に戻っていった。
母が作ってくれたお粥を、真雪は全部食べることができた。
食欲はなかったが、冷えたおなかが内から温まるのが心地良かったので、摂取は苦痛ではなかった。量が少なめだったのも嬉しく、母を心配させたくないという思いもあった。
食事後、真雪は暖かな眠りに包まれていったが、やはり一時間もしない内に再びトイレに駆け込むことになった。
その後も下痢は続き、真雪はふらつく足取りで部屋とトイレとを往復した。
小さな体を震わせ、小さなおしりから何度も何度も下りきった大便を吐き出した。
まさに『下痢で欠席』という言葉通りの一日を過ごすことになった。
その愛らしいおなかがようやく落ち着きを取り戻したのは、外が暗くなってからのことである……。